Campus Kanon
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正門道と裏門道の交差点、大学キャンパスのほぼ中心部に、噴水は位置している。
噴水を中心とした広場は、昼休みの学生の憩いの場所となっていた。

そしてそこには、ハンドマイクを片手にアジ演説を叫ぶ一団の姿があった。

自治会「我々が名指しの批判を裂けているのは、彼女もまた同じ学生であり、我々と意志を共有できると考えるからだ。彼女が悔い改め、全学生に向けて謝罪を行うなら、我々は直ちに批判を止めて良いとすら考えている。しかるに・・・・・」

祐一「よお自治会のみなさん。精が出るねえ。」
自治会「ご声援感謝します。・・・・・あ?」

佐祐理「あははーっ、いつもご苦労様ですねーっ。」
自治会「・・・・・・・・げ。」

「・・・お疲れさま。」
なでなで。

自治会「・・・・・・・・・・・。」

佐祐理「それじゃ、がんばってくださいねーっ。」
 
 
 
 
 

祐一「ふう。やれやれ、だぜ。」

教室に入った俺達は、早速今作戦の成果の検証に入った。

佐祐理「あんなんで、いいんでしょうか?もう少し褒めても良かったんじゃ・・・」

祐一「やりすぎると褒め殺しと受け取られかねないからな。まあ、そうなったところで支障はないけど。」

それ以前に、根本的に褒めたくなど無い連中だ。
にもかかわらず、あんな応援台詞を吐くのは、わけがある。
いや、わけなんて大仰なものじゃないかもしれないが・・・・

「・・・明日もやるの?」
祐一「明日も演説やるとは限らないからな。そのときは、別の行動に移る。
  ・・・佐祐理さん、例の物を」
佐祐理「はい、毎日持ってきます。」


翌日。演説はやっていなかった。

俺達三人は、あらかじめ決めてあったスケジュールどうり行動に移る。

中心街を抜け、大学キャンパスの西端に向かう。その、森と接する地区には、サークル棟がある。
建物の三階部分を占拠する一団。県大統一自治会。

意を決して俺は、二人に行動を促す。

祐一「乗り込むか・・・・・・。」
 
 
 
 

佐祐理「みなさーん、こんにちわーっ。」

自治会1「何のよう・・・・あ。」

祐一「おーっ、広い部屋じゃないかーっ。」
「・・・眺めもいい。」

自治会2「・・・・何しに来たんだ。」

祐一「いやなに、お昼時だからな。飯ここで食おうと思って。」

自治会2「な・・・・!」

「・・・ここ、あいてる。」
佐祐理「じゃ、ゴザ敷きますねーっ。」
祐一「ゴザってのがまた風流だよなあ。」

自治会3「おい待て、こんなところで飯食っていいなんて言ってないぞ。」
祐一「あれ、言ってなかった?どうだっけ佐祐理さん。」
佐祐理「さあ?佐祐理はよく覚えてません。」
「・・・私も覚えてない。」

祐一「・・・ま、いいか。」
自治会3「よくねえよっ!」

祐一「カリカリしてんなあ。腹減ってるんだな。どうだ、一緒にメシでも。」
自治会3「だ、だれがっ・・・・」

祐一「そうか?じゃあ、俺達だけで食ってるから。」
佐祐理「いただきまーすっ」
 


午後の教室。

祐一「佐祐理さん、今日の弁当はうまかったぜ。」
佐祐理「ありがとうございます。」

祐一「全く、こんなうまい弁当食おうとしないなんて。連中どうかしてるぜ。」
「・・・食べられたら減る。」
佐祐理「あはは、そうだよね。舞はこの方がいいよね。」

香里「なあに、お昼ごはん談義?」
祐一「おう、メシ食うに最高の場所を見つけたんだ。」

香里「どこ?」
祐一「自治会室。」

香里「・・・・・・・そう。」

祐一「明日から、香里も一緒にどうだ?」
香里「遠慮しておくわ。」
 
 


