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しゅーかんあたしのお兄ちゃん

 
 
 
 学校からクラス課題が出されたのです。
 
「えー。県教育委員会から、家族をテーマにした課題作への応募要請が来ている。家族に密着取材を行っての写真付きレポートをということだ。ついては、各クラスから一人づつ、応募者を出すことになったのだが」
「先生、うちの学校は殆どが寮生だし、家族に密着取材って難しいです」
「わかっとる。なので、寮生に兄弟が姉妹いる者を指名したいわけだが…」
 
 クラス中の視線が、鈴さんに集まったのです。鈴さんは視線から逃げるように紙袋をかぶってしまいました。
 
「棗。隠れても意味無いぞ」
「いいえ、あたしはただ袋をかぶるのが好きなだけなんです」
「そんなとこまで猫化しなくてよろしい」
「人間に戻るので指名は勘弁して下さい」
「自分が指名されてるということまで理解してるんだな、なら話は早い」
「いやだとゆーとるのに!」
「話は聞いていただろう。寮生に兄弟姉妹がいるのは、このクラスでは棗だけなんだ」
「先生。西園さんに妹がいます」
「…いますけど。寮生では無いですよ。たぶん」
「そうだっけか?」
「そういうことだから。棗、頼んだぞ」
「え、いや待ってくれ。いや待って下さい。兄弟姉妹の密着取材って、つまりあのバカ兄貴に密着しろということですか?」
「そういうことになるな」
「そんなことしたら兄が喜んでしまいます」
「喜ぶならいいじゃないか」
「いや、あの、そういうことじゃなくて。変態的な意味で喜ぶというか」
「何か勘違いしているようだが、普通に取材すればいいんだぞ? ほらデジカメ、学校の備品だから壊すなよ」
 
 こうして鈴さんは恭介さんを取材することになったのでした。
 
 
 
「そういうことで、兄貴を取材しなければいけないことになった。大変に不本意だが」
「不本意なものか。お兄ちゃんとっても嬉しいぞ。さあ鈴、こっちにおいで」
「しっしっ」
「失礼な奴だな。これからお兄ちゃんを取材するんだろう?」
「写真を撮らないといけないので距離を置く必要がある」
「そうか。ならかっこよく撮ってくれよ」
「それは無理だな」
「無理とか言うな。頑張れよ」
「どんなに頑張っても、かっこよくないものをかっこよく撮ることは出来ない」
「お兄ちゃんこれでも女子の間でかっこいいと評判なんだがな…」
「見る目の無い女が多くて困る」
「いや、そこは見る目があるといってくれよ…」
「よし、そのしかめっ面を1枚」
 
 ぱしゃり。
 
「…いや、こんな表情撮るなよ。レポートとして出すんだろ?」
「兄が素の感情を出しているところを撮りたかった」
「素の感情か。よし、鈴をなでなでしたくてにやけている表情を撮ってくれ」
「そーいうのはやだ。レポートとして出すんだからあまり恥ずかしい写真は撮れない」
「贅沢言うなよ。素の俺を撮りたいんだろ? お兄ちゃん、鈴のためなら脱いでもいいとも思ってるんだぞ」
「…脱ぎたいのか?」
「ああ、鈴のためだったら何でもするぞ」
「そうか。そういうことなら援軍を呼ぼう」
 
