荒野草途伸ルート >> 荒野草途伸Key系ページ >>リトルバスターズ!KX >>リトバスSS >>変身マ女っ娘佳奈多ちゃん

変身マ女っ娘佳奈多ちゃん

 むかしむかし・・・と言っても、1ナノ秒くらいの昔と思っておいてください。ある所に、二木佳奈多ちゃんというごくごく普通の女の子がいました。いえ、ごくごく普通と言うにはちょっと語弊があるかもしれません。しかし、一応世間で立派に通用する常識を備えていることだけは間違いありません。
 ただ、あまりにも常識的というか、もの凄く真面目な女の子なので、周りからは「マ女」と呼ばれていました。以前風紀委員長をやっていたときは鬼の委員長と呼ばれていたのですが、風紀委員は辞めてしまって今は寮会の仕事だけをやっています。
 寮会の仕事は、いわゆる事務仕事から生徒の相談事まで多岐にわたります。佳奈多はそれらの仕事を日々淡々と片付けていました。ある生徒が、相談に訪れるその日までは。
 
 その日佳奈多は、寮会室でいつものように書類整理をしていました。そこに、一人の女生徒が入ってきました。真面目天然の異名を持つ、西園美魚です。
美魚「・・・こんにちわ。相談したいことがあるのですが。」
佳奈多「なにかしら。あまり変な相談でなければ、取り次いでおくわよ。」
美魚「はい。・・・えっと、実は相談と言うよりは、個人的なお願いになるのですが。」
佳奈多「個人的なお願い?」
美魚「はい。極めて個人に特化されたお願いです。」
佳奈多「そういう事なら、その本人に直接言ってくれないかしら。寮会はあくまで生徒全体の利益に資するための組織だから。トラブルになりそうだから仲裁してくれと言うのなら、また話は別だけど。」
美魚「はい・・・。ですからこれは、二木佳奈多さん、あなた個人に直接お願いしたいことがあるということです。」
佳奈多「私に? 何の用かしら。」
美魚「はい、実は・・・。」
 そこで美魚は、一呼吸置きます。
美魚「あなたに、変身マ女っ娘をやって欲しいのです。」
佳奈多「・・・。」
美魚「・・・。」
佳奈多「ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえる?」
美魚「あなたに、変身マ女っ娘をやって欲しいのです。」
佳奈多「・・・。」
美魚「・・・。」
佳奈多「それは何? 私にコスプレでもしろという意味かしら。それとも何かのイベントのバイトでも頼んでいるの?」
美魚「そのどちらでもありません。あなたには、本物のマ女っ娘になっていただきます。」
佳奈多「・・・。」
 佳奈多、しばらく黙って考えます。まじょっこ? 魔法少女のことかしら。Wikipediaによると「魔法少女(まほうしょうじょ)は、日本の漫画・アニメなどに登場するキャラクター類型のひとつで、魔法を使える少女である。」とあるわ。セーラームーンもこれに含まれるのね。ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーとか言うのはあれは違うのかしら。と言うか私何でこんなの知ってるんだろう。とにかく、魔法少女よね。つまり魔法を使うのよね。魔法? 冗談じゃない、現代日本にそんなものが存在するわけ無いじゃない。だいたい魔法なんてものは、中世欧州において錬金術とともに自然科学に敗れ去ったのよ。あるとすれば、奇術・手品と呼ばれるトリックを使った類の遊びくらいなもの。それ以外はだいたい、カルト宗教が絡んだ詐欺行為みたいなものよ。つまり一般的に言って、魔法はあり得ない。だから魔法少女もあり得ない。
 つまり、この子の言ってることはおかしい。
佳奈多「・・・悪いけど私、魔法とか信じない性質だから。」
 佳奈多冷たく言い放ちますが、みおっち動じません。
美魚「・・・誰が魔法だと言いましたか?」
佳奈多「え? だって今あなた、魔女っ娘って。」
美魚「・・・魔女っ娘ではありません。マ女っ娘です。」
佳奈多「ごめんなさい。口で言われると違いがわからないんだけど。」
美魚「ですから。魔法の魔ではなく、カタカナのマです。」
佳奈多「カタカナのマって・・・なによそれ。私が真面目で堅物な女だからそれをからかいに来たというわけ? 知ってるわよ、私が真面目な女をもじってマ女と呼ばれてることくらい。でもそれをだしにわざわざそんなことを言いに来たのはあなたが初めてだわ。ずいぶんご苦労さまな事ね。」
美魚「・・・落ち着いてください。確かに私は、あなたがマのつく女だからこのことを頼みに来ました。でも、マで始まる言葉が真面目だとは限りませんよ?」
佳奈多「あら。じゃあ何だというの?」
美魚「そうですね・・・。例えば、マッスルとか。」
佳奈多「マッスル・・・。」
 その言葉を聞いて、佳奈多の脳裏に何かが蘇ります。悪夢とでも、トラウマとでも言ったらいいでしょうか。とにかくそう言った類の何かが、脳の奥からずんずんずんずんと佳奈多の表層意識に迫ってきます。

