佳奈多と理樹のヴァレンタイン大作戦観察日誌


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 寮長室は今日も静かです。いつも通り、かなちゃんと理樹君がお仕事をしています。いつもと変わりありません。カレンダーの月が2月になっていて、その14の所に大きく花マルが打ってあって、さらにその上に赤ペンでバッテンが打たれていることを除けば。

 カレンダーの14日にバッテンが打たれているのを見たあーちゃん先輩、もの凄い不満そうな顔でかなちゃんの方を見ます。かなちゃんは黙々と仕事を続けています。

「なんでこんなことするのさー」

「何がですか?」

「2月14日に×打ったりして、どういうつもりよ」

「実在しない日なので」

「実在しない日って、あんたねぇ…。ちょっと直枝君どう思う?」

 そう言ってあーちゃん先輩は困った顔で理樹君の方を見るのでした。理樹君も苦笑いしています。

「ま、まあ佳奈多さんがそんなにいやがる日なら、僕は無しでもいいかな」

「直枝君はかなちゃんに甘いわねえ。何でもいうこときいちゃってさ」

「何でもは聞かないよ。聞きたいことだけ」

「ふぅん…」

 あーちゃん先輩は暫し神妙な顔持ちになって、そして無言で自分の机に向かい、そして引き出しから何かの包みを取り出しました。

「どうやらこの部屋には2月14日は存在しないらしいですから。アタシは2月14日の存在する世界に旅立ってきますわ」

 そう言ってあーちゃん先輩は包みを持ってドアの方に歩き出しました。

「あーちゃん先輩」

 理樹君が呼び止めます。

「ん?」

「恭介なら、化学室でマッド鈴木と何か打ち合わせをするって言ってたよ」

「ありがと。直枝君はほんといい子ねー」

 あーちゃん先輩はかなちゃんに聞かせるかのように大きめの声で言い残し、そして部屋を出て行きました。

 後に残されたかなちゃんと理樹君。黙々と作業を続けています。ふと、理樹君がかなちゃんに問いかけます。

「ほんとうに、この日が無くていいの?」

「何か問題でも? 2月29日だって年によってあったりなかったりするのよ」

「それは太陽暦の問題だし、中抜けはしてないと思うけど」

「今は2月13日39時半ということでいいじゃないの」

 かなちゃんは3時半の時刻を指した壁時計を見ながら言いました。

「あまり裏葉さんや早苗さんに毒されない方がいいと思うよ」

「あなたがそれを言うの?」

「えっと、何の話してたっけ」

「カレンダーの話よ」

「あ、自分で話戻すんだ」

「別に困る話でもないもの。あなたは素直に受け入れてくれたし」

「うん」

 かなちゃんは作業の手を止め、頬杖をついて窓の外を見ながら、話し始めました。

「別に日付そのものを消したいわけじゃないのよ。あのしょうもないイベントさえ無ければ、わざわざ日付を消す必要なんて無い」

「うん、それはわかるよ」

「年に一度のチャンスの日なんだって力説する人もいるけど。でもそれって、自分でチャンスを年一度に限定してしまっていることにはならない? 自分にとって最も有利な条件になる日を自分で選んだ方が合理的と思わない?」

「そうだね。でもみんながみんな佳奈多さんみたいに出来るわけじゃ無いと思うよ」

「わ、私は別に条件選びとかしてないけど?」

「そうなんだ。じゃあそれでいいよ」

「さあ、仕事に戻りましょう。時は金なりよ」

 話を逸らそうとかなちゃんが作業を再開しようとしたとき、窓の外から爆発音が聞こえてきました。かなちゃんも理樹君も思わず窓辺に駆けよって外を確認します。

「化学室の方みたいね」

「そうだね」

「…さっき、化学室に棗先輩がいるってあなた言ってたわね」

「うん、そう聞いてる」

「あーちゃん先輩もそこに向かったのよね」

「多分そうだと思う」

 かなちゃんと理樹君は無言で顔を見合わせました。

 暫くすると、噴煙の中から恭介さんが飛び出す姿が見えました。煙に紛れて逃げ出すつもりのようです。しかし、そのすぐ後から、包みを持ったあーちゃん先輩が追いかけて行きます。裏山の方まで続くその追跡劇を、かなちゃんと理樹君は二人してずっと無言で見守っていました。

