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勇者佳奈多と百万円の壷

 

最終話  世界の中心で茶碗と叫ぶ謙吾

 
 
 
 
 
 
 
「茶碗じゃ無くて壺ですけど」
 
 
 
 
 
 三枝葉留佳がE組の教室に入ってきたとき、謙吾はすぐにはそれに気づかなかった。おかしい、いつもならすぐに邪念を感じ取るのに。そう思って謙吾は葉留佳を注視していた。どこかしょぼくれた表情をしていた。
「どうしたの葉留佳さん。元気ないよ?」
 理樹が話しかけると、葉留佳は力なく笑った。
「お金ってどうやったら手に入れられるんだろうね」
「マイクロソフトでも買収するの?」
「うん、理樹君のそういう夢のあるところ、私、好きだな」
「ありがとう…」
「で。お金ってどうすれば手に入るのかな?」
 話は振り出しに戻った。
「利息や地代を得られる資産を有さない無産階級は労働力を提供して対価を得る以外に手段が無い、らしいぞ」
 スマートフォンに入っている何かの書物を参考にしながら、唯湖が答えた。
「要するに働けと」
「不満か?」
「不満というか…。私が働くならいいんですケドネ。姉が働かないといけない状況になってしまったので、それを阻止したいと」
「ん? 佳奈多君がか? なんだそれは、売り飛ばされるとかそういう類の話か? よし、お姉さんが身請けしてやろう」
「身請け!? ちょっと待って来ヶ谷さん、来ヶ谷さんがそんなことするくらいなら、僕がお金を用立てるよ!」
「ちっ、金の力で佳奈多君を理樹君から奪い取れると思ったのに」
「お金で愛は買えなくても、引き裂くことは出来る…世の中にはこういう美しくない現実もあるのですね、気をつけなくては」
「あたしそーいう大人嫌いだ…」
「わふ。汚い大人にはなりたくないのです」
「うむ。おねーさんすっかり悪役だ」
「自業自得だろうが…」
 話が脱線しかかっている。謙吾はそう思った。見かねて口を挟んだ。
「で。二木は何で働かないといけない状況になっているんだ?」
「それハ…」
 葉留佳は目線を泳がせて誰とも合わないようにした。それを見たクドは事情を察し、おずおずと話しかけた。
「あの…もしかして校長室の前の壺の件でしょうか…?」
「壺? ああ、あのでかい壺か。あれがどうかしたのか」
「葉留佳さんと佳奈多さんがあれで、うめぼし〜、とかやって遊んでいて、割ってしまったのだとか」
「うん、あのねクド公、うめぼしはデマだから」
「そうだったのですか、すみません」
「まあ、話は見えてきたな。つまりあのでかい壺を割ってしまったから弁償しないといけない、だから金がいる、と」
「そうなのデス」
「幾ら?」
「…百万円」
「百万…百万かあ」
 理樹が困り果てた顔をしていた。もっと少額だったら立て替えるつもりだったのだろうか、と葉留佳は思った。ふと周りを見ると、程度の差はあれみんな同じような顔をしていた。自分の彼女が関係している理樹君はともかく、何であんたらまでそんな顔するの、と葉留佳は心の中で溜息をついた。
「とりあえず集められる分だけ集めて残りは分割か何かにして貰うしか無いだろう」
「まあ、それが妥当だよな」
 唯湖と真人は、もうすっかりお金を集める気でいた。
「チョットチョット待って下さいヨ。何でもうみんなでお金出すみたいな話になってるんデスカ」
「だって金がいるんだろう? 百万円」
「そうですケド…いやでもホラ、実家に頼むという手だってあるわけデスシ」
「実家に頼んでどうにかなるものなのか」
「まあ確かに二木のところならどうにかならない金額では無いだろうが」
「そうなの?」
「みんなすっかり忘れてるだろうが、二木はあれでもお嬢様だぞ」
「それを言ったら葉留佳さんもなんですけどねえ」
 みんな一斉に残念そうな目で葉留佳を見た。
「ちょ、チョット何ですかその視線!」
「ううん、なんでもないの。育ちは本人の責任じゃ無いし…」
「ナンデスカソレ。いや、そりゃはるちんはこんなだし、まあいろいろ言われるのはいいデスヨ。けれどもですネ、うちの姉をあれでもとか言わないで下さいヨ。ああ見えて立派なお嬢様なんデスヨ。世間知らずだし」
「そうです、佳奈多さんを悪くいわないで欲しいのです。寮でも結構動き回るからジャージの方が汚れても平気ですし、学校では制服ですし、私服を着る理由が無いのです、着ない物を買っても無駄だから持ってないだけなのです」