真人「ふっ、ふっ、・・・マッスル、マッスル・・・!」
クド「マッスルとは英語で筋肉のことなのですっ!」
理樹「マッスルマッスル〜!」
恭介「マッスルいぇいいぇい〜!」
鈴「マッスルいぇいいぇい〜!」
佐々美「マッスルいぇいいぇい〜!」
小毬「マッスルいぇいいぇい〜!」
唯湖「マッスルいぇいいぇい〜!」
謙吾「マッスルがうなる。うなりをあげる!こいつは・・・マッスル革命だぁ〜!」
葉留佳「ほらお姉ちゃんも一緒に、マッスルマッスル!」

佳奈多「いやああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッッッッ!!!」
美魚「・・・。どうかされましたか?」
佳奈多「い、いえ別に。その・・・マッスルは勘弁してもらえないかしら。」
美魚「・・・ご心配なく。この場合の『マ』は、真面目のマですから。」
佳奈多「やっぱりそうなんじゃないのよ。」
美魚「素直にそうだと言ったら、あなたは引き受けてくれそうにありませんでしたから。」
佳奈多「そうね・・・。魔法だろうが真面目だろうが、余計なことには関わりたくないわね。」
美魚「でも、今のあなたはもう私の頼みを断れないはずです。」
 そう言うとみおっちは佳奈多に近づき、佳奈多の耳元でそっとささやきました。
美魚「・・・マッスルマッスル。」
佳奈多「いやあぁ! やめて!」
美魚「やめて欲しいのですか?」
佳奈多「・・・やめて。」
美魚「では私の頼みを聞いてくれますか?」
佳奈多「聞くわ、たいがいのことなら。だから、マッスルはやめて・・・!」
 
