こんにちは、有月初です。鍵っ子でない方にはお馴染みでないかもしれませんが、クドわふたーに出てくる有月椎菜の姉です。鍵っ子なら当然ご存じですよね? え、知らない人もいる? どうしてですか、クドわふたーやってないんですか? 10万本売れたはずですよ? え、10万本は出荷本数であって、実際はソフマップで投げ売りされた位だから買ってる人はもっと少ないんですか? そうなんですか…。
まあいいです。今回私、ある実験を依頼されました。知らない番号で電話をかけまくって欲しいそうなんです。実験に協力したら使った携帯電話はくれると言われたんです。私、貧乏だから携帯電話は持ってないと思われてたみたいです。失礼ですよね。私だってそれくらい持ってます。確かにお金無いですけど、でもバイト先から急ぎの用事とかあったときに、困るじゃないですか。
ウィルコムですけど。
だって、ウィルコム安いじゃないですか。ドコモとか、料金ふざけてますよね。そのくせ細かい障害多いしユーザーサポートも悪いんですから。最近は仕様ですで押し切るらしいですけど。ちなみに今ウィルコムはオプション付けると国内どこでもかけ放題になるそうですね。私は付けてないですけど。普通の定額プランです。…電話機代考えると、通常プランより安くなるんです。これで1,450円ですよ。月2時間バイト増やせばまかなえます。
ウィルコムは人に優しいんですよ。鶏肉と一緒ですね。
…何ですか、チキンだからソフトバンクになんか乗っ取られるんだとか。
まあいいです。ところで依頼人から、ウィルコムならSIM単体で買えるからって言って、新しいW-SIMを渡されちゃいました。ウィルコムのSIMは特別なんだ、SIMが通信機能を持ってるんだ、って力説されちゃいました。どうでもいいことの気がしますけど。
とにかく、これで新しい電話番号が用意出来ました。知り合いにかけても、番号で私だとはわかりません。さあ、みんなどんな対応を取るのでしょうか。
そうですね、まずは無難なところで、寮長にかけてみましょうか。…今の寮長って、二木さんとあーちゃん先輩どっちでしたっけ? SSの設定がリトバスなのかクドわふなのかで違ってきますけど、そもそもこのSSってどっちのSSなんでしょう?
まあいいです、とりあえずあーちゃん先輩にかけてみましょう。
5コールで取ってくれました。
『誰? 番号変えたならメーリングリストで知らせてって、周知してあるはずでしょ』
「あ、すみません。有月です。えと、今事情があって他の電話からかけてまして…」
『他の電話? 何で?』
「あの、バイト先の店長が、電話代大変だろうからってフル定額プラン付きの新しい電話機くれて、それで…」
『…気をつけた方がいいわよ。その店長、あなたに気があるかもしれないから』
「そうですね。ご忠告ありがとうございます」
『そうよ、気をつけなさいよ。ところで要件何?』
「あ、はい、氷室さんの件で…」
『あー、氷室さんね。関わるなとは言わないけど、まあ適当にあしらっておいていいから。まあ、あなたが関わることはないと思うけど』
「…そうですね」
『そんだけ?』
「はい。ありがとうございます」
とりあえずあーちゃん先輩は知らない番号も取るみたいです。管理責任者の性として、取らないわけにはいかないのでしょうね。
では次は、二木さんにかけてみます。
…留守録モードになりました。とりあえずメッセージ入れておきます。時々留守録にメッセージ入れない人がいますけど、あれって失礼ですよね。そういう人に限って「メールは電話より失礼」とか意味不明な事言ったりするんです。常識は一つじゃないということを理解して欲しいですね。あ、メッセージメッセージ。
「すみません、有月です。お忙しいようですのでまた後で」
『もしもし有月さん? 番号違うからわからなかったわ』
メッセージ入れてる途中で取ってきました。
「あ、はい。ちょっと事情がありまして…」
二木さんは留守録のメッセージで相手が誰なのか確認してから取るタイプのようです。
『葉留佳…三枝葉留佳がたまに全然知らない番号でかけてくるから、完全無視するわけにはいかないのよ…』
「三枝さんですか? 噂には聞きますけど、そんないたずらするんですか?」
