新時代沖縄宣言~デニー2号

 9/30・沖縄県宜野湾市”おでかけライブ沖縄”で沖縄県知事選投票済証提示者に頒布する予定だった「デニー×サッキーマウス」(※一部を三重県津市”迷える子羊たち”にて頒布)は、追加を数本加えた上でepub化して頒布する方向で検討しております。

 新時代沖縄は、新時代日本に発展出来るのでしょうか。

エム

わたしの、お母さん。
美人で、背が高くて、かっこいい。
 すぐ泣いちゃうところがわたしに似てるけど、本当はとっても強いんだって、お父さんが言っていた。
「本当は、お父さんの方がもっと強いんだけどな」
「・・・嘘ばっかり。」
 お父さんが冗談を言うとき、お母さんはいつも冷たい。ときどき、叩いたりもする。そんなときお父さんは反撃するのだけど、いつも負けてしまう。やっぱり、お母さんの方が強い。
 でも、二人とも悲しそうな顔はしていない。とても楽しそうだ。二人だけで、楽しいことをしている。そう思うと、わたしは少しさみしくなる。さみしくなって、おかあさんをまねて、お父さんに殴りかかったりする。お父さんはすぐ負けてくれて、お母さんは笑ってる。だからわたしも、笑ってる。でも本当は、少しさみしい。
 二人の時とは、ちがうから。

 ときどき。こうしてひどく、さみしくなる・・・・・

「舞ちゃん先生!」
 呼ばれて、声のした方に振り返る。一人の生徒が駆け寄ってきていた。
「先生、今日もうあがりですか?」
「あがり・・・?」
「仕事、まだ残ってるんですか?」
「・・・いや。無い。」
「だったら、これから一緒に買い物に行きません? 先生の車で。」
「買い物?」
「日曜日の、観察会の買い出しですよ。あたし、バードウォッチングって行ったこと無いから、何持っていけばいいのかよくわからなくて。」
「・・・双眼鏡と、お弁当があればいい。余計な物はいらない。」
「え、でも。やっぱり、双眼鏡も選んだ方がいいだろうし。・・一緒に行ってもらえませんか?」
 ・・・・。
「わかった。一度職員室に戻るから、車の前で待ってて。」
「はーいっ!」
 彼女も自分の荷物があるのだろう、教室の方に駆けだしていった。私はそのまま、目の前まで来ていた職員室の中に入っていった。
「お、舞ちゃん先生。今日は早めにお帰りなんですか?」
 外の会話を聞いていたらしい男性教師が、からかうように私に話しかけてくる。
「・・・舞ちゃんと呼ばないで。」
「だって生徒達は、舞ちゃん舞ちゃんと呼んでるじゃないですか」
「私のクラスの生徒だけ。他の人に許した覚えはない。」

 私は、この春から高校の教師をしている。新任で、いきなり1年生のクラスを任された。確かに本採用前は、数年間臨時教師をやったりはしていた。でも、担任というのは初めての経験だった。
 始業式の前夜。私は、クラスの生徒達に受け入れられるか、とても不安になっていた。その不安を、夫に打ち明けてみた。私たちは8年前に結婚をしていて、既に娘も一人いた。
「祐一、私、生徒達に受け入れられるかしら。正直に言って、かなり不安・・・」
 私は夫のことを、祐一と呼んでいた。祐一は自分のことを「まいダーリン」と呼ぶよう強く希望していたが、私は時々つきあい程度にそう呼んであげるに留めていた。
 そんな夫の言うことなのだから、まともに聞くべきではなかったのかもしれない。でも私は、そのとき祐一がくれた助言を、翌日そのまま実行してしまった。
「・・・私の名前は、川澄舞。でも、舞ちゃんと呼んでもらってかまわない・・・・」
 結果私は、クラスの生徒の三分の二からは舞先生、残り三分の一からは舞ちゃん先生と呼ばれるようになった。誰も、川澄先生とは呼んでくれなかった。

「他の生徒達だって、そう呼んでますよ。彼らの口に戸は立てられませんからねえ」
 男性教師は、しつこく食い下がってきていた。
「でも、あなたまで真似することはない。」
「・・・は。そうですね。ああ、舞ちゃん、じゃなくて川澄先生はキビシいなあ」
 男性教師は、少し小馬鹿にした感じの入った鼻息を立てて、そのまま机の方に向き直った。私も自分の荷物を取りに自分の席に行き、荷物を取ってそのまま職員室を出て行った。
 歩きながら、またあの日のことを思い出していた。初日からいきなり恥をかいた私は、家に帰ってすぐに、祐一にお仕置きをした。祐一は弁解しながら激しく抵抗したが、そのお仕置きという行為自体に楽しみを感じ始めていた私は、やめようとしなかった。その光景をじっと見る娘の視線に気づくまでは。
「・・・なにをしてたの?」
 私は、すぐに答えられなかった。親として、教育者として、一人前ではないにせよ立派な行為をしていた、とは思えなかった。その説明を口にすることが、娘にとって良くないことであるかのように感じてしまった。だから、何も言えなかった。
「・・・・・・・。」
 娘は、それ以上訊いてくることはなかった。

「舞ちゃん先生の娘さんも、ゆきって言うんですよね?」
 動き出した車の中で、その女生徒、ユキはそう訊いてきた。
「・・・そう。幸。 どうして知っているの?」
「うーんっと、誰かがそう言ってたんですよ。誰だったかなあ、あ、坂井君だったかな」
 坂井というのはおそらく、私が顧問をしている野鳥観察会の坂井だろう。今ここにいるユキと同じ二年生で、野鳥観察会以外、特に私と繋がりがあるわけでもない。それなのに、何故彼がそこまでのことを知っているのか、という疑問は抱いたが、追求しても仕方のなさそうなことなので、忘れることにした。
「ゆきちゃんも、今度の観察会にくるんですよねっ。私、会えるの楽しみなんですよー」
 会ったこともないくせにいきなりちゃん付け呼ばわり。しかも、一体何がそんなに楽しみだというのだろう。私は少し苦笑した。
「・・・そう、来る。ついでに言うと、祐一も来る。」
「祐一って誰ですか?」
 祐一を知らないのかこの娘は。自分だってついで呼ばわりしたくせに、私は憤りを感じてしまっていた。
「祐一は、私の・・・・夫。」
「へえ、そうなんですか。あ、舞ちゃん先生赤くなってる。どうしたんですか?あ、もしかして照れてる。わー、そうなんだ。えー、そんなに祐一さんのことが好きなんだー」
「・・・決して嫌いではない。」
「もー、そんな言い方しちゃってー。素直に『大好き』って言えばいいじゃないですか。ああ、これはもう絶対チェックチェック。」
 ユキは鞄から手帳を取り出して、なにやら書き込みを始めていた。私は、憂鬱さを顔に出すことを隠すことが出来ずにいた。

