水瀬名雪様

水瀬名雪様。
 伝えたいことがあります。
 貴女に初めて会った時。貴女はじっと目を閉じていました。ただ眠っているだけ、それに気づいたときそれが却って愛らしく思えて、貴女のことを見続けていました。
 それ以来貴女の姿を目で追い続けていました。朝、髪をなびかせ校舎に駆け込んでくる姿。夕刻、結った髪で部活の友人に声をかける姿。昼食時、席が無くて戸惑っている姿。何度か席が一緒になったこともありました。最初の一回こそ偶然でしたが、その後は、貴女の友人に頼んで、来てもらっていたのです。
 その友人から聞きました。ずっと想いつづけた方に失恋したということを。同じ恋をするものとしてお察しします。そして不躾で申し訳ないのですが、私では変わりになれないでしょうか

「いや、やっぱりこの下りはまずいかな」
「北川君、何書いてるの?」
 水瀬の声。オレは、慌てて手紙を隠した。
「あっ。いや、これはその。」
「あ、見られたらまずいものだった? ごめんね、一生懸命何書いてるのかなと」
「いや、いいんだ。後で水瀬には見てもらいたかっしな。」
「そうなんだ。じゃあ、後で見せてね。」
 添削ー、添削ー、と歌いながら去る水瀬。
 それを見ながら、オレは呟いた。
「必ず、見せるからさ・・・」

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※執筆時期不明 「Campus Kanon」続編

10%の思春期

 空は、晴れ渡っていた。この場面にふさわしくない。天はオレに味方しない。そう宣言しているかのように。それでもオレは、腕を振り上げた。喉の奥から、咆吼が響き渡る。叫び声は腕が風を切る音とともに、鈍い衝撃音へと集約されていった。
 コンクリートの床の上に、たたきつけられて転がる相沢の姿があった。

10%の思春期 is staring….

 相沢がオレを睨んでいる。何をするんだ、俺にはこんな仕打ちをされるいわれはない。そう言いたげに。だが、奴の口は開こうとはしない。口元から血が流れ出している、それが理由ではなく。きっとオレの口から言葉が出るのを待っているから。
 オレの口は、言葉を発しない。何も言いたくない。あるのはただ憎しみだけで、それは謂われのない憎しみ、実体の無いもの。それを意味ありげな言葉にすることは、オレにはできない。
 目に差し込む光。救いを求めるかのように、天を仰いだ。脳裏に浮かぶ、彼女の言葉。
「ねえ きたがわくん」

「北川君の席って、暖かそうだね」
「あ? ああ、まあそうだな。」
「よく眠れそう。うらやましいな。」
「水瀬はどこでだって眠れるだろ」
「うん。でも、やっぱり気持ちのいいところで寝たいとは思うよ。」
「お前さんさあ。念のために言うと、学校は寝るところじゃないぞ」
「うーっ・・。でもでも、北川君だって寝てるじゃない」
「な、何で知ってるんだよ」
「わかるよ。だって、北川君って、わたしと同じ感じがするから」
「ハァ?」
「たぶん。同じ事、してると思って。」
「まあ、・・・寝てるのは事実だけどな」
「うんっ。だからね、今だけ席代わって。いいでしょ?」
「あ、ああ・・・」
「暖かい・・・くー。」
「・・・・・・。」

 額に落ちる、水滴の感覚。涙ではない、天から降り注ぐ、雨粒の先魁。
「なんだよ、今頃になってオレの味方してくれるのかよ・・・。」
 降り始める雨。目の前には、まだ転がったままの相沢。明るい友情とはほど遠い場面が、まだ続いている。
「どうせ味方するなら、もっと早く・・・転がってるのが、オレの方で良かったからよっ!」
 出る言葉以外に心はない。心以外の何かが体を動かし、左足を思い切り振り上げる。目標は相沢の脇腹。振り下ろす途中でよろめき、体全体ががくりと落ち込んでいく。痛み。
「ちっ、こんな時に側溝にはまるなんて・・所詮これが、オレにお似合いの姿だってのかよっ・・・!」
 かっこいいヒーローになんてなれやしない。ちょっと変わったことが好きな、でも普通以上になれないオレは
「でも きたがわくん いいひと」

