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魔剣

第五話


 相沢祐一はへばっていた。机に突っ伏しながら、その原因を思いめぐらせていた。

香里「相沢君、疲れてるみたいね。」

祐一「疲れもするさ・・・」

 彼はこのところ、あの二人に振り回されてばかりであった。あの二人とは、川澄舞と倉田佐祐理である。いわゆる「おもちゃにされる」という表現が適用されるケースかもしれない。先日は、彼はこの二人と商店街に行った。祐一としては、あまり気乗りではなかった。
 

 ゲームセンターの前を、彼は足早に通り過ぎようとした。かつてはよく足を運んだその場所も、今の彼にとっては恐怖の場所となっていた。

祐一「キョーフの味噌汁ってギャグが、昔あったよな・・・」

 祐一がそんな下らないことを考えていると、後ろから巨大な力が彼を引き寄せ、彼の体はゲームセンターの前へと戻された。

「祐一。あれやってこ。」

 舞が指さすもの。それはいわゆる、相性占いとかいわれる類の機械だった。独り者の身には、その存在さえおぞましい機械。そして祐一は独り身ではなかったが、その存在が疎ましかった。
 結果は、「周りの人間が安心する社会的に有益な関係」だった。祐一は元から結果を気にしないことに決めていたので、何の感想も持たなかった。だが、舞は納得しなかった。

「こんな関係ヤダ。もっとアツアツでラブラブでないとヤダ。この機械間違ってる。」

そういいながら、機械をぼこすか殴りだした。機械を壊したら刑事上は器物損壊罪、民事上の損害賠償責任も負う。そう思った祐一は、舞の懐に飛び込んで止めに入った。3発殴られた。

「どうして止めるの・・?祐一、まさか、この結果に満足してるの・・・??」

そこそこ満足していた。

祐一「・・いや。あのさ、機械殴るのって、良くないと思うんだよ、やっぱり。」

「でも、この機械間違ってる。私と祐一の関係バカにしてる。許せない。」

祐一「あ、あのさ。実を言うとさ。俺、さっき質問の答え4カ所間違えちゃったんだよ。言ったら怒られると思って黙ってたんだけどさ。ごめんな。」

「・・・・。」

祐一「だからさ。もう一回やり直そうぜ。な?」

「わかった。もう、祐ちゃんのあ・わ・て・ん・ぼ」

そういって舞は、祐一の額を5回突いた。これだけでも祐一は恥ずかしかった。が、もっと恥ずかしいことが待っていた。
二回目の結果は、「国連安全保障理事会がアメリカ合衆国並びにその同盟国に軍事出動を要請するほどの熱い仲」だった。祐一は何じゃそりゃと思った。だが、舞は満足していた。

「きゃーっ、これこれ、こういう過激な表現でないと、今の二人の仲は言い表せないよねえ?」

祐一「別に過激でなくていい・・」

「え・・・?」

舞の目が潤む。悲しそうな目。今さっきまで信じていたものに、裏切られた悲しみ。私は、祐一と同じ心で同じ思い。そう、信じてきたのに・・・

祐一「ま、まずい・・あ、あのな舞、俺が言いたいのは、決して舞が嫌いとか言う意味じゃなくてだな、その、俺達まだ若いじゃない、そんな過激な愛よりも、じっくりじっくり育むのがいいんじゃないか、そう思ってさ」

「・・・ホントに?」

祐一「本当だ。俺は舞を愛している。」

「わかった。じゃあ、今ここで愛を育もう」

祐一「ああ、育もう・・・って、なにぃ?!」

二人の周りは、嫉妬と期待でいっぱいの視線に囲まれていた・・・・・・
 
 

