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勇者佳奈多と百万円の壷

 

第二話 仲間の条件

 
 
 
 
 
「では早速、残りの仲間を探しに行きましょう」
 手続きを終えて外に出た佳奈多と美魚は、歩きながら残り2人の仲間を集める相談を始めた。
「早速アドバイスさせていただきますと…二木さん自身既に十分な能力をお持ちですし、際だったスキルが無くても、二木さんを補佐できるだけの力があれば十分かと思います。ですのでこういう場合、元から気心の知れた友人に頼むのが一番よいのですが…」
 美魚は一呼吸置いて佳奈多の顔を見てから、また続けた。
「そのような方はどなたか」
「いないわ」
「そんな即答されても」
「だっていないものはいないんだもの。他にどう答えろと?」
「確かにそれはそうですが…」
「西園さんの知り合いで誰かいい人いないのかしら?」
「私もそんなに交友関係が広い方では無いので、人選は限られますが…」
 美魚は暫し考えて、そして言った。
「やはりこういう場合、魔法使いが仲間にいた方がいいですよね」
「魔法使い…」
「二木さんは今、30歳になった恭介さんを想像しましたね」
「…そんなにわかりやすかったかしら」
「私も同じことを考えたので」
 二人はしばし無言になった。
「まあ、それはこの際どうでもいいとして」
 気まずいものに触れるのを避けるかのように、佳奈多が話の方向性を変えた。
「誰か魔法使いに適任な人がいるのかしら?」
 普段の佳奈多なら決して口にしないようなファンタジーな台詞だった。
「実力のほどはいかほどかしれませんが、どう考えても魔法使いとしかいいようがない人に一人心当たりがあります」
「そう。じゃあ、紹介してもらえるかしら」
 
 
 