『それが本人には悪気はないのよ。海外の珍しい番号をゲットしたとか何とかで、かけてくるのよ。どういう手段でかけてくるのか知らないけど』
「はあ…大変ですね。無視していいんじゃないですか?」
『そんな、葉留佳の電話を無視だなんて! …いえ、あのね、もし私が取らないで、三枝葉留佳が他の生徒にいたずら電話をかけるようになったら困るでしょ』
「はあ、そうですね」
『だから私は仕方なく、仕方なく三枝葉留佳からの電話を取っているの。わかる?』
「そうですね、わかったことにしておきます」
『ところで、要件は何かしら?』
「はい、氷室さんの事で…」
『氷室さんねえ。氷室さん…』
三枝さんだけでなく氷室さんの件でも何か苦労しているみたいです。
次は能美さんにしてみましょう。…あれ、能美さんの番号も先頭070なんですね。意外です。
『わふー! どなたですかっ!?』
コールする間もなく取りました。しかも異様にテンション高いです。
「あの、有月です。すみません急に…」
『椎菜ちゃんのお姉さんですね! 初さんもウィルコムだったとは知りませんでした! 感激です! 数少ないウィルコムユーザーがこんな身近にいたなんて!』
「の、能美さんもウィルコムなんですね。実は今日初めて知りました」
『はい。私は、国産技術でOSはTRONなウィルコムを使い続けているのですっ!』
「あなた帰国子女だし、国際規格のauでも使ってるのだと思ってたけど…」
『はっ! そ、それもそうですね。はぅ〜、どうしましょう。私としては、カメラ付き携帯を世界で最初に出して、スマートフォンも日本で一番最初に発売したウィルコムを応援したいのですが…。それに椎菜ちゃんもウィルコムですし…』
確かに、うちはウィルコムで統一してますからね。ウィルコム同士通話無料ですから。
「あの、別に強要とか期待とかしてるわけではないですから…。そもそも私自身ウィルコムですし」
『そうですよねっ! 病院や電車の中でも使っていいですし、ウィルコム最高ですっ! わふー!』
テンション高いですね。なんなんでしょう。
「あの、ところで能美さん、こちらのコール音がする間もなく取りましたけど、いつもそんなに電話取るの早いんですか?」
「いえ、普段は知らない番号からかかってきたら取りません。でも今回は070だったので…数少ないウィルコムユーザーからかかってきたかと思うと、取らずにはいられなかったのですっ!」
それでテンションも異様に高いのですね…。
『あの、それでどんなご用件なのですか?』
「あ、はい、氷室さんのことで…」
『氷室さんですか。あの人はきっと、全キャリア持ってますよ。前にイリジウム端末を見せて貰ったことがあります』
さて、次は誰にしましょうか。え、ここでちょっと男の子を試して欲しい? そうですか、では、直枝さんにでもかけてみましょうか。
え、なんで直枝さんの電話番号知ってるのかって? それは、椎菜と仲良くして貰ってるから、その関係でですよ。そう言いつつ気になってるんじゃないかって? そうですね、全く気にならないと言ったら嘘になります。でも直枝さんって、誠実で頭もそこそこいいですけど、爆弾レベルの持病抱えてるって話じゃないですか。ちゃんと就職出来るんでしょうか? いえ、私は何も、年収1000万とか求めてるわけじゃないですよ。ただ、子供が出来る頃には年収350万はないと…。共稼ぎでもそれくらい無いと厳しいですよね。子供に貧乏な思いはさせたく無いじゃないですか。日本の大学は無料どころかとんでもなく授業料高いですし。
…え? 直枝さん親の遺産があるから、生活面の心配はあまりしなくていい? そうなんですか。ちょっと考えさせてください…。
え? 何を考え直すのかって? そうですよね。意味のわからない言動をしてしまいました。すみません。
とにかく、直枝さんにかけてみます。
16コールで取りました。少し迷ったみたいですね。
『あの、どなたですか?』
「あの、有月です。すみません突然」
『有月さん!? どうしたの急に。まさか椎菜ちゃんに何か…』
「椎菜はいつも通りです。今日も塾に通ってます」
『そうなんだ、よかった。下手に宇宙飛行士を目指すよりも大金稼いでロシアのロケット買って宇宙旅行する方が可能性が高いということに気づいてFXにのめり込み始めたら菅政権の予想外の行動で相場が急変してロスカットで大穴開けちゃったんじゃないかと心配しちゃったよ』