 よく晴れた、日曜日だった。俺は自宅から駅に向かっていた。
「舞、荷物を持つという行為を体験してみたいとは思わないか?」
「思わない。」
「そうか・・・。」
 俺の手には、野鳥観察用の道具一式と家族3人分の弁当があった。実際のところ野鳥観察の道具などそんなにかさばるものでもないし、3人分の弁当にしたって一人は子供用だから、そこまで重いわけでもない。それでも俺が舞に荷物を託したくなったのは、理不尽だと感じたからだ。手ぶらで身軽な舞が、娘と二人楽しそうに手をつないで歩いている様を、俺一人が荷物を持って追いかける。世間一般的父親はこういう役回りなものなのだと知ってはいるものの、実際その役を引き受けてみれば腹も立つ。俺だってゆきを愛してるいるんだぞ! と、公衆の目もはばからず叫びたくもなる。
「お父さん、にもつ重いの?」
 舞と手をつないだままのゆきが、気遣うようにこちらを見上げてくる。
「いや。決してそんなことはないさ。」
 ここで重いなどと言おうものなら、ゆきは自分が持つといって聞かなくなるだろう。一体誰に似たのか、ゆきにはそういう向こう見ずな優しさがある。それに、実際重いわけではない。むかついただけだ。
「・・・・。」
 舞がじっとこちらをみている。まるで俺の心を見透かそうとしているかのように。
「・・・三人で手をつないで歩きたいというなら、半分持ってもいい。」
 実際、見透かされていた。
「・・・ああ、その通りだ。俺はゆきと手をつないで仲良く歩きたいんだよ。」
「最初から素直にそう言えばいいのに。」
 最初から見透かされていたらしい。

「仲良し親子、はっけーん!」
 駅に着くと、口やかましい少女が待ちかまえていた。
「わー、その人が『祐一』さんですか? ずいぶんアゴが目立ちますね。いえ、悪く言ってるんじゃないですよ、かっこいいって意味ですから、そんな睨まないでください舞ちゃん先生、で、こっちの女の子がゆきちゃん・・・・ですか・・? うそ・・・」
 少女の目は、ゆきに釘付けになっていた。危険だ、俺の第六感が警告を発していた。
「かわいいい・・・」
 そう言いながら少女は、ゆきに接近してきた。怯えたゆきが、舞の後ろに隠れてしがみついている。その姿は、あのやかまし少女ならずとも愛玩心をそそるものがある。実際ゆきは、親の欲目を除いても超がつくほどの美少女なのだ。長い黒髪に、大きなくりっとした瞳。敢えて言うならば、小さいときの舞にそっくりである。
 少女の目は、何かに取り憑かれたように妖しくとろんとしていた。そう、たとえて言うならば、俺のいとこの名雪が猫を発見するとそうなったように。そうするとこの少女は、猫好きならぬ美少女好きということか。もう少し世間体の悪い言い方をすれば、ロリコンか。ロリコンというのは変わった趣味の男の人、という印象があったが、10代の女性でもロリコンは十分存在しうる、ということに俺はこの時初めて気づかされた。
 俺は決して、ロリコンを否定したいわけではない。大学生の頃には、誘われてやっていたことではあるがロリコン差別に反対する全国運動に加わっていたこともあったくらいだ。だが現実に人の親、それもロリコンが好むような美少女の親になってみると、あのとき狂ったようにロリコンを非難し続ける「親たち」の心情も、わかるような気がする。頼むから娘に手を出さないでくれ、そういう事なのだ。今の俺も、そんな心境だ。
「舞・・・」
 俺は、ゆきをかばっている舞に目配せをした。ゆきは俺が預かるから、とにかくあの変な子を止めてこい。どうせおまえの生徒だろう。
 舞は頷くと、後ろに隠れていたゆきを俺の手に渡した。俺はゆきを受け取ると、両手でしっかりと抱き寄せてやり、事の成り行きを見守っていた。
 やかまし変態少女の前に進みゆく舞。少女の前に立つと舞は、右手を振り上げ、そのまま少女の頭の上に振り下ろした。
「痛い・・・痛いよ、舞ちゃん先生」
「・・・ゆきが怯えてる。あまり変態じみた行為をするな。」
「えーっ! そんなあ、あたしそんな変態みたいな事して無いのにぃ」
 少女が抗議の声を上げている。自分だけは変態ではないという、絶対の自負があったのだろう。そんな自負など持つだけ無意味というものだよ、プライドと同じでね。自分でも訳のわからないせりふを心の中で呟き、これは口に出さないようにしておこうと思いながら、俺は立ち上がった。ゆきは俺の両腕に抱きかかえられていた。
「祐一、この子は竹内由希。私のクラスの生徒で、野鳥観察部員。」
「・・・ユキと呼んでください。」
 舞に叩かれた場所を両手で押さえながら、俺の腕にいるゆきを物欲しそうに見つめている。
「ね、ゆきちゃん。私も、ユキって言うんだよ。」
「ユキ・・・さん?」
「そう。だから私のことはお姉ちゃんって呼んでね。」
 まだあきらめていないらしい。油断は禁物だ。
「他の子達は・・・あそこに固まってるのがそう?」
「はい。たぶん、みんなもう集まってますよ。」
 そう言ってユキが指さした先には、3人程の学生がいた。
「みんなぁ! 舞ちゃん先生来たよぉ!」
「知ってる。」
「さっきから見てた。」
 手を振りながら駆け寄るユキに対して、3人は冷淡だった。
「水野、坂井、島村。全員いる。」
 指さし点呼で部員全員がそろったこあにはとを確認した舞は、満足そうに頷いていた。

「舞ちゃん先生、早く早くー!」
「・・そんなに早く走れない、ゆきがいるし」
 目的地の山に到着して、生徒達、特にユキは大はしゃぎだった。
「それに、そんな大騒ぎをしたら、野鳥が逃げてしまう。」
「あ。そっかー」
 生徒達に指導をする舞。その舞を横目で見ながら、俺はゆきの方を見やった。両手で双眼鏡を持って嬉々としている。言葉には出さないが、これからどんな鳥さんが見れるのかと、心躍らせているのだろう。
 俺は、しゃがみ込んでゆきに目線を合わせ、言った。
「ゆき。鳥さん楽しみだな。」
「うんっ」
「でも、さっきあの女の子が大騒ぎしてたからなあ。鳥さん、この辺にはいなくなっちゃったかもしれないぞ。」
 ゆきの顔がさっと曇る。
「いや、どこにもいなくなったというわけじゃないんだ。どこに行ってしまったのか、ちょっとお母さんに訊いてみようか。」
「うん。」
 ゆきが大きく頷いて同意したのを確認してから、俺は立ち上がってゆきの手を引き、生徒達に説教している舞のところまで行った。
「あー、舞ちゃん先生。御指導中のところ悪いんだが」
 とたんにチョップが飛んでくる。
「・・・舞ちゃん先生と言うな。」
「悪い悪い。舞、説教もいいが、そろそろバードウォッチングの極意というか、秘伝の技というか、そういうのを伝授してくれないか? なにしろ、俺達はバードウォッチングなんて初めてだからさ。」
「私もよく知らない。」
「そうかそうか。って待て、知らないって何だよ。お前は野鳥観察部の顧問だろうが。」
「なり手がないから引き受けただけ。詳しいことまでは知らない。」
「えーっ。舞ちゃん先生偉そうな事言っておきながら、詳しいこと知らないんですかぁ?」
 ユキが素っ頓狂な声を上げる。
「ごめんなさい、川澄先生には私が無理にお願いしたんです。去年まで顧問をしていた先生が、退職されてしまったものですから・・・」
「そうだぞ竹内。この間入ったばかりで事情を知らんのは仕方ないが、失礼だぞ」
 一方は俺に弁解をし、一方はユキをたしなめる。微妙にずれた連係プレーだった。俺に説明をしてきたのは、口調から言って、舞のクラスの生徒ではないだろう。たぶん、2年生で部長だと舞が言っていた、水野という子だ。ユキを冷たい口調でたしなめている男子生徒は、舞のクラスの坂井だろう、男子部員は一人だけといっていたから。すると残り一人が島村か。彼女は周りの様子を気にするでもなく、ただ双眼鏡の中を覗き込んでいた。
 くいくいと、引っ張られる感触。ゆきが俺を見上げながら、服の裾を引っ張っていた。目線が、「ねえまだ?」と訴えかけていた。
「とにかく。鳥がどのあたりにいるのかということを教えてくれないか?」
 俺は、舞と水野両方に問いかけるように言った。
「そうですね。さっきまで鳴き声がしたので、そんなに遠くには行っていないと思いますが。とりあえず、こんな大人数で固まってると鳥たちが警戒しますから。・・・3つにグループ分けしましょうか。」
「あ、あたし舞ちゃん先生と一緒がいいー!」
 その言葉に俺は、思わず苦笑した。

