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勇者佳奈多と百万円の壷

 

第六話 青汁ファイター

 
 
 
 佳奈多の携帯に理樹からのメールが届いた。その場にいた全員が佳奈多の周りに集まってきた。
「その着メロ、直枝君ね」
「着うたでは無く着メロですね」
「どんな内容なのですカ、早く見せるのデス」
「…私にもはやプライバシーは無いのかしら」
 そう言いながら佳奈多は携帯を開いた。メールの内容は一文のみだった。
 
<恭介のことは心配しなくても大丈夫だから。>
 
「…」
 一瞬、全員が無言になった。佳奈多はしかめっ面をして携帯を閉じた。そしてすぐにまた開いて、理樹に返信をした。
 
<誰も心配なんかしてないわよ>
 
 送信すると佳奈多はすぐにまた携帯を閉じ、すぐそばの席に座って机に突っ伏してしまった。
「あー…もう!」
 さすがに周りの誰も声をかけられなかった。突っ伏しているうちに、次第に溜まっていた疲労が押し寄せてきて、佳奈多はそのまま寝入ってしまった。
 
 
 
 
 
 佳奈多が目を覚ましたときには、空の色が変わっていた。夕刻か、どれだけ寝たのだろう。起きたばかりで思考がはっきりしない佳奈多は、携帯のランプが点滅していることにはまだ気づかなかった。佳奈多が目覚めたことに気づいた葉留佳が席に近づいてきた。
「お目覚めでしょうか」
「…うん。随分寝てしまったかしら」
「多少。寝ている間に風紀委員の方達が来ましたが、もう帰りました」
「そう」
「私が姉に変装して応対しておきました」
「変装はしなくていいから」
「申し訳ありません、以後気をつけます」
「別にいいわ。なんて?」
「裏山に立てこもっている棗恭介一派ですが、大半は寮に戻ったものの、一部はこのまま棗恭介と共に裏山で夜を明かすつもりのようです」
「自発的に戻ったのかしら」
「そのようです。夜が明けたらまた裏山に向かうのでは無いか、と」
「全滅を避ける為に体力温存か…思った以上に長期戦になりそうね」
「それと、寮に残っている中立派の学生を説得して取り込む動きもあると」
「人数が増えると厄介ね…」
「教職員の間では、彼らが勢いづいて、国会議事堂前でデモを仕掛けるような事態になるのでは無いかと、危惧する声も出ているそうです」
「東京まで歩いて3日かかるのよ? さすがに杞憂じゃ無い?」
「ですが相手は棗恭介です」
「そうね…歩けば済む話だといえば、ついていく者もいるでしょうね…」
「そうなる前に手を打ちたい、と、相談に来たそうですが。寝ていましたので」
「それは悪い事をしたわね」
「顔洗って出直してこい、と言ってやりました」
「うん…そうね、ちょっと顔洗ってくるから、その後でゆっくり話をしましょう」
「その前にいいですか?」
「何?」
「私の口調に違和感を感じないのはまだ寝ぼけているからという認識でよろしいでしょうか」
「ああ。あなたもようやく改心して真面目になってくれたんでしょう?」
「いえ。そういうわけでは」
「助かるわ。ずっとそのままでいてね」
「え? いやアノ」
 佳奈多は顔を洗いに出て行ってしまった。葉留佳は悲しげな顔で後ろの美魚を見た。
「みおちん…」
「私にすがるくらいなら最初からやらないで下さい…」
 
 
 