香里「それって相沢君も悪いんじゃない?」

祐一の独白をじっと聞いていた香里は、言った。

祐一「何で俺が悪いんだよ・・」

香里「だって、愛を育もうって言い出したのは相沢君でしょ。そんな恥ずかしい台詞、普通言わないわよ。」

祐一「だって仕方なかったんだ・・不可抗力だったんだ・・」

香里「そこまで言う必要なかったわよ。」

祐一「な、なんだよ・・その場にいたわけでもないくせに」

香里「ま、確かにあたしは当事者じゃないからね・・・・」

目を逸らしながら香里はそう言い、そして再び視線を祐一に向けた。

祐一「あーあ。何とかならないかなあ・・・・」

その言葉を待っていた。

香里「相沢君。助けて欲しい?」

祐一「ん?ああ、できることならな・・・」

香里「そう。そういうことなら、あた」
北川「オレが協力するぜ!」

いつの間にいたのか、香里の後ろから北川が声を張り上げた。

祐一「そ、そうか?助けてくれるのか」

北川「ああ。何しろ相沢は、オレの数少ない友達なんだからな。」

祐一「ありがとう、さすがは、俺の唯一の男友達だ。」

香里「悲しくなるようなこと言ってるんじゃないわよ」

不機嫌そうな声で、香里は言った。

北川「それじゃあ、終礼後作戦会議だ。とりあえずオレは席に戻るぜ。」

祐一「ああ、よろしく頼むぜ、頼れる親友。」

香里「・・・・・。」

ぼかっ

香里の手が、北川の頭を殴りつけた。

北川「ってえ・・・なにすんだよ!」

香里「別に。ちょっと手が滑っただけ!」

そう言って香里は、自分の席に引き上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

放課後。

祐一「放課後って、一番最後の放課って意味じゃないんだな・・・」

北川「何を言ってるんだ?」

祐一「なんでもない。さあ、作戦会議を始めるか。」

北川「OK。で、オレは何をすればいい?」

祐一「何をって・・・お前から協力すると言い出したんじゃないか、俺の頭には何の案もないぞ。」

北川「なんだと、何て使えないやつだ!」

祐一「・・・・。」

北川「ま、冗談はさておいて。相沢。お前は、どうしたんだ?」

祐一「どうしたいって・・・とにかくあの破壊的な愛の表現は、何とかしたい。」

北川「破壊的か。傍目から見れば羨ましい限りだが。」

祐一「冗談じゃないぜ、マジで助けて欲しいよ・・」

北川「そっかあ・・・」

祐一「何であんなになっちゃったんだ・・昔の舞は、どこへ行ったんだ」

北川「前からあんなんじゃなかったのか?」

祐一「御冗談。昔は、無口なただのおもしろいやつだったぞ。」

北川「何で変わったのか、思い当たる節はないのか?」

祐一「いや、実はあるんだ。」

舞が最近抱えだした剣。

祐一「あの不格好な剣を持ち歩きだしてから、様子がおかしいんだ。」

北川「じゃあ、調べてみればいいじゃないか。」

祐一「調べようとして失敗した。何しろ佐祐理さんもいるからな・・・」

北川「よくわからんが・・・じゃあ、オレがその剣を調べてみると言うことでどうだろう?」

祐一「うーん、でも俺にだって素直に渡そうとしなかったんだぞ。北川にすんなり渡すとは思えないが。」

北川「じゃあ、盗っちまおう。」

祐一「盗るって・・お前、あの舞だぞ。そんなこと出来るのか?」

北川「オレって実は、盗賊属性なんだ。」

祐一「食い逃げするのか。」

北川「何の話だ?」

彼の知らない事実がそこにあった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

翌日。昼。

名雪「祐一っ、一緒にお昼」

祐一「悪い、今日も俺は先約があるんだ。」

名雪「そっかー。じゃあ香里一緒に食べよう。北川君も、一緒に食べていいよ。」

北川「あ、折角だけど、オレ今日用事あるんだ。」

香里「・・・・・。」

名雪「ふーん・・」
 
 
 
 
 