 鈴さんは携帯を取りだしてメールを打ち始めました。
 2秒後に部屋の扉が開きました。
 
「やっほー! 鈴ちゃん手伝いに来たわよー」
「早っ! あーちゃん先輩早っ! 今メールしたばっかなのに!」
「そりゃぁもう、恭介が脱ぐと聞いたら1ミリ秒だって惜しいし」
「待て。俺はお前の目の前で脱ぐなんて言ってないぞ」
「さっき脱いでもいいと言ったじゃないか」
「あれは、鈴のためなら脱いでもいいと言ったんであってだな」
「あたしのためにあーちゃん先輩の目の前で脱いでくれ」
「なんでそんな話になる…」
「うちの兄は、妹が学校から出た課題を片付けるために呼んだお手伝いのお姉さんを拒否する人なのか…」
「酷いお兄さんねえ」
「俺が悪いのか…?」
「そうよ、恭介が悪いの。自覚があるならさっさと脱ぎなさい、鈴ちゃんの課題進まないでしょ」
「いや、おい、なんでお前が脱がせてくるんだっ!?」
「アタシ鈴ちゃんのお手伝いさんだしぃ」
「いや待て、自分で脱ぐ、自分で脱ぐからっ!」
「うむ、この光景を1枚」
 
 ぱしゃり。
 
「待て鈴、こんな写真は」
「よし、タイトルは『恋人と戯れる兄の青春』にしよう」
「待て、誰が恋人だ! 勝手に既成事実作るな!」
「うちの兄はいちいちうるさいな」
「うるさくもなるわっ、こんなことされて!」
「そうか。恋人との甘いひとときを妹に邪魔されて機嫌が悪いんだな。済まなかった、課題はあとにして部屋を出て行こう」
「あら鈴ちゃん、そんな気を遣わなくていいのよ?」
「そうだ、鈴お前そんな人に気を遣うような子じゃ無かっただろっ」
「そこはほら、鈴ちゃんだって成長してるのよ」
「そんな方に成長しなくていいです…!」
「うん、まあ、なんだ。ごゆっくり」
 
 鈴さんは恭介さんの部屋を出て行きました。
 
 
 恭介さんの部屋を出た鈴さんは、外で適当に猫と遊んでいました。そこに、デジカメを持ちながら挙動不審な行動をとっている葉留佳さんがやってきました。
 
「およ? 鈴ちゃんじゃないデスカ」
「はるかか。残念だが、今お前の相手している時間があるくらい暇だ」
「それは残念デシタ。しかし、今私があまり暇ではないのデスヨ」
「追われてるのか?」
「ソレガ、今日は私が追う方なのですヨ」
「何があったんだ」
「学校から課題が出てデスネ。兄弟姉妹の写真付きレポートを出せという」
「ああ、それはるかのクラスでも出てたのか」
「最初はなんかうちの姉がえらくやる気出して一生懸命手を挙げてたんですけどネ。兄や姉をレポートするのが望ましいって事で、私がやることになったのデスヨ」
「ならかなたも満足なんじゃないのか」
「ソレガ、チャイムが鳴ると同時に逃げるように教室から出ていってしまいましてネ。慌てて追ったら全速力で逃げ出して」
「いつもと逆だな」
「私が撮ると変な写真ばっかり撮りたがるんじゃないかと疑われてるんですカネ」
「うん、それは当然疑うべき事だな」
「鈴ちゃんは本当に遠慮が無いデスネ…。およ、そのデジカメ」
「ああ。うん、あたしもはるかと同じ課題を出されている」
「それはまた」
「…兄貴が変態な写真ばかり撮らせようとするから、困っている」
「恭介さんったら…。それで逃げてきたのデスカ?」
「いや。あーちゃん先輩に頼んで今おしおき中だから、こうして時間をつぶしている」
「やはは。それはまた…」
 
 葉留佳さんは反応に困って頭を掻いた後、何かを思いつきました。
 
「そうだ。鈴ちゃん、折角二人で同じ課題出されたんだし、ここは協力しまセンカ?」
「協力?」
「私が恭介さんの写真を撮りますカラ、鈴ちゃんは代わりに私の姉の写真を撮ってきて下サイ。撮る人が違えばきっと態度も変わりますヨ」
「課題は自分の力でやらないといけないんじゃ無いのか」
「理想を言えばそうですけどネ。でもこの場合、お互いに効率のいい部分を補い合うわけで、人に押しつけているわけでは無いですカラ。人と協力し合うのも課題のウチですヨ」
「そーいうものか」
 
