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鈴葉留佳交換条約

 
 ある日の夜のこと。葉留佳さんが、鈴さんの部屋までやってきました。
 
「鈴ちゃん。何も言わず今晩泊めて下サイ」
「やだ」
「じゃあ何か言ってもいいから泊めて下サイ」
「何も言わないから泊まるな」
「…鈴ちゃん酷くないデスカ?」
「そう言われても。だいたい、お前自分の部屋あるだろ」
「自分のと言うか、お姉…佳奈多と四葉ちゃんと一緒の部屋ですけどネ」
「うん。何か問題あるのか?」
「問題が発生したからここに来てるんデスヨ」
「また何かしでかしたのか」
「イヤ、私じゃ無いデスヨ。佳奈多が、ゼリー半分食べちゃったんですよ」
「人のゼリー食べたのか。それは良くないな」
「イヤ、姉のデス」
「なら問題無いじゃ無いか」
「佳奈多のなのに、私のだとか言い張るんですよ。半分食べて」
「…よく意味がわからない」
「でしょう、意味がわからないデスヨ。それで部屋に居られなくなって。出来れば今後の対策とかの相談も乗って欲しいんですケド」
「そーいうのはあたし以外の、くるがやとかみおとかの方がいいんじゃないのか」
「イヤ、今回は同じ妹と言う立場の鈴ちゃんが良いかと」
「…まあ、そういう事なら相談に乗ってやらんでも無いが」
 
 そこで鈴さんは、ちらりと時計を見ました。
 
「あたし9時半に寝るから、それまでだぞ」
「随分早く寝るんデスネ」
「9時に寝るのは子供だがあたしはもう子供じゃ無いから9時半に寝る」
「はあ。まあいいですケド」
 
 そうして、葉留佳さんは鈴さんに、日頃の不満とかいろいろ相談話を始めました。鈴さんはしばらくずっと聞いていて、たまに自分の話もしていました。そして、21時半を過ぎた頃、鈴さんが時計を見ました。時間を確認した鈴さんは葉留佳さんに言いました。
 
「じゃ。あたしもう寝るから」
「ええっ。まだ話途中ですケド」
「9時半までと言っただろう。もう過ぎてる。じゃ、おやすみ」
 
 そう言って鈴さんは、布団をかぶって寝てしまいました。
 
「ほんとに寝ちゃいましたヨこの子…」
 
 葉留佳さんはしばらくベッドの傍らにたたずんでいましたが、鈴さんが起きる様子が無いので諦めて、自分も寝ようと布団に潜り込もうとしました。しかし、それで鈴さんは起こされてしまって、布団を引っ張って葉留佳さんから奪い取ってしまいました。
 
「入ってくんな…あたしにはそーいう趣味はない…」
「そういう趣味って…鈴ちゃんなんか酷い誤解してますヨ…」
「誤解でもいいけどあたしの布団には入ってくるな…」
「いや、だってこの部屋布団それしか無いデスシ…私どうすりゃいいんデスカ」
「知らん…自分でどーにかしろ」
「はぁ。自分でどうにか、デスカ」
 
 葉留佳さんは部屋を見渡しました。そしてクローゼットに目がとまり、開けて中を確認しました。
 
「冬用のコートがあるけど…鈴ちゃんのだからちっちゃいデスネ。…制服の上着も借りますカ」
 
 葉留佳さんは鈴さんのコートと上着を持って空いているベッドに行き、それを体に巻き付けて横になりました。
 
 
 
 そして朝になりました。鈴さんが目を覚ますと、隣のベッドで葉留佳さんが制服を体に巻き付けて寝ていました。よく見ると自分の制服。鈴さんドン引きです。
 やがて葉留佳さんが目を覚ましました。
 
