13:再会

「祐一さん・・・。私、祐一さんのこと好きです。」


祐一「どうしたんだ唐突に」

「でも・・だからってこのまま、祐一さんを独り占めにしていいんでしょうか・・・・」


祐一「?何言ってんだ。」

「ドラマチックな展開をいいことに祐一さん自分のものにしちゃって・・・ずるいですよね、私。」


祐一「待て、栞。何を言ってるんだ。わかるように説明してくれ。」

「・・・・・・・。」


祐一「栞・・・・。」

「一度、白紙にしましょう。」


祐一「なんだって?」

「もう一度、最初から祐一さんに挑戦し直しですっ・・・」


 
  .祐一待ってくれ栞、行かないでくれ、おい、俺をおいていかないで・・・・


 
  祐一「・・・・・・・・。」

 暑い。それに、少し息がしにくい。
 どうやら、顔に布がかぶせてあるみたいだ。
 布を取り払い、起きあがってみる。日差しがまぶしい。・・・・寝てる間に、陽が動いちまったのか。布はどうやら、ハンカチらしい。

香里「起きた?」

移動した木陰から、香里の声が聞こえる。

祐一「・・・・俺をこんなところに放り出して、どうするつもりだったんだ?」

香里「失礼ね。まるであたしが相沢君をわざわざ日の当たるところに運んだみたいじゃないの。」

祐一「違うのか?」

香里「なんであたしがそんな事しなきゃならないの。」

祐一「理由はよく知らないが、何らかの陰謀であることは間違いないな。」

香里「日射病予防にハンカチまでかぶせてあげたのに・・・」

ま、そんなところだろうが
ちょっとからかってみるか

祐一「どうだか。」

香里「どうだかって・・・何。」

祐一「布がかぶせてあったところから察するに、おそらく俺を殺そうと・・・」

香里「・・・そんなにあたしと喧嘩したいの?」

・・・笑ってる。いかん、危険信号だ。

祐一「滅相もない。」

香里「そう?ちょっと残念。」

なにが残念なんだ。

祐一「今、何時だ?」

香里「そうねえ・・・・。1時くらいかしら。」

2時間も寝てたのか。

祐一「・・・悪いな。ずっと待っててくれたのか?」

香里「ま、あたしが連れ出したんだからね。」

祐一「起こしてくれても良かったのに。」

香里「うん、でも相沢君の寝言、聞いていたかったから。。。。。」

寝言。
俺。何を言ったんだ?
少なくとも、決して楽しい夢ではなかったが・・・・ 栞と別れたときの・・・ ・・・・・・。 そうか、確か、栞のこと考えながら横になって、そのまま寝ちゃったから・・・
だからあんな思いだしな夢を・・・

祐一「・・・・栞。」

香里「え」

祐一「香里、帰ろう。」

香里「帰ってもすること無いんじゃない?」

祐一「アパートに戻るんじゃない。栞に会いたいんだ。高校も、もう夏休みだろ?」

香里「え?で、でも・・・・」

祐一「何か、不都合でもあるのか?」

香里「せめて、明日にしない?ほら、今から戻ったって、そんなに時間取れないし・・・。」

祐一「それもそうだな。」

香里「明日、ね・・・・・。」

 

翌日。
俺と香里は、電車の中にいた。

香里「相沢君・・・。」

祐一「わんは?」

香里「・・・食事中だったのね。後でいいわ。」

祐一「えふにいあはへもいいほ」

香里「理解不能だから、やっぱり後にするわ。」

しかしこの後、香里は何も言わなかった。

 
 

「祐一さん・・・。」

 見るからに嬉しそうな顔をした栞が立っていた。
 俺を見てこんな嬉しそうな顔をしてくれるなんて・・・
 けれどもその笑顔は、俺の疑念をますます膨れさせるものでもあった。 何故、別れなければいけなかったのか・・・・。
 いや、それを確かめるために、今日こうして会ってるんじゃないか。

香里「じゃ、あたしはこれで退散するわ。」

「お姉ちゃん・・・・」

祐一「あ、待てよ香里。」

立ち去ろうとする香里の腕を、はしと掴む。

祐一「な、悪いけど、今日は一緒につきあってくれないか?」

香里「何言ってるの。邪魔者はさっさと退散するわ。」

祐一「いや、これがデートだったら素直にありがとうと言うところだけどな・・・」

こじれた話(しかも俺には原因が分からない)を元に戻そうというのだ。
こういう時は、誰か仲介役がいた方がいい。

香里「あたしに何をしろって言うの?」

祐一「いや、俺と一対一では、栞も話しづらいかもしれないし・・・」

香里「あたしに、・・・あなたと栞の取り持ち役をやれっていうの?」

祐一「いや、ま、・・・・・正直に言えば、そういうことになるのかな・・・。」

香里「相沢君、あなたって、残酷ね・・・・。」

祐一「え?」

香里「人が残酷な生き物だからこそ、運命はかくも残酷になりうるのね・・・・。」

祐一「ちょ、ちょっと・・・・」

何を言ってるんだ香里。

香里「ごめんなさい。あなたがこんな事言われる筋合いは、無かったわね・・・・。」

そう言い残して香里は歩きだしてしまった。

祐一「・・・機嫌悪いな。」

「・・・祐一さん、冷たいです。お姉ちゃんの気持ちも、もうちょっと察してあげてください。」

祐一「香里の気持ち?」

・・・・なんだ?