「私が夜中に娯楽室でTV付けてるといつの間にか後ろで食い入るように見ていることがあったのですが…最近は割と普通に見るようになってきましたし、もう世間知らずという程でもないのでは」
「うん、もう誰が酷いこと言ってるのかわからないね」
「あたしは…かなたは偉いと思う。綺麗だし、賢いし。何であたしがあいつじゃ無かったんだとすら」
「お、鈴君は擁護派か。いや、これはむしろ、嫉妬か?」
「鈴ちゃんは鈴ちゃんのままでいいんだよ?」
「でも、あたしもああいう風になれば、もっと容赦なく愚かな兄を罵倒できたのに…」
「あー。そっちかー」
「恭介がいないときでよかったね…」
 それを聞いた美魚は席を立ち、教室の後ろに歩いて行って、掃除道具入れの扉を開けた。中では恭介がすすり泣いていた。
「お前、そんなことで何やってんだ?」
「そうだぞ。そこ理樹の家じゃ無いか」
「うん、鈴はちょっと黙っててね」
「で。何やってんデスカそんなとこで」
 葉留佳が声をかけると、恭介は途端に泣くのをやめてきりりと引き締まった表情になった。
「三枝が困っていると聞いて、救いの手をさしのべる機会をうかがっていた」
「はあ。そりゃどうも」
「泣いている女の子には手をさしのべずにはいられない、それが棗恭介の矜恃だ」
「恭介さんさっきまで泣いてたけど、私が手をさしのべた方がいいデスカ?」
「あなたのお姉さんに怒られそうだから遠慮しておきます」
「まあウチの姉は今それどころじゃ無いですけどネ」
「そう、その二木だ」
 恭介はばっと右腕を広げ、教室中の全員に呼びかけ始めた。
「みんな、話は聞いていただろう。百万円なんて、ちょっと働いたくらいで返せる金額じゃ無い。だが、ここにいる40名弱が出しあえば、一人2万5千円だ。ほら、バイトすれば出せる額になってきた。学年全員に呼びかければどうだ。一人5千円だ。小遣いでも出せる金額になってきたぞ。全校生徒ならどうだ。一人2千円にもならない。昼食代を節約すれば何とかなる。どうだ、みんながほんのちょっと我慢するだけで、二木と三枝の窮地を救うことが出来るんだ。実家には頼めない、三枝家がどういうところか、みんななにがしか話は聞いているだろう。だから、俺達が助けるんだ。俺達全員の力で」
 教室は一瞬静まりかえった。一人の男子生徒が手を叩き始めたのをきっかけに、静寂は破られた。拍手と共に、恭介の提案は承諾された。
「そういうわけだ三枝。何も心配しなくていい」
「イイエまだ懸念が」
「まだ何かあるのか」
「姉が素直に受け取るとは思えまセン。そもそも当事者の私ですら、自分が何とかするから余計な事はしなくていいとか、そんなこと言われたんデスヨ」
「佳奈多さん…まだ一人で背負い込む癖治ってないんだ…」
 理樹が溜息交じりに言った。
「では──働いて受け取って貰うというのはどうでしょう」
 美魚の提案に、一同の視線が集まった。
「もちろん百万円分きっちり働いて貰っては却ってこちらの心理的負担が大きすぎますし、なので途中でばかばかしさに気づくようなしょうもない仕事を依頼してみては」
「──なるほど。で、具体的には何か案があるのか?」
「神北さん、何か無いですか?」
「え? う〜ん、そうですねー。では、恭介魔王さんにさらわれた理樹姫を二木さんが助けに行く、という依頼はどうでしょう。理樹君と二木さんは付き合ってるし、丁度いいのでは」
「恭介さんが直枝さんをさらう…本当にさらうのですか?」
「演技とはいえリアリティは大事なのでそこはちゃんとやりましょう。さらってどこか秘密の場所に連れ込んで下さい」
 美魚は鼻を押さえながらうずくまってしまった。恭介始めみな苦笑しながらそれを見ていた。しかし理樹だけが真剣な表情で、意気込みを露わにしていた。
「やろう。やろうよ恭介。実際こうでもしないと、佳奈多さんお金受け取ってくれないよ」
「そうか。理樹がそう言うのなら…やるか!」
「どうせなら楽しんじゃいましょー」
「ああ。全くその通りだ」
 恭介は一同を見渡した。
「みんな、協力してくれるか?」
 拍手、歓声、無言の頷き。めいめいがそれぞれの方法で賛意を表した。それを確認した恭介は無言で頷いた後、右手を挙げ、いつもの台詞を言おうとした。そして、はたと動きを止め、葉留佳の方を向いた。
「三枝。この台詞は、お前が言うべきだ」
「え? 私デスカ?」
「ああ。今回のミッションは三枝が呼びかけて始まったことだ。だから三枝、お前が今回のリーダーだ」
「そうデスカ? まあ、そういうことなら」
 葉留佳はすぅと息を吸い込み、声を上げる準備をした。今だ、叫ぶならば今だ。謙吾は唐突にそう思った。欲求を抑えられなかった。
 