「恭介はどうしてあんなにあーちゃん先輩から逃げるんだろう」

「そうね。あーちゃん先輩、あれでもいい人なのに」

「逆にあーちゃん先輩がどうしてそこまで恭介を追い回すのかも疑問だよ」

「棗先輩が逃げられなくなって追い詰めた時の征服感がたまらない、って前に言ってたわよ」

「恭介が逃げたくなる理由が今少しだけわかったよ」

「あら」

 かなちゃんは少し驚いたような表情で理樹君を見ます。

「あなたはそういうの、嫌いなの?」

「えっ!? あっ…」

 理樹君は一瞬驚いた表情をして、そして少し赤くなって動揺しだしました。

「その…僕、逃げた方がいい?」

「逃げたければどうぞお好きに」

「う、うん…」

 そう言って理樹君は、窓際の机を避けるように大回りして、ドアの方向に走り出しました。それを見たかなちゃん、ふっ、と笑うように口元を緩ませて、そして勢いよく右手を机について全身を跳ね上がらせ、その勢いでそのまま理樹君の目の前に降り立ちました。

「逃がさないわよ。部屋から出るなんて許さない」

「そ、そうなんだ。はは、困ったな…」

 そう言って理樹君はまた逃げだし、かなちゃんがそれに立ち塞がるということが暫く続きました。

 そんな事をしているうちに、部屋の外から誰かがドアを開けました。

「かなたさーん! あーちゃん先輩がお仕事サボって恭介さん追い回していると聞いたので代わりにお手伝いに来まし…あっ」

 丁度かなちゃんが理樹君を捕まえて逃げられないように床に組み伏せているところでした。

「かなたさんなにしてるですか?」

「え!? ち、違うのよこれは!」

「何がどう違うのか説明して下さい」

「え、そ、その、2月14日が実在しないのとは無関係よ!」

「そうだよ、あーちゃん先輩が恭介を追い回すのは征服感とかいう話から」

「二人とも何を言ってるのか全くわかりません…」

「とにかく落ち着いて話し合おうよ!」

「そうよ、クドリャフカが思っているようなこととは違うの!」

「やましいことは何も無いと言い切れますか?」

 クーちゃんのその台詞に、かなちゃんも理樹君も一瞬固まってしまいます。返答無し。そう判断してクーちゃんは部屋の外に駆け出していってしまいました。

「うわーん! かなたさんがお仕事サボってリキとやましいことしてますー!」

 泣きながら逃走するクーちゃんを追うことも出来ず、かなちゃんと理樹君はただただ部屋の中で呆然としているのでした。

 

 そんな二人の、2月14日のおはなし。

 

 

 

「はーいみなさん、ヤッテラレマセンネ! こんなときは脳に糖分とポリフェノールを補充して落ち着きましょう!」

「まずはるかがおちつけ」

「鈴ちゃん。チョコレートの原料であるカカオ豆には血流を促進するポリフェノールが含まれていてそれを理由に一部のチョコは特定健康保険食品に指定されているのデスヨ? という事で皆さん、食べましょう!」

「だからってはるちゃん、そんな業務スーパーで買ってきたチョコ山盛りにされても」

「これのどこがトクホだ」

「トクホとか高級チョコとかそんなの別にいいじゃないデスカ! チョコ食べて楽しけりゃそれでいいじゃないデスカ!」

「いや、トクホとか言いだしたのは葉留佳君なんだが…」

「みんな屁理屈好きデスネ。ほら、真人君はもうさっさとチョコ食べまくって楽しんでますヨ?」

「んみゃい」

「あっ。井ノ原さん、鼻血が」

「いやらしいやつだな」

「なっ。そんなんじゃねーよ!」

「ご安心下さい。私も良く鼻血キャラにされますので。…実際には鼻血など出してはいないのですが」

「だから、そんなんじゃねーよ!」

 

 こんなやりとりもまた、一つの青春のひととき。

 


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