階段の踊り場。いつも3人が集まる場所。舞と、佐祐理と、祐一と。そして今日は、物陰に

祐一「(見つかるなよ、北川)」

北川「(大丈夫だ、オレって実は忍者属性なんだ)」

佐祐理「祐一さん、どうかしたんですか?」

祐一「何でもないさ。さあ、今日も佐祐理さんのおいしいお弁当を頂くとするか。」

北川「(相沢、オレ腹減った)」

祐一「(わかった、あとでココイチの納豆カレー奢ってやる)」

北川「(麻枝准が大好きというあれだな。でもオレその弁当がいい・・・)」

祐一「(馬鹿者、出てくるな!)」

佐祐理「どうしたんですか祐一さん?」

祐一「ははは、なんでもない、ただうるさい虫がいただけだ。さあ舞、口を開けろ。」

「?」

祐一「俺が食べさせてやる。」

「祐一・・・舞、嬉しい。」

佐祐理「きゃーっ、二人ってばラブラブ?」

祐一「ほら、あーん」

「あーん」

祐一「(今だ北川、舞が油断しているその隙に奪い取れ!)」

北川「(了解、あ、手が届かない)」

祐一「(何をまごついておる、ええい、いったん引け、引け!)」

「どうしたの祐一?」

祐一「はははなんでもないよ、敢えて言うならば、舞があんまりかわいいから、何て褒めようかと思案していたってとこかな。」

「祐一・・・」

祐一「舞、もっと食べたくないか?」

「じゃあ、プリプリししゃも・・・」

祐一「かつて偽数の子といわれたあれだな。よし、口移しで食べさせてやる。」

「祐一・・・・私、何て言ったらいいか・・」

佐祐理「きゃーっ、ほんとに口移ししちゃうんですかあ?えっと、カメラカメラ」

北川「(佐祐理さんて、いつもビデオカメラ持ち歩いてるのか?)」

祐一「(らしいな。そんなことは気にせず、剣を奪うのだ!)」

北川「(よしきた、今度はうまくいきそうだ)」

佐祐理「・・・・・・。」

がしっ

北川「な、なんだ、オレの手首を、誰かの温かい手が」

佐祐理「あははーっ、人の物黙って持っていこうなんて、どういうつもりですかあ?」

北川「げ、見つかった!ということは、今オレの手首を掴んでいるのは佐祐理さん・・ああ、オレちょっと幸せ。」

祐一「馬鹿者、小さな幸せに浸ってる場合か!」

北川「そ、そうだった。佐祐理さん、放して欲しくないけど放して、オレ何も悪いことなんか」

佐祐理「なに言ってるんですか。あなたの犯行は、このカメラがバッチリとらえましたよ。レンズは真実を映すんです。」

祐一「最近のデジタル技術は真実をゆがめることも可能だよな。」

佐祐理「はえ?何ですか祐一さん。」

祐一「いや・・・あのさ佐祐理さん、そいつ、放してやってくれない?俺の親友なんだよ。」

佐祐理「ふえ、そうなんですかあ?・・・わかりました」

佐祐理の手が北川から離れた。

北川「よおっしゃあ、剣奪取成功!」

佐祐理「ふ、ふえ?」

祐一「良くやった北川、そのまま逃げろ!」

「・・・・・。」

北川「・・・でも。あのとき佐祐理さんに手首掴まれて。オレ気持ちよかったな・・・」

祐一「な、何を言ってるんだ北川。早く逃げろ。」

北川「・・・相沢はいいよな、いつだって女の子に囲まれて・・・」

祐一「愚痴ってる場合かよ、頼むよ、今は逃げてくれ」

北川「オレだって、もっといろんな女の子と仲良くなりたい・・・」

祐一「わかった、後で適当に見繕って紹介するから、今は逃げてくれよ!」

「・・・・・。」

北川「佐祐理さん。オレと仲良くなってくれませんか?」

佐祐理「ふ、ふえっ?!何言い出すんですかこの人。」

祐一「北川ァ、頼むから逃げてくれえ・・・」

「・・・・・。」

舞がすっと立ち上がる。そして、北川の傍らに立ち、剣に手をかけ、取り戻した。

「もーどりっ♪」

祐一「ああああ・・・・せっかくうまく行きかけてたのに・・・・・」

北川「お、オレ、・・今、何であんな事・・」

佐祐理「えっと、北川さんですか?えっと、ふええ、何て言ったらいいんでしょう」

北川「オレの・・・・オレのバカあぁ!」

北川は立ち上がり、走り出し、階段の途中でこけ、ごろごろと転げ落ち、そして泣きながら走り去った。

佐祐理「な、なんだったんでしょうね、あはは・・・」

祐一「はあ、・・・ごめん佐祐理さん、こんな事になるとは思わなかったんだ。」

佐祐理「あはは、い、いいんですよ、祐一さんの親友なんだから、悪い人じゃないんですよね?」

祐一「ああ。俺の、唯一の男友達だからな。」

「でも。女の子の友達はたくさんいるみたい。」

祐一「え?」

後ろからの気迫の入った声に、祐一は思わず振り向いた。

「北川君に紹介できるくらい、いっぱい女の子の友達がいるのよね・・・?」

祐一「い、いや、でもそれは」

「『いつだって女の子に囲まれて』・・・」

祐一「だからそれはだな」

「・・・浮気しないって言ったのに。」

祐一「浮気じゃないって。ああそうさ、確かに俺には女の子の友達がたくさんいる。だけどな。その全てを愛しているわけじゃない。否、愛している人などいない、たった一人を除いて。その一人とはもちろん、舞、お前のことだ。」

「・・・・。」

祐一「わかってくれるよな?」

「・・・・。」

祐一「舞?!」

舞をなだめるため、必死に愛の言葉を囁き続ける祐一。黙って聞いている舞。いつの間にか立ち直った佐祐理は、その言葉をミニディスクに保存していた。
 
 
 
 
 

北川「うっ、・・うっうっうっ・・・・」

名雪「どうしたのかな北川君。戻ってくるなり机に突っ伏して・・・」

北川「うっうっうっ・・・」

香里「どうやら、うまくいかなかったみたいね・・・」

名雪「なにが?」

香里「別に・・・。さて、やっぱり、あたしじゃないとダメみたいね・・・・」
 
 

魔剣:第五話終了
第六話に続く

2001年3月11日執筆

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