「この人です」
「ふええ」
「…」
 佳奈多は小毬を紹介されていた。
「あの…確認していいかしら?」
「はい」
 佳奈多は美魚を少し離れたときに引っ張ってゆき、問い詰め始めた。
「魔法使いなのよね?」
「はい」
「その魔法使いというのは、もしかして、夢の世界を操るとか、パーソナルリアリティとか、そっち系の意味での魔法使いなのかしら?」
「そっちというのがどっちなのかよくわからないのですが…」
「だから、最近だと眼帯つけて傘振り回したり…」
「何の話でしょう。古式さんと私をごっちゃにしてませんか? それは確かに、無印発売直後は時々混同されましたけど…」
「ううん、もういいわ…いえね、私は、神北さんが自分で自分のこと魔法使いと名乗っちゃってるイタい子なんじゃないかということを訊きたかっただけで…」
「ふええ。私、イタい子だったんだ…」
 いつの間にか後ろで聞いていた小毬が落ち込んだ。
「私、二木さんにそんなふうに思われてたのかぁ。ショックだなあ。そりゃあ私だって空からお菓子が降ってきたらいいなあとか妄想することはあるけど、それくらいは許されると思ってたんだけどなあ。それに、二木さんだって魔法のバトンで変身して大きなお兄さんをしばき倒す魔法少女とかやってたって聞いたのに…」
「…何の話かわからないわ」
「ええ、何の話かわかりませんね。うふふ」
 美魚は妙にうれしそうだった。
「なによ」
「何でもないと言っているではありませんか…うふふ」
「だったらそうやってニヤつくのはやめて」
「そうだよ美魚ちゃん。人には誰だって触れてほしくないことがあるんだから。どうして二木さんがそっち系のことにやけに詳しいのかとか、そういうことをいちいち詮索したりしてはいけないのです」
「な…あなた、一体何を言って!」
「ほえ!? は、わわ、ごめんねえ、今のは私、悪気があって言ったんじゃないんだよお?」
「悪気がない方が対処がしづらいとはよく言うけど…」
「うん、ごめんね私うっかりさんだから。空から紅茶が降ってきてもよけられないし」
「…。」
「二木さん、どうかしたのですか?」
「え、えっと、え? 何だったかしら」
「何か心にやましいものを抱えている顔をしていますが?」
「みおちゃん。さっきも言ったけど、人には誰だって触れてほしくないことがあるんだかよ。だからそういうの、いちいち気にしてはいけないのです。寮長室から紅茶をぶちまけたのが誰かとか、知らないことにしておいた方が幸せなのです」
「…あの、神北さん、もしかして、あなたに紅茶かけたのが私だって知って…」
「ふええ! 私に紅茶かけたの、二木さんだったの!?」
「…くっ」
 佳奈多は口の奥で歯ぎしりしていた。お世辞にも完璧でない自分、でも完璧で無ければならない自分、そして完璧とはほど遠い事をしでかしてしまった自分。佳奈多は当時の事を思い出し、苦いものが口の奥からこみ上げてくるような感覚に耐えていた。しかし目を閉じて数秒考え、意地を張ったりごまかしたりしないことがあらゆる点において最善の行動であると判断し、自分の中にある全ての感情に言い聞かせて、小毬に頭を下げた。
「そうです。私が紅茶をかけました。ごめんなさい」
「わわわ、私別にそんなことしてほしかったわけじゃ…ああ、こうなるから黙ってたのになあ」
「全然黙ってませんでしたが…」
「ほえ? わ、わ、わ、私、何か言っちゃってた? うん、言っちゃったから指摘されてるんだよね…。ああ、こういうのが口に出ちゃうなんて、私って実はいやな子なのかなあ…」
 そう言って小毬は、佳奈多の両手をとり、言った。
「二木さん、顔を上げて」
「神北さん…」
「今、私もいやな子だということが判明しました。だから。二木さんがいやな子でも、それをいちいち気にする必要は無いのです。むしろいやな子同士、これからは仲良くしましょう」
「二木さんがいやな子というのはすでに確定なんですね…」
「そそそそんなことないですよー。私はただ二木さんと仲良くしたいというだけで、他意は無いんですよ」
「…ええ、気にしてないわ。自分でもそう思ってるし」
「そうだ、仲良しの印に、名前で呼びましょう。二木佳奈多だから…かなちゃんと呼んでいいですか?」
「かなちゃんって呼ばないで!!!」
 佳奈多の怒声に小毬はたじろいだ。
「ふええ、なんかすっごい怒られたよぉ…」
「逆鱗に触れてしまったようですね…」
「やっぱり私、何かしでかしたのかなあ? だからあのときも紅茶が空から…」
「ち、違うのよ。そもそも私が紅茶を窓から捨ててしまったのは…」
 そこで佳奈多は、当時の状況を思い出した。直枝理樹に私はかなちゃんじゃないと言い張っていた、あの恥ずかしい状況を。
「…やっぱりその呼び方が原因だったわ」
「ふええ!? そうなんだ…。そっか、じゃあ私マイカップいつも持参してるわけじゃ無いからあんまり紅茶に降ってきて欲しくないし、出来るだけかなちゃんとは呼ばないようにするね」
「マイカップ持参してるなら降ってきてもいいんですか…」
 マイカップという単語に佳奈多はまた反応しそうになったが、そこはさすがに耐えた。
 
 
 