 
 クドが訂正の言葉を入れたのは謙吾が叫んだ数秒後だった。
 
 
 
 
 
 
「ええ話や」
 あーちゃん先輩がちょっとわざとらしく泣いていた。挨拶労働部の部室、ということになっている空き教室に佳奈多たち一行は集まっていた。全く事情を知らされていなかった佳奈多とあーちゃん先輩は、他の面々から事の顛末を聞かされていた。
「でも、それがなんであんな生徒を煽った反乱騒ぎになったのよ」
「それに関してはお前のせいじゃないか…ッ!」
「あたし? 何であたしの所為なのよ」
「予定に無かったお前が入ってきた所為で、どれだけ引っかき回されたと思ってるんだ」
「そんなこと言われても」
「恭介が過剰反応しすぎなだけな気もするぞ…」
「お前はこいつがどれだけ厄介か知らないから…!」
「何が厄介よほんとしっつれいな子ねー」
「現に、お前がしゃしゃり出てきてから俺の評判ガタガタじゃないかっ!」
「そうかなあ…?」
「ずっとかっこいいお兄さんで通っていたのに…」
 泣き声になりつつある恭介、後ろにいた謙吾が、その方にそっと手を置いた。
「謙吾…」
「大丈夫だ恭介。俺達の関係は、昔から、何も変わっちゃいないさ」
「それはつまり、お前たちは昔から俺のことを馬鹿にしていたと、つまりそういう話か…?」
 謙吾は何も言わなかった。
 そんな一団をよそに、クドは佳奈多に給料袋を手渡していた。理樹と葉留佳がそれを見守っていた。
「30万ちょっと入ってます」
「随分集めたのね…」
「すみません、やっぱり出したくない人とか出したくても手持ちが無いという人も多くて」
「ううん、謝らないで。むしろ何の見返りも無いのに、よくこれだけ…」
「出世払いとか言ってた人もいましたけどネ」
「うん、ちなみにあれ、葉留佳さんが出世して払え、って話だったからね」
「ガーン」
「そうそう佳奈多さん。カンパを集めてるときに、面白いことに気づいたんですけど」
「何?」
「佳奈多さんは自分が嫌われ者だと思ってるようですけど」
「そりゃ、ま。過去にやったことは簡単にぬぐい去れないし」
「佳奈多さんのファン、意外と多いんですよ」
「な…!」
「大事にしないと駄目ですねえ」
 佳奈多は顔を赤くして一瞬黙った後、さっと後ろを向いて戸口に向かって歩き出してしまった。
「行くわよ。今はとにかく、校長先生と話をしないと」
「ほいほーい。みんなー、移動移動」
「え。みんなついてくるの?」
「そういう話じゃ無いんデスカ?」
「いや、あんまり大ごとには…」
 そう言って佳奈多はその場にいる一同を見渡した。
「…いや、今更か。むしろ騒ぎの説明を求められるかもしれないし」
「味方は多い方がいいしね」
「うん、どちらかというとどうにでもなれという心境だけど」
 佳奈多はゆっくりと歩き始めた。みんなぞろぞろと付いていった。行列を見た他の生徒たちも何事かと列に加わりだしたので、校長室に着く頃には大変な群衆になっていた。
 
