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もしもクドわふたーの氷室憂希がリトルバスターズのメンバーを『弟』にしたがったら

 
 皆さんこんにちは。今日はクドわふたーのお姉さんキャラ、氷室憂希さんのお話です。氷室さんの所為でクドわふがロリペドゲーじゃ無くなったってロリコンさんからは恨みを買ってるかもしれませんね。その所為でしょうか、氷室さんの人気はどうも今ひとつのようです。いつだって強気の態度な氷室さんですが、こればかりはなにげに気にしているようです。その為でしょうか、人気獲得の為のてこ入れ策に乗り出し、提携校からまたわざわざリトルバスターズのメンバーが通う学校にやってきました。
 
 もちろん氷室さんともあろう人が一人で探すなんて非効率なことはしません。協力者の目星はつけてあります。
「私、弟が欲しいの。協力してくれない?」
「はあ」
 捕まってしまったのは西園美魚さんです。いつも影が薄いのに、運が悪いですね。
「あの。そういう事は普通に、ご両親に頼んでみてはいかがですか?」
「両親に頼んでも確実に弟が出来るとは限らないでしょ。妹かもしれないじゃない。私が欲しいのは弟なの
「はあ。弟でなければならない理由は何ですか? 妹ではだめなんですか?」
「妹がいいだなんて妄想です。えろい人にはそれがわからんのですよ」
「…今の発言、私が相手だから良かったですが。もしかしたら近くにいる別の妹持ちの人だったら、とんでもない事態になってましたよ」
「だからあなたを選んだのよ」
「…そうですか。で、何故また弟が欲しいと思ったんですか?」
「思うに、私の魅力ってみんなに十分伝わってないと思うのよね。だからもっと私の魅力を売り込みたいんだけど。で、私の一番の売りっていったら姉系って所だと思うのよね。でも私、困ったことに実の姉では無いのよ。だから今から弟を作ろうってわけ」
「改めて訊きますが弟で無ければならない理由は何ですか? 妹ではいけないんですか?」
「妹持ちの姉だとキャラかぶるじゃ無い。彼女変態だし」
「…私、そんな異常な妹の愛し方してませんよ?」
「いや、あなたじゃ無くて、もう一人の方」
「…さっきはああ言いましたが、誰のことだかわからない、ということにしておきますね。私も自分がかわいいですから」
「そう。じゃあ自分可愛さのために私に協力してちょうだい。とにかく私は弟が欲しいのよ。あなた、適材に心当たりは無いかしら?」
「私に弟を語らせますか…」
 西園さんは暫し考えます。
「…そうですね。弟系といったら、やっぱり一番に上がるのは直枝さんでは無いでしょうか」
「直枝理樹ね。知ってるわ。彼は確か」
「女子寮付属の性奴隷…」
「えっ」
「いえなんでもないです。直枝さんは母性に飢えてるので、優しくしてあげれば割と簡単に落ちますよ」
「落とすというのとは少し違う気がするんだけど…まあいいか。とりあえず彼のいるところに案内して貰えるかしら?」
 氷室さんと西園さんは、理樹のいる場所に向かいました。
 
 
 