「祐一さん・・・・」

栞は、訝しげな顔をしている俺の方をじっと見た後

「ちょっと、まってて下さい。」

そういって、香里の後を追っていった。


 目線の先、メートル法に換算して20mくらいだろうか。
香里と栞が、何か言い合っている。
 近くに行って立ち聞きしてやろうかとも思ったが、ばれたときの言い訳が立たなさそうなので、やめた。
 
 そして、二人とも戻ってくる。

「お待たせしました」

祐一「なにやら二人で密談していたが・・・俺をこれからどうするつもりだ?」

「それは・・・・」

そう言って、香里の方を見る栞。 香里「秘密。」

そう言う香里の顔は、笑顔に戻っていた。
最も、演技かもしれない。いや、何となくそう思っただけだが。

祐一「また秘密かよ。香里の秘密は多すぎるんだよ。」

香里「相沢君もね・・・・。」

祐一「俺が?いや、俺はなんの隠し事もないけど・・・・」

わざとらしく両手をあげてみせる。

「あやしいです。」

祐一「そおかあ?」

ふふっ、と香里が笑った。

祐一「・・・で。どうしようか。俺は栞に話があるんだが・・・・」

「祐一さん。」

栞が俺の言葉を遮る。

「お話は・・・・また今度にしてもらえませんか?」

祐一「・・・・え?」

「今日は、三人でどこか行きましょう。それでいいですよね。」

祐一「駄目。」

「祐一さん・・・・。」

 とたんに、困ったような悲しい顔になる。
俺は、しまったと後悔した。

香里「ね、相沢君。お願い。」

祐一「あ、ああ。そうしよう、それでいい。」

 栞は、ほっとした表情を見せ、すぐに笑顔に戻った。
・・・そうだな、とりあえず会ってくれたんだ。話を聞くのは、この次でもいいか。
そう思うことにした。

祐一「でも、どこかって、どこだ?」

香里「いいんじゃない、適当で?」

 

 本当に香里の言葉通り、適当に時間をつぶしているうちに、夕刻になってしまった。

祐一「送っていくか?」

香里「大丈夫よ。」

「それじゃ祐一さん、また会いましょう。」

祐一「ああ、またな。」

そのまたという言葉が、何故かとても貴重なものに思えた。 祐一「さて、・・・折角だし、今日はもう秋子さんとこに転がり込むか。」

 なんの連絡もしていないが、たぶん大丈夫だろう。
これくらいのことで驚く秋子さんでもないだろうし。何より、腹が減った。 名雪を一晩一人にしちまう事になるけど、子供じゃないんだし、大丈夫だろう。
そう思いながら門の前に立った俺を、
名雪が出迎えてくれた。

名雪「酷いよ、祐一・・・・・。」

祐一「な、名雪・・・・・。」

名雪「黙って行っちゃうなんて。帰るなら帰るって、一言あっても・・・・」

祐一「・・・言ったらついてきただろ。」

名雪「・・・ついて来ちゃいけなかったの?」

祐一「あ、ま、その・・・・・」

 確かにこっちに来ることは昨日の時点でわかっていたのだから、一言ぐらい言っておくべきだったかもしれない。
 栞と会うときだけ、ついてこられなければいいだけだったのだ。
こいつは、こと俺のことに関しては心配性だから・・・ そういう思いがあるから、はっきり言い返してやれない。

名雪「祐一酷い。中入れたげない。」

祐一「名雪・・・・・。」

でも俺は今、腹減ってるんだよ・・・・。

祐一「・・・・イチゴサンデー。」

名雪「二個。」

祐一「・・・わかった、二個。」

名雪「うん♪」

 通せんぼをしていた名雪は、ようやく道をあけてくれた。
こういうのを門賊とでも言うのだろうか。

祐一「ちなみに、生協のだからな。」

名雪「え、百科屋のじゃないの?!」

祐一「何言ってんだ。俺達の現在の主活動領域は大学だろ。だったら、そこで一番手近な生協で済ませるのが常識じゃないか。」

名雪「う〜、そんな話聞いてない!」

 非難する名雪をよそに、俺はとっとと扉の中に入っていった。

名雪「祐一、酷い、やっぱり酷い!」

祐一「ええい、じゃれるな。」

名雪「じゃれてるんじゃないよ、抗議してるんだよ!」

秋子「あらあら、仲良く帰ってきたのね。」

名雪「違うよお母さん。祐一が酷いんだよ。」

秋子「まあ、それは大変ね。」

 ちっとも大変そうに聞こえない。今日ばかりは、秋子さんのこの癖も頼もしく思える。 秋子「祐一さん。」

祐一「あ、おかえり・・・じゃなくて、ただいま、秋子さん。」

秋子「北川さんから、電話がありましたよ?」


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