「…何をしている」
 
 鈴さん、防御態勢で葉留佳さんに話しかけます。
 
「何って…寝てたんですケド」
「あたしの制服巻き付けてか。…そういえば夕べもあたしの布団に入ってこようとしたな。やっぱり…」
「イヤ、違いますヨ。布団無しで寝ると風邪ひくし、鈴ちゃん自分でなんとかしろって言うから、布団の代わりになるものかぶってただけデスヨ」
「あたしは、自分の部屋に帰れというつもりで言ったんだがな…」
「だからそれは出来ないって夕べ話したじゃ無いデスカ」
「…あたしは今、はるかがかなたに抱いているのと同じ恐怖心を感じている」
「だからそれは誤解だと」
「これが誤解なら、はるかがかなたから逃げてるのも誤解じゃ無いのか」
「うちの姉の怖さはこんなものじゃ無いんデスヨ」
「夕べ聞いた話だと、うちのきょーすけとそんなに変わらん気がする」
「イヤア。鈴ちゃんも経験したらわかりますヨ」
「あたしも、うちの兄がどれだけ愚かか理解して欲しいと思っている」
 
 そこで2人は顔を見合わせました。そして、何かが通じ合ったかのように、口を開きました。
 
「…ちょっと寮長さんの所に相談に行きますカ」
「うん、あたしも今それを思った」
 
 2人は部屋を出て、寮長さんの部屋に行くことにしました。
 
 
 
「あら珍しい組み合わせ」
 
 女子寮長のあーちゃん先輩は、部屋にやってきた葉留佳さんと鈴さんを見て言いました。
 
「二人してどうしたの? 何か相談事?」
「あたしと葉留佳を交換して欲しい」
 
 あーちゃん先輩は笑顔のまま暫し無言で固まりました。
 
「えっと…ごめんね、哲学的な話から始めたらいいのかしら?」
「イヤ、そこまで難しい話では無くテ。私を恭介さんの妹にして、鈴ちゃんをうちの佳奈多の妹にして欲しい、という話なんデスヨ」
「ああ、そういうことね。でも何でまた?」
 
 葉留佳さんと鈴さんは、これまでの経緯をあーちゃん先輩に説明しました。
 
「なるほどねえ。まあ、面白そう…っと、いい経験になりそうな話だけど」
 
 そこであーちゃん先輩は鈴の方をじっと見ました。
 
「そうなると、鈴ちゃんはかなちゃん達と同じ部屋にしばらく住むことになるわけだけど…?」
「うっ…」
 
 鈴さんがしまったという表情をします。しかし、しばらく考えて、答えました。
 
「…いや。がんばる」
「そう。三枝さんの方は1人部屋だから、特に問題無いか。…別に棗君が壁をよじ登って入ってきたりすることは無いわよね?」
「さすがにそれはないな」
「もしそうならそれはそれでトラップ仕掛ける楽しみが増えますけどネ!」
「うん、今ちょっと不安になったけど。まあいいわ、手配はアタシからしておくから、部屋の移動しちゃっていいわよ」
「ワカリマシタ。…鈴ちゃん、ほんと危なかったら逃げていいからね?」
「う、うん…」
 
 そして2人は、新しい部屋に移ったのでした。
 
 
 
 鈴さんは、女子寮の隅にある佳奈多さん達の部屋の前に立ちました。しばらくずっと立っていたあと、意を決してドアをノックしました。
 
「どうぞ」
 
 応答があったのでドアを開け、そっと中を覗きました。中には佳奈多さんと四葉さんがいました。
 
「どうしたの? あなたの部屋…って事になったんでしょう。入ってきなさい」
「メーリングリストで話は聞いていますから。遠慮しなくていいですよ」
 
 促されて、鈴さんはおそるおそる部屋に入っていきました。特に佳奈多さんに対してかなり警戒している様子です。
 
「…そんなに怯えなくても、別にいじめたりしないわよ」
「はるかが、かなたは怖いことすると言っていた」
「なっ。あの子ったら…」
「大丈夫ですよ棗さん。確かに夕べは葉留佳さんが帰ってこなくてかなりご機嫌斜めでしたけど、今朝方直枝さんを保健室に呼び出した後は、すっかり機嫌が良くなりましたから」
「よ、四葉、ちょっと…!」
「ああ、すみません、私は何も見ていないし知らないことになっているんでした」
「よーわからんが…怖いことされそうになったら理樹を呼べばいいのか?」
「そ、そうね、間違ってはいないわ…」
「なら安心だ。えっと、荷物を置く場所は…」
 