 直枝理樹は食堂でソーミンチャンプルー蕎麦を食べている最中でした。
「あれ、氷室さん。どうしたの、また破壊工作に来たの?」
「またって…。私、破壊工作なんてした覚えは無いわよ。したいけど」
「そう? ああそうか、葉留佳さんがいつも破壊工作ばかりしてるから、理系キャラは破壊工作するものって思い込んでたよ」
 理系に対する甚だしい侮辱と偏見です。
「ところであなた…そんな炭水化物と油しか無いようなもの食べて…体に悪いわよ」
「そんなこと言われても。きつねうどんだって天ぷらそばだって、油で揚げた炭水化物が乗ってるようなものじゃない。同じだよ」
「なら副菜を採りなさい」
「次からちゃんとするよ」
「毎日の食生活が大事なのよ、今取ってきなさい」
「…どうしてそんなうるさいこと言われなきゃいけないのさ」
「お姉ちゃん、理樹のことが心配なの」
「え?! ちょっと氷室さん、一体何を言ってるの」
「お姉ちゃん、理樹のことが心配なの」
「2回言わなくていいです、二木さんじゃないんだから」
「あなたが言えって言ったのに・・・」
「そういう意味じゃないです。氷室さんが僕のお姉ちゃんって、どういうことですか?」
「どう考えても直枝理樹は私の弟」
「言ってることは意味不明ですがあなたの思考回路が一般的日本人から著しく乖離していることはよくわかりました」
「ええ。私、テヴァとの混血だから一般的日本人じゃないし」
「…済みませんでした」
 理樹はしょげてしまいました。生意気な口もききますが、基本的に素直な性格のようです。弟としては上出来ですね。
 そんな理樹の脇に、氷室さんが移動します。そしてそっと理樹の頭に手を回し、抱き抱えました。
「え!? ちょっと氷室さん、これ、何? 一体何?」
「弟がしょげてるから慰めてるの」
「いやいやいや、人前で急にこんな事するのって」
「姉弟なら普通よ」
「姉はいないのでよくわかりませんが普通の姉弟は人前でこんな事しないと思います」
「人前でなければいいのね。保健室にでも行く?」
「いろんな意味で危ないです!」
「某姉みたいな事はしないわよ」
「某姉というのが誰のことはわかりませんが、とにかくやめてください。」
「ただでやめろと言うの?」
「いつの間にか脅迫になってる!」
「姉というのは脅迫をする生き物よ。さあ交換条件を出しなさい」
「親の遺産が目当てなら今は自由になりません」
「別にお金が欲しいわけじゃないんだけど…。そうね、じゃあ何か人の役に立つことをしなさい」
「靴磨きとかですか?」
「いいわね、靴磨き。全校女子生徒の靴を磨いてきなさい」
「却下されると思って言ったことが採用された!」
「素直に姉を信用しないからよ。さあ靴磨き靴磨き」
「変な人だと思われます…」
「何か言われたら、お姉ちゃんの命令です、っていいなさい」
「違う意味で変な人扱いされそうなのは気のせいですか?」
「気のせいよ。ああそうそう。私の名前出してお姉ちゃん命令ということにするわけだから、これからは私のことちゃんとお姉ちゃんと呼ぶのよ」
「横暴だ…」
 そう言いつつも、理樹は靴磨きの旅に出かけていきました。
 
 
 
 
 氷室さんは隅っこで様子をうかがっていた西園さんのところに移動しました。
「満足しましたか?」
「いいえ」
 氷室さんは即答しました。
「直枝さんでは不満ですか? 確かに甘えん坊ぽくて、王子という感じではないですけど」
「別に王子である必要はないんだけどね。もっと違うタイプの弟も欲しいのよ」
「美麗な眼鏡紳士みたいな感じですか? 鳳咲夜みたいな」
「うーん、そういうのじゃなくて。なんかこう、もっとワイルドな感じな」
「ワイルド、ですか。それでしたらうってつけの人が」
 西園さんは氷室さんを中庭に連れていきました。
 
 
 