佳奈多「で。何をすればいいわけ?」
美魚「簡単なことです。この科学部が発明したっぽい超電磁っぽいバトンを使ってマ女っ娘に変身し、悪っぽいものと戦うっぽいことをしていただければそれで結構です。」
佳奈多「ぽいが多いわね。もっとはっきりできないの?」
美魚「それは無理です。なぜならこの世の中は非線形なもので溢れているからです。方程式を使って演繹的手法ではっきり確定した答えを出せる事例など、ほんのごくわずかに過ぎないのです。あとは全て、確率論やコンピュータシミュレーションを用いて答えを出す他ありません。これを自然科学の世界では複雑系とか複雑システムと呼びます。」
佳奈多「複雑系と日本語の『ぽい』を結びつけるのはちょっと強引な気もするけど・・・。とにかくはっきりさせる意志がないということだけは伝わったわ。」
美魚「理解が早くて助かります。」
佳奈多「でも。要するに科学部絡みなんでしょ? だったらそれはあなたの担当なんじゃないの?」
美魚「確かにそうなのですが・・・。実は私、当分の間週末は用事が立て込んでいまして。その間の代理を二木さんにお願いできないかと。」
佳奈多「そう・・・。用事って何?」
美魚「それは言えません・・・。ちなみに行き先は、来週が新潟で再来週は福岡です。」
佳奈多「そう、ずいぶん遠くまで行くのね。・・・もしかして同人誌即売会?」
美魚「・・・それは言えません。」
佳奈多「言わなきゃ引き受けないと言っても?」
美魚「そしたらまた耳元でマッスルマッスル言いますよ。」
佳奈多「・・・わかった。言わない。追求しない。それでいいわね。」
美魚「・・・はい。ではそういうわけですから、早速練習がてら変身してもらいましょうか。」
佳奈多「わかったわ。どうすればいいの?」
美魚「この超電磁っぽいバトンを両手でもってかざして・・・そうですね、メモを書くので、その内容を読んでください。」
佳奈多「え? 別に直接口で言ってくれても・・・。」
美魚「それは私が困るんです・・・さあ、これを読んでください。大声で。」
 そうしてみおっちは1枚の紙を佳奈多に渡しました。佳奈多は、そこに書かれていることを言われたとおり大声で叫びました。
佳奈多「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ〜!!! って何これ、何この恥ずかしい台詞!」
 そう言っている間にも、佳奈多の服装や髪が何かの光子のようなものに変化してゆき、そして再び別の服装や髪に定着してゆきました。
佳奈多「・・・って。これ、葉留佳の私服じゃないのよっ!」
美魚「ついでに言うと、あなた自身の姿も葉留佳さんのそれに変わっています。」
 そう言ってみおっちは鏡を持ってきました。佳奈多が自分の姿を確認すると、なるほど確かに佳奈多の双子の妹の三枝葉留佳の姿に変わっています。
佳奈多「って、変身ってこういう事なの!?」
美魚「はい。あなたの場合、変身=葉留佳さんに変装 というのが仕様だとお聞きしていましたが。何か?」
佳奈多「仕様って何よ・・・。」
美魚「・・・細かいことを気にしてはダメです。」
佳奈多「しかもこの服装なに。葉留佳の私服だと思うけど、あり得ないセンスだわ。」
美魚「・・・その辺はいたる先生に文句を言ってください。」
佳奈多「とにかく。いったん元に戻したいんだけど。どうすればいいの?」
美魚「・・・。」
佳奈多「まさか・・・。『元に戻る方法はない』なんて言わないわよね?」
美魚「いえ・・・ちょっと言ってみたかったですが、先手を打たれてしまいましたので・・・。」
佳奈多「・・・。」
美魚「元に戻るのは簡単です。その超電磁っぽいバトンのリセットボタンを押すだけですから。」
佳奈多「ああ、これね・・・。」
 佳奈多がリセットボタンを押すと、その姿はすぐに元に戻りました。
美魚「はい、練習は終わりです。では早速ですが実戦に移りましょう。」
佳奈多「え、実戦って?」
美魚「はい。タイトルは『いよかん星人の逆襲』です。」
佳奈多「逆襲って事は・・・すでに地球人側が彼らになんかやらかしたって事なのかしら?」
美魚「・・・細かいことを気にしてはダメです。」
佳奈多「はいはい。で、そのいよかん星人が何?」
美魚「実は・・・。最近、この界隈を『いよかん星人』なる侵略者が徘徊して地球の制服を狙っているという話なのです。・・・ちなみに制服であってます。決して誤植じゃありませんよ。」
佳奈多「いよかん星人・・・?」
美魚「はい。・・・もしかして、何かご存じですか?」
佳奈多「いいえ。何も知らないわ。」
美魚「そうですか・・・。ご存じなら解決は早いと思ったのですが。では仕方ありませんね。地道な探索から始めるしかありません。」
佳奈多「その探索も私の仕事という訳ね・・・。」
美魚「はい。すみませんがよろしくお願いします。」
 