 鈴さんは頷いて、そして手持ちのデジカメを葉留佳さんに渡しました。
 
「これ、あたしが渡されたデジカメ。一応これに撮ってくれ」
「確かに今まで撮った分も少しはありますしネ。じゃあ鈴ちゃんには私のを渡しておきまショウ」
「…あたしのとおんなじだ」
「そりゃ学校の備品ですし、同じ機種で揃えてるんじゃ無いですかネ」
「じゃあ、あたしはこれでかなたを撮ってくればいいんだな」
「ソウデス。私は代わりに恭介さんを」
「今あーちゃん先輩がお楽しみ中なんだが」
「うーん。じゃあちょっと裏工作してあーちゃん先輩を引き離した方がいいデスネ」
「…うん、その辺は任せる」
 
 鈴さんと葉留佳さんはそれぞれの課題を交換して、写真を撮りに行きました。
 
 
 
 佳奈多さんは、校舎の裏で電気配線の修理をしていました。そこに鈴さんがやってきました。
 
「なあに? ブレーカーは落としているけど念の為に下がっていた方がいいわよ」
「かなたは、こんな仕事までするのか」
「整備委員会を風紀委員会に統合してしまったものでね…。電気工事の知識持ってる生徒なんてあまりいないし、委員会統合を進めた私が責任取れというわけよ」
「そーいうのははるかが得意そうだが」
「葉留佳にこんな危ない事やらせるわけに行かないでしょう」
「そのへんはよーわからんが…」
 
 佳奈多さんはしばらく黙々と作業を続けていました。鈴さんはデジカメをじっと見つめていましたが、意を決したように佳奈多さんに話しかけました。
 
「あの、写真撮ってもいいかっ」
「現場写真撮るような不具合じゃ無いわよ」
「そうじゃなくてっ。あの、かなたの写真をとりたいっ!」
「私の…?」
 
 佳奈多さんは手を止める事無く、鈴さんに問いかけました。
 
「何の為に?」
「その…あたしにはこんな素晴らしい友達がいるということを、えっと、うちの兄貴に証明したくなった」
「友達、ねえ」
 
 佳奈多さんは手を止めて、腕組みして鈴さんの方に向き直りました。
 
「ま、葉留佳の友達だし。そこはあながち間違いでも無い、か。で、あなたのお兄さんが何ですって?」
「兄は友達が少ないくせにあたしに上から目線なので友達自慢して優越感に浸りたくなりました」
「…ねえ、妹って、普段からそんなこと考えてるものなの?」
「いいえ、今回はたまたまです」
「そうか…」
 
 佳奈多さん、何故かほっとした表情をしています。
 
「ん。まあいいわ。棗さんに写真を撮って貰う機会なんてのもあまりなさそうだしね」
 
 佳奈多さんは表情を緩めました。
 
「作業も一段落したし、いいわよ」
「うん、ありがとう」
「で、どんな写真を撮りたいのかしら?」
「まずは普通の写真を撮りたい」
「普通、ねえ」
 
 佳奈多さんは直立不動の姿勢を取りました。鈴さんはそれを写真に撮りました。ぱしゃり。
 
「…これで良かったの?」
「うむ。うちの兄よりずっと普通でまともだ」
「葉留佳や西園さんは、こんなの普通の姿勢じゃ無いとかいうのよ」
「そーなのか。普通って難しいな…」
「そうね…」
 
 鈴さんと佳奈多さんは暫し無言になりました。
 
「まあ、こういうのは人それぞれよね。次はどんな写真を撮りたいの?」
「風で髪がなびいている写真を撮りたい」
「それは風が出ていないと無理ね…」
「じゃあ何でもいいからかっこいい写真が撮りたい」
「かっこいい、か。そんなの意識した事無かったし。来ヶ谷さんにでも訊けばいいのかしら」
「とりあえずそこに座ってなにかの書類を処理しているような恰好でもしてみたらどうだろう」
「そうね、そういうのは確かに少し憧れるわ」
 