 結局経験のある3人を頭にグループ分けがされ、俺はゆきと一緒に坂井チームに入った。水野チームに入れられたユキは、「舞ちゃん先生と一緒」にならなかったことに、ご不満の様子だった。そしてこの坂井という男は、そのユキに関していたくご立腹の様子だった。
「ねえ。竹内って、ウザいと思いません?」
 そういう乱暴な言葉は、あまりユキの前では吐いて欲しくないな。教育上良くないから。そう思っている矢先に、ゆきが訊いてきた。
「うざいって、なあに?」
「どういう意味かな、坂井君?」
 俺は、言葉を発した張本人である坂井に質問を振った。こういう責任をとるという点においては、俺は相手が子供であろうとも容赦はしない。
「え、いやその・・・つまりなんですか、人として良くない点があると、そんなような意味ですよ。」
「竹内さん、よくないの?」
「えっとまあ・・・僕の目から見れば、そういう事ですね、はい。」
 坂井は動揺しているのか、子供相手に敬語になっていた。最も、元から子供に対しても敬語を使う人間なのかもしれないが。だとしたら、君もちょっとウザいぞ。そう思って俺は、苦笑していた。
 その俺の傍らで、ゆきがぽつりと呟いた。
「竹内さんって・・・さっきのこわいひとだよね?」
「ん・・・」
 突然のゆきの言葉に、俺は何も言えなかった。坂井は、素早く反応した。
「そう、そうなんだよ、えっと、舞先生のお嬢さん」
「ゆきだ。」
「いや・・ゆきというと、どうしても竹内を連想してしまうもので」
 俺とゆきの自己紹介をしたとき、ゆきの名前を聞いたときの彼の顔。俺はそれを思い出しながら、彼の言動に何度目かの苦笑をしていた。
  茂みをかき分ける、音がした。熊かと一瞬ひるみ、思わずゆきを抱き寄せた。
「あーっ、やっぱりゆきちゃん達だー」
 ユキだった。よほど道ならぬ道をかき分けてきたのか、腕に切り傷も見える。
「竹内か・・。わざわざ草むらかき分けて来てんじゃねーよ」
「あー、坂井。あんたさっき、あたしの悪口言ってたでしょー!」
「真実に基づく所感を述べていただけだろ。」
 盛んに言い合いをする二人。これじゃまた、鳥が逃げるな、そう思っていた俺の耳に、ぽつりと呟くゆきの声が聞こえた。
「よくない・・・」
 風が、吹き抜けた、そんな気がした。いや、風ではなく、何かが頭の上を飛んでいるような感覚。そう思った矢先、その何かは頭上から急降下してきた。
「あっ」
「きゃっ!」
 一瞬だった。上から飛んできたそれは、ユキめがけて衝突し、地上に降り立った後すぐさま樹上に飛び上がった。木々を渡り、俺達から少し離れた木の枝で、ようやくそれは動きを止めていた。
「りす・・・か?」
「マリネ、ですね。モモンガやムササビの仲間の。」
 気がつくと、ユキと同行していた島村が傍らに立っていた。
「普通は山奥に住む生き物だから、こんな場所で見かけるとは思いませんでしたけど。」
「いや、それよりも・・・そのマリネってのは、ああいう凶暴で人を襲う生き物なのか?」
 そういって俺は、ユキの方を見やった。うずくまった彼女の腕からは、血が流れ出ていた。そのときに俺は、ようやく手当てしなければという考えに行き着いた。
「いいえ。マリネはおとなしい生き物ですから。人を恐がりこそすれ、あんな風に襲いかかるなんて事は・・・」
 手当の為に駆け寄った俺の背中に、島村はそう答えた。
「じゃあ、なんで・・・」
「ここのマリネは肉食なんですよ、きっとっ!」
 介抱する俺に向かって、ユキはそう笑いながら茶化して見せた。
「そんなわけあるかよ。」
 そう言ってユキを見下ろす坂井。その目の冷たさが印象に残った。

 おかあさんの話では、ユキさんはまたけがをした。学校の中を歩いていたら、吹き矢がとんできてささったのだそうだ。
「つくづく運がないな、あのユキって子は。この間の肉食マリネの件といい。」
「本人はとても、明るいけど。」
 おとうさんとおかあさんは、ユキさんの話でもちきりだった。わたしは、ちょっとふくざつな気分だった。
「ねえ、おかあさん。わたしね---」
 そういって話しかけても、二人とも「ああそうだね」といって、すぐに話を元にもどしてしまった。
 仕方がないから、わたしは一人でごはんを食べた。

 ある日、町でユキさんをみた。うでに包帯を巻いていた。ほかの人と一緒だった。
「ねえ、ユキってここんとこ、ついてないよねー。」
「うーん。ツイテナイというか。何者かに狙われてるってカンジなのよねー」
「なにそれ。」
「何かに取り憑かれてるんじゃない? お祓いでもしてもらったら。」
「やだ。あたし、恋愛の神様以外信じないもんっ」
「なんじゃそりゃ。」
「なーにが恋愛の神様なんだか。舞ちゃん先生べったりで、浮いた話の一つもないくせに。」
「えー、だって。」
「だってじゃないよ。あんた、ちょっと舞ちゃん先生独占しすぎ。そのうち刺されるよ。」
「そうかなあ・・・」
「そうだよ。あんた、よくないよ。」
 よくない・・・
 その言葉は、前にもきいたことがある。ユキさんは、よくないひと。そう思ったとき、体のよこを風が通り抜けていくようなかんじがあった。
「きゃっ!」
「わ、ユキ、どうしたの。急に溝に落ちたりして。」
「わかんない・・・わかんないけど、なんか急に突き飛ばされたような気がして・・」
「あんた、やっぱ呪われてるんじゃない? 絶対誰かの恨み買ってるって。」
「そんなあ。あたし、そんな自覚無いのに・・」
 話は、さいごまできけなかった。わたしはこわくなってその場を逃げ出していた。
 あのときわたしの横を通りすぎたもの。あれがきっと、ユキさんをつきとばしたのだ。そしてどうしてあれがそんなことをしたかというと、それはきっとわたしがそう願ったから。あの森での出来事もそうだった。わたしがユキさんをきらいだと思ったら、ユキさんはどうぶつにおそわれてけがをした。よくわからないけど、わたしがユキさんをきらうと、ユキさんはけがをするのだ。

 ユキさんを、きらわないようにしよう。そう、こころに決めた。

 でも、その決意は長くはつづかなかった。

 その日は、おとうさんとおかあさんと、わたしと三人で、お買い物にいくはずだった。
 でも、いく前になってかかってきた電話が、人数を二人にしてしまった。
「ユキが・・・また襲われたらしい。」
 そういって受話器を置くおかあさんの顔は、とても深刻だった。わたしは、おかあさんは一緒にいけなくなったんだなと、直感した。
 ユキさんのせいで。いっしゅんそう思ったけど、すぐにその考えをふりはらった。そういうことをかんがえては、いけないのだ。
「仕方ないな。ゆき、お父さんと二人で行こうか。」
 そういってお父さんは、わたしの片手をとって歩き出した。もう片方の手が、さびしかった。