 
 佳奈多が戻ってくると、さっきまで座っていた席の机の上に、青汁の缶が置かれていた。佳奈多は一瞥して、別の席に着いた。葉留佳が青汁の缶を手に取り、佳奈多にそっと差し出した。佳奈多は嫌そうな顔をした。葉留佳はニコッと笑いかけた。
「どうしたの、そんな難しい顔をして」
「難しい問題が多すぎるからよ。そう、例えば妹の行動とかね」
「根詰めないでお姉ちゃん、ほら、青汁」
 葉留佳は青汁の缶を佳奈多の目の前に差し出した。佳奈多は缶を受け取り、大きく振りかぶって、葉留佳めがけて投げつける体勢を取った。
「美魚ちんバリヤー!」
 葉留佳はそばにいた美魚を引き寄せ、佳奈多との間に割り込ませて盾にした。佳奈多はそっと手を下ろし、缶を美魚に手渡した。缶を受け取った美魚は、そっと振り返ってコツンと缶を葉留佳にぶつけた。
「美魚ちんが裏切った…」
「人を盾にしておいてなにが裏切ったですか…」
「だってこれはそもそも美魚ちんが…」
「私は、真心を持ってお姉さんに接してみてはどうですか、と言っただけですよ…」
「ですから、はるちんが真心を込めて姉に飲ませようといつも持ち歩いている青汁をデスネ」
「青汁が真心なのですか?」
「激務のくせにトマトを食べない姉の美容と健康をおもんばかってのことなのデス」
「トマトと青汁は違うと思いますが…」
「トマト嫌いにいきなりトマトジュースを飲ませようとしても拒絶されるだけですからネ。まずは青汁で野菜に慣れて貰うのデス。さあお姉ちゃん、この青汁を飲みなさイ!」
「嫌よ…やめなさい!」
「やめません。はるちんは今、姉の美容と健康を守る使命感に燃えているのデス。戦士なのデス。そう、言うなれば、青汁ファイターなのデス!」
「あなたは一体誰と戦ってるの!」
「姉に甘い顔を見せてしまう己自身の弱さと!」
 葉留佳は缶のタブを開け、佳奈多の口に青汁を流し込んだ。全てを飲まされて、佳奈多はむせかえった。
「勝った…!」
 葉留佳は満足気に天井を仰ぎ見た。
「あ、そうだクド公。この勝利を機に、はるちんの職業変更して貰えませんカネ。職業バッファオーバーフローとかそろそろ嫌ですヨ」
「何と変更するのですか?」
「それはもちろん、青汁ファイターと」
「戦士は勇者とかぶりませんか?」
 美魚がすかさず指摘した。
「む。じゃあ、ファイターじゃ無ければいいんデスカ?」
「他の人とかぶらなければ」
 葉留佳は美魚、小毬、あーちゃん先輩を順に見渡した。
「…ヒーラーならかぶりませんよネ」
「そうですね、かぶってないですね」
「デハ、新職業名青汁ヒーラーということで!」
「わかりましたです!」
 クドはノートパソコンを取り出し、数回キーボードを叩いた。
 
 葉留佳は 青汁ヒーラー に転職した。
 
「一応データの更新とかあるのねえ」
「ただのテキストファイルですけど」
 葉留佳はニヤつきながら、佳奈多に話しかけた。
「ほらお姉ちゃん、華麗にジョブチェンジしたはるちんを見て下さいヨ。ヒーラー、癒し系ですヨ。妹は癒やしの象徴ですしネ。あなたのささくれだった心、癒してあげましょうカ?」
 佳奈多は何も答えなかった。放心状態だった。代わりに美魚が口を挟んだ。
「ところで…ご存じですか? 沖縄でひーらーというと、何の事か」
「ヒラヤーチーですか? あのお好み焼きみたいな。沖縄行ったとき食べましたヨ」
「そちらではありません。ひらぺったいという意味は共通しているのですが…私が言っているのは虫の方ですね」
「え?」
「高速で地面を這ったり空を飛んだりしますね…」
「そ、それって…」
「ピレスロイド系の殺虫剤では、かけてもひっくり返るだけで一週間ぐらい生きているそうですね」
「ねえ。何でそんなこと言うの?」
「今唐突に思い出したものですから。で、三枝さんの新しい称号、何でしたっけ。青汁ヒーラー、であってましたでしょうか」
「変えたい…ねえクド公、修正したいんだけど」
「もう送っちゃいましたです」
「どこに何を送ったかわからないけど、訂正出来ないの?」
「訂正は出来ぬです」
「…お姉ちゃん、美魚ちんとクド公が…」
 佳奈多は呆然としたままで、何も言わなかった。あーちゃん先輩がおーいと呼びかけても反応が無かったため、再び水道まで連れて行った。
 
 
 
 
 
 
 