「あなたが何を言っているのかよくわかりません」
『…ごめん、僕もよくわからないや』
直枝さん、やっぱりちょっとどこかずれているようです。
『ところで、椎菜ちゃんの事じゃないなら、要件はなんなの?』
「あ、はい、その、氷室さんが…」
さて、次は誰にしましょうか。読者のニーズに迎合して人気ランキングで選べ? そうですか。人気1位って誰でしたっけ? 朱鷺戸沙耶さんですか。…幽霊じゃないですか。幽霊が携帯持ってたらいくら何でも変じゃないですか。だいたい私、番号知りません、というか知りたくないです。どこの学校の怪談ですか。
という事で2位にしましょう。…2位は能美さんだから、もう済んでますね。では3位の棗恭介さんですね。恭介さんはどんな反応するのか、確かに個人的にも興味あります。番号知らないですけど…え、ネットで流通してるんですか。学校裏サイト、恐ろしいです。
まあ、とりあえずかけてみましょう。
…取ってくれませんでした。どうやら恭介さんは、知らない番号は取らない派みたいです。
と思ったら、数分後に折り返し電話がかかってきました。
『どうした有月? 俺の把握している番号とは違う番号からかけてきたようだが』
「え? どうして私だとわかったんですか?」
『俺の情報網を嘗めて貰っては困る。その番号で既に何人かに電話しているだろう。すぐに有月が発信しているものだとわかった。070だし、記憶に残りやすかったんだろうな』
なるほど。恭介さんは、知らない番号は調べてかけ直すタイプのようです。…普通調べられないものなんですけどね。調べられる番号はかけてはいけない番号が大半ですし。
『で、要件は何だ。って、訊くまでもないか。氷室の件だろう?』
どうやら、本当の目的まではばれていないようです。
「はい。棗先輩は、氷室さんとあーちゃん先輩、どっちがタイプなのかと思いまして」
『……俺にそんなことを訊いてどうする。何がしたい?』
ちょっと食い下がられました。やぶ蛇でした。
次は西園さんにしてみましょう。女子寮で名簿が作られているので、女子寮生の連絡先はだいたいわかります。
…取ってくれませんでした。折り返しも来ません。どうやら西園さんは、知らない番号は取らないようです。
では神北さんはどうでしょうか。
取ってくれませんでした。少し待ってみましたが、折り返しも来ませんでした。神北さんも知らない番号は完全無視派みたいです。ちょっと意外ですね。
来ヶ谷さんも完全無視でした。完全無視派、意外と多いみたいです。
では、棗鈴さんはどうでしょう。
数コールで取ってくれました。
『クドか? この番号は見覚えがある』
…鈴さん、どうやら頭の「070」だけで判断したようです。いくらウィルコムユーザー少ないからって…。
「済みません、能美さんじゃありません、私有月です」
『ありつき? 誰だお前』
「同じ学年の有月初です。まあリトルバスターズ!には出てこなかったのでご存じないかもしれませんが」
『そうなのか。出てきた奴もあんまり覚えていないが』
鈴さん、それはちょっと問題です。
「ところで、鈴さんは知らない番号でも取るんですね」
『ん? ああ、番号なんていちいち覚えていないからな』
「まあ、今時覚えはしませんよね、アドレス帳がありますし。で、アドレス帳に登録されていない番号でも取るんですね」
『アドレス帳には理樹と恭介の番号しか入っていない』
「…え?」
『アドレス帳には理樹と恭介の番号しか入っていない』
「いや、言い直さなくていいです。あの、他のお友達と電話はしないんですか?」
『する。だが登録はしない。正確に言うと、出来ない』
「…携帯、そんなに苦手なんですか?」
『苦手なのは事実だが、それ以上に恭介の馬鹿が使用制限をかけすぎて何やってもすぐエラーになるから、もう面倒くさくなった』
…なるほど。過保護のもたらした悲劇ですね。
『ところで、ありつきは何の用だ?』
「ああ、はい、実は氷室さんのことで…」
『ひむろ? そういえば、AIRのsummer編でそんな言葉が出てきたような気がするな』
…あれ、鈴さんってそういうキャラでしたっけ…?