「筋肉! 筋肉! 筋肉はATPで動く! アデノシン三リン酸! 生物の勉強も一緒にできる筋トレって最高だぜ! そう言えばリン酸ってなんだ? 鈴と何か関係があるのか? そうか、猫から臭うあれのことか、酸って臭うもんな」
 中庭では井ノ原さんが筋トレをしていました。
「ワイルドって狂気って意味もあるんだったかしら?」
「狂気なら氷室さんとお似合いじゃないですか」
「…私、根っこの部分では理性を維持してるつもりよ。これでも軍士官で宇宙飛行士候補なんだから」
「そうですか、それは失礼しました」
 西園さんは少し目を閉じて、そして続けました。
「それで、井ノ原さんはどうしますか? 弟にするのはやめておきますか?」
「まあ、折角だからとりあえず弟にしておくわ。別に給料払わなきゃいけないわけでもないし」
「弟によっては姉に小遣いせびったりしますよ。井ノ原さんはそういう人ではないと思いますが」
「せびった分だけ働かせるからいいわよ。彼なら道路工事とか平気そうだし」
「民主党政権になって道路工事はどれだけ減ったんでしょうね…」
「ま、そういうことは実際弟にしてから考えるわ。ちょっと行ってくるわね」
 そう言って氷室さんは、井ノ原さんの元に歩み寄りました。そして上から目線で言いました。
「お前のトレーニングの所為で筋肉が泣いている」
「な…なん、だと…?」
 井ノ原さん、ちょっとショックを受けています。
「俺の筋トレが間違ってるって言うのかっ!? ほらみろ、これだけ立派な筋肉がついてるというのに!」
「その筋肉は役立たずよ」
「なにぃ! 俺の筋肉を馬鹿にするって言うのかっ!」
「残念だけどそういうことになるわね」
「チクショウ…脳を馬鹿にされるのは許せても、筋肉を馬鹿にされるのは許せねえ。謝れ!」
「謝るのはあなたの方よ、無駄に育ててしまったあなたの筋肉に対してね」
「む、無駄だと! 何を根拠に!」
「論より証拠、の方があなたにはわかりやすいかしら。試しに私に襲いかかってきなさい。軽くあしらってあげるから。私これでも士官学校出だから、全力でかかってきなさい。何の遠慮もいらないわよ」
「へっ。じゃあ、怪我しない程度に後悔させてやるぜ」
 そう言って井ノ原さんは氷室さんに掴みかかり、投げ飛ばそうとしました。
「…よっ、と」
 その井ノ原さんを、氷室さんは体を捻ってかわし、逆に地面にはたき落としました。
 地面に這いつくばらされた井ノ原さんは、しばし何が起きたかわからず呆然としていました。
「…何が、起きた? 俺今、結構全力で掴みかかって…」
「筋肉というのはね。使うと決めた部分に必要十分な量だけを付ければいいの。それ以上は付けても無駄、むしろ余計な質量で動きを鈍らせるだけよ。関係ない場所にごてごて付けまくるなんてもってのほか」
「そ、それで無駄筋肉だと…」
「そうよ。あなたは筋肉を愛していると言いながら、実際には筋肉を犬死にさせている。いいえ、飼い殺しと言った方がいいかしら」
「俺は…筋肉にそんなひどいことを…。俺は一体どうすればいいんだ」
 井ノ原さんは地に両手をつきながら嘆いています。そんな井ノ原さんの肩に、氷室さんが手を置きました。
「大丈夫。これからしばらく、私が指導してあげるわ。」
「いいのか? こんな俺を指導してくれるというのか…?」
「ええ。私を姉と慕うのなら、いくらでも指導してあげるわ」
「いくらでも慕わせてくれ、姉貴と呼んでいいか?」
「結構よ」
 こうして氷室さんは、井ノ原さんも弟にしてしまいました。
 
 
 
 
 氷室さんは再び西園さんと合流しました。
「…さっきから私、何もしてませんけど」
「いいのよ。次は働いてもらうから」
「まだ満足しないのですか。どれだけ弟好きなんですか」
「まだ二人じゃない。12人とか欲しがってるわけじゃないでしょう」
「普通に一人の弟を溺愛するという発想はないのですか」
「ないわね。というか、溺愛って時点で普通じゃないでしょう…」
「そうですか…」
 西園さんはなぜか黙ってしまいました。
「さて。3人目は誰がいいかしら?」
「順当なところで、宮沢さんでしょう。ですが、宮沢さんは井ノ原さんのようなやり方ではうまく行きませんよ? 我流でないちゃんとした剣道の達人です」
「そう。堅物なのかしら?」
「堅物と言えば堅物ですね、見た目だけは」
「そう。なら逆の方法がいいわね。準備ができたら彼を呼んできてちょうだい」
 