「そ、そうかな?」
「うんっ。わたしは、そう思うよ。」
「まいったなあ、これでも結構ワルぶってるつもりなんだぜ、お嬢さぁん。」
「うーん・・・でも、わたしの頼み、いろいろときいてくれるし、話ちゃんと聞いてくれるから。わたしにとっては、すごくいい人。」
「はは、まいったなあ・・・。でも、それぐらい他の奴だってするだろ?」
「ん・・・そんなことないよ。北川君と、香里ぐらい、だよ。」
「そうか・・・」
「なぁに? あたしが、なんですって?」
「わ、香里。ううん、なんでもないよ。」
「ほんとかしらあ? あんたたち二人の会話って怪しいのよねえ。ほらほら素直に白状した方がいいわよぉ」
「ふぉんふぉんとになんでもにゃいよ。ひたいよかおり、わはひむひふ。」
「はははははっ、・・・・・は。いい人、か」

「いい人が・・・こんな事しねえよ・・・・」
 側溝に半身を突っ込んだまま、オレは両手を路上に広げて空を見上げていた。感覚は、過去の思い出に支配されてしまっている。相沢が起きあがったことを感じ取っても、体は動こうとしない。
 衝撃。体が引き上げられ、頭を少しだけ揺さぶられる、揺り起こされたような感覚。相沢の右手が、オレの胸ぐらをつかんでいた。
「なんのつもりだよ。」
 相沢の顔が、間近に見える。相沢祐一。相沢祐一。そう、これが、相沢祐一。オレはコイツを殴った。オレが殴った相手。オレが憎い相手。憎むべき相手。殴るべき相手。相沢祐一。
 睫毛に垂れた滴が視界を遮る。言葉が甦る。

「ゆういちが くるの 。」

 見えない視界の向こうから聞こえてくる脳裏の言葉。

「ゆういちは わたしと くらすの 。」

「誰だよ、それ。」
「祐一だよ。わたしのいとこの。前にも話したじゃない。」
「あたしは聞いたわよ。」
「ああ・・・ああ。オレも聞いた。」
「7年ぶりなんだよ。」
「男・・・だよな、祐一って・・・」
「うん。男の子」
「女だったらびっくり。」
「男、か・・・。いい男か?」
「う~ん、ずっと会ってないから見た目はわからないけど、でも・・・」
「いい男だといいわね。」
「・・・うんっ。」

 そのとき、気づくべきだったんだ。いや、違う。本当は気づいていた。
 水瀬が心を満たしたい奴はそいつ、祐一なんだと。水瀬にとって、オレはただの友達、寂しい時に心を埋めてくれる、友達。欠片でしかないんだ。
 そしてオレは。その現実を受け入れてしまった。自分が欠片であることに気付いてしまったから。欠片は、捨てられてしまうかもしれないから。捨てられない欠片であり続けるしか、無かったから。水瀬への思いは、無くしたくなかったから。

「ゆういちと ともだちに なってね」

 ほんの少しでいいと思った。水瀬のそばにいられればいいと思った。祐一の、相沢の友達になっておけば、水瀬が喜んでくれると思った、オレへの好意が少しでも上がると思った。昔オレのいた場所がどんどん相沢に占められていっても、水瀬の目線の先が相沢ばかりになっていっても。ほんの一瞬だけ、水瀬がオレに微笑みかけてくれるだけで、オレは満足してしまっていた。そして、相沢の、水瀬に気がないような言葉を聞いて、オレは希望を持ってしまった。持ち続けてしまった。

「いっそ、ずっとあのままならよかったんだよ・・・」

 そうすれば、憎しみも怒りも無かった。ただ笑っていられた。恥ずかしげも無く、一生の友達と言い合っていられたかもしれない。

「いっそ、オレに言ってくれれば良かったんだよ・・・」
 
 そうすれば、憎しみも怒りもなかった。笑って祝福することも、出来たかもしれない。恥ずかしげも無く、最後の勝負と拳で友情を語ることも、出来たかもしれない。

 でも。相沢は何も言わなかった。水瀬も、何も言わなかった。
 そしてオレは、聞いてしまった。片隅に女子が集まった中で、水瀬が語るのを。

「・・・うん 痛かったよ   でも 祐一は優しくしてくれたから   すごく幸せだった・・・」

 血の気が引いてゆく。言葉が体の筋を走ってゆく。寒い。何もできない。瞼だけは痙攣して。後は何も動かない。ただ座って虚空を見つめる人形のように。感覚は白。流れる、白。
 感情が戻ったとき、水瀬が憎いと思った。でも、それは一瞬で消えた。水瀬は、名雪は、オレが決して憎んではいけない存在だから。理屈抜きで、感情のほんの一割でも、そう思ってはいけない存在。