「だいぶすっきりしたわ。ありがとう葉留佳」
「イエイエどういたしまして」
「皮肉で言ってるのよ。わからない?」
「まあまあまあ」
 あーちゃん先輩が佳奈多をなだめ、そのまま後の言葉を継いだ。
「今後の方針を決めましょう。今日はもう遅いから、動くのは明日になっちゃうけど」
「直枝さん捕まったままですけど、大丈夫でしょうか」
「恭介さんと一夜を共にすることになるわけですからね。わくわく…失礼、心配ですね」
 佳奈多の顔が少し引きつった。
「さっきの理樹君からのメール、気にしてるの?」
「…そんな事…無いわ」
「おう、そういえば理樹からメール来てたぜ」
 教室の隅で腕立て伏せをしていた真人が口を挟んだ。
「あら、いたの」
「いたよ! ずっといたよ! というかお前らの仲間になっただろオレ!」
「そうだったの…ごめんなさい勝手についてきてるだけだと思ってたわ」
 真人は床に突っ伏してしくしく泣き始めた。
「…とりあえず直枝からのメール見せて貰えないかしら?」
 真人は泣きじゃくりながら携帯を佳奈多に差し出した。佳奈多は真人の携帯を開き、理樹からのメールを探した。一覧にあるのは全部理樹からのメールだった。
「『マグネシウムを使わない豆腐は水ばっかりでタンパク質があまりないから筋トレには役に立たないよ』…何これ?」
「それ一週間前のメール…」
「何の会話してたのよ…一番上のでいいのかしら?」
「うん、それ」
 佳奈多は一覧にある一番上のメールを開いて読んだ。
 
<佳奈多さん怒らせちゃった、どうしよう>
 
「…は?」
 佳奈多は思わず叫んでしまった。佳奈多の声に小毬の方がびくっとなり、美魚とあーちゃん先輩は何事かとメールの中身を覗きに来た。
「…あー。あーあーあー、これか」
「何か知ってるんですかあーちゃん先輩」
「かなちゃん、起きてからまだメール見てないでしょ。寝てる間に何回か鳴ってたのよ」
「え?」
 佳奈多は慌てて携帯を取りだした。理樹からのメールが3通来ていた。
 
<恭介、本当は佳奈多さんが来るの待ってるんだよ。変な展開になっちゃったけど、やっぱり直接対決したいって>
 
<僕も佳奈多さんに早く来て欲しいな。恭介も大事だけど佳奈多さんも大事だから>
 
<気分を害すようなことを言ったのだったらごめん。謝るから早く来て>
 
「…。」
 佳奈多は無言で携帯を見つめていた。
「まあ、かなちゃん寝てたんだし。しょうがないんじゃない? 直枝君もせっかちよね〜」
「内容にも多少問題が…いえ勿論私としてはこういう展開の方が大好きですけど」
 はぁ、と溜息をついた佳奈多は、携帯を閉じたしゃがみ込み、真人に手渡した。
「おう、返してくれるのか…」
「ねぇ。訊きたいんだけど。棗恭介は一体何を考えているのかしら?」
「何って…オレは恭介じゃねえからわからねえよ」
「あなたはどう思うの? 意見を聞きたいの」
「ナンデスカ! この、最愛の妹にして頭脳明晰なはるちんを差し置いて、そこの筋肉バカに助言を求めるナンテ!」
 憤慨する葉留佳に、佳奈多は振り返って言った。
「この中で棗恭介と一番つきあいが長いのが彼だからよ。いちいち嫉妬しないで」
「嫉妬! 嫉妬だなんて、そんな嫉妬だなんて…」
 葉留佳が口ごもっている間に、佳奈多は真人の方に向き直って、言葉を続けた。
「裏山にあれだけの生徒を集めて、彼は一体何がしたのかしら? 感でいいのよ」
「何がしたいのかはわからねえ…ただ、成り行きでああなっただけで、最初からこういう展開を望んでいたんじゃねえはずだ」
「そう。じゃあ、何かきっかけがあれば、自発的に生徒達を解散させてくれるのかしら?」
「それも無いな。一旦面白い展開になった以上、奴はとことん遊び倒すはずだ」
「終幕を演出するしか無い、と」
 後ろで聞いていた美魚が口を挟んだ。
「終幕、か…」
「真っ正面から妨害する恭介派の生徒達をなぎ倒してその勢いで恭介さん…大魔王棗恭介も倒すか、前回のように奇襲をかけるか。このどちらかだと思います」
「前回のあれは意図した奇襲では無かったけど…」
 佳奈多は改めて、その場にいる全員を見渡した。
「この人数で真っ正面から当たるのは無謀すぎるわね」
「風紀委員を加えても、向こうは寮で待機してる援軍を呼ぶだけでしょうしねえ」
「明日の朝、奇襲をかける方向で行きましょう。葉留佳とクドリャフカは、秘密基地…ええと、魔宮? そこまでのルート選定をお願い。神北さんと西園さんは、一度寮に戻って、明日午前中だけでも裏山には戻らないよう説得して。あーちゃん先輩は、私と一緒に来て下さい。話を付けておきたい人がいるので」
「オレは?」
「ごめんなさいまた忘れてたわ。ええと…とりあえず思いつかないから、一緒に来て」
 そう言って佳奈多は踵を返し、教室を出て行った。あーちゃん先輩と真人は慌ててついていった。
「どこへ行くのよ?」
「放送室です」
「放送室ねえ。ええと誰がいるんだっけ?」
「来ヶ谷さ…いえ、東の魔王です」
 あーちゃん先輩は満足気ににゅふふ〜と笑った。佳奈多は少し悔しそうだった。
 