 佳奈多さんは近くにあった古いベンチに腰掛けて、クリアファイルを膝に置いて何かの仕事をしているようなポーズを取りました。
 
「これでノートパソコンでもあれば様になるんだろうけど」
「でもノートパソコンは寝転がって使うものだとも聞いた」
「葉留佳が? しょうがないこと言うのね」
「いや、クド…の友達のなんて言ったっけ、その人が言ってたらしい」
「ああ、氷室さんか…」
「葉留佳は逆立ちして使うのが一番効率がいいと言っていた」
「…そう」
「さすがにそれはよくわからなかった」
「無理して理解する必要は無いわ」
「うん。あたしは今の佳奈多が一番いいと思う」
 
 ぱしゃり。
 
「あ。もう、一言かけてくれても」
「すまん。かなたがきれいだったから、このチャンスを逃してはいけないと思った」
「もう、何言うのよ」
「…かなたは本当に綺麗だな…」
「お世辞言っても何も出ないわよ」
「と、あたしの中の人が言っていた」
「そういう事言うのはやめなさい、私の中の人が困ってしまうから」
「ならしばらく無言でとり続けよう。それでもいいか?」
「ま、まあたくさん撮るんだったらいちいち声かけてられないわよね。いいわよ、いっぱい撮りなさい」
「うん」
 
 鈴さんは佳奈多さんの写真を撮りまくりました。ぱしゃりぱしゃり。
 
「たくさん撮れた」
「そう、よかったわね」
「これではるかもよろこぶ」
「…今、なんて…?」
「あ。しまった…」
 
 佳奈多さんはゆっくりと立ち上がりました。
 
「…そう。葉留佳に頼まれて写真を撮っていたのね…」
「ずるじゃないぞ。あたしにも同じ課題が出ている。協力して課題をこなしているだけだ」
「…それ、お渡しなさい」
「だめだ、これははるかの課題だ」
「あなたはあなたのお兄さんを撮って、葉留佳は私の写真を撮る、そういう課題じゃ無かったかしら…?」
「そうなんだが、事情があるんだ。はるかはかなたが逃げるから撮れないと言っていたし、あたしは兄が変態だから撮れない」
「あなたの事情はよくわからないけど、葉留佳はちゃんと自分で自分の課題をするべきだと思うの」
「だったらなぜはるかからにげる…」
「姉の威厳というものがあるの…恥ずかしい写真は撮られたくないの…ねえ、わかるでしょう?」
「わかったから首横にゆらしながら近づいてくるのやめれ…こわい…」
「だったら大人しくデジカメ渡しなさい…」
「だからこれはダメだとゆーとるのに」
「いいから渡しなさい!!」
「うにゃーっ!?」
 
 鈴さんは佳奈多さんから逃げ出してしまいました。しかし佳奈多さんはすぐに追ってきました。
 
「何故逃げるの! それを渡せば済む話でしょう!」
「だからこれは渡せないとゆーとるのにー!」
 
「ほう。珍しい光景もあるものだ」
 
 鈴さんを追いかける佳奈多さんお姿を、偶然通りかかった謙吾さんと真人さんとリキが見ていました。
 
「ん? なんだ、追いかけられてるのは三枝じゃ無くて鈴なのか」
「うわあ。どういう事だろう」
「鈴、なんかやったのか?」
「やったにしても鈴があんなに追い回されるのは珍しいな」
「佳奈多さん、妹は大事にする人なのに」
「大事にしすぎて欲求不満が募ったとか?」
「三枝があまり妹らしいことしてくれないとは言っていたな」
「そうか。それで鈴を襲い始めたのか」
「でもそういう欲求不満は僕でだいぶ解消されてるって昨日も言ってたし」
「「…ほう」」
「無し! 今の無し!!」
「にしても、何故二木は鈴を追い回してるんだ」
「そうだな。事情がわからないし、鈴に責任があるのかも知れないし。迂闊に手を出したりせずにしばらく様子を見守るとしよう」
「うん。で、本音は?」
「こんな滅多に見られない面白い光景邪魔する道理があるかーっ!」
「だよなー」
 