だから、憎いのは、

「お前だッ!」

オレは、現実の視界のすぐ前にあった、そいつの顔を思いっきり殴った。
これ以上、過去は無い。あるのは今、今のオレの感情のみ。

「オレはずっと水瀬が好きだった!水瀬は相沢が好きだった!わかっていた!だからオレは少しでいいと思った!今は少しでも、いつかは全てが手にはいると思っていた!ああ、確かに勘違いさ!身の程知らずの勝手な思いこみさ!吐き気のするような自惚れだよ!だけどな・・・」

 オレは再び、相沢の胸ぐらを掴んだ。

「今のてめえは、もっと吐き気をもよおさせる存在なんだよっ!」

 左手を振り上げた。その手を制止する声は、右側から聞こえた。
「やめてっ! やめてよ北川くんっ・・!」
 振り返る。左手は無意識のうちに下がっていく。泣きながら駆けてくる水瀬と、無表情の美坂が視界に入った。
 水瀬は、駆け寄ってくるとすぐに相沢を抱きよせ、泣きながら喚いていた。
「どうして! どうして二人がこんな、こんな事しないといけないんだよ!」

 もはや感情は無い。最後の感情までをも奪われてしまった。それが残酷だと感じる心すら無い。
 水瀬はまだ泣いていた。後ろから、美坂がゆっくりと歩み寄ってきていた。

「美坂・・・お前が、連れてきたのか?」
「ええ。」
「こんな場面見せて・・・水瀬が喜ぶとでも思ったのかよ・・・」
「思わないわ。」
 その顔は、無表情のままだった。視線の先には、抱き合う二人の姿があった。
「だったら、何で連れてきたりしたんだよ・・・!」
「あたし・・・あたし、そんなできのいい女じゃないもの・・・」
 その視線の先は、まだ相沢と水瀬がいた。だが、美坂の瞳には、何も映ってはいなかった。

 気がつくと、雨はやんでいた。

「名雪ぃ、それに相沢君。今日は、一緒にお昼ご飯食べましょうねぇ」
 翌日の、昼になっていた。
「今日も、だろ? いつも一緒じゃないか。」
「うふふふ。でも、今日はね、ちょぉっと違うの。ほら、二人のためにお赤飯作ってきてあげたのよ。」
「お赤飯・・・・」
「オレはゴマ塩持ってきてやったぜ。」
「いや、待て・・・お赤飯は、わかる。何となく俺達への嫌みだということが。しかし、ゴマ塩ってなんだ?なんの意味があるんだ?」
「意味などあるか。赤飯にはゴマ塩が付き物だろう。」
「・・・それだけかあ?」
「疑り深い奴だな。」
「いやしかし」
「いいじゃない。折角北川君が持ってきてくれたんだから。ねっ」
 そう言って、水瀬は笑った。笑顔。オレは、それに顔を背けそうになるのを必死で堪えていた。
 美坂は、笑っている、相沢も、笑っている。だから、オレも笑おう。それでいいじゃないか。こいつらはいい奴だ。一緒にいて楽しい奴らだ。他に何を、これ以上何を、望むというんだ。
 否、一つだけ。一つだけ望むことは。心の奥深く、重りをつけて沈めたはずの10%の感情が、今この場で浮かび上がってこないように。ただそれを願って。
「食べよっ」

完

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※執筆時期不明 「Campus Kanon」続編

北名-無題

「行ってきます」
それだけ言って、わたしは外に出た。特に行くところもない、
ただの散歩。だって今日は天気がいいからね。
祐一は、あゆちゃんとどこかに出かけていった。どこへ行ったのかは
わからない。祐一は、当てもない二人の逃避行だなんて言って、
あゆちゃんが本気にしてたけど。

公園で、ハトに餌をやる北川君を見つけた。髪型ですぐにわかった。
しょうがねえなあとか言いながら餌をやっている姿が妙にしっくり
きていて、わたしはつい笑ってしまった。
「あっ」
笑い声で振り返った北川君は、それがわたしだと気づいてひどく
とまどっていた。