「よお、相沢・・・祐一!」
 町を歩いていると、お父さんの名前が呼ばれた。
「誰だ、俺を旧姓でフルネーム呼ばわりするやつは。」
「すまんすまん、つい昔の癖が抜けなくてな。川澄祐一君。」
「だから、フルネーム呼ばわりするなと言ってるんだ。」
「はっはっは、照れるな照れるな」
 このばかなことを言っているかみの立った人は、北川おじさん。おとうさんの、むかしからの友達。さいきんはあまりこなくなったけど、わたしがもう少し小さい頃は、よく家にもきてわたしと遊んでくれた。
 とてもいい人。かなりきらいじゃない。
「おー、ゆきちゃんか。しばらく見ないうちにまた大きくなったなあ。子供の成長は早いからなあ。」
 そういって北川おじさんは、わたしのことを抱き上げた。ちょっとはずかしい。
「しかもまた一段とかわいくなって。なー祐一。オレ、このままゆきちゃんお持ち帰りしちゃってもいいか?」
「何バカな事言ってんだよ。ふざけてないでゆき返せ」
「バカな事じゃないさ。オレ、ゆきちゃん大好きだからなぁー。」
「ったく、何言ってんだか。お前の好きなのは違うゆきちゃんだろうが。」
 ちがうゆきちゃん・・・
 わたしの心の中に、いっしゅんであの人の顔が思い浮かんだ。今日おかあさんをこれなくしちゃった、ユキさんの顔が。
「オイオイ、頼むからそれは言わないでくれよ・・・」
「いーや、言ってやる。お前さっき、フルネーム呼ばわりで俺のこといじめてくれたからな。お返しだ。」
「てめー。そういう事言ってると、ほんとにゆきちゃん持って帰っちゃうぞ。」
 ふたりの言葉が、耳からはいって素通りしていく。わたしの頭の中は、すでにユキさんのことでいっぱいだった。
 気がついたときには、わたしは家についていた。
「お、ゆき、気がついたか。全く心配したぞ、途中から急にぼーっとしちゃって。熱でもあるのかと・・・」
 そうやって心配してくれるおとうさんの声も、まだすっきり入ってこなかった。頭のなかには、さっきまでの変な思いがまだのこっていた。

 おかあさんが帰ってきたのは、夜遅くになってからだった。
「舞・・怪我してるのか?」
「・・・大したこと無い。」
 おかあさんの顔や腕には、かすり傷のようなものがいっぱいついていた。
「大したこと無いったってなあ・・・」
「祐一。」
「ん?」
「まだ、確信は持てないんだけど・・・」
 おかあさんは、座り込みながら一息ついて、続けた。
「魔物が・・・出たのかもしれない。」

「坂井?」
 昼食のおろしそばをすすり込んでいるときに、生活指導の谷口から声をかけられた。ユキを襲った犯人がわかったというのだ。
「まさか。」
 だがそれは、私にとっては少し信じがたい結果だった。犯人は、私のクラスの、野鳥観察部の坂井だというのだ。
 確かに、坂井はユキを疎んじている。多少の嫌がらせくらいしかねないのではないかという危惧はあった。だけど。ユキを襲った災難が、すべて坂井の仕業だとは、とうてい考えられなかった。
「・・・あれは、人間にできるようなことじゃない・・・」
 私は、先日ユキに呼び出されたときのことを思い出していた。

 ユキは、神社の前にいた。「また襲われちゃった、へへっ」そう言って笑ってはいたが、その心の内には、得体の知れないものに襲われる恐怖心がありありと見えた。
「何があったの?」
 私は、座り込んでいるユキの隣に腰掛けながら訊いた。
「ガラスが割れて・・・ううん、窓ガラスじゃないの、どこのガラスかわからないけど、とにかく割れる音がして、破片が飛んできて・・・」
「怪我は?!」
「大丈夫。当たったけど、怪我はしてないみたい。」
「そう。でも一応、病院に行った方がいい・・・」
 そう言った矢先、私の横を、風が通り抜ける感覚がした。いや、感覚は風だけではなかった。もっと不自然な、心の中の傷をえぐるような感覚。この感覚には、覚えがある—–
 だが、それが何であったのかを思い出す間も無く、私はユキをかばって地面に伏せなければならなくなった。無数の石の飛礫が、こちらに向かって宙を飛んできていた。幾つか、幾つかが私の背中に当たった。怪我をするほどではないが、痛い。
 結構長い時間が経って、ようやく石は当たらなくなった。背中が痛む。どうせなら、肩こりのツボにでも当たってくれればよかったのに。そう思いながらユキをみると、ユキの目には涙が浮かんでいた。
「泣いてない、泣いてないよ、舞ちゃん先生・・・」

「とにかく、話を聞いてみるか・・・」
 私の目の前には、食べかけのそばがあった。かなり未練があったが、それを残して私は生徒指導室に向かった。

「吹き矢の件と、植木鉢の件と、ガラスの件。これは認めるんだな?」
「はい。」
「じゃあ何で、他のことは認めないんだ!」
「だって、僕がやったんじゃないんですよ!」
 生徒指導室で、坂井は三人の教師に尋問を受けていた。指導主任に、学年主任に、私。
 もっとも私は、まだ何も彼に訊いてはいなかった。
「だったら、誰がやったというんだ!」
「知りませんよ・・・とにかく、僕がやったのはさっきの三つだけです!」
 その通りだ。私は心の中で、そう思った。吹き矢やガラスの事は、彼一人で殺ってやれないことでもない。でも、それ以外の、石が飛んでくるとか、壁にたたきつけられるとか、動物に襲われるとか。そんなことが、彼にできるはずもない。
 彼に、私のような能力があるというのなら別だが----
「谷口先生。」
 私は、立ち上がりながら言った。
「本人がやっていないと言っていることを、無理に追求するのもどうかと。被害者加害者ともに私のクラスの生徒でもありますし、ここは、私に引き取らせていただけないでしょうか。」
「そうですな。」
 あまり事を荒立てたくないのか、学年主任がすぐに同調してくれた。
「川澄先生は、彼も含めて生徒に慕われているようですし。ここで我々ががみがみ言うより、かえってその方がいいかもしれません。」
「わかりました。川澄先生、くれぐれも、よろしくお願いしますよ。」
 二人は、部屋を出て行った。私と坂井の二人だけになった。坂井は黙っていた。
「本当に、三つしかやっていないの?」
 坂井は黙ったままだった。
「大丈夫。私も、他に犯人がいると思っている。」
 その言葉に、坂井ははっとしたようにに顔を上げた。
「どうなの?」
「三つだけです。」
「そう。じゃあ、それについて詳しく聞かせてくれる? それと」
 私は、一呼吸置いて続けた。
「ユキ---竹内にも、この事は話しておくから。」