 鈴さんは部屋を見渡して、タンスを見つけ、そっちに歩いて行きました。
 
「あっ。それは…!」
 
 佳奈多が制止しようとしましたが、その前に鈴はタンスの扉を開けてしまいました。タンスの中には、葉留佳の写真が貼ってあって、葉留佳コレクションと書かれた記録メディアの束とか、葉留佳のものっぽい下着だとかが入っていました。
 鈴は、これは一体何だと訊こうとして、ゆっくりと後ろを振り返りました。後ろには、無言で何かのオーラを発している佳奈多が突っ立っていました。鈴は何も言わずゆっくりと顔の向きを戻して、そしてタンスの扉を閉じました。
 
「あたしは何も見なかった」
「そう。助かるわ」
「荷物…。いや、そんなに多くないし、もうベッドの脇でいいか…」
「葉留佳さんが使っているベッドはこっちですよ」
 
 そう言って四葉さんが手で示します。鈴さんはそのベッドまで行って、荷物を置いて座り、ふうと一息つきました。すぐ隣にもう一つベッドが有り、さらに向こうに、ちょっと離れてまた一つベッドがありました。
 
「こっちは私のベッド。あっちは四葉のよ」
 
 そう言いながら佳奈多さんが鈴の隣に座ってきました。
 
「なんで一つだけ離れてるんだ?」
「離れてると言うより、私のをこっちに近づけたの」
「…そうか。で、なんでかなたは自分のベッドじゃ無くてこっちに座ってるんだ?」
「ああ。つい癖でね」
「こっちに座るのがか?」
「時々こっちで葉留佳と一緒に寝てるの」
「…。」
「姉妹なんだし、普通よ」
「だからはるかは普通だと思ってあたしの布団に入ろうとしたのか…」
 
 鈴さんは救いを求めるように四葉さんの方を見ました。
 
「私は何も見ていないし知りませんので」
 
 四葉さんは目を逸らしながらそう言いました。鈴さんは急に不安で胸がいっぱいになりました。これからどうしようと考えることに気が行って、いつの間にか佳奈多さんに頭を撫でられている事にも気づいていませんでした。
 
 
 
 
 一方その頃男子寮では、妹入れ替えの知らせを聞いた直枝さんが、恭介さんの部屋に向かって走っていました。ドアを勢いよく開けて、恭介さんに叫びました。
 
「恭介! なんか大変なことになったよ!」
「どうした理樹。あーになんか大事な話があるから寮長室に来いと言われたが罠だと思って行かなかったんだが、その話か?」
「佳奈多さんに聞いたんだけど、鈴が僕の妹になるって!」
「なん…だと? それはつまり、二木がついに身を引いて理樹を俺に譲ることにしたと、そういう事か?」
「え? いやそういうことでは無いと思うけど」
「そうか。ちょっと母性が強いくらいでは俺と理樹の強固な絆は断ち切れないと、ようやく悟ったか」
「佳奈多さんの母性はちょっとどころで済まない異常さだけどね。って、そうじゃなくて」
「理樹。結婚式はいつにしよう」
「まだ18歳になってないよ。というか、そういう話じゃ無くて。鈴が佳奈多さんの妹になるから、いずれ僕の妹ということにもなる、ってそう言ってきたの」
「なにぃ!? むしろ正反対の話じゃ無いか! おのれ二木佳奈多」
「で、代わりに葉留佳さんが恭介の妹になるって」
「三枝が…? なんだそりゃ」
「あーちゃん先輩がそう決めたって」
「くっそ! やっぱりあーの陰謀か!」
 
 その時、恭介さんの携帯が鳴りました。恭介さんは一呼吸おいて、電話を取りました。
 
「もしもし。あー、三枝か。今なんか変な話を聞いたんだが。…え、その事で話がある。そうか。…電話じゃ駄目なのか? そうか。はぁ? 伝説の木の下で待ってる? お前は一体何を言っているんだ。…ああ、そっちの伝説か。のろし通信網の再現なんて伝説になる程のことじゃないだろ。…ああ、確かにどうでもいいな。わかったわかった、すぐ行くから」
 