そういえば三枝さんが残っていましたね。先ほどの二木さんの話だと、自分からは結構しょうもないことしてるみたいですが。自分にかかってきたらどうするんでしょうか。
…とりあえず、取りませんでした。そしてすぐに、「050」で始まる番号から電話がかかってきました。なるほど、そういうことですね。
「もしもし、有月です」
『初ちゃんデシタカ! PHSなんて使ってるの今時クド公だけかと思ってましたヨ』
「…うちの家族は全員PHSなんですが…」
『ありゃ、コレハ失礼。確かにウィルコム安いですものネ』
「はい。だから潰れて貰ったら困るんです」
『でも最近はイーモバイルも安いデスヨ? カバーエリアがかなり不安デスガ』
「乗り換え時の手数料が勿体ないので…」
『ナルホド。そこだけは、どこのキャリアも値引きしないですからネ』
「ところで、なんでわざわざIP電話からかけ直してきたんですか?」
『知らない番号からかかってきたらどんな対応をする人間か見極めようと思いマシテ』
済みません、それ、今私がやらされてることです。ああ、つまりそういう人だって事ですね。
『で、何の用なんデスカ?』
どうしよう。三枝さんには正直に言った方がいいだろうか。でも…。
「あの、実は氷室さんが…」
さて。これで一通り終えたでしょうか。え、まだ残ってる? リトバスってそんなにキャラ多かったでしたっけ? 私クドわふキャラだからよく知らないんです。とりあえず井ノ原真人と宮沢謙吾にかけろ? 私番号知りませんよ。棗恭介に訊け? 確かに知ってるでしょうけど、どんな口実付けて聞き出すんですか。それに直枝君じゃ駄目なんですか? 井ノ原君と同室だから、そのまま替わられる可能性がある。なるほど。だったらしょうがないですね。
「棗先輩、たびたび済みません、有月です」
『おう、有月か。まだ例の件で食い下がってくるつもりか?』
「違います。あの、…井ノ原真人さんと宮沢謙吾さんの電話番号を知りたいんですけど」
『真人と謙吾の? そういえば有月は、氷室の件であちこち電話調査してるんだったな。いいだろう、もう例の件は訊かないという条件で教えてやる』
「はい、お願いします」
そもそも、そんなに食い下がった覚えはないのに。…何かトラウマでもあるんでしょうか。
「090の、…はい、ありがとうございます」
『バイオ田中の電話番号もあるが…要るか?』
「…誰です、それ?」
『いや、知らないならいい。知らない方がいいからな』
思いの外簡単に電話番号を入手出来てしまいました。個人情報保護法ってどこまで適用されるんでしたっけ?
とりあえず、井ノ原さんにかけてみましょう。
4コールで取りました。
『おう、誰よ? プロテインの先物ならこの間断ったばかりだぜ』
最近の先物取引はいろんなものを扱うのですね。
「私、有月と申します。一応、直枝君の…知り合いです」
『理樹の知り合いで、女…。ああわかった、一応話は聞こう』
…なんか誤解されてるような気がしてなりませんが、まあいいです。
「あの、氷室さんをどうお思われますか?」
『氷室? 氷室…誰だっけ?』
「あ、知らないならいいです。お手数かけました」
『いや、ちょっと待て。お前、もしかして…その氷室って奴にいじめられてるんじゃ…』
「え!? いや、あの、決してそんなことは…」
『理樹の知り合いならオレの知り合いも同然だ。筋肉以外取り柄のない男だが、力になれることがあるなら話してみろよ』
「いえ、ほんとに違いますから。大丈夫ですから」
『…いじめられてる奴はみんな、最初はそう言うものなんだよ。いいから話してみろって』
…ああ、馬鹿だけどいい人って、こういうとき困るんですよね…。今回は自業自得ですけど。
次は、宮沢さんです。宮沢さんはまともな人だと聞いているので、ちょっと安心です。
20コールで取りました。
『誰だ? 名乗りもしないでかけてくるなんて、失礼じゃないか』
…ああ、宮沢さんはまともな人だと聞いていたのに。
「あの、済みません。私、同じ学年の有月初と言います」
『そうか、それは済まなかった。最近詐欺だの勧誘だのの電話が増えてるから、知らない番号相手にはブラフをかけるようにしているんだ』
ああ、それを聞いてちょっと安心しました。
『で、有月は何の用だ?』
「はい、あの」
『いや、ちょっと待て。先に確認しておきたいことがある。有月は、笹瀬川佐々美と知り合いか?』
「笹瀬川さんですか? 有名な方ですし同学年ですから、名前はもちろん知ってますけど、取り立てて仲がいいというわけではないです」
『そうか、それを聞いて安心した。悪かった、話を続けてくれ』
…宮沢さんといい棗先輩といい、一体何をそんなに恐れているのでしょう…?
