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変身マ女っ娘佳奈多ちゃん〜完結編〜

 
 むかしむかし…まあ、だいたいリトバスが発売された頃くらいの昔と思ってください。あるところに、二木佳奈多ちゃんというちょっぴり危ないお姉ちゃんキャラな女の子がいました。どう危ないかというと、妹コスプレが趣味だったりします。そこにつけこまれて、妹に変身する「マ女」なんてのをやらされたりしていました。
 
「しかし最近は平穏な生活を送っています。最大最強の敵、棗恭介を倒してしまったからです。佳奈多ちゃんにかかれば例えこの世界のマスターといえども敵ではないのです。つよいやかなちゃん!すごいやかなちゃん!ゆけゆけぼくらのすーぱーかなちゃん!」
「…葉留佳、仕事の邪魔だから静かにしてくれる?」
 佳奈多は寮会室でお仕事中です。次期寮長に指名されてしまったので、最近ちょっと忙しいようです。それを知ってか知らずか、妹の葉留佳が後ろで騒いでます。寮長のあーちゃん先輩から「かなちゃん」という呼び方を教えられて、ちょっとテンション上がっているようです。
「かなちゃん! はるちん暇なので遊んでくだサイ!」
「私は暇じゃないの。見てわからない葉留佳じゃないでしょう。あと、かなちゃんって呼ばないで」
「わかりました、デハ、後ろで両手に扇子振りかざしながら応援することにしマス」
「うるさいだけだからやめて。手伝う気がないなら外に出てなさい」
「私が手伝うと一瞬で終わってしまいますヨ? そんな人生つまらないと思いませんカ?」
「…いいから外に出てなさい」
「ワカリマシタヨ。外で、他人に迷惑かけながら遊ぶことにしマス」
「待ちなさい! 他人様に迷惑かけてはだめよ!」
 佳奈多は慌てて葉留佳を追いました。葉留佳がヒャホーゥと言いながら走って逃げたので、佳奈多もそれを追って外に出る羽目になりました。
 
 
 
 
「あれが二木佳奈多か…」
 葉留佳を見失って外で探し回る佳奈多、それを物陰から見つめる一人の陰がありました。棗鈴、棗恭介の妹です。
「彼女に恨みはないが、兄が倒された以上かたきをとらなければならない。兄のことなどどうでもいいが、しかし私はそうするものだと兄に教えられて生きてきた。…ん、何か言ってることがおかしいような…」
「それは、あなたが本当はお兄さんのことを大好きだからですよ」
 鈴の後ろからそっと囁くもう一つの陰がありました。
「うわあっ、み、みお!? いつからそこにっ」
「つい今さっきです。それより鈴さん、鈴さんみたいな人のことをなんて言うか、ご存じですか?」
「な、なんだ…」
「ブラコン…っていうんですよ。うふふ…」
「な! なにをいうんだ、私は、ブラコンなんて…知らない、そんな言葉は知らない、だから私はブラコンじゃない!」
「意地を張る鈴さん、かわいいですね…なるほど、恭介さんが溺愛するわけです」
「な、何を言うんだ…」
「で、そんな恭介さんの仇を鈴さんはとるのですか? それともやめますか?」
「うん、それはちゃんとやる。それは私に課せられた使命だからな」
「ですが、彼女は手強いですよ?」
「わかってる。何しろ、あの兄を倒した女だからな」
「ええ。それはもう、爽快なまでに凶悪に倒しました」
 実際には美魚が半分くらい手を貸しているのですが、そういう事実は無視のようです。
「本気で彼女に挑むのなら…このくらいの準備は必要ですよ」
 そういって美魚は、鈴の手に小さな機械を手渡しました。
「そ、そうか。ありがとう」
「それと…作戦も必要ですね」
 
 
 