 西園さんが宮沢さんを連れてくると、そこにはあからさまに見てわかる落とし穴が作ってありました。
「…何がしたい」
 宮沢さんが訊ねます。当然の疑問です。
「あなたをこの落とし穴に落としたいの」
「それは見ればだいたいわかる。なぜそういうことをしたいのかまで説明してもらおうか」
「論理的に説明するのが難しいわ」
「…貴様、提携校からきた氷室憂希だろう。生粋の理系と聞いている。そのお前が論理的に説明できないとは如何なる事か」
「説明できないものはどうしようもないわ。それともカルト宗教よろしく、非論理的な憶測にすぎないことをあたかももっともらしい実証理論であるかのように語ればいいのかしら?」
「何もそこまでは言っていない。だがそうなると、こちらとしても勝手な憶測で解釈をせざるを得なくなるぞ。すなわち、お前はさしたる意味もなくよその学校の敷地に穴を掘って男子生徒を落とそうとするアブナイ女、という解釈をしていいのか?」
「…あたしってね。ふだんはまじめで世間知らずな堅物女と思われてるの」
「えっ」
 西園さんが思わず声を上げますが、氷室さんはかまわず続けます。
「でもね。そんな生活を送ってるとたまに、ちょっぴりアブナイお姉ちゃんになってみたいかな、って衝動に駆られるのよ」
「俺はあんたのことはあまりよく知らないが、何となくちょっぴりどころでは済まないという察しはつくぞ」
「じゃあかなりアブナイお姉ちゃんでかまわないわ」
「ああそうかい。だが俺はそんな奴には関わりたくないな」
「あらそう。ちなみに、お姉ちゃんと言うからには弟か妹がいるものだと思うけど、誰だと思う?」
「知るわけ無いだろう」
「直枝理樹よ」
「は? 何を言っている、あいつは一人っ子だぞ。それとも同姓同名の脳内弟か?」
「脳内弟や脳内妹を馬鹿にするような発言は控えた方がいいわよ。まあそれはいいとして、直枝理樹は脳内弟じゃないわ、義理の弟、義姉弟の契りを交わした間柄、とでも言えばいいかしら」
「なに、理樹がお前と!? そんな馬鹿な」
「馬鹿でも秀才でも、これは事実よ。ここにいる西園さんが証言してくれるわ」
「氷室さんは直枝さんを抱きました。公衆の面前で」
「…意味がよくわからん」
「直枝さんはアブナイ姉の餌食になろうとしている、と解釈してもらって差し支えありません」
「ふざけるなあぁっ!!! 理樹は渡さん」
「理樹は渡さんじゃなくて直枝さんよ」
「意味のわからんことを言うな! 理樹を解放しろ」
「第3者に姉弟のことをごちゃごちゃ口出しされたくはないわ」
「な…! お、俺だって理樹の兄のようなものだ」
「ようなもの、では口出しは認められないわね。私たちは実際に姉弟なんだから」
「なん…だと。いや、待て。お前と理樹だって、所詮は義姉弟だろう。だったら俺と理樹だって義兄弟だ。恭介と俺と理樹と、3人で桃の節句に誓いをたてた!」
「そのとき鈴さんはどんな顔をしていたのでしょうね…」
 真人さんがスルーされていることには誰も言及しません。
「そう…。あなたは理樹と義兄弟、と。そう言いたいわけね」
「そうだ。だからお前なんかには」
「じゃああなたも私の弟ということになるわね」
「は? なんでそうなる」
「あなたは理樹と義兄弟。理樹は私と義姉弟。乃ちあなたと私も義姉弟。私の方が年上だから、私が姉であなたが弟。OK?」
「いや、そういうことを言いたかったんじゃ…。どうしてこうなった」
「慢心、環境の違い」
「慢心、か…。確かに俺の心の中には、理樹はいつも俺のそばにいて当然という驕りがあったやもしれん…」
「気づけばいいのよ。それに理樹は、何もあなたから離れたわけじゃないわ。私のことを姉と慕うようになっただけで、あなたとの関係が壊れたわけじゃないわ」
「そうか…。どうやら俺は勝手に自暴自棄になっていたようだ。まだまだ未熟者だな。それに気づかせてくれた、あなたはやはり姉と呼ぶに相応しい」
「気軽にお姉ちゃんと呼んでくれていいのよ」
「いいえ、姉上と呼ばせてください!」
「まあ、好きにすればいいけど…。」
「現実に姉のことを姉上と呼ぶ人っているんでしょうか…?」
 そんなこんなで、氷室さんは謙吾さんも弟にしてしまいました。
 