 
 
「…随分とたくさん来ているようだね」
 佳奈多の後ろに控える大量の生徒たちを見て、校長はそう言った。
「すみません。お騒がせしてしまって」
「いや、別にかまいませんよ。ちゃんと話があって、二木さんがその代表なのでしょう?」
「私的な話…といいますか、割ってしまった壺の件ですけど」
「あの話ですか。…そうですね、まずは座りなさい」
 佳奈多は校長に勧められるまま、向かい合うように応接用のソファに腰掛けた。そしてクドから受け取った給料袋をテーブルの上に置いた。
「37万5815円入っています」
「ほう…これはまた随分集めましたね」
「ですがまだ半分にも満たないです」
「そうか、百万円という話でしたね」
「はい…」
 佳奈多は暫し沈黙した。目を閉じ、深呼吸した後で、また続けた。
「これ以上はすぐには用立てするのが難しいです」
「でしょうね。社会人でも難しい」
「…どうしたらいいのでしょうか」
 佳奈多の声はだんだんトーンが落ちていた。校長は一回頷いた後、佳奈多に返した。
「やっとそれを訊いてくれましたね」
「…え?」
「仲間を頼ることは出来るようになったけど、大人を頼ることはまだなのかな、と少し心配してしまいました」
 佳奈多ははっと顔を上げた。
「すみません…」
「いや、謝ることは無いですよ。私も少々意地悪が過ぎたようだ」
「はあ」
「二木君は優秀だから、つい何でも出来ると思ってしまう。いや、そう思いたいのか…」
 校長は暫し宙を見た後、言葉を続けた。
「壺の弁償の話だったね。あの壺は生徒からの寄贈品、ということは話したかな?」
「はい」
「割れた壺は仕方が無い。私の裁量でどうとでもなるし、反省してくれさえすれば弁償など特に不要なのですよ。ただ、寄贈してくれた生徒さんのことを考えると、何も無しというわけにも行かない」
「仰る通りです」
「だから、今後どうするかはその生徒さんと話し合うのが筋だと、私は思いますよ」
「わかりました。それで、その生徒さんというのは」
「ん? まだそこまでの話にはなっていないのかな?」
 校長は訝しがる顔をし、そして佳奈多の後ろの方を見た。佳奈多はつられて後ろを向いた。その場にいる、あーちゃん先輩以外の生徒たちも皆同じ方向を見た。全員の視線を浴びたあーちゃん先輩は一瞬戸惑った。そして何かに気づいたような顔になった。
「あ。あたしか寄贈した壺か!」
 みんな一瞬沈黙してしまった。
「いや、だってほら訊かれなかったし…いやわかってるわよ、そんなの訊きようが無いって事は。でもねえ、あたしもほら、ど忘れしてたのよ。やあねえ、最近うっかりが多くて」
「あたし知ってる! そういうの、こーねんきしょうがいって言」
 あーちゃん先輩が鈴に無言でほほえみかけ、鈴の肩は小刻みに震え始めた。
 しかしそれで周りの緊張の糸はほぐれた。佳奈多はソファーから立ち上がり、あーちゃん先輩の元に歩み寄った。そして深々と頭を下げた。
「寄贈していただいた壺を割ってしまい、済みませんでした」
「え、ちょっとなに。やあねえ、あたしとかなちゃんの仲で、そんな水くさい」
「いいえ、そういう仲だからこそ、けじめはしっかり付けないと」
「そう? じゃあけじめとして事実を言うけどね。あの壺、親の知り合いで磁器工場を経営してる人から貰ったものなんだけどね」
「はい」
「検査で規格外になって、出荷できないからって貰ったものなのよ。うちが引き取らなければ産廃として処分するしか無かったものだし、ほら、産廃処分ってお金いるでしょう? だから、ただどころかむしろお金貰うレベルのものなのよ?」
「…そう、ですか」
「だからそんな37万5815円差し出されても、こっちとしても困っちゃうのよねえ」
「そう言われましても」
 佳奈多は理樹や葉留佳恭介ら生徒たち一同に視線を向けた。みんな複雑な顔をしていた。あーちゃん先輩も事情を察して黙り込んでしまった。
「なるほど。だいたいの事情はわかりました」
 校長が佳奈多たちに声をかけた。
「では、私から一つ提案があるのですが。よろしいですか?」
「はい」
「最近、経済的事情から学業を諦めざるをえない人が増えています。ですが、実際には一時的に学費や生活費を立て替えられれば退学までする必要の無い人が多いのです。なのでそういった人達の為の基金を作ろう、という話が出ているのです」
「なるほど。そこに寄付して欲しいと」
「いえ。まだ基金は立ち上がってはいないので、どちらかというとあなた方に立ち上げて欲しい、というところですね」
「そんな大役…」
「出来ると思いますよ。ここ数日のあなた方の行動は、ちゃんと見ていましたから」
 佳奈多は理樹の方を見た。理樹は無言で頷き、その周りにいる生徒たちもみな目で同意していた。佳奈多はあーちゃん先輩の方を改めて見た。
「事情はどうあれ、このお金は壺の弁償代ですし、あーちゃん先輩がどうしたいかだと思います」
「そうねえ。そういう話ならアタシは異論無いけど」
「創設者なので基金の名前を付ける権利がありますよ」
「え? じゃあ是非付けたい名前があるんですけど」
「なんですか?」
「かなちゃん友情基金」
「…。」
「な、なんですかそれ! やめて下さいそんな名前!」
「えー。アタシが付けていいって言われたのに」
「人の名前勝手に付けないで下さい!」
「かなちゃんが仲間の友情に支えられて危機を脱したお話を記念して、という大事な意味があるのよ?」
「大事な意味があってもです。あとかなちゃんじゃないです」
「かなちゃんじゃ無いならかなちゃんって名前付けたって文句言う筋合い無いじゃないのさー」
「屁理屈言うのはやめて下さい!」
「えーと君たち、細かい話し合いは、どこか空き教室ででもやりなさい」
「…そ、そうですね。すみません。いろいろお騒がせしました」
 