 私とユキは、私の家に向かう車の中にいた。ユキに坂井のことを話しておかなければならないが、学校や人目につくところでは少し困ると思っていたところへ、ユキが持ちかけてきた。
「舞ちゃん先生、あたし今日、先生の家に行ってもいいですか?」
 家なら無闇に他人に聞かれることもないし、行く途中の車の中でも話はできる。それに、ユキを襲う何者か-おそらくは、魔物-から、ユキを守ることができる。
 車が走り出してすぐ、私は坂井の一件を話した。
「そう、ですか。やっぱり。」
 ユキは薄々、幾つかに坂井が絡んでいるとは感づいていたようだった。そして、全てが坂井の仕業でないことも。
「でも。私、みんなの見ている前で、見えない何かに突き飛ばされたりしたんですよ。それも坂井の仕業ですか?」
「違うと思う。」
 私は断言した。
「何者かはわからないけど・・・坂井以外の、別の何かがあなたを狙っている。」
「ですよね。そうですよね。あたしも、そんな気がするんです。」
 とにかく明るく振る舞おうとするユキ。その姿が、また痛ましく思えた。
「・・・大丈夫。あなたのことは、私が守るから。」
 ユキを励ますつもりで言った言葉だった。だがその言葉で、ユキは却って意気消沈してしまった。
「ごめんなさい・・・舞ちゃん先生にまで迷惑かけちゃって・・・・」
 もはや、取り繕った明るささえもなかった。そのとき私は確信した、この子は本当に、私のことを好きでいてくれるんだと。
「気にすることはない。そもそも、教師というのは生徒が迷惑かけるために存在している。そのために給料をもらっているのだから、いくらでも迷惑かけてくれていいし、頼ってもらっていい。」
「舞ちゃん先生・・・なんかかっこいい!」
 ユキに、少なくとも表面上の明るさが戻った。ついでに言うと、目が潤んでいる。そこまで感動的な台詞だっただろうかと、私は疑問符を抱きながら、家路を急いだ。

 家に着くと、祐一はいなかった。まだ帰っていないらしい。ゆきは帰ってきていた。
「ただいま・・。」
「おかえりなさいっ・・・あ」
 明るい顔で私を迎えてくれたゆきの顔は、後ろに立っていたユキの姿を見て凝固した。
「ゆき、お客さん。ご挨拶は?」
「う、うん。こんにちは、ユキさん。」
「こんにちは、ゆきちゃん。」
 ユキは型どおりの挨拶をすませると、突然「うぅーん」と唸って、何かがはずれたようにゆきを抱きしめた。
「かわいー! ゆきちゃんやっぱりかわいぃ、かわいいよぉ」
 そういって頬ずりしたりしている。ゆきは少し嫌がっている感じだった。が、私は止める気にならなかった。作り物でない、本物の笑顔。今のユキの顔には、それがあった。今辛くてもじっと耐えている少女の顔から、本当に喜べることを奪ってしまうことが、とても残酷なことに思えた。
 ゆきも、そんな私の気持ちを察したのか、何も言おうとはしなかった。

 帰ってきた祐一は、ユキを泊めることに快く賛成してくれた。と言うより、祐一が勝手に決めてしまった。私もユキも、彼女が今日ここに泊まるということまでは考えていなかった。
「いや、訳のわからないものに怯えて一晩過ごすよりは、いっそ泊まっていった方がいいだろう、うん、その方がいい、そうするべきだ。」
 泊まるとも何とも言っていないのに、勝手に泊まると勘違いした。その恥ずかしさを隠したいのか、祐一は必死にユキを泊めようとした。
 私は、一抹の不安を覚えて、祐一にそっと耳打ちをした。
「祐一。」
「ん?」
「もし。もしユキを襲っているのが本当に魔物、あの魔物だとして。」
「ああ。」
「それはもしかして、私の作り出したものではないかしら。」
「そうなのか?」
「わからない。わからないけど・・・あの感覚は、昔私が作り出した魔物とよく似ていた。」
「・・・・。」
「もしそうだとしたら・・・ユキをここに泊めるのは、却って危険。」
「大丈夫だろ。」
 祐一は、即答で私の不安を否定した。
「今さら舞が魔物を生み出してしまう理由もないし、もし仮に生み出してしまったとしたら、そいつが真っ先に襲いかかってくるのは、俺のはずだろ?」
「・・・・。」
「それに、もし魔物が出たとして。その時は、また二人で戦って追い払えばいいじゃないか。昔みたいにさ。」
「・・・・・。」
 祐一の思考は、なんだか楽天的に思えた。それでも私は、その祐一の考えを信じたかった。自分の中の不安は、否定したかった。
 私は、ちらりとユキの方を見た。ユキは眠ってしまっていた。ゆきを抱いたまま。ゆきが困った顔をしていた。
 私は、ゆきをユキの腕から抜き取りながら、眠っている彼女の顔を見た。安らかな寝顔。ここにいれば安心、そう思いきっているのだろうか。
 私の心は決まった。もし魔物が出たとしたら。その時は、彼女を全力で守ってやるまで。それだけのことだ、と。
   

 そして、その夜。魔物は出た。

「ユキ、起きて。ユキ、ユキ。」
「う、うーん・・・」
 おかあさんが、ユキさんを起こしている。
「あ、・・・ごめんなさい、あたし、寝ちゃった」
「これから、食事に行く。起きて。」
「あ、はい・・・」
 ユキさんは、まだねむそうな目でごそごそと支度をはじめた。
「あれ・・・そういえば? 外に食べに行くんですか?」
「ああ。本当は今日は、俺の料理当番なんだけどさ。俺の作るメシ、不味いから。ちょっと食わせられねーなと思って。」
「そうなんですか?」
 そう。おとうさんの作る料理は、正直にいってあまりおいしくない。それはわたしもいつも思っていることだ。でもそれをいってしまうと、おとうさんはとても悲しそうな顔になるので、いわない。
「・・・祐一の料理は不味い。」
「ぐはっ」
 ・・・おかあさんがいってしまった。せっかく、わたしがいわないようにしていたのに。
「でも。昔よりずいぶん、おいしくなった。」
「舞・・・お前ってさ、ほんとにけなしてんだかフォローしてんだか、わかんないよな・・・」
「それは・・・褒めてるの?」
「そんなはずはないだろう。」
 くすくすっ、と、ユキさんがわらう。そのわらいごえを聞いてわたしは、さっきまでの複雑な感じをおもいだした。
 ユキさんのうでに抱かれていたとき。わたしは考えていた。わたしは、ユキさんをあまり好きではなかった。うるさいし、怖いことするし、おかあさんを連れていっちゃう。それなのに、ユキさんはわたしのことを大好きだという。どうしてだろう。どうしてだろう。わたしがユキさんをきらってしまっているのだから、ユキさんもわたしをきらって当然なのに。わたしは、そんなに人に好かれる子なんだろうか。それとも、ほんとうはユキさんは、とてもいい人なんだろうか・・・・。

 気がつくと、手を引かれて夜の道を歩いていた。両隣におとうさんとおかあさん、後ろから、ユキさんがついてきていた。
 ユキさんが、わたしの上に割り込むように、頭をつっこんできた。
「ね。どこ行くんですか?」
「そうだなあ・・・適当にラーメン屋でもいいか?」
「えーと、あたし、グルジア料理屋さんがいいと思います!」
「長寿料理・・・?」
「いや、それは、なんというか、そんな店この辺にあったか?」
 3人の話をききながら、わたしはまた考えていた。この人はいったい、なんなのだろう。わたしはこの人にとって、なんなのだろう。この人はよくないと思っていたから、わたしはずっとこの人がきらいだった。でもこの人がいい人だというなら、そのいい人をきらっていたわたしはどうなるのだろう。
 わたしは、もしかしてよくない子。