 
 さて。佳奈多はまだ葉留佳を探して外を歩き回っていました。そこに物陰から、佳奈多の目の前に飛び込むように鈴が現れました。
「二木佳奈多、たたかえっ」
「たたかわない。じゃ」
 佳奈多冷たく言い捨てて立ち去ろうとします。
「なにぃ…いや、待ってくれそれは困る」
「私は困らない。じゃ」
 佳奈多あくまで冷たい態度を貫きます。鈴は困惑した表情でもごもごしてしまいましたが、何とか言葉を絞り出しました。
「かなたは…困ってる人を見捨てて立ち去る奴なのか」
「……」
 佳奈多は立ち止まり、少し考えてから返答を返しました。
「いきなりたたかえなんて言ってくる人に、困ってるから助けろと言われてもね。いろいろ順番が違うんじゃない?」
「うん、それもそうだな」
 鈴は少し考えてから言いました。
「じゃあ順番に説明しよう。おまえはうちの兄に屈辱を与えて倒した。ロクデナシだがしかし大事な兄だ。かたきをとらねばならない。そこで私は理樹を人質にとってねこねこの刑にした。どちらかが倒れるまで解放されない。だからたたかえ」
「直枝を…え、何? ねこねこの刑?」
「うん、ねこねこの刑だ。理樹を言うこと聞かないドラ猫と一緒に部屋に閉じこめた。かなり凶暴だから、理樹がどうなるかあたしも保証できない」
「……」
「早く助けに行かないと、理樹の身が危ない、かもしれない」
「だったらさっさと直枝の居場所を教えなさいよ」
「あたしとたたかって、勝ったら教えてやる。あたしが勝ったらあたしが助けに行く。…だが、たたかわないということだと、どっちも理樹を助けにいけない。それは困る」
「……」
 佳奈多、それはちょっと納得行かないとでも言いたげな表情をします。しかし、しばらく考えた後、鈴に返しました。
「わかったわ。勝っても負けても、戦えば直枝は助かるのね」
「そういうことになるな」
「だったらお望み通りにしてあげるわ。…さっさとかかってきなさい」
「いや、変身しろ」
「…は?」
「あたしは卑怯な手を使ってたたかいに持ち込んだし、変身するぐらいのハンデは与えていいと思う。それに馬鹿兄貴も変身したおまえに倒された、変身したおまえを倒さないと意味がない」
「いや、あのね。気遣ってくれてるつもりなのかもしれないけど、私は変身したくないの」
「変身しないとたたかわない」
「……」
「どうした。はやくしないと理樹があぶないぞ」
 佳奈多、理不尽なものを振り払いたいかのように首を振ります。
「どうしてこっちが戦いたがってるみたいな流れになってるのよ…」
 しかし、理樹が人質に取られている以上、あまり強気の態度もとれません。意を決した佳奈多は、超電磁っぽいバトンを取り出します。
「出来れば向こうを向いていてくれるとありがたいのだけど」
「んー。まあ、あたしは別にかまわないが」
 鈴が向こうを向いたのをしっかり確認してから、佳奈多は超電磁っぽいバトンをかざしながら叫びました。
「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ〜!!!」
 佳奈多の体が光に包まれ、そして長い髪が二つ止めのお下げにまとめられたマ女っ娘かなたんの姿になりました。
「ほんとにはるかの姿になるんだな…」
 再び佳奈多の方に向き直った鈴が言いました。
「ええそうよ。さあさっさと済ませましょう、かかってきなさい」
「うん、でもその前に一ついいか?」
「なによ。まだなにかあるの?」
「さっきからクドは、あそこで何をしているんだ?」
 鈴の視線は佳奈多の後ろに向いています。佳奈多が振り返ると、そこにはビデオカメラを持ったクドの姿がありました。
 佳奈多はクドに歩み寄り、そして訊きます。
「クドリャフカ、それは何なのかしら?」
「これですか? これはですねえ、ビデオカメラって言うんですよー」
「そんなのは見ればわかるわ。私はそれの使途を訊いているの」
「これは放送委員会の備品です。かけがえのない青春の1ページを保存する為のすばらしい道具だと、来ヶ谷さんが言っていました」
「……」