 3人とも気分を落ち着かせるために、自販機前に移動した。美魚がわざとらしく紅茶を買ったことに佳奈多も小毬も苦笑しつつ、それぞれに買った飲み物を飲みながら一息付けていた。
「それでええと、魔法使いでしたっけ?」
「西園さんが言うには、あなたは魔法使いに適任だと。…ええと、いきなりこう言っても意味不明ね。大魔王恭介を討伐する仕事というのがあって、それを私が引き受けたんだけどあと3人仲間が必要なの。で、1人は西園さんになったのだけど、あと2人必要だから、神北さんにやって貰えないかと」
「ふええ。つまり、恭介さん倒しちゃうんだあ」
「まあそういう事になるわね」
「恭介さん何か悪い事したの?」
「直枝理樹を連れ去ったわ」
「ほえ? 理樹君連れ去られちゃったの?」
「ええ」
「それが許せないと」
「まあ、そうね」
「それはつまり、嫉妬ですか? ジェラスィー、ですか?」
「違うわ」
「ほえ? 違うの?」
「社会正義の観点からそういう行為が許せないだけよ。後はお金の為」
「恭介君が理樹君を連れ去るのは社会正義に反すると」
「そうよ」
「二人は幼なじみですよ?」
「幼なじみでもよ。そういうの…良くないわ」
「良くないのですか?」
「良くないのです」
「うーん…。ホントに嫉妬じゃないの?」
「嫉妬じゃないわ」
「そうなのかなあ…」
 考え込む小毬。それを横で見ていた美魚が小毬の肩をちょんちょんと叩き、そっと耳打ちした。
「…そういうことにしておいてあげて下さい」
「ああ! そういうことかあ。うん、わかったそういうことにしておくね」
 納得した小毬は、表情を取り繕ってから佳奈多に質問した。
「恭介さんを倒したらどうするんですか?」
「そうねえ…どうしたらいいかしら?」
「それはもう。4の倍数で切り刻んで二度と日の当たらない場所に封印、とかではないですか?」
「え? 何もそこまでするつもりは無いんだけど」
「何故です? 相手は直枝さんを連れ去ったにっくき大魔王ですよ?」
「だからってそこまでするつもりはないわ」
「私の理樹君に手を出さなければそれでいい、と」
「そうじゃないって言ってるでしょっ!」
「ふえ。そうでした」
「そうよ。私はただ、男の子を連れ去っていかがわしいことをするのは良くないって言いたいだけ。別に、恋敵だとか、直枝を助けて恩を売りたいとか、そんなのじゃ無い」
「誰もそんなこと訊いてませんけど…」
 佳奈多はしまったという表情をした。だが美魚がそれ以上何も言わないので、佳奈多も黙っていた。間にいた小毬はうんうんとうなずいていた。
「まあ、だいたいの話はわかりました。要するにこれは、人助けですね。うん、人助けなら協力しないわけにはいきませんねえ。むしろ協力させてくださいっ」
「…あ、うん。ありがとう」
 こうして、小毬が仲間に加わった。
 
 
 
 
「残るは一人ね…。仲間を増やしたらクドリャフカの所に登録しに行かないといけないのだけど…全員集めてからの方がいいかしら?」
「神北さんが能美さんと話し込みそうですし、時間を無駄にしたくないならまとめて登録しに行った方が良いかと」
「うわーん。私、時間泥棒みたいな扱いされたー」
 泣き声の小毬をよそに、佳奈多は美魚と話を進めていた。
「ま、確かにあと一人だし、いちいち戻るよりは次を探した方が良さそうね」
「二木さんに友達がいれば探す必要も無いのですけど」
「…それはもう言わないで」
「四葉さんは友達では無いのですか?」
「残念ながら。決して仲が良かったわけではないし。それにあの子、最近生物部に入ったとかで忙しそうだし。なんか昆虫採取とか言って、憑きものが取れたみたいに網持って校内を走り回ってるわよ」
「それは違う方向で心配ですが…まあ今は置いておきましょうか」
「そうね。今は目の前の課題を片付けないと」
 ふう、と佳奈多は息をついた。
「で、次は誰がいいかしら?」
「そうですね。妥当なところでは力のある人か賢者、と言ったところですが」
「賢者なら美魚ちゃんじゃないかな。いっつ、くぅればー!」
 立ち直った小毬が話に割り込んできた。
「私はくぅればーではありません、アドベンチャーコンサルタントです」
「ふええ?」
「私はくぅればーではありません、アドベンチャーコンサルタントです」
「そ、そうなんだ、職業選択の自由は日本国憲法で認められた権利だもんね」
「そうです、日本国憲法は世界で最も自由主義な憲法なのです。日本国憲法がある限り共産主義は実現し得ないのです。ですが近年日本共産党が日本国憲法護持を掲げる一方で新自由主義を標榜する諸政党は憲法改正を声高に叫んでいます。この状況は、歪みが生じているのは日本国憲法などでは無くむしろ日本社会そのものであるということを示しているのであり」
「…美魚ちゃん。今ここにいるの私と二木さんだからいいけど…そうやってすぐ演説とか物語り始める癖直した方がいいよ」
「そ、そうですね。これは失礼しました」
「で。あと一人は誰がいいのかしら?」
 佳奈多は何事も無かったかのように話を戻した。
「賢者か力のある人、だったよね。だったら、その両方を合わせてけん 力 しゃ! なんてどーでしょう?」
「…」
 美魚は何も言わず、ジト目で小毬を見ながらつまらないアピールをしていた。佳奈多は顎に手を当てて目を閉じ、何かを考えているようだった。仕草は違うが二人とも何も言葉を返さないため、小毬はしばらくそのままでいたが、しばらくしてまた言った。
「けん 力 しゃ!」
「何度も言わなくてもわかります」
「わかってるなら何か言ってよ…はずしたかと思っちゃうじゃない」
「いや、はずしてるんですけど…」
「…権力者なら心当たりがあるんだけど」
 考え込んでいた佳奈多が口を開いた。小毬の顔が明るくなり、美魚はぎょっとした表情をした。
「二木さん…ここは神北さんに付き合う必要は無いところですよ?」
「そうかしら? 有用な意見だと思うけど」
「すみません、今私の中の常識が激しく揺らぎました…」
「私の知り合いの方がいい、と言ったのはあなたじゃないの」
「確かにそうは言いましたが…」
「なら問題なしね」
「しかし権力者って…どんな権力者か知りませんが、そんな人を仲間にしようとあなたは?」
「そうよ。何しろ大魔王を倒すんでしょう? だったらむしろそれくらいの覚悟は持っておくべきじゃない?」
「はぁ…。すみません私こう見えても小市民なので…」
「それに権力と言っても様々だし。私が知ってる人は、まあそんな大した権力持ってるわけでもないんだけど。棗恭介…大魔王恭介に対抗するんだったらむしろうってつけの人材だと思うわ」
「はあ。そういう事でしたら」
「とりあえず話をつけに行きましょうか」
「行きましょう。れっつごー!」
 佳奈多と美魚と小毬は、4人目の仲間を見つけるために自販機前を旅立った。
 