 そう思ったとき、通り抜ける風を感じた。あのときと同じ。
 立ち止まる。するどい視線。おかあさんの目が、じっと前を見すえていた。なにかが、たしかにそこにいた。
「下がって・・・!」
 おかあさんの左手が、わたしとおとうさんの行く手をさえぎった。
「出たのか・・・・? 舞!」
 ごくりとつばをのみこむ音がきこえる。わたしのすぐ後ろで、ユキさんが立ちすくんでいた。
「私がやる。祐一は、その二人を守っていて。」
 そういっておかあさんは、私たちをうしろにぐいと押しのけた。
「いや、やるって舞・・・お前、武器もなにも無しに」
「これを使う・・・」
 そういっておかあさんは、道ばたにすてられていた傘を拾いあげた。バンッと勢いよくひらき、その勢いのまま壁にうちつけ、いっきに傘の骨を取り払う。
「舞・・・」
「舞ちゃん先生・・・」
 わたしは言葉がでなかった。
 おかあさんは身構えたまま、じっと何かとにらみあっている。
 何かが、動いた。おかあさんの手がすばやく反応する。だけどそれは、何かをとらえることなく、すっと空振りしてしまう。
 わたしに、来る。そう思った。ユキさんにではなく、わたしに。
 わたしは、ゆっくりと目を閉じた。
「ゆきちゃん、危ないっ!」
 そのこえにおどろいて、ふたたび目を開ける。ユキさんの体が、わたしにおおいかぶさってくるのがわかった。そして、どしんと来る衝撃。
「ああッ!」
 何かは、ユキさんの背中に当たった。ユキさんは悲鳴を上げて、そのまま倒れ込んでしまった。
「ユキ!」
 おかあさんの叫ぶ声。それが一瞬、どっちのことなのかわからなかった。
 何かはそのままとおりすぎて、後ろのほう、私たちが歩いてきた方向でとどまっている。
「何者・・・一体何者・・・!」
 月明かりに照らされて、怒りにふるえたおかあさんの顔が見える。1、2、3。間合いをつめたおかあさんが、そのまま何かに飛びかかっていく。当たった。
 ずきん。
 体の底から、はげしい痛みがわき起こってくる。
「ゆき!」
 わたしを呼ぶ、お父さんの声が聞こえる。その声にふりかえった、おかあさんの姿が見える。そのむこうに、何かがいた。その何かが、少しづつ、はっきりと目に見える形になっていった。人の形。子供。女の子。あれは、わたし・・・?
 再びあれに目を向けたおかあさんが、その場に固まっていた。おとうさんも、ユキさんも同じだった。わたしも、動けずにいた。なにが起きているのか、よくわからなかった。ただ頭の中にあるのは、ひとつだけ。あれは、わたし。
 やがておかあさんが動きを取りもどした。ゆっくりと、軸だけになった傘をおろし、そしてわたしの方に歩みよってきた。
「あれは・・・あなたなの?」
 おかあさんは、ゆっくりと、やさしく訊いてきた。
「あなたなの?」
 わたしは、うなづいた。あれは、わたし。わたしの中から生まれた、わたし。証拠は何もない、だけど、わたしははっきりとした確信をもっていた。
「だったら---」
 おかあさんは、ゆっくりとわたしの前にしゃがみながら、傘の軸をさしだしてきた。
「あなたが、やりなさい。」
 すぐには、意味がわからなかった。
「あなたでないと、できない。」
 両手でさしだされた、傘の軸。これをもって、あの「わたし」と戦えということだろうか。わたしはおかあさんの目を見た。まっすぐにわたしの目を見つめる瞳が、そうだと言っていた。わたしは、おそるおそる、傘をうけとった。「わたし」が、おかあさんのすぐ後ろにまできていた。
 どぐっ。
 にぶいおと。おかあさんが、右手で肩をおさえていた。次の瞬間、おかあさんは体をひねって、左手で「わたし」をふりとばした。からだに、軽い衝撃を感じる。
「さあ、・・・行きなさい。」
 おかあさんは、再びわたしにうながした。自分で生み出した魔物なのだから、自分で始末をつけなさい。そう言っているような気がした。わたしはその言葉に従い、ふりとばされた「わたし」の元に歩いていった。
 どさっ。
 うしろから、倒れるおとが聞こえる。振り返ると、おかあさんが倒れていた。おとうさんとユキさんが駆け寄るのが見える。
「おかあさん!」
 おもわず、叫んでいた。その言葉に、起きあがったおかあさんはこう答えた。
「行きなさい!」
 それは、はじめて聞く母の強い言葉だった。 
 わたしは再び「わたし」の方に向き直り、そして傘をかまえた。「わたし」も、その場に立ちすくんでいるかのようだった。
「うわああああああ!」
 言葉にならない声を叫びながら、わたしは「わたし」に立ち向かっていった。
 ふりおろす傘。当たらない。よけられた。
「消えてっ! おねがいだから、消えてっ!」
 わたしは、必死の思いをさけびながら、「わたし」に傘をうち下ろしていった。
「あなたがわたしだというのなら! おねがい! もう、わたしたちの前から消えてっ!!」
 強くねがう。わたしはもう、わたしの周りの人をきずつけたくない。わたしの好きな人たちを傷つけたくない。だから。だから。人をきずつけるわたしはもう、消えてほしい。無くなって!
 光が、見えた気がした。正確には、感じた。とおりすぎる光が、わたしの前にいた「わたし」にからみつき、わたしの前から引きはなした。「わたし」の姿が見えなくなり、ふたたび何かへと戻った。それは光とからみあいながらうずまきのように空に上って行き、そして、消えてしまった。
「消えた・・・。」
 それがわかった、そこで、わたしの意識はとぎれてしまった。

エピローグ

「舞ちゃん先生っ」
 振り向くとそこに、ユキがいた。
「ゆきちゃん、どうですか? 元気にしてます?」
「・・・問題ない。」
 あの事件から、三ヶ月が経っていた。ゆきは、自分の生み出した魔物を倒したあと昏睡状態に陥り、一週間目を覚まさなかった。その一週間、わたしも祐一も泣き、取り乱していた。そんな私たちを支え励ましてくれたのが、ユキだった。今から思えば、ユキだって精神的にかなり追いつめられていたはず。それを思うと、正直ユキには頭が上がらない思いだ。
「学校にも行ってる。よく笑うようになった。」
 一ヶ月後、ゆきは退院できた。回復したゆきは、何かを吹っ切ったかのように明るくなった。誰とでもよく話すようになり、多少の悪口を言われても平然としていた。時としてお節介と思えるような事をすることもあった。そう、あまり言いたくはないが、誰かに似てきた。
「そう。よかった。」
 あまりよくない、一瞬だけそう思った。
「あなたは、最近おとなしくなった。」
「そう思います? ええ、そう心がけてますから。」
「そうなの?」
「はい。あたしも、いつまでも子供じゃいられませんから。」
 そう言って笑うユキの顔は、少しだけ大人びて見えた。そのとき私は思い出していた。坂井のことは不問にするから、今回の事件はいっさい無かったことにしてくれと、学年主任らに頭を下げるユキの姿を。どうやら私は、この子をかなり見くびっていたようだ。
「じゃ、先生。いずれまた、先生の家行かせてくださいね。ゆきちゃんにも会いたいし。」
「うん、いつでも来ていい。歓迎する。」
 そう言って私たちは、その場を別れた。
「さて・・・今日はもう帰ろうか。」
 今日は、ゆきも祐一も早く帰ってくるはずだ。今帰ればきっと、ゆきのかわいい笑顔が出迎えてくれることだろう。
「おかえりなさいっ、おかあさん。今日ね、おとうさんも早かったんだよ。だからわたし、すごくうれしいっ・・・・・・・・」