「編集したらDVDに焼いてみんなに配ってくれるそうですよ。楽しみですねえ」
 佳奈多はそれには答えず、無言で手を伸ばしてビデオカメラを奪い取ろうとします。クドはビデオカメラを持った手をぶんぶんと上にしたり横にしたりして、それをかわします。
「だめですっ。これはお渡しできませんっ」
 佳奈多はがっくりと地に両手をついてうなだれてしまいます。それを見ていた鈴はしばらくどうしたものかと考えていましたが、やがてゆっくりと佳奈多の方に向かって歩き始めました。
「かわいそうだが…たたかいには時に非常さも必要…と、みおが言っていた」
 そんな鈴の行く手を阻むように、突如上から人が舞い降りてきます。膝を突いて地上に降り立つと、2つに結んだおさげを左手でさっと払いながら立ち上がります。
「は、はるかっ!?」
「はい、正義の味方はるちんデスヨ」
 その声に、佳奈多が顔を上げます。
「葉留佳…どうしてここに…?」
「それはもちろん! 姉がこんなにおもしろそうなことやってるのに黙って見てるなんて我慢できなかったから!」
「え?」
「…姉妹愛の精神に基づいて姉を助けに来た、という意味デスヨ?」
「……」
 佳奈多、思い切り疑った表情をしています。
「…自分の姉に信用して貰えない妹…。結構辛いものがありますヨ」
 その言葉に佳奈多ははっとします。
「ごめんなさい葉留佳、疑った私が悪かったわ。あなたは私にかこつけて棗さんと乱闘して遊び倒した挙げ句私の仕事の邪魔をしたことをチャラにしたいわけでは無く、純粋に私の事を助けたくて事態を平和的解決に導くべく仲裁に現れたのよね」
「スミマセンただ鈴ちゃんとじゃれ合って遊びたかっただけデス。…あ、でも姉妹愛が全く無いわけでは無いのでそこは疑わないで下サイ」
 その佳奈多と葉留佳のやりとりを見ながら、鈴が困った顔で呟きました。
「2人がかりだなんて卑怯だ…」
「確かに卑怯だとは思うけど。でもそもそもあなたから挑んできた勝負だし、多少の理不尽は受け入れてもいいと思うけど。それとも勝負自体やめる?」
「…いや、勝負はやめない。そうだ、みおからこんな時に援軍を呼べるコードを設定して貰っていたんだった」
 そう言って鈴は、携帯電話を取り出します。
「呼んでいいか?」
「まあ、こっちに援軍がいるのにあなたに呼ぶな何てのは理不尽すぎるわね。誰を呼ぶの?」
「わからん。誰が来るのか知らされていない。…だが、私のキャラクターを考えて、きっと猫だろう。うん、猫に違いない」
 そういって鈴は、携帯にコードを打ち込みます。
 次の瞬間、さっと一陣の風が吹き抜けたような感覚をその場にいた全員が感じました。そして、上から長身の男がすたっと降り立ってきました。
「猫よりかっこいいお兄様の登場だ」
 鈴の兄の棗恭介でした。
「…」
「…」
「…」
「…」
 みんな絶句してしまっています。特に鈴は、あからさまにがっかりした顔になってしまっています。
 そんな面々をよそに、恭介は語り始めます。
「二木佳奈多。前回は油断して不覚を取ったが、今日はそうはいかない。…うん、西園はいないな。なら俺に勝ち目はある。そちらは姉妹でタッグか、いいだろう、相手にとって不足は無い。東アジア最強と言われた棗兄妹のコンビネーション、貴様らの眼にしっかりと焼き付けるがいい!」
「私に倒されたくせに何言ってるんですか」
 恭介の口上を聞いていなかったかのように、佳奈多が冷たく返しました。恭介、しかし強気で佳奈多に返します。
「俺を押し倒していいのは理樹だけだ!」
「…あっそ。じゃあいっそあーちゃん先輩も呼んで今の台詞聞かせた上で3人がかりで挑みましょうか?」
「いや、あいつはやめてくれ、勘弁してくれ。2人まで、2人までだ」
「私とあーちゃん先輩ですね」
「はるちんお役御免!?」
「いやそうでは無くて…二木と三枝の2人にしてくれ。それなら勝てそうなのでそれでお願いします」
 佳奈多は、ふんと鼻を鳴らして答えます。
「見くびられたものね…どこからその自信が出てくるんだか」
「いやだから、それはさっき説明しただろう。西園いないし、鈴もいるし、東アジア最強だし。だから勝てる」