 
 
 しかし3人の思惑とは裏腹に、鈴さんは佳奈多さんを振り切ってしまいました。
 
「はぁはぁ…。はるか、いつもあんなのから逃げてるのか…。正直くちゃくちゃ怖かったぞ…」
 
 そう言いつつ鈴さんは、ふらふらと中庭の方に歩いて行きました。
 するとそこには、中庭の芝生の上で戯れる4人の男女の姿がありました。
 
「恭介お兄ちゃん、靴下脱がせちゃうぞー」
「はははー、ちゃんと戻しておけよー」
「恭介さん、これ月桂冠のかわりです。受け取って下さいなー」
「はははー喜んで受け取っちゃうぞー」
「恭介兄さん、私はやっぱり破れて半脱ぎな感じがいいと思うのですが」
「おいおいだからって制服破るのはよしてくれよー」
 
「…何をしている」
 
 恭介さんが葉留佳さんと小毬さんと美魚さんにじゃれつかれて顔が緩んでいるところを、鈴さんが見下ろす位置に立って恭介さんをさげすむような目線で見ていました。
 
「り、鈴!? いや待て、これは違うんだ」
「あたしは今、『このバカ兄貴あーちゃん先輩というお方がいながら妹の友達に手出してデレデレしてるとかどんだけ変態なんだ』と思っていたのだが」
「それは違う」
「それは違う。ちゃんとあーちゃん先輩のことを思っていると、そう言いたいのか?」
「ああ。…あ、いや待ってくれそうじゃ無い」
「妹の友達に手出してデレデレしてた、で合ってるんだな」
「いや、そっちは違う」
「違うのか。じゃあやっぱり妹の友達によこしまな感情など抱いておらずあーちゃん先輩一筋、ということで合ってるんだな」
「いやだからそれは」
「そうかよしよくわかった。このありのままの真実をあーちゃん先輩にお伝えしよう。きっと喜ぶ」
「真実が歪曲されているので伝えてはいけません! 三枝、ちゃんと説明してくれ!」
「鈴ちゃんごめんね。私達、恭介さんを汚してしまったかもしれない」
「おい!」
 
 鈴さんがまた蔑むような目で恭介さんを見ています。
 
「違う! 違うぞ鈴! 三枝が俺の写真を撮りたいって言うから、どうせならかっこいい写真にしようと思ってだな。写真劇にしようとしたんだ」
「走れメロスみたいな感じにしようと思ったんですヨ。そしたら偶然、こまりんとみおちんが通りかかって。二人ともやりたいって言うから」
「…それで3人がかりで恭介さんを裸にしようとしていたのです」
「いや待て違う」
「違いませんよ。走れメロスってメロスが脱がされるお話じゃ無いですか」
「いや、走れメロスそんな話じゃ無い…」
「女の子3人に脱がされる話は確かに無かったと思います」
「ああそうでした、行きずりの男に脱がされるんでしたっけ」
「脱がせるのが理樹君だったら良かったのですカネ」
「…恭介さん。何嬉しそうな顔してるんですか?」
「ち、違う! 違う違う違う!!!」
 
 鈴さん、蔑む顔から既に呆れた顔になっています。
 
「鈴、お願いだからお兄ちゃんをそんな目で見ないでくれ…」
「そう言われても」
「鈴ちゃん。恭介さんには恭介さんなりの事情があるんだよ」
「うん、まあ。こいつバカなのは昔からわかってたし」
「うわあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
 