「あの、氷室さんのことでちょっと…」
『氷室…? 聞いたことはある、提携校から来た科学オタ女らしいな。だがそれ以上のことはよく知らないぞ』
「そうですか。氷室さんにはそう伝えておきます」
『ちょっと待て。おいまさか…笹瀬川の次は…氷室か!? 俺は氷室には何もしてないぞ!』
…やっぱり、あのリトルバスターズのメンバーだけあって、どこかずれてるみたいです。
宮沢さんとの電話で思い出しましたが、笹瀬川さんもリトルバスターズ!のメインヒロインでした。
ラクロス脱落者の私としては、ソフトボール部のエースである笹瀬川さんは正直羨ましくもあり妬ましくもある相手です。でも、ランク外だけど地味に人気がある辺り、私とちょっと似ているのかもしれません。
これを機会に、笹瀬川さんと話をしてみるのもいいかもしれません。
23コール過ぎて、そろそろ切ろうかという頃に、やっと出てくれました。
『もしもし〜? 佐々美ちゃんの電話だよ〜』
…え!? これがあの、噂のエース笹瀬川さん!?
『ごめんね〜。佐々美ちゃん、今ちょっと、口では言えない用事で電話に出れないの〜。1分ほど待っててね〜』
…笹瀬川さんではないらしい。何か、すごく安心した。でもじゃあ、誰だろう? 笹瀬川さんのルームメイトだろうか。誰だっけ。…あ、神北さんだ。
神北さん、自分の電話は出なかったくせに、人の電話は出ちゃうの!?
「…神北さん、私、有月と言いますけど…」
『有月…有月初ちゃん? 初ちゃんなんだ〜。あ、もしかして初ちゃん、さっき電話くれた? ごめんね、私、お兄ちゃんの遺言で知らない番号からかかってきた電話は出るなって言われてるから…』
なにげに重い話しないで欲しい。
『あ、佐々美ちゃん出てきた。ちょっと待っててね〜』
神北さん、何かもういろいろ天然すぎます。ある意味羨ましいです。
『有月さん? 笹瀬川ですわ。何のご用件ですの?』
「あ、要件と言うほどでは…。その、少し笹瀬川さんとお話がしたいなと…」
『…そうですの。まあ、少しだけならかまいませんわ』
「あ、はい。では…」
あ。何を話そう。私今はもう現役じゃないし、いきなりスポーツの話とかしてもついて行けるかどうか…。
「あの、氷室さんってどう思います?」
『氷室さん? あの提携校から来た? 氷室さんがどうかしまして?』
「いえあの、氷室さんって完全理系で、私達体育会系とはやっぱり考えることとか違うのかなーとか思って…」
笹瀬川さんと少し仲良くなれた。ちょっと幸せだ。
…あ、着信。西園さん!? どういうこと?
「もしもし、有月です」
『あ、有月さんだったんですね。済みません、折り返しが遅れて』
「いいえ、別にいいんです。どうでもいい用事でしたから」
本当にどうでもいい用事だ。
『知らない番号なので出ようかどうか迷っているうちに切れてしまって…。すぐに折り返そうかと思ったんですが、折り返し電話をかける方法がわからなくて…』
「そうだったんですね…すみません、余計な手間をかけさせてしまって」
『いえ。機械音痴な私がいけないんです…』
とりあえず西園さんの評価は修正だ。
『それにしても、このスマートフォンというのは、なんだかよくわからないものですね…』
「え。西園さん、機械音痴なのにスマートフォンなんて買ったの!?」
『ええ。電子書籍に興味がありまして…。最近のスマートフォンなら電子書籍対応のものもあるからと』
「そうだったんですね。西園さん、本好きですものね」
『でもあの、本を裁断して電子化するという行為は、許せないです。本に対する侮辱です』
「そ、そうだよね。勿体ないよね」
『ところで、有月さんのご用件は何ですか?』
「あ、ああ。あの、氷室さんのことで…」
『氷室さんは、電子書籍の「電子」の部分にいちゃもん付けそうですよね』
「そ、そうですね…」
ふう。これで一通り終わった。どう、これで満足? 氷室さん。
「そうね。なかなか面白いデータが取れたわ」
「何の研究に使うか知りませんが…あまり人に迷惑かけるような真似しないでくださいよ」
「あなたは迷惑だった?」
「ええ、とっても。椎菜がお世話になってるから協力したんです。そうじゃなかったら、こんなくだらない実験協力しません」
「楽しんでるときもあったように見えたけど…?」
「…。」
「ところで、話のネタを全部私の話題にしていたのが引っかかったんだけど」
「いいじゃないですか、氷室さんの実験なんだし。適当な嘘の話題なんてそうそう思いつきませんよ」
「まあ、いいけどね。ところで、私相手には実験しないの?」
「今かけたら私からだって事バレバレじゃないですか」
「だから、今ここじゃないところで。私、あげたSIMの番号は知ってるけど、あなたの個人番号は知らないし。後でかけてみる?」
「嫌ですよ。氷室さん、通話中にハッキングとかしてきそうだし」