「うん。で、その鈴ちゃんはどこにいるデスカ?」
「え? いや鈴はここに…」
 葉留佳の言葉に恭介が傍らを見ると、さっきまでそこにいた鈴がいません。辺りを見渡して探してみると、植え込みの影で猫と遊んでいる鈴がいました。
「♪ねーこ ねーこ うたうー」
「あー。あれは完全に、やる気無くしちゃってますネ」
「何故だ鈴、兄が助けに来て形勢は逆転したというのに、なぜ戦いを放棄する!」
「そりゃぁあなた、元々兄のかたきを取る為に私に戦いを挑んできたのに、その兄が助けに来てたら、戦う意味自体が無くなるでしょう」
「そ、そういうものか?」
「サアどうします恭介さん。大人しく降伏しますカ? それとも1対2で戦いますカ?」
 恭介を前に葉留佳は身構えます。恭介は神妙な顔でそれに応じます。
「降伏などしない。だがあまりふざけていると本当に足下をすくわれかねないからな。本気で行くぞ」
 そう言って恭介は、以前佳奈多と戦ったときに使用した変な仮面を取り出しました。が、恭介が葉留佳に気を取られている隙を見て、佳奈多が忍び寄っていて、懐に飛び込んで仮面を奪い取りました。
「でかしたお姉ちゃんっ。そのまま抱きついてっ」
「え?」
 葉留佳の言葉に戸惑いながらも、佳奈多は恭介に抱きつきます。勢いで恭介は後ろに倒れ込みました。そして葉留佳も恭介に突進してきて、2人一緒に抱きつきました。
「な…何をする、何のつもりだ」
 戸惑う恭介に、葉留佳が甘えた声で語りかけます。
「たまにはこうさせてよ、お兄ちゃん」
「な…!」
「…ほら、お姉ちゃんも。早く早く」
 佳奈多はさすがにためらっていましたが、やがて意を決して言葉を発しました。
「もう争うのはやめましょう…お兄様」
「ぐはっ」
 これは少し来たようです。しかし何とか冷静さを取り戻した恭介は、2人に言いました。
「お前らは…俺の妹じゃ無い…」
「えー。ひどいなあお兄ちゃん」
「お兄様。あなたは直枝理樹にとって兄のような存在だと聞いています。そして私は今直枝と付き合ってます。つまり、私にとってもあなたは兄も同然。そして葉留佳は私の妹だから、あなたにとっても妹になる。違いますか?」
「…いろいろ納得出来ない点が多すぎるぜ」
「だがお兄ちゃんが美人の妹二人に抱きつかれて大喜びしてるのは事実! あそこでクド公が証拠の映像も取ってますしネ!」
「ぐ…」
 恭介が苦悶の表情を浮かべます。が、すぐに思いついたように含み笑いを始めました。
「ふ…ふっ、ふはははは! そうさ、俺は今最高にハッピーだぜ! 双子の妹二人に甘えられてこんな嬉しいことがあるか! だがそれがなんだ? それがどうした? 俺は全く動じていないし、敗北感も無い。これが戦いだというのならそう、この妹天国を心の底から楽しんでいる俺こそがむしろ勝者、人生の勝者だ!!!」
「…いつまでそんな強気を言っていられるかしら?」
「いつまで? いつまでもだ! この世に妹がいて俺を愛してくれる限り、永遠にだ!」
「…」
 佳奈多は無言で頭をずらし、恭介の視界を開けます。その先には、目を光らせんばかりの鬼の形相で立ちすくんでいる、鈴の姿がありました。
「り、鈴…」
「……」
「ま、待て。話を聞け。お前はたぶん誤解している。だいたいだな、そもそもだな、これは元々お前の戦いであって俺はそれを助ける為にやってきたわけで」
「…ド変態」
「うわああぁぁぁ………」
 鈴が冷たく言い放ち、恭介は叫び声と共に魂が抜け落ちた状態になってしまいました。佳奈多は恭介に抱きついていた手を放し、起き上がりながら言いました。
「勝った…の?」
「んー。鈴ちゃん次第だと思いますガ」
「ん? あたしか?」
 んー、と暫し考える仕草をしてから、鈴は言いました。
「かなたの勝ちでいいんじゃ無いか。そもそもこの馬鹿兄貴が全て悪い」
「だそうですヨ」
「そう…」
 佳奈多は立ち上がって服の埃を払いながら、溜息をつきました。そして、はっと気づいたように言いました。
「そうだ、直枝っ。直枝はどこにいるの!?」
「おー、そうだった。女子寮の…」
 