 恭介さんは電話を切りました。
 
「理樹。急用が出来た。済まないが結婚式は後回しだ」
「ごめん恭介、僕今佳奈多さんと付き合ってるから」
 
 
 
 恭介が伝説の木の下まで行くと、葉留佳がそこに立って待っていました。
 
「やっと来てくれたね…お兄ちゃん」
 
 恭介は立ち止まり無言のまま静止し、そのまま数秒が経過しました。そして、恭介の目から涙がはらはらと流れ出しました。
 
「うわっ。どうしたの恭介さん…いや、お兄ちゃん」
「頼んでもいないのに、お兄ちゃんと呼んでくれる…そんな人が現れるなんて…生きることの素晴らしさとはこういう事なのかと…」
「イヤまたそんな大袈裟な」
「大袈裟では無い、偽らざる本心だ」
「いやまー、それなら話が早いんですけどネ。えっと、私、鈴ちゃんと恭介さんの妹を交代することになりまして」
「ん、そういえばさっき理樹がそんなようなことを言っていたな」
「あ、知ってたんですネ。まーそういう事なんで一つよろしくお願いしマス。ね、お兄ちゃん」
 
 葉留佳が下から覗き込むようにお兄ちゃんと呼ぶので、恭介はまた感涙にむせび泣き出しました。
 
「もぉぅ、困ったお兄ちゃんだなァ」
「いや、済まない。ところで、わざわざここに呼び出した理由はなんだ?」
「ああそれはデスネ。折角お兄ちゃんが出来たことだし、なんか2人で新たなる伝説を作りたいなー、とか思いマシテ」
「なるほどな。そういうことなら一つ、前からやりたかったことがある。学校中のトイレを、洗浄式に改造するんだ」
「ダブルクリップとゴムホースを用意すればいいんデスネ」
「お、わかってるじゃないか。さすがだな」
「イヤー、実ははるちんも、前からやってみたいと思っていたんですけどネ。1人じゃ出来なくて。ほら、男子トイレとか」
「俺もそうなんだ。しかし今なら実現できる、長年の夢が」
「じゃあ早速実行しますか、お兄ちゃん」
「ああ!」
 
 
 そして暫くして、学校中に怒号や悲鳴がとどろくことになります。
 
「なんだこれホースから水が!」
「クリップ外したらいきなり出てきてびしょ濡れだ!」
「床中ホースだらけで邪魔なんだけど!」
「水道が占領されとるじゃ無いか!」
「水止めろ水!」
「せめて温水にしてよ!」
「水圧強すぎ! 俺痔なのに!」
 
 苦情の嵐をよそに、恭介さんと葉留佳さんは次々とトイレを洗浄式に改造していました。
 
「やべえ…なんか想像以上に楽しいぞこれ…」
「マッタクですよ。今なら世界も狙える気すらしますヨ」
「周りの被害が尋常じゃ無いけどな」
 
 いつの間にか2人のそばに、謙吾さんと真人さんが立っていました。
 
「お。お前らも手伝ってくれるのか?」
「馬鹿者。これ以上被害が出ないように監視してくれと頼まれたんだ」
「あと、ホームセンターで売ってるシャワーノズル使えばいいんじゃね? って意見が来てる」
「本気で使おうとしている人がいるみたいデスネ。ちょっと驚きデスヨ」
「だがそういう事なら出来るだけ要望には応えよう。しかし買うとなると金かかるなあ」
「生徒会か寮会に費用出させられないですカネ?」
「そうだな。じゃあ実績を示す為に、試しに2,3箇所に設置してみるか」
「予算上の問題で諦めるという発想は無いのかこいつらは…」
「そんなものはない!」
「恭介お兄ちゃん、今ならまだホームセンター間に合うヨ」
「よし、善は急げだ!」
「善じゃ無いと言ってるだろう! 行かせるか!」
 
 駆け出そうとした恭介さんと葉留佳さんの前に、謙吾さんと真人さんが立ちはだかりました。葉留佳さんは、とっさにスカートを手で押さえて叫びました。
 
「きゃーいやー。お兄ちゃん、謙吾君と真人君が私のスカートの中見ようとする!」
「なにぃ! お前ら、人の妹になんて事してくれるんだ!」
「はぁ!?」
「いや、んなことしてねーし!」
 