 
 
 
「4人目という事は、フォースチルドレンですね」
 寮長室の前で、美魚が突然そんな事を言い出した。
「…誰を誘おうとしてるかわかった途端、急に軽口叩くようになったわね」
「権力者と聞いたら普通は怯えるじゃないですか…部活の顧問レベルでも結構怖いものですよ」
「体罰なくならないしね」
 そう言って佳奈多は、寮長室の扉を開けた。中では男女二人の寮長が机に向かって執務を行っていた。そのうちの女子の方が入ってきた集団に目をやり、佳奈多を見つけて言った。
「あら、かなちゃん。ようやく寮長引き受けてくれる気になった?」
 その場の空気が凍り付いた。特に小毬は、驚愕の色を隠せない目と口の開きようであり、そして慌てふためいて女子寮長の元に駆け寄った。
「だだだだ駄目ですよ、二木さんの事そう呼ぶと、それはもうすんごい怒るんですよ! 怒られるのです!」
「うん。知ってる」
「だからその…謝っておいた方がいいと思うのです、たとえ上級生でも」
「でも普段からそう呼んでるし…かなちゃんて」
 小毬の表情が、尊敬の念を含んだ驚愕に変わった。
「ほええ。権力者ってすごい…!」
「ん? 権力者?」
 女子寮長が、何言ったのよと言わんばかりに佳奈多の方を見ます。
「はい。あーちゃん先輩は権力者という事で、それを前提にお願いに来ました」
「アタシが権力者?」
「ええ。寮会と言えばこの学校では生徒会と並び立つ権力機関ですし、その長である寮長は権力者と言って差し支えないと思いますけど?」
「ああ、うん、まあ。それはそうよね」
「その実力を見込んで、お願いがあります」
「なあに、権力争いとかそういう話? だったらやーよ、なんかつまんなそう。アタシ忙しいし」
「大魔王棗恭介が反乱を起こしました」
「なにそれ何の話すごい面白そう詳しく聞かせて!」
「…こっちがひいてしまうくらいの凄まじい食いつきっぷりですね」
「あ、あらアタシとした事が…。ええと、詳しく聞かせてくれる? ええ勿論、寮の治安を預かる責任者として事情を把握しておく必要がある話だと判断したからよ。で、なになに?」
 佳奈多ははぁと小さく溜息をつき、そして続けた。
「大魔王棗恭介が直枝理樹をさらって自分の館に連れ込んだため、それを討伐する任務のの求人が出ました。私が引き受けましたが、全部で4人の仲間が必要との事なので探しています。西園さんと神北さんが仲間になってくれたので、あと一人なんです」
「へー」
「何にやついてるんですか」
「かなちゃん引き受けたんだあ、って思って」
「いけませんか?」
「ううん、全然。で、なんだっけ? あと一人必要だから、それをアタシに頼みたい、と」
「はい」
「そして棗君を倒しちゃおうと」
「まあ、そういうことになりますね」
「そうかあ。棗君を押し倒しちゃうのかあ」
「そんな事は言ってません」
「あらそう?」
「言ってません」
「聞き間違いかなあ。ああ、そうか、棗君の部分が間違ってるのね。直枝君を押し倒すの間違いだと」
「どうしてそうなるんですか」
「じゃあ誰を押し倒すのよ」
「押し倒すから離れて下さい」
「押し倒すんじゃなく普通にいちゃいちゃちゅっちゅすると?」
「意味がわかりません」
「だって勇者がお姫様を助け出すのって、そういうのが目的な事が多くない?」
「私はそういう目的ではありません」
「でも直枝君を助け出して、恩を売って、そのまま仲良くなっていちゃいちゃしたいんじゃないの?」
「そんな姑息な事考えてません」