 こうして佳奈多は、まずは「いよかん星人」の探索に出かけることにしました。
佳奈多「とは言っても・・・いよかん星人って言ったら、要するにアレよね・・・」
 とかぶつぶつ言っている間に、佳奈多の元に一人の少女が駆け寄ってきました。犬系ロリキャラの能美クドリャフカです。
クド「佳奈多さん。ぐっもーにんえぶりわんですっ。」
佳奈多「あらクドリャフカ。どうしたの?」
クド「はい。実はですね・・・。先ほど西園さんから、佳奈多さんが変身マ女っ娘になっていよかん星人の対策に乗り出すことになった、と聞いたものですから。」
佳奈多「あの子・・・おとなしそうに見えて意外とおしゃべりなのね。」
クド「あっあっ、西園さんを責めないで欲しいのです。私がいよかん星人の件で西園さんと話をしたら、そういう話になっただけですので。」
佳奈多「そう・・・。で、何かしら? いよかん星人に関する情報でも持ってきてくれたの?」
クド「はい。えとその。実はですね。私がいよかん星人なのですっ!」
佳奈多「は?」
クド「あ、えっと。正確に言うとですね。いよかん星人にバイトで雇われたと言いますか。」
佳奈多「バイト?」
クド「はい。詳しい話をするとですね。いよかん星人さんとしては、24時間365日地球での活動でを継続したいのだそうですが。しかし日本国の労働基準法では労働時間は一日8時間までかつ一週間に40時間以内と決められていまして、これを超える労働をさせるときは労働者の過半数を代表する労働組合または労働者代表と36協定というのを結ばなくてはいけないのですが、いよかん星人さんたちはこの36協定を未締結なので、一日8時間以上活動することができないのだそうです。なので、8時間を超える分については、地球人のバイトを雇って活動を継続させることにしたのだそうですっ。」
佳奈多「異星人がなんで日本の労働法制に拘束されるのよ・・・。」
クド「佳奈多さん。その考えは良くないと思います。異星人といえども、日本国内にいるからには日本の法律を守っていただかなければなりませんし、また同様に法律に基づいた保護もしなければなりません。これは、人道主義に基づいた現代民主国家で保障された基本的人権の一部あり且つそれを守ることが自立した主権国家であることの証明になると思うのです。」
佳奈多「とか言いつつ、在日米軍は日本の法律を全く守っていないけどね・・・。」
クド「とにかく。そういう訳で私はいよかん星人さんたちに雇われていろいろしないといけないのですっ。」
佳奈多「いろいろって・・・何をするつもり?」
クド「えと、それはその・・・とにかく、佳奈多さん勝負です、変身してくださいっ!」
佳奈多「脈絡無い上に強引ね・・・。」
クド「あうぅ・・・変身していただけないですか?」
 クドが縋り付くような視線で佳奈多を見ます。基本的に姉キャラの佳奈多、こういう視線にはとても弱いです。しかし、変身するためにはクドの前であの恥ずかしい台詞を言わなければなりません。それは真面目キャラとしての佳奈多のプライドが許しません。
 さんざん考えたあげく、佳奈多は妥協点を思いつきました。
佳奈多「・・・わかったわ。変身する。だけど変身するところは見られたくないから、そこの物陰に隠れてするわ。クドリャフカ、その間あなたはのぞき見したり、聞き耳を立てたりしては決して駄目よ。」
クド「わかりました。お待ちしてますのですー。」
 佳奈多はさっと植え込みの中に隠れ、クドから声が聞こえない場所まで移動して、そして叫びました。
佳奈多「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ〜!!!」
 佳奈多の体が光で包まれ、そして佳奈多はマ女っ娘かなたんに変身しました。
 変身が終わると佳奈多は、急いでクドの元に戻ろうとしました。と、そこには、クドの他にもう一人増えていました。
クド「はいー。いよかん星人さんのバイトをしているのですよー。」
葉留佳「バイトですか、そりゃ偉いことですネ。うんうん、働かざる者食うべからず、ですヨ。とかいいつつはるちん働いてないですけどネ。」
 どうやらもう一人は、佳奈多の妹の三枝葉留佳のようです。
佳奈多「(やばい・・・! かなりまずいことになったわ・・・。)」
 佳奈多が思案に暮れていると、葉留佳がこっちに気づきます。
葉留佳「およ? 植え込みの中に誰かいるみたいデスヨ?」