 こうして壺の話は一件落着となった。また後日、この事件を記念して友情記念基金の設立が校長から発表されたのであった。正式名称は結局「かなちゃんの名に於ける東リトルバスターズ友情記念基金」となったが、あまりに長すぎるということで校長は全てを読み上げることを拒否した。
 そして生徒たちは日常に戻り、佳奈多は再び理樹との平穏な生活を取り戻したのであった。
 
 
 
 
「そして平穏な生活を取り戻したかなちゃんは、それまでいろいろあって大変ストレスが溜まっていたので、直枝君を保健室に連れ込んで100回押し倒しましたとさ」
「わふ。佳奈多さんったら…」
「まったくホントしょうのない人ですねあの姉は!」
「あら、かなちゃんが来たわ」
「…あーちゃん先輩。なに葉留佳やクドリャフカにいい加減なこと吹き込んでるんですか…」
「いい加減かしら? 現にこうして保健室で張り込んでいたら直枝君を伴って現れたわけだけど」
「…落ち着いてゆっくり話がしたかったから、それでここに来ただけです…そんないやらしい目的じゃ無いです…」
「それで保健室? 他にもっと場所があるでしょうに」
「勝手知ったる保健室、なにしてたかなんて外からじゃわからないですよネ」
「ちょっと葉留佳あなた何を」
「前科もありますシ」
「すみません佳奈多さん、こればかりは弁護できないです…」
「あなた達……」
「うわ、なんか結構本気で怒ってるぽい。逃げるわよ!」
「わかりました、逃げるのです!」
「エスケープ!」
 佳奈多は逃げ出す3人を追おうとした。が、理樹が手を握っていたのでそれ以上先に進めなかった。理樹の手の感触を感じた佳奈多は息を吐いて落ち着きを取り戻し、そしてほんのちょっとだけ優しい表情を、誰に見せるでもなくそういう表情をした。
 
 
 
 
 
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