その日も、演説はないようだった。

祐一「よぉーっす」
佐祐理「おじゃましまーす」
「・・・ここ、あいてる。」

自治会2「・・おい、また来たぜあいつら。」
自治会3「排除するか?」
自治会1「・・・無視しろ。騒ぎを大きくするのが狙いかもしれん。」

祐一「どうだぁ?今日こそ一緒に食べないか?」

自治会2「・・・・・・・。」

佐祐理「遠慮しなくていいんですよーっ。ほら、たくさん作ってきましたからーっ。」

自治会3「・・・・・・・。」

祐一「もう、みんな遠慮深いなあ。ほら、そこのかわいい彼女、ご一緒しない?」

自治会4「え、え、え?」
自治会1「・・・西谷、無視しろ。」

祐一「そおかあ、西谷さんって言うのか。さあこっちおいで。」
西谷「あ、あの・・・・・」

佐祐理「こんにちは西谷さん。さあ、お好きなのどうぞ。」
西谷「・・・・・・・。」

祐一「ほら、このタコさんシャウエッセンなんかどうだ?これも佐祐理さんが作ったんだぞ。」
西谷「え、そ、そうなんですか。凄いですね・・・」
自治会2「・・・おい。」

祐一「お、なんだ。悪いがこの卵焼きは俺が食うぞ。」
自治会2「お前じゃない。・・・・・西谷。」
西谷「は、はい・・・」

祐一「おい待て、食事中だよ。どこ連れていく気だ?」
自治会2「・・・・・・・。」

祐一「・・はあ、強引な男だなあ。西谷さん、またね。」
西谷「は、はい・・・」
自治会2「無視だ!」
 
 
 
 

こうして、俺達の日課が始まった。

演説の行われている日は、噴水広場に行って声援を送る。
もちろん、彼らとしては非常にやりにくいことだろう。
非難している当の相手が、目の前で笑って自分を応援しているのだから。
心なしか、演説に切れが無くなっているようにも思えた。
 

演説のない日は、もちろん自治会室で昼食会である。

佐祐理「あははーっ、こんにちわーっ。」
祐一「西谷さ〜ん、ご飯食べよぉ」
西谷「あの・・・・」

佐祐理「今日はブリの照り焼き入れてみました。ほら、西谷さん魚好きって言ってたから。」
西谷「あ、ありがとうございます。」

当初は西谷さんを引き込むと連れ戻していた執行部員も、そのうち手出ししなくなった。
俺達に対して完全な無視を決め込む方針らしい。
だが

祐一「なあ。他の人たちもこっち来るよう、説得してみたらどうだ?」
西谷「え?あ、でも私、新入りですから・・・」
佐祐理「一年生ですか?じゃあ、佐祐理達と一緒ですねーっ。」

祐一「一年生でも、舞はいっこ上のおばちゃんだけどな。」
「・・・じゃあ、佐祐理もおばちゃん。」

祐一「・・・・ごめんなさい。」
佐祐理「あははーっ」
西谷「あはは・・・あ、照り焼きおいしいですね。」

祐一「よし、俺もブリ一個もらおう・・・って無いし。」
「・・・ブリおいしい。」

こんな光景が、気にならないはずがない。
執行部の連中の中には、かなりこっちを気にし出す者も出始めた。
 
 
 
 
 
 

自治会1「こういうことなのだよ。困ったことに。」
自治会2「さすがにこう毎日続くとね。執行部員の士気にも、影響が出てくるんだよ。」
自治会3「現に我々は既に、新入りを一人事実上切り捨てるまでになってしまった。」

自治会1「恥ずかしい話だが・・・・。我々は、これに対抗する有効な策を持ち合わせていないのだ。」
自治会2「もはや、君に頼るしかないんだよ。」

自治会1「これまでのいくつかの非礼は、素直に詫びよう。その上で、何とか我々に協力してもらえないかね・・・・?」
 
 
 
 
 
 

祐一「よ、香里。今日はもう帰りか?」
香里「ううん、午後もまだあるわ。」

祐一「そうか。じゃあ、今日こそ一緒に昼食取らないか?」
香里「やっぱり遠慮しておくわ。」
 

作られた日常は、淡々と続いていった。
 

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