クド「ああ、きっと佳奈多さんです。変身が終わったみたいですねー。」
葉留佳「え、お姉ちゃん? 変身?」
 葉留佳がこっちに近づいてきます。佳奈多は逃げようと思い植え込みの中を移動しましたが、しかし行く先にクドに先回りされてしまいました。
クド「佳奈多さん。追いついたのですー。って、あれ、佳奈多さん・・・ですか?」
 クドがふんふんと鼻を鳴らしながら、確認しています。その間に葉留佳も接近してきました。
クド「あ、やっぱり佳奈多さんですー。でもなんでそんな格好してるですか?」
葉留佳「あ、お姉ちゃんそっちにいたのー? もう、なんで逃げるかナ。」
 そう言って近づいてきた葉留佳は、佳奈多の姿を見て静止してしまいます。
葉留佳「・・・。」
佳奈多「・・・。」
葉留佳「・・・何やってんですかお姉ちゃん。」
佳奈多「ち・・・違うのっ! これはっ! そうじゃないのっ!」
葉留佳「まだ何も言ってませんヨ。何やってんのか訊いてるだけじゃないデスカ。」
佳奈多「だから、これはっ・・・!」
クド「佳奈多さんは、マ女っ娘として変身したところなのですよ〜。」
葉留佳「マ女っ娘・・・?」
 クドがわざわざ解説を入れてくれました。しかしそれが佳奈多の恥ずかしさをさらに加速させてしまいます。佳奈多はいたたまれなくなり、超電磁っぽいバトンのリセットスイッチを押してしまいました。
葉留佳「あーあ、戻しちゃった。」
クド「佳奈多さん・・・?」
佳奈多「な、何かしらクドリャフカ。」
クド「どうして変身解いてしまったですか?」
佳奈多「ど、どうしてって・・・。だって恥ずかしいじゃないのよッ、葉留佳の前で!」
葉留佳「え? なになに? 何が恥ずかしいって言うの?」
佳奈多「うるさいわね! あなたは気にしなくていいの!」
葉留佳「えー。なにそれー。私だけ仲間はずれみたいでなんか感じわるー。」
佳奈多「そ、そうじゃ無いのよ葉留佳。ただこれはね。」
葉留佳「じゃあ何が恥ずかしいって言うんですカ。」
佳奈多「だ、だって・・・。葉留佳の前でマ女っ娘とか・・・。普通に考えて恥ずかしいでしょう!」
葉留佳「クド公の前では変身したのに?」
佳奈多「それは・・・クドリャフカに頼まれたから・・・。」
葉留佳「じゃあ私もお願いする。もっかい変身して。」
佳奈多「お願いされる理由がないわ。」
葉留佳「えー、なんでー。クド公には理由があるって言うの?」
佳奈多「クドリャフカはいよかん星人に雇われてるからいいのよ。」
葉留佳「・・・。」
 葉留佳がちょっと心配そうな顔をして、そして左手を佳奈多の額に当ててきました。
葉留佳「うーん、熱はなさそうですネ。」
佳奈多「・・・いっそあってくれた方が助かったわ。」
葉留佳「で。そのいよかん星人ってのはいったい何なんですカ?」
佳奈多「・・・私も詳しいことは知らないわ。」
 本当はちょっとだけ知ってるけど、と佳奈多は心の中でつぶやきました。
葉留佳「クド公はそのいよかん星人から雇われたんでしょ? なら知ってるよね?」
クド「いえ・・・実は私も、人を介して依頼されただけで、いよかん星人さんとは直接お会いしてはいないし、詳しいことも聞かされていないのです。」
佳奈多「クドリャフカ・・・あなたそんなので、よくバイト引き受ける気になったわね。」
クド「困ったときはお互い様なのですー。」
佳奈多「ねえクドリャフカ。仕事というのは、そういう甘い考えで引き受けるものじゃないわ。詐欺まがいのものだって世の中にはいっぱいあるんだから。」
クド「そなのですか。次からは気をつけます。」
葉留佳「でもそうなると、いよかん星人の手がかりは、クド公に仕事を依頼したという人物を当たる他なさそうですネ。」
佳奈多「そうね、それ以外なさそうだわ。・・・って、葉留佳、あなたはなんでこんなに熱心になってるの?」
葉留佳「え? そりゃぁもちろん、可愛いお姉ちゃんのために出来た妹が一肌脱ごうと奮闘するという努力友情勝利のストーリーが。」
佳奈多「・・・『出来た妹』という部分を無下に否定する気はないけど、『可愛いお姉ちゃん』というのは撤回してくれる?」
葉留佳「え? なんで?」
佳奈多「撤 回 し て く れ る ?」
葉留佳「わかりましたヨ。ちぇー。可愛いお姉ちゃんって結構萌え要素だと思うのになー。」
佳奈多「萌えとか言わないで。」
 そんな会話をしつつも、とりあえずクドに仕事を紹介したという人物に会いに行くことにしました。
 
