陰キャお嬢様とグラノーラで朝食を


 雨宮静久の朝は早い。朝はスズメが鳴き出す前に起き出し、グラノーラで朝食を摂る。
 陰キャだから遅くまで寝ているというのは偏見だ。陰キャは陰キャなりに忙しい。
 朝食は自分で用意する。少し待てば家付きのメイドがトーストくらいは用意してくれる。だが、朝食がグラノーラなのも理由がある。静久のように普段運動していないと、トーストに目玉焼きとソーセージ、のようなありふれた朝食を毎日摂っていると肥満になってしまう。そういう理由を付けて、静久は本来の朝食を断っている。
 グラノーラは良い。牛乳をかければ必要な栄養素はほぼ取れる。ドライフルーツが入っているので味も悪くない。器に盛って牛乳をかけるというスタイルに飽きれば、ヨーグルトに賭けて食べるという方法もある。米飯にかけるとイマイチなのは残念なところだ。
 そんな事を考えながら、静久はスプーンでグラノーラを口に運び、ひたすら咀嚼していた。その様子は正に齧歯類の如くであり、写真か動画でも撮って静久の執事晴丘空に見せれば、たいそう面白いことになるかもしれない。
 だが、今ここに空はいない。まだ起きていないからだ。お嬢様が起床しているのに執事が寝ているとは何事かと思うかもしれないが、静久がわざと空がまだ寝ている時間に起き出して朝食を摂っているので、あまり文句は言えない。
 そう。空がまだ起きていない、と言うところが本当のポイントだ。
 静久は朝食用のグラノーラを、ひとつまみほど小脇の袋に入れて、席を立った。そして階上の寝室エリアに行き、部屋の扉を開けた。
「グラノーラは鳥の餌にもなる」
 そう言いながら静久は、窓辺にグラノーラを撒いた。
 静久が窓から離れて様子を窺っていると、餌につられたスズメが数羽飛んできた。チュンチュンと鳴いているスズメを確認し、納得したように頷くと、静久はおもむろにベッドに横になった。
 静久の名誉のために言っておくが、決して二度寝をしようとしているのでは無い。
 ベッドに横になりながら、静久はスズメの鳴き声を楽しんでいた。グラノーラがよほど嬉しいのか、眠っていても目が覚めるくらい、スズメは鳴いていた。
 そして、静久の隣からかすかな声が漏れるのが聞こえてきた。
「ん……んんん、もう朝か……。スズメが鳴いている」
 そう呟いた空が顔を横に向けると、そこには頬を赤らめた静久がいた。
「おはよう空。……朝チュンだな」
 空はばっと飛び起きた。驚いたスズメは、一斉に飛び立ってしまった。
「お、お嬢様……? 俺達は一体」
「動揺するのも無理は無い。私と朝チュンを迎えてしまったのだからな。だが安心しろ。空は悪くない。祖父にもちゃんと伝えておこう、これは合意の上の行為だと」
 空は動揺のあまり返答を返せず、両手を顔や髪に這わせまくっていた。
 そこに、いつの間にか起床していたメイド長が入ってきた。
「何が合意の上ですか。とりあえず出て行ってください」
 メイド長はそう言うと、漫画のように静久の襟首を掴んで廊下に放り出してしまった。
 そして空の部屋の扉は閉じられ、中からは執事と言えどもこのようなことがないように注意を云々と空を説教するメイド長の声が聞こえてきた。
 静久は扉の外で、袋に少し残っていたグラノーラをかじりながらじっとそれが終わるのを待っていた。


クラスの陰キャお嬢様の執事になりました / ひづき夜宵

https://seiga.nicovideo.jp/comic/60711
二次創作SS

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