「じゃあ姑息でなく正々堂々と直枝君と仲良くなっていちゃいちゃしたいと」
「いちゃいちゃしたいなんて言ってないじゃないですか」
「いちゃいちゃすっ飛ばしていきなり押し倒したいと」
「すっ飛ばすなんて言ってません」
「すっ飛ばさずに押し倒したいと」
「どうしてさっきから押し倒す方向に持って行くんですか」
「え? だってかなちゃんが直枝君を押し倒すのって仕様でしょ?」
「かなちゃんって呼ばないでください!!!」
「ほら! 怒られちゃいましたよ!」
 小毬が佳奈多とあーちゃん先輩の会話に割って入ってあーちゃん先輩を黙らせ、美魚は佳奈多をどぉどぉとか言いながらなだめていた。
「これくらいいつもの事なんだけどねえ」
「…わかっていますが、このままでは肝心な話が進まないので…」
「そぉお? じゃあ、その肝心な話をさっさと進めて貰おうかしら」
 佳奈多は深呼吸をし、息を整えてから言い直した。
「大魔王棗恭介が反乱を起こしました」
「うん、それは聞いた。」
「さっさと大魔王を倒して直枝理樹を助け出したいので手伝って下さい」
「なるほどねえ。で、なんでかなちゃんは直枝君を助けたいの?」
「かなちゃんじゃないです。…助けたいのは、その…お金のためです」
「またまたぁ。かなちゃんがお金のために動くとか」
「これは本当です。校長室の前に大きな壺があったじゃないですか。あれをその…割ってしまって」
「あらま」
「弁償しないといけないので困っていたところに、挨拶労働部…そういう部活が出来たみたいです、そこに大魔王棗恭介から直枝理樹を助け出す、という依頼があって。時給が良かったので」
「ああ。そういうことねえ…」
 あーちゃん先輩は傍らにいる美魚と小毬を見ながら、納得したかのようにうんうんと頷いていた。
「ま、そういう事ならむしろ協力しないわけにはいかないわね」
「いいんですか?」
「いいんですかと言われちゃうと、じゃあ報酬を、と要求したくなるわね」
「メンバー全員時給2千円出ます」
「そういう報酬じゃなくて…例えば、倒した大魔王はアタシの好きにしていいとか」
「そういうのは大魔王と直接交渉して下さい」
「直接交渉かあ…。それが出来るなら最初から戦う意味無くない?」
「でも戦ったりするより交渉で解決できるならその方がいいですよね〜」
「そうよね〜。あ、でも大魔王と直接交渉する勇者ご一行って聞いた事無いんだけど、有りなのかなあ…」
「ご安心下さい、そういうときのために私アドベンチャーコンサルタントが同行しています」
「あら素敵」
「交渉で不利にならないよう、事前準備のお手伝いから同席しての的確なアドバイスまで、懇切丁寧にフォローいたします。時給の1割を成功報酬という事で如何でしょう?」
「これがうまく行くなら2割でも3割でもあげるわよ。…あ、ちょっと別の場所で話さない?」
 そう言ってあーちゃん先輩は、ずっと部屋の隅の席で黙って聞いていた男子寮長に目をやった。気づいた美魚と小毬は驚愕の表情を浮かべた。
「ほええ! いたんですか!」
「いたんですよ」
「すみません、全然気づきませんでした…」
「埋伏は風紀委員の必須スキル、と言った人がいてね。それに習ってみただけだよ」
「誰ですかそんなイタいこと言った人は…」
 あーちゃん先輩と男子寮長の視線が佳奈多に注がれた。佳奈多は目を逸らしたまま、何も言わなかった。美魚と小毬の表情は納得の表情になっていた。部屋を出た後みんなが佳奈多を見る目は、どこか優しかった。
 