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「水瀬は、何やってるんだ?」
北川君は隣のわたしにそう訊いてきた。公園のベンチに腰掛けた二人。
日差しも風も気持ちいいけど、ベンチだけは少し冷たい。
「ただの散歩。北川君は? ハトの餌やり?」
「いや、決してそういうわけではないんだが・・・」
北川君は、何か言いづらいことがあるように、紙袋をいじり回していた。
餌ではなく自分が食べるつもりだったのかもしれない。でもそれは、
あえて訊かないことにした。
「相沢は? 家か?」
半ばごまかすように、北川君は訊いてきた。
「ううん。あゆちゃんとデート。」
「そ、そうか。」
それを聞いた北川君は、また何か気まずそうな表情をした。
「すまん。」
「え、なにが。」
「いやその。水瀬の前で、二人のことを持ち出したのはまずいかなと。」
「・・・・。」
「あ、美坂から聞いたんだ。水瀬もその、7年も前から、相沢のこと」

-

「うん、そうだね。」
わたしはそう言って立ち上がった。少しだけ、光がまぶしい。
「でも、ふられちゃったんだし。祐一にも彼女出来たし。
 それでも想い続けてるなんて、わたし、そんな病んだ女じゃないよ?」
念を押すように、振り返って北川君の顔を見た。北川君は、呆然とした
表情でわたしの顔を見ていた。
「? どうしたの?」
わたしの言葉で、北川君は我に返ったようだった。横を向いて、まあなんだ
とかぶつぶつ言っていた。
クックックッと鳴きながら、ハトが1羽近づいてきた。それを見て、北川君が
さも思い出したように言った。
「ああ、そうだ、オレ、ハトに朝飯食われちまったから、もう帰らないと」
言葉として少しおかしい気がしたけど、気にしないことにした。
立ち上がった北川君に、わたしは声をかけた。
「また、今度。」
「おう、また今度な。」
そう言って北川君は駆けていった。それを見送ってから、わたしも家路についた。
もしかしたら明日あたりいいことがあるかな。そんなことを思った、
春の午後の一時だった。

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※執筆時期不明 「Campus Kanon」続編

名雪の18禁の書きかけ?

 名雪と付き合って7年、ようやく二人が一つになる日が来た。ベッドの上に横たわる名雪。その上にオレは、体重をかけないように気遣いながら覆い被さった。胸一杯に息を吸い込む。清楚で甘い、そんなことを感じさせる名雪のにおいがした。
 オレは僅かに身を起こし、名雪の服、一番上のボタンに手をかけた。名雪はそれに応えるようににっこりと微笑み、同じようにオレの服のボタンに手をやった。二人一緒に、同じように互いの服を脱がせ始める。その行為は、これからしようというそれへの期待をいやが応にも高めてくれる。心臓が高鳴り、体中に血が周り、陰茎が大きく膨らんでいくのが感じ取れた。
 名雪の服のボタンはもう、殆どはずされていた。隙間から白い下着が見える。これまで雑誌かただの偶然でしか見ることの無かったそれ。しかも一番好きな名雪のブラジャーだ。それを今なんらの罪悪感を抱くことも無く、オレは見ることを許されているのだ。そう思うともうたまらなかった。服を払いのけ、右手を名雪のふくらみに乗せ、もう片方のふくらみに顔をうずめた。むしゃぶりつき、大きく息を吸い込んだ。
「んっ・・・だめだよ、そんなにがっついたら。」

 名雪の言葉に、我に返る。とんでもないことをしたのかもしれない、という罪悪感が襲ってきた。名雪が怒っているのではないか、そう思っておそるおそる名雪の顔を窺う。怒ってはいないようだった。もうっ、とでも言いたげな表情を一瞬見せた後、いたずらっぽく笑みを見せて、そしてオレに触れていた手をごそごそとまた動かし始めた。上半身の服が脱ぎ取られ、そしてズボンと下着も名雪の手によってはぎ取られてしまった。真っ裸にされたオレ。それを見て、名雪は笑った。