 謙吾さんと真人さんがひるんだ隙に、恭介さんと葉留佳さんは脇をすり抜けてそのまま逃げ出してしまいました。
 
「くそ、しまった! 逃がすか!」
「待て真人、今から追っても追いつけない。上に報告だ。非常事態宣言を出して貰う」
 
 校内にサイレンが鳴り響くのはそれから十数分後でした。
 
 
 
 それより少し前。中庭のベンチに、鈴さんを膝の上に寝かせて座っている佳奈多さんの姿がありました。佳奈多さんは鈴さんの頭をそっと撫でていて、鈴さんは眠そうなとろんとした目をしています。実はこういう状態になってもうかれこれ1時間くらい経っています。
 
「…ずいぶん時間経った気がする。そろそろどいた方がいいか?」
「ううん。もう少しいてちょうだい」
「そーか」
「きつくない?」
「そんなことはない。ふしぎとおちつく」
「そう。なら良かった」
 
 佳奈多さんは鈴さんの頭を撫で続けながら、一呼吸置きました。
 
「葉留佳はこんな事させてくれないのよ」
「そーなのか」
「全然大人しくしてくれないし」
「おとなしいはるかなど想像できん」
「ふふ。それは確かにそうね」
「クドはどうなんだ?」
「クドリャフカ? あの子は大人しくしてくれているようで、いつの間にか立場が逆転してたりするから」
「クドは意外とお姉さんだからな…。あ、そーいえば、あたし9月生まれなんだが」
「あらそう」
「かなたは、はるかと同じで10月生まれだと聞いた」
「そうね。…来ヶ谷さんは3月生まれよ」
「そうだった」
「ところで、あなたはどうなの? 棗先輩と」
「恭介か? あれはほら、へんたいだ」
「そうなの?」
「たまに身の危険を感じる」
「…そう」
「そーいえば、はるかも同じ事を言っていた」
「そ、そう」
「あ。すまん、言ってはいけないことを言ってしまった…」
「ま、まあいいわ」
「うにゅ。でも、この程度なら全然あぶなくない気がする。やっぱりはるかはおおげさだ」
「そうよね。そう思うわよね」
「あ、理樹はどうなんだ」
「直枝? 直枝といるとその…これだけで済まなくなるの。人が見てるといけないから保健室に行くんだけど」
「すまん、訊いてはいけないことを訊いた」
 
 2人とも、無言で、しかしそのままの体勢で暫くそこにいました。
 少し経って、校内に緊急警報のサイレンが鳴り出しました。サイレンに驚いた鈴さんは、がばりと起き上がってしまいました。
 
「!?」
「あら。何かあったのかしら」
「わからん…あ、小毬ちゃんがこっちに走ってくる」
 
 鈴さんが見つけてすぐに、小毬は2人の所に着きました。
 
「大変だからすぐ来てくれと言えと言われました!」
「誰に?」
「あーちゃん先輩とか、風紀委員会の人とか、とにかくもうみんな」
「なんかあったのか」
「恭介さんとはるちゃんが暴れてるの」
 
 佳奈多さんは、ああ、という感じで溜息をつきました。
 
「トイレを全部洗浄式にするって言って。今は、バージョンアップするからってホームセンターに行ってるんだけど。たぶんすぐ戻ってくるから」
「そう。わかった、私が対処するわ」
 
 佳奈多さんはベンチから立ち上がりました。鈴さんも、それに着いていくかのように立ち上がりました。
 
「あたしも行く」
「ん? 別にいいわよ」
「いや。恭介は厄介だから。あたしもいた方がいいと思う」
「そう。なら一緒に来て頂戴。校門で迎え撃つわ」
 
 佳奈多さんと鈴さんは、校門に向けて走り出しました。少し遅れて小毬さんも後を追い出しました。
 
 
 