 
 
 
 放送室の前に立った佳奈多は、一呼吸置いてから軽く扉を叩いた。
「入りたまえ」
 中からの声を確認して、佳奈多は扉を開いた。
「失礼します」
「うむ。失礼だと思うのなら帰れ」
 帰ろうとする真人の襟首を掴みながら、佳奈多は言葉を続けた。
「お願いがあって来ました」
「ほう…まあ、まずは聞こうか」
「明日の朝、大魔王棗恭介に奇襲をかけます」
「お友達になってください、とか、そういうのでは無いのか」
「いいえ。そういうのでは全くありません」
「受け取りようによっては傷つくぞそれは…」
「来ヶ谷さん…東の魔王には、待機していて貰いたいのです」
「君の冷静沈着ぶりは本当に容赦が無いな…何、待機!?」
「はい。ここでも風紀委員会室でも、どこでもかまいません。待機していて下さい」
「何もしなくていいということか?」
「何事も無く私達の行動がうまく行けば、何もしなくてかまいません。但し失敗したときには、来ヶ谷さんには、後を引き継いで貰う。その役割をお願いします」
「そんなにリスクの高い行動を取るのか。だったら私も加えて成功率を高めた方が良いのでは無いか?」
「それも考えました。ですが、それでは失敗したときに総崩れになって、目も当てられない惨状になりますので。後を任せられる人に残って貰いたいんです」
「君は慎重なのか大胆なのか…よくわからないな」
「最悪と最高、常にどちらの想定外もありうるということを前提に動いていますから」
「そうか…」
 唯湖は暫く黙って、じっと考え込んでいた。そして意を決したかのように頷いた。
「わかった。後ろは私に守られていると思って、存分にやりたまえ」
「ありがとうございます」
「なんだ、強がりの一つでも言うかと思ったら、随分素直では無いか」
「あ、あなたの事は頼もしく思ってますから…」
「む。そんな風にうつむかれるとこっちまで照れるな…」
 照れ隠しに顔をそむけた唯湖は、窓の外から見える景色を見て、思い出したように言った。
「奇襲と言ったが、裏山をどう進むかとか、そういう経路は決めてあるのか?」
「いえ。今葉留佳とクドリャフカに検討して貰っています」
「そうか…」
 唯湖は顎の手を当てて、暫し考え込んだ。
「謙吾少年は、私と同じ待機組か?」
「いいえ。どこにいるのかもわかりませんし、そもそも私達に味方してくれるのかすら」
「ふむ…。味方にするかはさておき、謙吾少年はどう動いたのか。その答えは見つけておいた方がいい」
「そうですか。助言ありがとうございます、しかしどこにいるのかもよくわからないですし」
「今窓の外歩いて行ったわよ」
「えっ」
「井ノ原君!」
「ほい来た!」
 あーちゃん先輩の声に押され、真人は部屋を飛び出していった。佳奈多も後に続こうとしたところで、唯湖に呼び止められた。
「一つ頼みがあるんだ」
「何でしょうか?」
「もしうまく行って、恭介氏を捕まえたら、私にも見せて欲しい」
「はあ…別に捕まえると決まったわけではないのですけど」
「なにっ。捕まえて裸に剥いて鎖で繋がれた恭介氏を見たくてみんな頑張ってるんじゃ無いのかっ」
 あーちゃん先輩ががっしりと唯湖の手をつかんだ。
「あなた、わかってるわね!」
「…行きますよあーちゃん先輩」
 
 
 