 
唯湖「・・・。」
佳奈多「やっぱりあなただったんですね。」
唯湖「うむ。」
佳奈多「うむ、じゃないです。クドリャフカにまでこんな馬鹿な真似をさせようとして、いったいどういうつもりなんですか?」
唯湖「馬鹿な真似、か。君の目にはそう映るのかな?」
佳奈多「あなたの目にはどう映っているんですか?」
唯湖「果てしなく馬鹿な真似、だ。」
佳奈多「自覚はあるんですね・・・。」
 やれやれ、といった表情で佳奈多は肩をすくめます。
佳奈多「ま、とりあえずこの件は一件落着という訳ね。クドリャフカ、ご苦労様。バイト代を当てにしていたのなら申し訳ないのだけど。」
唯湖「待て。勝手に一件落着にされては困るぞ。」
佳奈多「まだ何か?」
唯湖「君はまだ、変身して戦って私を倒していない。それなのに一件落着とは、いったいどういう了見だ。」
佳奈多「そんなことをして何になると?」
唯湖「もちろん、私が楽しいからだ。」
佳奈多「・・・そんなに私と戦いたいんですか?」
唯湖「いや。戦いの方はむしろどうでもいい。」
佳奈多「?」
唯湖「変身だ。今すぐ私の目の前で変身して見せろ。佳奈多君が恥じらいつつも変身の台詞を叫ぶと今着ている服装が光だかなんだかよくわからないものに変化して佳奈多君自身は全裸だか半裸だかよくわからない状態になっていく、その様を見ながらうへうへかなたん激萌えっすもっとよく見せろはぁはぁとか言わせろ。」
佳奈多「・・・。」
 冗談じゃない、付き合ってられない、と佳奈多は思いました。
佳奈多「話はそれだけですか? でしたら帰りますけど。」
唯湖「まあ待て。君が変身をしたくないという気持ちはよくわかった。だが、これを見てもまだそんなことが言えるかな?」
 そう言って唯湖が指を鳴らすと、一人の少年が縛られた格好で連れてこられました。連れてきたのは美魚です。
唯湖「ご苦労だったな、西園女史。」
美魚「いえ・・・。直枝さんを縛るのは、結構ドキドキものでしたから。むしろ役得という気分です。」
理樹「役得って・・・。」
唯湖「さあ二木女史。愛する理樹君を助けたかったら、今すぐこの場で変身するんだ。」
佳奈多「えっ・・・?」
唯湖「変身したら理樹少年を解放してやろうと言ってるんだ。」
佳奈多「な・・・! 何を言ってるんですかッ!!」
 冗談じゃない。ただでさえ変身するのは恥ずかしいっていうのに、そのうえ直枝の目の前であの恥ずかしい台詞を叫び変身させられるなんて。
佳奈多「だいたい西園さんっ! あなた、そもそも私の味方じゃなかったの!? そもそも私は、あなたの代わりにこういう事を・・・!」
美魚「信じていた仲間の突然の裏切り・・・折り返し地点の24話としてはありがちな話ですね。」
佳奈多「24話って、これまだ1話だし! そもそも続くかどうかすらわからないし!!」
美魚「・・・スポンサーを見つけられなかったということですか? 商業資本主義は悲しいですね。」
佳奈多「そういう話じゃなくてっ!」
唯湖「まあ、要するに私と西園女史は最初からグルだったというわけだ。普段の冷静な君ならすぐ気づきそうなものだが・・・。まあ、仕方ないか。」
佳奈多「・・・。」
唯湖「さあ、どうする? 早く決断しないと、私たちが理樹少年にいろいろするぞ。そうだな、理樹少年の肌はすべすべで気持ちよさそうだ、全身をくまなく触ってみたい気分になる。」
理樹「ちょ、ちょっと、やめてよっ!」
美魚「敏感な部分を見つけたら、集中的に責めてみましょうか。」
葉留佳「おお、いいですねー。理樹君のあえぐ声は可愛いだろうなー。」
理樹「な、なにいってんのさっ! て言うかなんでいつの間にか葉留佳さんまで加わってるの!? ねえ二木さん、助けて・・・。」
 助けて。その理樹の言葉が佳奈多の耳に届きます。助けて。直枝が私に、助けを求めている。助けてって言ってる。
 恥ずかしがってる場合じゃない。
 佳奈多はきっと顔を上げ、そして宣告します。
佳奈多「あなた達、今すぐ直枝から離れなさい! でないとこの・・・このマ女っ娘かなたんが、成敗してくれます!」
 そう言うと佳奈多は一呼吸置き、すうっと息を吸い込んで、叫びました。
佳奈多「リリカルヘリカルトカマクレーザー、未来を繋ぐ胸キュンドッキンエネルギー、素粒子ビームでみんなのハートを融合しちゃえ〜!!!」
唯湖「おっ。」
 佳奈多の体が光で包まれ、服装と髪型が素粒子化して、そして再構成されていきます。
唯湖「あれはどういう原理なんだ?」
美魚「なんでも、高位体常温核融合という技術を使っているらしいです。詳しいことはよくわかりませんが・・・。」
クド「なるほど、それでヘリカル・トカマク・レーザー、なのですね。リリカルというのがよくわかりませんが・・・。」
葉留佳「はるちん全部わかんないっス! でも実は理系志望だったりしマス!」
 彼女たちがそんな会話をしている間に、佳奈多の変身が終了しました。
佳奈多「・・・これで満足かしら?」
唯湖「・・・話に夢中になっていてよく見えなかったな。もう一度やってくれないか?」
佳奈多「〜〜〜!」
葉留佳「大丈夫っス姉御! こんな所に何故か、放送用機材並の高性能なビデオカメラが据え付けてあってどうやら一部始終を録画していたようデス!」
唯湖「・・・おまえは少し空気読め。」
葉留佳「え〜!? 今のははるちん、高得点だと思ったのにぃ〜!」
 唯湖と葉留佳が言い争っている間に、佳奈多は理樹の元に駆け寄ります。
佳奈多「直枝、大丈夫!?」
理樹「えっと、二木さん、何だよね? 僕を助けるために、わざわざそんな格好に・・・。」
佳奈多「そうよ。あなたを助けたくて私、恥ずかしいの我慢してこんな格好に・・・。」
葉留佳「ちょっとちょっとちょっと! 黙って聞いてればそんな格好とかこんな格好とか! それはるちんの姿デスヨ! まるで私の姿が恥ずべきものみたいな言い方じゃないデスカ!」
佳奈多「葉留佳・・・。悪いけど、この服装はいくら何でもあり得ないわ。」
葉留佳「が〜ん! ちくしょぉ〜、いたる先生に言いつけてやる!」
 葉留佳が泣きながら走り去っている間に、佳奈多は理樹を縛っていた縄を解きました。そして、超電磁っぽいバトンのリセットスイッチを押して、元の姿に戻りました。
佳奈多「約束よ。直枝は返してもらうわ。」
唯湖「ふむ・・・。返すという約束までした覚えはないが・・・しかしキミがそうしたいというのなら、私は一向にかまわんよ。」
佳奈多「え・・・?」
唯湖「理樹少年はキミに返そうといっているんだ。」
クド「りき いず りたーんど かなた なのですっ!」
美魚「直枝さんは二木さんのものになってしまったということですね・・・。ちょっと嫉妬してしまいます。」
佳奈多「え? あ、あのこれは。」
唯湖「まあまあ、いいじゃないか。さて、お邪魔虫どもは退散するとしようか。」
 そう言って、唯湖と美魚とクドは、立ち去ってしまいました。
 