「あ、佳奈多さんが来た」
 
 佳奈多さん達が校門に着くと、そこには直枝さんや風紀委員の人など数名が待機していました。
 
「よかった、二木なら何とかしてくれる」
「これで勝てる」
「お、ちょうど棗と三枝が戻ってきたぞ」
 
 その声に一同が校門の方を向くと、恭介さんと葉留佳さんが中に入ってくるところでした。
 
「うわっ!? ナンデスカこの騒ぎは!」
「なんですかじゃないでしょう。あなた達が自分で引き起こした事よ」
「ああ。その件でしたカ」
「大丈夫だ二木、シャワーノズル買ってきたから。改良型ならうまく行く」
「そういう話をしてるんじゃありません」
「領収書はちゃんと貰ってきた」
「そんなの経費として認めるわけ無いでしょう」
「実績を見て貰えればわかる」
「その実績が問題だと言っているんです」
「一体何が問題なんだ」
「水道が占有されたりトイレが水浸しになったりそれ以前にそもそも無許可でこんな事して」
「水道の占有は次のバージョンアップで何とかしよう。水浸しは今回の改良で解決する。許可は、今くれ」
「あげません」
「冷たいな…。葉留佳、お前からも頼んでみてくれ」
「…葉留佳…?」
「あ、えーっと、一つ恭介お兄ちゃんの頼み聞いてやって貰えませんカネ」
「葉留佳だなんて、前はそんな呼び方してませんでしたよね。ずいぶんと仲良くなったんですね」
「あ、ヤバイ、何かこっちの話聞いてない」
「ん? ああ、そりゃあ、妹になったんだし。仲良くもなるさ。さっきも一緒に買い物してるときも、なんかすげー楽しかったぞ。うん、新感覚だ」
「…。」
「お、そうだ。買い物してるときに思ったことが一つあるんだ。二木、頼みがある」
「…一応聞きましょうか」
「葉留佳さんを俺に下さい」
 
 超伝導状態でマイスナー効果が発生するかと思うぐらいに、その場が凍り付きました。
 数秒経って、佳奈多さんから発せられる凄まじいオーラが、凍り付いた場を溶かしていきました。
 
「…どういうつもりで言ってるんですか?」
「え? あ、いや、待て、誤解するな。妹としてだ。お兄ちゃんと呼ばれてすげー嬉しかったし、だからこれからも俺の妹として認めて欲しいと」
「…葉留佳は私の妹です」
「いやそれはわかってる。だからな、二木は理樹と付き合ってるだろう、で、理樹は俺のものだから、つまり理樹の妹である三枝葉留佳は自動的に俺の妹ということになるわけで」
「…葉留佳、その人危ないわ。こっち来なさい」
「う、うん」
「待ってくれ、今のはちょっと混乱してただけだ。冷静に、冷静に話し合おう」
「冷静に考えて葉留佳も直枝も私のものです」
 
 そう言って佳奈多さんは、葉留佳さんと直枝さんの背中を押して、恭介さんから遠ざけるように立ち去っていくのでした。鈴さんも、その後を着いていこうとしました。
 
「待て鈴、何でお前まで付いていく!」
 
 鈴さんは振り返り、冷たい目線で恭介さんに言いました。
 
「はるかみたいな妹がいいんだろ」
 
 そう言うと、そのまま佳奈多さんの所に駆けて行ってしまいました。恭介さんは言葉にならない嗚咽を漏らしながらその場に崩れ落ちてしまいました。謙吾さんとか小毬さんとか、その場にいた仲間が慰めても、泣き止みませんでした。来ヶ谷さんが言いました。
 
「恭介氏。私が恭介氏の妹になってやろうか?」
「勘弁して下さい」
「はっはっは。恭介氏は失礼だなあ」
 
 
 
 その後恭介さんは、鈴さんを取り戻す為に、そもそもの事の発端である鈴さんと葉留佳さんを交換する布告を取り消して貰おうと動いたのですが、布告を出したのはあーちゃん先輩なので、結局あーちゃん先輩の所に頭を下げに行く羽目になったそうです。で、そもそも呼び出しに応じていなかった件とかそういうのを口実に、なんかいろいろされたらしいです。
 あと佳奈多さんは、葉留佳さんやクドさんから、佳奈多さんは恭介さんと同類だということを改めて指摘されて、かなりショックを受けていたらしいです。
 
 本当に、妹という存在は、トラブルメーカーで魔物ですね。うふふ。
 
 
 
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