 恭介さんは地面に突っ伏して泣き出してしまいました。
 
「すまんはるか、こいつ結局誰に対しても変態バカ兄貴だった」
「イヤ、これに関しては私のせいもありますシ」
「きっと鈴ちゃんを楽しませたかったんだと思うの」
「大目に見てあげたらどうでしょう」
「…まあ、みんながそう言うなら」
「あ。そうだ鈴ちゃん、一応恭介さんの写真は撮ってありますカラ」
 
 鈴は、葉留佳からデジカメを受け取りました。
 
「ん、なんだこれ」
「ああ、一応動画も撮ったのデスヨ。折角ですシ」
「そうか、こういうのも撮れるのか。すまん、あたしのは写真だけだ」
「写真だけでも上出来デスヨ。おお、あの姉が写真に」
「しかもちゃんとカメラ目線だよ」
「二木さんのこんな写真は珍しいんじゃ無いですか?」
「よくやったネ鈴ちゃん」
「…だがその後追い回された」
「え? なんで?」
「それは…」
 
 その時。鈴さんの後ろに、ぜーはー言ってる佳奈多さんの影が忍び寄ったのです。
 
「棗鈴…あなた…意外と逃げ上手なのね…」
「うわっ、かなた! おいつかれた!」
 
 佳奈多さんは鈴さんが持ってるデジカメに手を伸ばしました。
 
「取ったっ!」
「あっ。ちがう、かなたちがうそれは」
「別に全部消したりはしないわ。変な写真を葉留佳に見られたくないだけ」
「イヤお姉ちゃんそのデジカメは」
 
 佳奈多さんは取り上げたデジカメの中身を確認し始めました。
 
『恭介さ〜ん』
『恭介おにいちゃ〜ん』
『恭介兄さん…』
『はははよせよ〜』
 
「…何ですこれ?」
 
 佳奈多さんは傍らで突っ伏している恭介さんを蔑み混じりの目線で見ました。
 
「確かに! 俺の心が弱かった、弱かったのは認める! でもっ、でもっ…!」
「そこまで取り乱されても…」
「あのー。それ、私が鈴ちゃんの為に撮った、恭介さんの写真と動画ナノデ…」
「そういうことね」
 
 佳奈多さんはデジカメを鈴さんに返しました。
 
「いいのか?」
「兄妹のプライベートなことに介入する気は無いから」
 
 そう言って佳奈多さんは、葉留佳さんににじり寄っていきました。
 
「イヤ、待って。今兄妹のプライベートに介入しないって」
「ええそうよ。姉妹のプライベートも一緒ね、だからその写真渡しなさい」
「理屈が飛躍してマスヨ」
「あんな写真葉留佳に見られた上に審査員とかあまつさえ一般公開されるなんて耐えられないって言ってるの! 渡しなさい!」
「そこまで恥ずかしい写真を撮った覚えは無いんだが…」
 
 鈴さんの言葉が耳に届いたのかどうかはわかりませんが、葉留佳さんが逃げ出したので、佳奈多さんもそれを追ってどっかへ行ってしまいました。
 
 
「じゃあ、私達も解散しようか」
「こまりちゃん、この動画編集したい」
「パソコンを使えば出来ると聞きましたよ。来ヶ谷さんや能美さんが詳しいでしょう」
「じゃあ、後でみんなで集まろうかー」
 
 鈴さんと小毬さんと美魚さんは女子寮に帰ってしまいました。
 後に残された恭介さんはしばらく突っ伏して泣いていましたが、一部始終を見ていた3人に助け起こされて男子寮に帰っていきました。
 
 
 
 その後、鈴さんと葉留佳さんの作品は入賞することは無かったのですが、何故か職員室の人達の心を打って全校生徒向けに展示されることになりました。恭介さんと佳奈多さんは珍しく手を組んでこの展示を阻止しようとしたらしいのですが、あーちゃん先輩が権力で握りつぶしてしまったので、阻止は出来なかったのでした。
 
 いい話ですねえ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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