 
 
「もういい加減満足でしょう?」
 寮に向かう道すがら、西園さんが訊ねます。
「まだよ。棗恭介が残ってるわ」
「棗先輩、ですか?」
「さっきの話で棗君も義兄弟という話がでてたでしょう。折角だから確保しておきたいじゃない」
「はあ。でもあれはたぶん宮沢さんの口から出任せ…」
「わかってるわよ。けど本人を納得させてしまえば何の問題もないわ」
「確かに究極的にはそうなんですけど…。しかしさすがに棗先輩は強敵ですよ? 何より妹大好きのシスコンですし…はっ、まさか、鈴さんを人質にとって…!」
「あなたも相当大胆なこと考えるわね…。いくら何でもそこまでしないわよ、時間をかけてゆっくり説得する方向で行くわ」
「時間をかけてって、具体的にどれくらいの時間を想定していますか?」
「まあ、一晩ってところかしら」
「…それってある意味、軟禁して脅迫してるのと一緒ですよね…?」
「問題があると思うなら、寮長でも何でも呼んでいいわよ」
 
 
 二人が恭介さんの部屋に着くと、そこには既に寮長がいました。男子寮長ではなく、女子寮長の方です。佳奈多さんじゃ無い方です。
「に、西園に、提携校からきた氷室憂希だな。助けてくれ、助けてくれ…」
「珍しいですね、棗先輩が救援を求めるなんて」
「人は助け合って生きて行くものだって事くらい、彼はわかってるわよ」
「でも私、今日は手持ちがあまりなくて…樋口さんくらいしか貸せません」
「私も、基本カード使うから現金自体持ってないのよね…」
「誰がカネの話をしているっ! この状況を見て理解してくれ!」
 二人が改めて恭介さんの方をみると、女子寮長のあーちゃん先輩が恭介さんにのしかかって服を脱がそうとしていました。
「うん、まあ、わかってたんだけど、なんか現実から目を逸らしたくなって」
「しかし傍らでこれだけ大騒ぎしてるのにわき目もふらず服脱がそうとしてるあーちゃん先輩も大したものですね」
「さすが陰で、実は学園最強と噂されるだけのことはあるわね」
「表の最強といわれる棗先輩を倒す…まさにスクールレボリューションですね」
「誰がうまいこと言えと…いやいいから助けてくれ、助けてください」
「しょうがないわね…」
 氷室さんは軽くため息をついて、恭介さんにのしかかるあーちゃん先輩に歩み寄り、肩を叩きました。
「…何よ。今いいところだから邪魔しないで」
「いいところなのは見ればわかるけど、小姑としてはこのまま見過ごすわけには行かないのよねえ」
「小姑…? 誰が小姑よ」
「あなたの事じゃないわ。私が、よ。私は棗恭介の姉、だからあなたにとっては小姑になるのよ」
「姉って何よ。どういうこと? 棗君に妹はいても姉がいるなんて話聞いたこと無いわ」
「そりゃそうでしょうね。つい15分くらい前にそうなったばかりだから」
「は? なにそれ」
「あ、文句は宮沢君に言ってね。彼の発言の結果こう決まったから。」
「宮沢君の…? じゃあ棗君の同意は得てないのね」
「まあ、事後承諾ということで」
「そんなおかしな話、棗君が承諾するはず無いでしょう」
「そうかしら? 棗君、このまま彼女に好きなようにされるのと、突然口うるさい小姑が出現して逃げ出す隙ができるのと、どちらがいい?」
「くそ、なんだか究極の選択を迫られている気分だぜ…」
 恭介さんは悩んでいます。
「そう。じゃあ訊き方を変えるわ。あなたは直枝理樹と宮沢謙吾と井ノ原真人を、信じる?」
「当然だ。俺は神は信じずとも友達は信じる男だ」
「今私がここにいてあなたの姉を名乗っているのは、彼らの行動の結果なのよ」
「何?」
「まあ、確かに嘘ではありませんが…」
 西園さんが小声で呟いています。
「そうか。あいつら…あいつらなりに一生懸命考えて対策を練ってくれたんだな…。チクショウ、ならば俺はその好意を無にすることなどできない! 出来るはずが無いッ!」
 恭介さんは恭介さんで勝手に解釈して突っ走っています。
「わかった氷室憂希、今からあんたは俺の姉だ。いや、姉に向かってあんた呼ばわりはないな、姉さんでいいだろうか?」
「いいわよ。じゃあお姉ちゃん、ちょおっと恭介の彼女さんとお話がしたいんだけど、連れてっていいかな?」
「はいどうぞお気に召すままに」
「話ならここでもいいじゃないのよ」
「西園さん、ちょっと手伝って」
 氷室さんは西園さんと一緒にあーちゃん先輩の両肩を抱えて、そのまま部屋の外に連れ出してしまいました。
 