 
 佳奈多とあーちゃん先輩が真人を見つけて歩み寄ると、その視線の先には竹刀の上でコマを回す謙吾の姿があった。真人が何も言わずじっとそれを見続けているため、佳奈多とあーちゃん先輩も無言でそれを見続けた。謙吾も黙々とコマを回し続け、暫し宙に舞わせたりしていた。
 やがて沈黙に耐えられなくなった佳奈多が口を開いた。
「…何をしているの?」
「謙吾がどう動くのかを見ている」
 真人が答えた。
「動くって。いや、あの、そういう意味では無いと思うんだけど」
「そうなのか。奇抜な事してるから、てっきりあれが来ヶ谷の言う謙吾の動きなのかと」
「確かに、何してるのかしらねえ。おーい」
 あーちゃん先輩が声をかけると、謙吾はコマを回していた手を止めた。そして両手に竹刀とコマを持って、歩み寄ってきた。
「何か用ですか」
「用というか、何してるのかなあと思って」
「見ての通り、コマの練習ですよ」
「何のために?」
 謙吾は質問には直接答えず、真人をライバル心むき出しで睨みつけて、言った。
「貴様には負けん」
「は? 意味がわかんねえ…」
 謙吾と真人は暫し睨み合った。暫く間を置いて、佳奈多が謙吾に問いかけた。
「宮沢に訊きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
「あなた、棗恭介から招集されて、暫く裏山にいたわよね」
「──何故そう思う」
「棗恭介の様子を知っているからよ」
「俺達は幼なじみだ。察しくらいつく」
「そう。でも同じ幼なじみの見解は違ったわ」
 謙吾は真人を睨みつけた。
「んだよ」
 睨み合う二人をよそに、佳奈多は続けた。
「直枝からメールがあったの。心配しなくていいって。ただ遊びほうけているだけなら、そもそも心配の余地なんて無い。──けど宮沢が言ったような状況なら、直枝がそう言いたくなるのも、わかるわ」
「理樹の名前を出されてはかなわないな」
 謙吾は観念したように手に持っていた竹刀を地面に盾、それに体重を預けた。
「それで? 質問はこれで終わりでは無いだろう」
「どうやって裏山から下りてきたの?」
「この二本の足でだ」
「そりゃそうでしょうね」
「風紀委員会の予算で簡易モノレールでも付けてくれていたなら、話は違ったが」
「二木の姉御、口車に乗っちゃぁいけません。こいつはただ、モノレールに乗ってヒャッホウと遊びたいだけですぜ」
「言われなくてもそんなもの付ける気は無いわ…私が訊きたいのは、どの道を通ってきたのかということよ」
「普通の道を通って降りてきたのでは無い、と?」
「通り道は棗派の学生がいるし、出口は風紀委員が固めているわ。棗恭介の側近が山を下りたとなれば、多少は騒ぎになるはずよ」
「そこまで訊くからには、察しはついているのだろう。俺達しか知らない抜け道がある」
「その抜け道、教えて貰えるかしら?」
「そうだな…教えたら何をくれる?」
「二木の姉御、口車に乗っちゃぁいけません。こいつはただ、モノレールに乗ってヒャッホウと遊びたいだけですぜ」
「…お前が遊びたいんじゃないのか?」
「順番くらい守ってやるから安心しろ」
「話を戻していいかしら?」
「む。何の話だった?」
「宮沢が私達を棗恭介の所まで案内するという話よ」
「そんな話だったか? いや、まあいいか。すぐに出発するのか?」
「いいえ。明日の朝。今葉留佳とクドリャフカがルート検討をしているから、付き合わせて問題無いことを確認して、今夜はそれで休息にするわ」
「そうか。…待て、俺にあの二人と打ち合わせをしろと」
「ええ。今呼んだから」
 佳奈多はメール送信済みの携帯を謙吾に見せた。
「二木の前で言うのも何だが…俺あの二人苦手なんだ…」
「別に3人だけにはしないから安心なさい。食堂で待ち合わせにしたから、行くわよ」
 佳奈多は先に立って歩き出した。すぐ後にあーちゃん先輩がついてきた。
「かなちゃん、宮沢君にも容赦ないのねえ」
「隙を見せれば呑まれますので」
「そんな警戒しなくても」
「呑まれたくないんです。私は。誰にも」
 佳奈多は歩きながら振り返り、あーちゃん先輩を見ながら言った。
「あなたにも」
「あらま」
 佳奈多は早足で歩き始めた。あーちゃん先輩も、他の者達も、後についていった。もう日が暮れ始めていた。
 
 
 
 
 
 次回
 
 謙吾の手引きで大魔宮に辿り着いた勇者佳奈多一行。大魔王棗恭介との精神戦の果てに待ち受けていたのは、佳奈多が予想だにしなかった過酷な結末だった。
 次回 勇者佳奈多と百万円の壺、第七話「第二次魔宮作戦」
 
 
 
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