 
 
 
 佳奈多達4人は寮長室を出て、話し合いの出来る空き教室へと校舎内を移動していた。その途中で、あーちゃん先輩が佳奈多の袖を引っ張った。
「どうしたんですかあーちゃん先輩? お化けでも出ましたか?」
「もし仮に出たとしてもかなちゃんの方が怖いから気にしてないわよ」
「お化けで遊び倒した挙げ句冷凍庫に放り込みかねないあーちゃん先輩に言われたくありません」
「あら、再利用はエコの基本よ」
「自動車などは、古い車を使い続けると却って環境に悪いですが…お化けの場合はどうなんでしょうね」
「お化けのエネルギー源を自然エネルギーに変えればいいんじゃないでしょうかっ」
「え? お化けって元々自然エネルギーで動いてるんじゃないの?」
「あ…そうか、もしかしたらそうなのかも。どっちなんだろう」
「お化け本人に訊いてみては如何でしょう」
「…あーちゃん先輩、どうなんですか?」
「何故そこでアタシに振られるのか、全く以てわかんないんだけどお?」
「そうですか。わからないならいいです」
 佳奈多は話を打ち切って、先に進もうとした。その佳奈多の袖を、またあーちゃん先輩が掴んだ。
「なんですか。バット持って暴れている葉留佳でも出ましたか?」
「バットは持ってないけど、三枝さんならそこにいるわよ」
「え?」
 佳奈多が振り向くと、後方に柱の陰から4人の様子をうかがっている葉留佳の姿がそこにはあった。
「…仲間にして欲しそうにこっちを見ていますね」
「…。」
 佳奈多はちらりとだけ葉留佳を見、視線を戻して少しだけ考えた後、言った。
「行きましょう」
「えええぇぇーっ!!?」
 佳奈多の言葉を聞いた葉留佳は、慌てふためいて柱の陰から飛び出してきた。
「ちょっとちょっと、その発言はいくら何でもあり得なくないデスカ!?」
「だってあなた、仲間にして欲しいんでしょう?」
「そうですヨ。だからデスネ」
「だったら放って置いておいて行くしか無いじゃない」
「え!? いや、はるちんちょっと疲れてるのかなあ、お姉ちゃんの理屈が理解できまセン。何故仲間にして欲しそうな事がわかってるのにおいていくんですカ」
「だって仲間にする気無いもの」
「そ、そんなはっきりと…」
「事実を曖昧にするのキライだから」
 葉留佳は絶望にうちひしがれたかのように崩れ落ち両手を床に付いた。それを見た小毬が、佳奈多を咎めた。
「かな…二木さん、はるちゃんも仲間にしてあげられないのかな?」
「できないわ。…葉留佳を危ない事に巻き込めないもの」
「それは私達は危ない事に巻き込んでもかまわないという意味ですか?」
「そういう意味では無くて。…責任を果たせるかどうか、という話よ」
「はるちんそんなに無能じゃないデスヨ?」
「……そうね」
「わざとらしく間を置かないで貰えますかネ」
「それに、定員4人だし」
「あ、そうか…」
 うーん、と小毬は考え込みだした。
「どうして4人なんだろうね?」
「それは…こういうのは4人一組、と昔から決まってるからではないでしょうか」
「それって霞ヶ関の弊害って事?」
「いえ…そういうわけでは…」
「コンピュータゲームだとだいたいそうなってる、って話じゃないかしら」
「そうですね。昔はハードウェアの制約が厳しかったと聞きますし」
「じゃあ、4人をオーバーしたらどうなるのかな?」
「よくわからないけど…コンピュータゲームなら規定のメモリ領域から溢れるわけだから、バッファオーバーフローという事になるのかしら」
 これを聞いていた葉留佳が急速に立ち直った。
「バッファオーバーフロー! セキュリティの脆弱性という時によく出てくるあれデスネ! はるちんそういうの大好きデス!!!」
「いや…大好きになられても」
「じゃあ小好きでいいデス」
「そんな定食のご飯みたいに言われても」
「ご飯おかわりっ! という事で、バッファオーバーフロー扱いではるちんも仲間に入れて貰えませんカ?」
「いや…それいろんな意味でかなり問題有りなんだけど…」
「リトルバスターズ!カードミッションだってデッキから溢れたメンバーが戦力にカウントされてるじゃないデスカ!!!」
「だってあれはそういう仕様だし…」
「このパーティもそういう仕様にしてくれないですカ?」
「…仕様の問題は私の一存では決められないわ」
「じゃあ、決められる人の所に行くべきではないでしょうかっ」
 小毬の言葉に、佳奈多はそれもそうかと考え込む仕草をした。
「まあ、それはそうね。どうせ後で行かなければいけないところだったし…挨拶労働部に行きましょうか」
 
