Campus Kanon
10(f5)






さらに一週間が過ぎた。

自治会による佐祐理さん攻撃は、静かに広がっていた。
否、連中によるものという証拠は実はないのだが・・・・。

祐一「あれ、お二人さん、今日は車じゃないの?」
「・・・車、壊れた。」

祐一「壊れた?なんで」
佐祐理「ちがいますよ。ちょっと調子悪いだけですから。」

そういって先に行ってしまう。

祐一「なあ、ほんとに壊れたのか?」
「・・・・・壊された。」

祐一「壊された?」
「・・・誰かのいたずらだと思うけど。」

いたずらなものか。


「・・・こんなのが貼ってあった。」
祐一「馬鹿、わざわざ当人に見せたりするなっ!」
佐祐理「いいんです。いずれは佐祐理の目にも触れるものですから。」

卑猥な内容を含む中傷文書。
相変わらず実名公表は避けているものの、解る人には解ってしまう書き方だ。

祐一「なにが目的なんだよ。」

ただ苛立つことしかできない自分に、さらに苛立ちを覚える。

自治会の本拠地に乗り込んで問いただすことも考えたが、それはヤツに止められている。

 新濃「やめとけ。奴らは論争のプロだ。お前が行ったところで、逆に糾弾されるのが落ちだぞ。」

祐一「くそ・・・・・・」

こんな事なら、弁論術の一つも身につけておくんだった。

佐祐理「気にしないで下さい。佐祐理は平気ですから。」

祐一「佐祐理さんが平気でも、俺達が平気じゃないよっ」
香里「そうよね・・・・・。」

そう言いながらも香里の目は、何か別の場所を見ているような感じだった。

祐一「・・香里?」
香里「う、ううん、なにも。」


焦る俺を後目に、佐祐理さんはだんだんこの状況に慣れてきているようだった。

佐祐理「あははーっ、またあんな事言ってますよーっ。バカですねーっ。」

そんなことを言ってやる余裕まで見せている。
これは別に気負いとか言うのではなく、本当に慣れてきてしまっているのだろう。

祐一「ま、佐祐理さんが平気なら、ほっといてもいいか・・・・。」

俺もそんな風に考えるようになっていた。

「・・・でも、車は使えない。」
祐一「それぐらい我慢しろ。それとも、いっそ学校に泊まるか?」

「・・・嫌。」
祐一「じゃあ、電車通学だな。」

「・・・祐一、泊めてくれないの?」
祐一「う〜ん、確かに以前そんなことを言ったが。」

佐祐理「舞、新聞配達は?」
「そうだった。」

「君たち、ちょっといいかな?」

その声に顔を上げると、そこには背広姿の男が立っていた。
背後には、制服を着た男が二名。・・・・警官か?

祐一「・・・なんの用ですか?」

後ろめたいことは何もないのだが、つい警戒心を顕わにした声を出してしまう。

私服警官「刀を持ち歩いている危険人物がいるという通報があってね・・・。ちょっと調べさせてもらうよ。」

私服警官がそう言うと、制服警官二人が舞を挟むように立つ。

「・・・刀は持ってない。」
祐一「そうだぞ、舞が刀持ち歩いてたのは高校生の頃で・・・・。」

つい余計なことを言ってしまう。

私服警官「調べれば解ることだ。」

香里「待って。令状も無しにそんなことが出来るんですか?」

香里が口を挟む。

私服警官「もちろん、あくまで任意の取り調べのつもりだがね。」

香里「それに、ここは学内ですよ。許可無く警察が入ってきてはいけないはずでしょ。」

私服警官「許可は出ている。自治会も同意済みだ。」

自治会・・・・・
その言葉に、一瞬虚をつかれる。

その隙に、制服警官の一人が、舞のポケットをひっくり返した。

ジャラジャラジャラ・・・・

なかから、物がこぼれ落ちる。小銭、シャーペン、クリップ、カッター、ドライバー、ペンチ、コンデンサー、・・・・・

その中の一つを、警官が拾い上げる。

私服警官「・・・これは、何かね。」
「・・・カッター。」

私服警官「刃物だね。」
「・・・・(こくり)」

私服警官「よし、連れてけ。」
祐一「ちょっと待て、どういうことだ!」

私服警官「銃刀法違反だ。」
祐一「カッターナイフぐらいで銃刀法違反かよ!」

私服警官「カッターという物は、普通筆箱などに入れて置くものだろう?ポケットに入れて持ち歩くべきもじゃないね。」
祐一「そんな、カッターをポケットに入れとくくらい、誰だってやってるじゃないかよ!」

そう言って俺は、ポケットからカッターを取り出してみせる。

祐一「ほら、俺だって持ってるぞ!」

私服警官「・・・・・・。」
佐祐理「・・・・・・・。」
香里「・・・・バカ。」

私服警官「・・・仕方ない、君も連行だ。」

祐一「ちょっと、おい!」

抵抗するも、警官二人に腕を掴まれては為す術もない。

香里「ちょっと待って、こんなのが任意の取り調べだなんて、言えないわ。」
私服警官「言い分は署で聞こうか。」

香里「・・・あたしまで連れてく気?」

私服警官「さすがに、そういうわけには行かないようだな。」

そういって、警官は俺と舞を連れて行こうとする。

祐一「はなせぇ!俺は無実だ!」

この騒ぎに、いつの間にか人だかりが出来ている。この群衆が、俺達の無実を一斉に主張して警官を追い払ってくれないだろうか。そんな期待をした。
だが、それは全くの幻想に過ぎなかった。連中の目は、協力も敵対もしない、不干渉の姿勢を示していた。くそ、権力には盲従ってわけかよ・・・・。

舞は、あきらめているのか、何か策でもあるのか、おとなしく警官に従っている。それを見た俺も、おとなしく連れて行かれる覚悟をした。

後ろを振り向くと、佐祐理さんと香里の姿が見える。不安そうな佐祐理さん。そして香里

香里「話が違うわ・・・・。」

そう、聞こえた気がした。
 
 

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