完。 

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※2002/9/23執筆 第2回かのんSSこんぺ出稿作品

Minax

「OSを作りました。名前はMinax」
「みちるPC持ってない」
「大丈夫、インストール対象は国崎さん」
「おい」
「記録媒体はお米ディア」
「それ大丈夫か?起動失敗したら」
「何度でもやり直し」
「千年再試行繰り返してきた一族の末裔だろ、とっとと食べろ」
今はまだ、windの中
 #HBDKey

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※2014/12/22Twitter投稿SS

今も空の下で~霧島医院の夜

 何時だったか。覚えていない。私が眠っていたのは確かだった。その眠りは、激しく扉をたたく音によって打ち破られる。
「霧島先生、お願いします、霧島先生ー」
 扉を開けるとそこには、子供を抱いた男の姿があった。
「涼子が…この子が、苦しんで、熱がすごいんです──」
 3、4歳くらいか。触ってみると、確かに高熱だった。
「…。」
 気づくと、傍らに国崎往人が立っていた。彼も起きてきてしまったようだ。
「…とりあえず、解熱剤だな。」
 誰に言うでもなく、そう口に出していた。だが、そう言いながら私は、心の中では別のことを考えていた。おそらく、ここで解熱剤を授与しても意味はないだろうと。解熱剤が効かないほどの症状かどうかはわからない。ただ、これだけの熱を下げるための解熱剤を一気に投与すると、却ってそれが子供の命を奪う結果にもなりかねない。小さな子供は、大人と同じように扱うわけには行かないのだ。かと言って、時間をおいて少しづつ投与していく余裕は無さそうだった。
「集中治療室でもあればよいのだが・もちろん、部屋だけ合っても駄目で、それを運用するスタッフが欠かせないのは言うまでもないのだが。何にしろ、ここにはそのどちらもない。
「…。」
 私の中で、一つの結論が出た。少女に幾量かの解熱剤を投与した後、私は電話機に向かった。
「──夜分恐れ入ります、私、霧島診療所のものなのですが──」
 電話の相手、それは、隣町の総合病院。あまりかけたくない相手ではあったが、人の命と個人の感情を輝にかけることなどできない。私は半ば頭を下げるように、患者の受け入れを頼み込んでいた。

 二人で、走り去る救急車を見送っていた。横に立つ国崎往人が、呟くように言う。
「…これで、よかったのか?」
 
「何がだ。」
 
「隣町の病院に送ったりして。」
 
「私の判断が間違いだと。」
 
「いや、間違ってるとは言わない。でも、あんたはどうなんだ。隣町の病院などに送らず、自分の手で治したかったんじゃないか?」
 
「馬鹿を言うな。つまらないプライドのために命を軽んじるような真似が、許されると思うのか。」
 
 国崎往人は黙ってしまう。少しきつく言ってしまったようだ。
「ま、とは言え。本心を言えば、余計な仕事をしなくて済んだと、清々しているところだ。」
「そうか。」
 
 彼はそれ以上、何も言わなかった。ただ、彼がその言葉に納得していないことは、私が診療所の中に入ろうとしても尚、外に居続けたことでわかった。
「入らないのか?」
「…ああ。」
 
「…国崎君。医者というのは、因果な職業なんだよ。周りにはどう見えているのか知らんが、やっている身として言わせて貰えば、これほど卑劣な職業は無い」
「…。」

 その言葉にも彼は、納得しなかったようだ。結果私は、待合室で座ることになる。住乃も起きてきてはいない。
 わずかな時間ではあったが、緊張に満たされた濃密な時間。それが終わった時、ずっとつながっていた意識にできる僅かばかりの隙間。そこから見えるのは、普段は覆い隠されている、過去の記憶の断片だった。
「…。」
 久々に垣間見るその記憶の映像に、私は次第に意識を委ねていった──。

 漆黒の闇の中、赤い光がまばらに見える風景。病院の窓から見える、都会の夜の光景。これが都心であれば外はもっと光に満ち、逆に田舎であれば、それは全くの色の無い世界になっているのだろう。生まれ育った町がそうだった、光も音もない、真なる夜の世界。人という種族の大半が眠りにつく世界。
「佳乃はもう、寝ただろうか…」
 遠く離れた故郷を思い、長く会っていない妹を案じる。
 そんな感傷的な気分を振り払わせる、断片的な光と連続した音。音は止まり、光は残る。窓から辛うじて見える救急用の入り口に担架が吸い込まれてゆく。
「──行くか。」
 当直医。それが今日の私の仕事だ。本来の営業時間否診療時間外であり、本来患者のいないこの時間、それでも今のような緊急の患者がやってくることがある。それに備えるために、私のような若い医者が交代で詰めているのだ。経験も専門知識も無い、ひよっこの医者が。
 無論、必ずしも適切な処置をしてもらえるとは限らないわけだ。
「だから夜中に倒れたりしてはいかんのだよ…」
 テーブルに脱ぎ捨てていた白衣を羽織りながら、誰に向かってでもなく吐き捨てる。そしてインターホンが鳴る。
「霧島さん、救急外来です。」
 その声と呼び方で、藤屋だとわかる。私と同じ年だが、現場の経験は私より5年ほど長い、看護婦。
「──子供の患者さんです。」
 その言葉に、思わず舌打ちをしたくなる。元々、救急外来というのは、事故でなければ子供か老人の発作と相場が決まっている。子供が来たからと言って、決して運が悪いというわけではない。とは言え、私が小児科の専門というわけではない事もまた事実。しかも子供の救急救命率というのは、極めて低いのだ。子供は大人とは違う。単なる小さな大人ではない。体のつくりも未発達、生命の危急に耐えられるだけの体力も精神力もないのだから。
「霧島さん?」
 藤屋の呼ぶ声。その声に、手短に答える。

「わかった、すぐ行く。」
 心の中のことはいっさい口には出さず、インターホンの受話器を置いた。
部屋を出る。弱く青白い光だけが、廊下を照らしていた。
「三人殺して一人前、か…」
 いつだったか聞いた言葉。医者という職業が背負う宿命のようなものだ。その言葉を岐きながら、私は救命室へと向かっていった。

 両親は、取り乱していた。症状や経過を訳いても要領を得ず、ただ助けてくれと懇願するばかり。
「(助けて欲しいのはこっちの方だよ…)」
 口には出さず、心の中でそう言い放っていた。
「なんとか、しますから…」
 そう言うのが精一杯だった。両親を藤屋に押しつけるようにして、処置室に戻っていった。
 患者は10歳の男児。息の音から察するに、小児職息の類か。ただ、これまで発症歴はない。両親は風邪だと思って、一週間ほど寝かせていたらしい。
 辛うじてわかっていることを頭の中で並べ立て、今必要な処置をたぐり寄せていく。医学部六年間を費やして学んだことも、今ここで取り出せなければ何の意味もない。そして、私の今知る、為し得る限りは全て行った。これで、良いはずなのだ。だが、頭の中から不安は離れない。
 そしてふと頭をよぎる事実、小児救急の救命率の低さ、その数字。多くの子供が、夜の病院で死んでゆく現実。逆に言えばそれは、今ここで私がこの子を助けられなくても、誰も私を非難したりしないということ。何故ならそれはあまりに日常的なことで、咎め立てする筋合いのものではないのだから。