「ふふ。かわいい。」
 その言葉に、オレの顔はかぁっと赤くなった。屈辱的な気がした。同い年とはいえオレの方が8ヶ月も早く生まれているし、それに今はオレの方が体位が上なのに。と、そこでオレは、名雪はまだ全部脱いでいないのに、自分はもう真っ裸にされていることに気づいた。
「オ、オレ・・・ごめん、先に裸になっちゃって。」
「わ、びっくり。わたし、まだ服着てたんだ。」
 そういうと名雪は、少しだけ視線をずらした。もう自分は裸にされていたつもりだったのだろうか。オレは自分の顔がゆるむのを感じながら、名雪の残りの服を丁寧に脱がせていった。

 子供のような前戯を少ししただけで、二人とも顔が紅潮していた。オレはといえば、もう早く入れたくてたまらなくなっていた。
「名雪・・・もう、・・・いいかな?」
「う、うん・・・。潤の、したいようにしていいよ。」
 その言葉にオレは頷き、自分の陰茎をそっと名雪の股の間に差し入れた。濡れている。そしてそれは、思いの外すんなりと名雪の中に入っていった。始めて感じる、女の子の暖かさ。名雪に受け入れて貰っている、そんな感覚に俺は思わず大きなため息を漏らした。そして名雪も、んっと軽い吐息を漏らした。痛がる様子はなかった。
 そこでオレは気づいた。そうか、初めてではないのか、と。相手は誰だろうか。やっぱり、相沢なんだろうか。
 そう考えると、急にいろんな感情がわき起こってきた。悲しみ。嫉妬心。相手の男に対する憎悪。そしてそんなことを考える自分への嫌悪。快感を楽しむどころではなくなっていた。大好きな人と結ばれている、今こんな時に。そんな自分が情けなくて、思わず涙が出た。
「どうしたの、潤・・・?」
 名雪がそれに、気づいてしまった。そっと、優しくオレの目頭に指を添えてくれる。そして、はっと気がついたように言った。
「そ、そうか。潤、初めてだったんだね。」
 その言葉に、よけい心がずきりと痛む。だが名雪の次の言葉は、オレが予想していたものとは違った。
「そうだよね。初めてだったら、痛いよね。ごめんね、気づいてあげられなくて。言ってくれれば良かったのに。」
 確かに痛い。だがそれは心の方であって、名雪が考えているのとは違う。だが、それを言い出す勇気はなかった。

「大丈夫。最初は痛いかもしれないけど、ゆっくりやっていけばそのうち良くなるから。ね。だから泣かないで。」
「あ、ああ・・・。」
「少しづつでいいから動かしてみて。なれるまではゆっくり。ほら。1、2、1、2。」
 名雪が号令をかけてくれる。オレは仕方なく、それに併せて動かし始めた。気持ちいい。間違いなく気持ちいい。だが、何かが違う。そんな気持ちを振り切れなかった。そんなオレの心境も知らず、名雪は一生懸命語りかけながら、オレの頭に手を回し、そっとなで始めてくれた。それは、今下半身で感じている快感よりもずっと心地よく思えた。頭の中が真っ白に近くなっていく。オレは夢中で腰を動かし始めた。
「そう、もう大丈夫みたいだね、うん、ん、んっんっ・・・」
 名雪自身も感じ始めたのだろうか、言葉よりも嗚咽の方が多くなっていった。そして名雪の滑らかな足がオレの腰に、太ももにとゆっくりと這っていく。全身で名雪を感じる。たまらなく気持ちいい。耐えられない。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
 オレは思わず、叫びだしていた。
「かわいいよおぉ! 気持ちいいよおぉ! 大好きだよおぉ! なゆちゃあぁん!」
「潤っ、潤っ・・・!」
 名雪も必死でオレにしがみつき、体を動かしてくる。二人の間を阻むものなど何もない、あるのはただ互いから得る快楽。
 そしてそれが頂点に達する感覚を確かに感じとり、オレは果てた。そしてそのまま、名雪の体の上にどさりと倒れ込んでしまった。

「潤・・・?」
 オレの名を呼ぶ名雪の声に、ほんの一瞬だけ、気を失っていたことに気づいた。
「ごめん、オレ、あんまり気持ちよくて、一瞬だけ気を・・・」
「ううん。わたしも、だよ。」
 そう言いながら名雪は、とろんとした目でオレを見つめている。
「わたしも、眠くなっちゃった・・・。このまま寝ていいかな・・・?」
「ああ。オレはずっと、そばにいるから。」
 そして二人は、抱き合ったそのままで、しばしの眠りについた。