 
「…何するのよ」
 部屋の外に連れ出されたあーちゃん先輩は、ものすごく不満そうです。
「そう言わないの。恭介が姉と認めた私と仲良くしておいて、損はないわよ?」
「今現実に損してるんですけど」
「そうでもないわよ。これ、さっきの会話を録音しておいたものなんだけど」
 そう言って氷室さんはICレコーダーを取り出します。
 
『いいわよ。じゃあお姉ちゃん、ちょおっと彼女さんとお話がしたいんだけど、連れてっていいかな?』
『はいどうぞお気に召すままに』
 
「この会話。恭介はあなたのこと彼女呼ばわりされて、否定してないでしょ」
「…まあ、そういう解釈もできるわね」
「この録音データ、あなたにあげるわ。なんなら学園中に配布して既成事実作ってあげてもいいわよ」
「あいつ、既成事実なんて簡単にひっくり返しそうなんだけど」
「それが理樹謙吾真人の3人組が作った既成事実でも?」
「えっなに。あなた、あの3人にまで手回してるの?」
「回してるというか、弟にしちゃったのよね」
「…何となくアブナイ香りがするんだけど…」
「弟と聞いてアブナイとか言い出すあなたの思考の方がアブナイわよ」
「赤の他人を弟にするのは十分アブナイと思うけど」
「まあそう思いたいならそれでもいいけど。とりあえず、棗恭介も弟になったから、あなたは私の妹ということになるわね。」
「えっ」
「弟の嫁は妹とみなして差し支えないでしょう?」
「…にゅふ。そうか、そういうことにしておけばいいのね。理屈とかそんな事は脇に置いといて」
「理解して貰えて嬉しいわ」
「では、これからは憂希お姉さまとお呼びすればよろしいかしら?」
「タイとミャンマーとベトナムの区別は付いているかしら、亜麻乃」
「しっかり覚えておきますわ」
「あの。あーちゃん先輩って亜麻乃って名前なんですか…?」
「だって本名知らないもの」
「城桐がKeyの主導権を握るようになったら公開されるわ。にゅふふ」
 
 
 