 
 
 
 
 女子寮の一室。その扉の前に駆け込んできた佳奈多は、勢いよく扉を開けて叫びました。
「直枝っ! 直枝はいるの、無事なのっ!?」
「あ、佳奈多さん! 良かった助けに来てくれて…」
「無事で良かった…って、なによその恰好」
 佳奈多の視界に入った理樹は、なにやらフリルでいっぱいの白黒の衣装を着せられていました。
「これは…その…小毬さんが無理矢理…」
 理樹が言いよどんでいると、小毬が姿を見せました。
「あー、かなちゃん。いらっしゃ〜い」
「え? 急いでたから良く確認してなかったけど、ここって神北さんの部屋なの?」
「そうですよ〜」
「でも棗さんは、直枝を言うこと聞かないドラ猫と一緒に閉じ込めたって…」
「そうそう。鈴ちゃんが来てね、ドア開けたと思ったら『ねこねこの刑だっ』って言って理樹君を放り込んできて…。さーちゃんが怒っちゃって、もう大変だったんだよ…」
「当たり前ですわっ。あの子ったら、人のことを、言うこと聞かないドラ猫扱いして…。一体どっちが…」
 佐々美がぶつくさ言っている間に、佳奈多は理樹に駆け寄り、理樹をひしと抱きしめました。
「え、佳奈多さん…?」
「無事で…良かった…」
「うん…写真撮られたりしたけど、それ以上のことはされてないよ…」
「そう…これからはもうこんな事が無いように、もっと側にいるようにするわ」
「でも佳奈多さん忙しいのに」
「それでも時間を作る…だから直枝も、簡単に他の子に付いていくことが無いようにして」
「うん、気をつけるよ」
「直枝…」
 佳奈多が理樹を抱きしめていると、後ろの扉の方から声がかけられました。
「あらあら、これはこれは」
 声に気づいた佳奈多が振り向くと、ドア口には女子寮生達が大量に集結していました。
「みんなの前で見せつけてくれるわねえ。いくら公認の仲だからって」
「あーちゃん先輩!」
 その後ろで携帯電話を片手に話していた女生徒が、あーちゃん先輩に耳打ちしました。
「へえ。ねえかなちゃん、それにみんなも。男子寮側から提案があったらしいんだけど。これから食堂で、二人をだしに祭としゃれ込もうでは無いか、とのことよ」
 それを聞いた女生徒達の間から歓声があがります。
「ほほう、いわゆる二人の門出を祝う式、という奴かな?」
「やったー、結婚式だー」
「結婚式なのですー」
「たーんたーんたたんたんたんたん♪」
「やめなさい! 何、なんなのあなた達、小学生なのっ!?」
 歓声と佳奈多の怒号が響くなか、そっとその場から超電磁っぽいバトンを回収した美魚が廊下を歩いていました。
「…佳奈多さんはもう、これを使うことは無いでしょうね。さて、どうしたものでしょう…」
 そう呟く美魚の前に、一人の女生徒が立ちました。
「西園さん…」
「あら、古式さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう…。あの、そのバトンなのですが」
「はい」
「先ほどまで二木さんが使ってらしたものですよね?」
「ええ。でももう、使われないと思いますので…どうしたものかと」
「そうですか…。あの、使う宛てが無いと言うことでしたら、そのバトン、私に譲ってはいただけないでしょうか」
「古式さんが、このバトンをですか?」
「はい。私、宮沢さんに言われるんです。いい加減新しい趣味を探せ、新しい自分を見つけろと。…そんなもの簡単に見つかるはずが無いと思っていましたが、そのバトンを手に入れれば、もしかしたらと…」
「…確かに、人生変わっちゃうかもしれませんね…」
「そういうわけですので…もしよろしければ…」
「…わかりました。古式さんなら大切に使ってくれそうです。…使い方はわかりますか?」
 
 こうして、佳奈多が理樹との絆をいっそう深めている間に、超電磁っぽいバトンは新たにそれを必要とする人の手に移りました。
 超電磁っぽいバトンで変身するようになった古式みゆきとそれに頭を抱える謙吾の話は…まあ皆さんのご想像にお任せするということで。
 
 
 
 
 完
 
 
 
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