 
 
佳奈多「あ、あの、直枝・・・。」
理樹「二木さん。助けてもらって、僕うれしいよ。」
佳奈多「直枝・・・。と、当然のことをしたまでよ。」
理樹「そうかな。そうかもね。でも僕は、二木さんに助けてもらったことは凄く嬉しかった。他の誰でもない、二木さんに。その事実は変わらないから。」
佳奈多「――!」
理樹「二木さん。何かお礼がしたいな。何がいい? 何でも言ってよ。」
佳奈多「そうね――。じゃあ、さっきのこと忘れて。」
理樹「・・・え?」
佳奈多「あんな恥ずかしい変身をしたことを忘れてって言ってるの。」
理樹「それは・・・出来ないよ。せっかく二木さんが僕を助けてくれた、大切な思い出なのに。」
佳奈多「直枝・・・な、何言ってるのよ。」
理樹「ごめんね。ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかな。でも、こんな恥ずかしいことでも、僕にとってはとても大切なことなんだ。僕と二木さんの、二人で過ごした時間、その一つ一つの記録なんだから。」
佳奈多「〜〜〜!!!」
 佳奈多は何も言えなくなってしまいました。
理樹「とりあえず・・・どっか行こうか。こんな所に突っ立ってても何だし。」
佳奈多「そ、そうね。」
理樹「行きたいとこ、ある?」
佳奈多「特に・・・直枝に任せるわ。」
理樹「うん。じゃあ、とりあえず街にでも出てみようか。」
 そう言って二人は、並んで歩き出しました。端から見るとそれは初々しく、しかし仲睦まじく見えるように。
 
 そして。そんな二人を陰から見ている一人の人物がいました。
恭介「俺の・・・理樹を・・・!」
 
 
 とりあえず 完 


2008年10月9日執筆
 
 
荒野草途伸創作系ガイド
オリジナル系 Key二次創作系
ゆめいろの森の中で 紫春 職業:義理姉; その他 Kanon AIR CLANNAD リトルバスターズ!
戻る