 恭介さんを弟にしたどころか、妹まで作ってしまった氷室さん。上機嫌で歩いています。
「さすがに満足したでしょう」
「そうね。腹八分目といったところかしら」
「八分目って…まだ満腹じゃないんですか。あなたの弟欲は底なしですか」
「弟欲って言葉も初めて聞いたけど…」
「一瞬性欲と言いそうになりましたが、さすがにまずいと思ったので」
「聞いた感じ似たようなものに聞こえるんだけど…。まあいいわ、じゃあその弟欲、徹底的に満たしてやろうじゃないの。今度はインモラルな方向で」
「インモラル…と言うと、バイオ田中さんあたりを狙うのですか?」
「あれは彼が変な人なだけで、彼を弟にすることがインモラルとは言い難いわ」
「じゃあ、一体誰を? 率直な話、男の子もういませんよ?」
「いいえ、いるでしょ。リトバスには出てこないけどクドわふに出てくる、本名不祥な小学生の男の子が」
「ああ、けーくんですか」
「……」
 西園さん、口元を押さえて嗚咽を漏らすように泣き始めました。
「…どうしたの急に?」
「いえ。このSSの筆者が、あまりにもかわいそうな人だと…」
 
 
「で。どうやってけーくんを落とすんですか? 最近は迂闊に小学生に近づくと、通報されますよ?」
「そうね。ここは一つ、間接的手法でいこうかしら」
「間接的?」
「まあ、さっきの棗恭介や宮沢謙吾の時の応用よ。あの子のお姉さんを、私の妹にするわ」
「けーくんってお姉さんいましたっけ…?」
「本物がいるかどうかはわからないけど、おそらく将来お姉さんになると予想される人はいるでしょう?」
「でしょう? と言われましても。私その辺の事情あまりよく知りませんし。誰ですか?」
「有月初さん、有月椎菜ちゃんのお姉さんよ。けーくんは椎菜ちゃんのことが好きなの」
「はあ。それって、椎菜ちゃんの方はどうなんですか?」
「さあ?」
「さあって…。まずそもそもの前提条件がいきなり崩れてるじゃないですか」
「物事を進める手法としては、演繹的手法と帰納的手法があるのよ。今回は帰納的手法。まず初さんを私の妹にする。そうすれば椎菜ちゃんも同時に私の妹になる。私は姉として椎菜ちゃんとけーくんの仲を取り持ち後押しする。そうすれば、けーくんは私の弟になる」
「…どことなく騙されたような気分になるのは何故なんでしょう」
「そういうわけで、まずは初さんを妹にしに行くわよ」
 
 
 
「てことで有月さん。私の妹になりなさい」
 氷室さんと西園さんは、有月さんのバイト先の喫茶店に押し掛け、もとい客として来店しています。
「はぁ?」
 ふつうに店員として応対しにきた有月さん、漫画で描く白丸のような目をしてしまっています。
「あの、お客様。このような制服の為に時々誤解されるお客様もいらっしゃいますが、当店はそのような店ではありませんので…」
「客として言ってるんじゃないの。個人的なお願い。仕事中じゃまずいというなら、終わるまで待つわよ」
「あの…話が全く見えないのですが…」
「…仕方がないですね。氷室さんが話すといろいろ変な方向に脱線しそうな気がするので、私が順を追って説明しましょう」
 そう言って西園さんは、これまでの経緯を有月さんに説明しました。
「なるほど…」
 事情を理解した有月さんは、そっと目を閉じて頷きました。そして一呼吸おいた後、ものすごい剣幕でまくし立て始めました。
「あなた達は、兄弟姉妹というものをなんだと思ってるのですか! 妹や弟はおもちゃじゃないんですよ! 確かに、ふつうではあり得ない度を超したいたずらや喧嘩をすることはあります! でもそれは、お互いがただの他人ではない、分かちがたい強い絆と信頼があると心の底からわかっているからこそやれることなんです! あなたが私たちとそういう間柄になることを望んでいるというのなら、考えもします。でも違うでしょう!? ただ軽い気持ちで、率直な話悪ふざけレベルの理由で、私たちを妹にしようとしてるんじゃないですかっ!! そんなもの、認められるどころか軽蔑するレベルですよ! 私だけならまだいいです、こうやってあなたに怒鳴りつけることもできます。でも椎菜やけーくんまで巻き込もうというのは、最低としか言いようがありません! 私は椎菜の姉として、あなたのほうな人を椎菜やけーくんに近づけさせる気はありません!」
 そして有月さんは、ふうと一呼吸おいた後、言いました。
「お客様、失礼いたしました。どうかごゆっくり」
 