 
 
 
「5人目というのは想定していなかったのです…」
 戻って来た佳奈多達から葉留佳を5人目として入れられるかを訊かれたクドは、困惑した表情を示していた。
「5人目、どうしても必要ですか?」
 クドからのその質問に、佳奈多は一瞬うろたえた。必要無い、と言いきってしまうのは簡単だった。だがその言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、佳奈多の中にはそれに対する拒絶の感情が強く現れていた。葉留佳を必要無いと言うことは佳奈多には出来なかった。
「必要…と言えないこともないわ」
 それが佳奈多の出した結論だった。
「聞きましたかクド公、はるちんは必要不可欠な存在なのデス。とっとと5人目として認めなサイ」
「そうなのでしょうか…」
「…何事にもはっきり白黒付けたがる二木さんが日本人よろしく曖昧な表現をしている事の意味を少しは考えた方がいいのでは?」
「ええっ!? それってどういう…」
「以前も言いましたがあなたには姉の苦労というものが…」
「その姉の苦労を軽減してあげたいという妹心がわからんのでスカッ!」
 言い合いをしている美魚と葉留佳を見ながら、クドは困惑したまま決断をしかねていた。見かねたあーちゃん先輩が、口を挟んだ。
「能美さん。自分で決断できないなら、上に相談してみてはどうかしら?」
「あ、そ、そうですね」
 クドは携帯を取りだし、どこかにかけて話をし始めた。その様子を佳奈多は見守るでも不安がるでもなく、ただ見つめていた。やがて、クドが話し終えて通話を切った。
「バッファオーバーフローなら仕方ない、とのことです」
「やったあ!」
「これを素直に喜べるって羨ましいですね…」
 バンザイして抱きついてくる葉留佳に、美魚はそう言った。その様子を、佳奈多は無表情を装ってみていたが、口元から笑みがこぼれるのをクドは見逃さなかった。
「良かったですね、佳奈多さん」
「え? ええ、そうね…」
「じゃあ、この5人で登録しておきますので。勤務報告は佳奈多さんが5人分をとりまとめて下さいね」
「うん。わかった」
「これ、勤務表です」
 クドから、それぞれの名前が入った5人分の勤務表を受け取ったとき、佳奈多は思った。もし立場が逆だったとき。自分には、こうして理屈抜きで協力したくなるような、そんな人は果たしていただろうか、と。
 
 
 
 
 
 
 次回
 
 大魔王棗恭介が潜むという山を突き止めた佳奈多。恭介に知られる前に行動を起こすべく、急襲をかける佳奈多だったが…。
 次回 勇者佳奈多と百万円の壺、第三話「第一次魔宮作戦」
 
 
 
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