 心が、振れてゆく。

 そのとき。私の耳に、かすかな声が聞こえた。
「くらい…こわい…たすけて…おかあさん…」
 それははっきりした言葉ですらない、絶え絶えの息の中で吐き出される言葉の断片に過ぎなかった。ただ、それを私が自分の中で勝手に解釈しただけだった。
 そして解釈は広がる。私の中で広がる、彼の今日までの一週間。風邪だということで、一人で寝かされていた夜。初めはすぐ治ると信じていた。でも、日が経つにつれ悪くなるばかり。体は悪くなっていく。そして、心は不安になってゆく。暗い部屋。たった一人。苦しい。助けて欲しい。誰も来ない。苦しい。一人。暗い部屋。言葉が、重なる。今遠い空の下にいる、彼女の言葉と。
 
 私は、そっと彼の手を取った。
「大丈夫だ…私が、助けてやる…」
 助けられる保証など、どこにもなかった。それはあまりにも安請け合い過ぎる言葉だった。それでも私は、再びこう言った。
「…助けてやる…」
 
 扉が開く。封筒を手にした藤屋がそこにいた。
「霧島さん。レントゲン写真、出来たわよ。」
 
「…わかった、行こう。」
 少年の状態は、先刻と何ら変わってはいなかった。私は彼を置いて、隣の部屋に移った。
 
 
 
 光にかざされたレントゲン写真、それを見ながら私は、これから自分が何をすべきかを、為し得る限り的確に判断していった。医療的なことも、精神的なことも、全部含めて。余計な迷い気の重みは既にどこかに行っていた。
「竹本先生は、呼んだら来てくれるかな。」
「…そこまで、手に負えない状況なの?」
「いや…ただこの子を死なせたくないだけさ」
 
 今は、彼を助けるために──。

「お姉ちゃん?」
 
 目を開けるとそこには、祀さ込む住乃の姿があった。外から入り込む光がはっきり見える。
「ああ、もう朝なのか。」
「お姉ちゃん全然起きないから、死んじゃったかと思ったよお」
「私がそんな簡単に死ぬか。」
「だろうな。あんたは放射線に当たっても死にそうにない。」
 佳乃の後ろから聞こえる、国崎往人の言葉。その言葉に反応して、私は懐に手を入れる。と、彼の手に一通の葉書があるのに気づいた。

「国崎君。なんだ、それは?」
「ああ、なんか今来た。あんた宛だ。」
 葉書を受け取り、差出人を確認する。あの、少年からだった。
「なんだ、ずいぶんご都合主義な展開じゃないか…」
 
「何がだ?」
 

「いや…こちらの話だ。」
 内容は自分の部屋で見ることにして、私は葉書をポケットにしまった。

「お姉ちゃん。…誰から?」
 佳乃が覗き込むようにして訳いてくる。
「そうだな…」
 
 私は、佳乃に葉書を奪われないよう防御しながら答えた。
「佳乃と、同じ男の子だよ…」
 

「…え?どういう意味?」
 きよとんとする佳乃。そして国崎往人。この二人を置いて、私は部屋へと戻っていった。

 久々に感じる、自分の中の感傷を感じながら。

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(2001年11月23日執筆:サークル:不玉山 寄稿作品)

もしもAIRの遠野美凪が「分身」をテーマにSSを書いたら(仮題)

「…ところで、SSって何ですか?」
「そっから始まるのかーーーーーー!!!!!」

『もしもAIRの遠野美凪が「分身」をテーマにSSを書いたら』

「本来地の文で説明すべき部分だろうが、敢えてこの国崎往人が口頭で説明しよう。みちるがタイトル大書したでかい看板持たされて、泣き顔になっている」
「うっうっうっ…。何でみちるがこんな目に…」
「…それは。ちゃんと読者に見せないと、タイトルわからないでしょう?」
「いや、だからって看板にタイトル書いて持ってるとかあんま聞かないし。て言うかこれ文章だから看板に書いたって読者にはわかんないし。そもそも本文とは別にタイトル枠用意されてるし」
「…まあ。ご不満?」
「不満だーーー!!!」
「…まあ。折角、『AIRのカンバン娘』の称号をみちるにあげようと思ったのに」
「いや、みちるそんなポジションじゃないことは承知してるから。中の人はKeyの看板声優かもしれないけど」
「リトバスで止まったけどな」
「…ちなみに、カンバンってトヨタのカンバン方式のカンバンですから」
「このでかい看板とどういう関係があるんだーーー!!!」
「…日本が世界に誇る生産管理手法ですよ?」
「俺達は一体何を生産していると言うんだ」
「だいたい看板にタイトル書くのとは関係ないし。それに、在庫を持たないリスクという欠点がこの3ヶ月あまりで露呈したわけだし。やっぱりカンバンってちょっと…」
「…そろそろ、テーマに沿った話をしましょうか」
「ごまかしたー!」

「で。『分身』でどう話を進める気だ。俺の中の人が緑川と杉田で別れている件か」
「おお。そう言われてみればそんな事もあったな。」
「…その線も考えましたけど。けど、国崎さん役を杉田智和にしてしまうと、私の中の人も桑島法子にされてしまいそうなので」
「なんでそうなる? アニメで普通にお前の役、柚木涼香だっただろう」
「…あの頃の杉田智和は、まだ駆け出しで今みたいな売れっ子ではありませんでしたから」
「でも今は違うってか? で、何で桑島法子なんだ。お前坂上智代と全然キャラかぶってないぞ」
「…だって。国崎さん役が杉田智和なら、国崎さんが大好きな私の役は当然杉田智和が大好きな桑島法子にしろって要求されるに決まってるじゃないですか」
「お前は一体何を言っているんだ」
「…東京エンカウント、見てませんか?」
「金のない俺がAT-Xなんか契約できるわけないだろう。というか杉田桑島の関係以前に、その前の前提条件がおかしい」
「契約してないくせに東京エンカウントがAT-Xの番組だって事は知ってるのか」
「…そこはそれ、分身を使った特殊な視聴方法というものではありませんか?」
「おい、人を勝手に犯罪者扱いするな」
「…勝手に…。という事は、許可を取れば問題無いんですね」
「許可しねーよ。何でお前はいつもそう…」

「ところで、なんで国崎往人の役は2人に別れたんだ?」
「んー、まあ詳しい経緯はわからんが、いわゆる大人の事情という奴だろう」
「そっかー。じゃあ、大人じゃないみちるにはわからないな」
「いや、初回版発売から起算したら、お前もとっくに大人だろう」
「みちるって大人になるの?」
「…あ~、いや、どうなんだろうな。最後に出てきた方のみちるなら、大人になるんじゃないか?」
「あ゛ー、あのみちるのパチモンね。全く、お父さんもとんだ好き者だよねー。ただでさえ、みちると美凪のお母さんもかなりのロリ系だったって言うのに、別れてまた若い女と再婚して子供こさえるとかさー」
「いや、再婚相手が若い女とかいう描写、どこにも出てきてないから。勝手に脳内補完するなよ」
「…そうです、あまりお父さんの悪口を言わないで下さい」

何でで美凪とみちるなの? いや姉妹は分身みたいなもの、って言いたいのはわかるんだけど。」
「ええ。確かに、姉妹といっても分身という意味ではただの姉妹よりは双子の方がよりインパクトが強いですし、Key作品なら藤林姉妹や二木・三枝姉妹という選択肢もありましたね。」

中央新幹線と東海道新幹線
首都分散

二次創作は分身?

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※30回ぷちSSこんぺ投稿未遂作品?