 
 
 店から出た二人は、言葉少なげに学校への道を歩いていました。
「…怒られてしまいましたね」
「ん。まあ、当然よね。調子に乗りすぎた、というより、そもそも私に姉になる資格なんて無かったのかもね」
「なにもそこまで。世の中には、子供がいても親失格だったり主人公なのに人間失格だったりする人もいるんですよ。それに比べれば」
「そんなのと比べられてもね…」
 わずかながらも言葉を交わせるようになった頃に、校門の前につきました。校門前では、直枝理樹・井ノ原真人・宮沢謙吾・棗恭介の4人、つまり氷室さんの「弟」達が膝をついて待ちかまえていました。
「姉さん、また校内で変な噂が立ってるんです。棗恭介は麻宮亜麻乃の嫁とか、意味がわかりません。たびたびすみませんが何とかしていただけないでしょうか」
「…あー。たぶんそれ私の所為だわ」
「そんな! 姉さんひどいじゃないですか!」
「姉上。真人に聞きました、武術の腕もなかなかのものだとか。是非俺にも、剣術の手ほどきを」
「いやあたし、士官学校で習った最低限の護身術しか知らないし。剣道であんたにかなうはずないし」
「ではその護身術の極意を教えてください、そのかわり俺が剣道の手ほどきをします。それが姉弟というものでしょう」
「姉貴、腹減った」
「自分で何とかしなさい。これも指導のうちよ」
「」
「お姉ちゃん、女子生徒全員は無理だったけど、殆どの人の靴磨いてきました!」
「…そう。ほんとにやったの。それはご苦労様」
「磨こうとしたら蹴り飛ばされたりしたけど、僕がんばったよ!」
「蹴り飛ばされたって…靴磨くだけで蹴り飛ばすとかあり得ないでしょう、なにやったのよ」
「スカートの中覗こうとしたと思われたみたい」
「あなた…まさか、何も言わずいきなり歩いてる女子生徒の靴を磨こうとしたの?」
「歩いてません、立ち止まってました」
「いや、そういう問題じゃなくてね…あー何か頭痛くなってきた」
 額を押さえて憂鬱な表情をしている氷室さんに、「弟」達は口々にお願いしたり甘えたりしてきます。まあ、ある意味姉の宿命ですね。そんな氷室さんを、西園さんが彼女なりのニヤニヤ顔で見つめています。
「…西園さん。姉の先達として、この状況を何とかしては貰えないかしら?」
「あなたが結婚すれば弟たちも姉離れしますよ、たぶん」
 
 
 
 
 
「…それで今度は、校内で婿捜しを始めていると?」
「はい。自分の学校だと本気で夫婦になりたがる男の人ばかりなので、こっちで探していると…」
「本当に困ったことばかりする人ね」
「根は悪い人ではないのです…」
「悪い人じゃない、ね。発言の節々にもいろいろ問題があるようだけど」
「それは…確かに佳奈多さんのこといろいろ無茶苦茶言われてますが、それはきっと氷室さんなりの親近感というかですね…」
「そうじゃないわ!  そこじゃなくて、妹より弟の方がいいとか、あり得ないでしょうっ!? そう思わないクドリャフカ」
「そんな事で同意を求められても困るのです…」
 
 
 
 
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