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魔法少女はるカ☆カなた

 
 この物語は、鬼の風紀委員長とは名ばかりのシスコンダメ姉な佳奈多ちゃんが、妹の葉留佳を守る為に空回り孤軍奮闘する涙の物語です。
 なんか似たような名前のSSが既にあったような気がしてなりませんが、たぶん気のせいでしょう。
 
 
 名ばかりとは言っても、鬼の風紀委員長としての名目は保っている佳奈多ちゃん。今日も職務に励んでいます。何故か今日は目の下のクマが異常に濃いですが。
「委員長。今日は特にお疲れの様子ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、問題無いわ」
「そうですか。でも見るからにお疲れですし、今日の残作業は我々が引き受けますから、お休みになっては?」
「…そうね。今日はもう急ぎの案件も無いし。お言葉に甘えて引き上げさせて貰うとするわ。…あ、でも」
 佳奈多は一枚の書類を風紀委員に渡します。
「これだけは処理しといて」
「至急呼び出し、ですか。中庭ですか? ここじゃなくて?」
「ナイーブな問題なのよ、出来るだけ事を荒立てたくないの。だから行くのも私一人だけで十分よ」
「わかりました、すぐに放送部に手配をしておきます」
 
 
 
 そして佳奈多は、呼び出し場所の中庭に向かいました。中庭では真人が片腕立て伏せをしていました。佳奈多特に動じません。真人が、当の呼び出しをかけた相手だった為です。
 
「よぉ、遅かったじゃ無いか」
「その台詞は死亡フラグよ」
「あまり一般的では無いだろう。ちなみにオレはスイカを育てたりはしてねえぜ」
「代わりにマナカを育てたりしてないでしょうね」
「…やめようぜ、こういう話題。他人に聞かれたら俺たちがそういう人種だと思われる」
「…そうね。でも、今の話で確信できたわ。あなたが『Q』だということが」
「おいおい、今やめようぜって言ったばっかじゃねえか。だいたい公開は来年だぜ、Qが何なのかもわかんねえだろ」
「沖縄じゃまた桜坂劇場で再来年になりかねないけどね。…まあ、洋画偏重の国場を恨んでも仕方ないわ。だいたい、そっちのQのことじゃないし」
「さっき『今の話で確信できた』って言ったばっかじゃねえか」
「あなたがQに反応するという事実が大事なのよ、Q太郎」
「今度はQ太郎かよ。て言うかオレQ太郎て名前じゃねえし。井ノ原真人だよ。て言うかその名前で呼び出しかけてるだろ」
「そう。あなたはそうやって、人類を欺いているのよ」
 佳奈多ちゃん、なんだか電波炸裂状態です。真人大弱り。
「…なあ、手っ取り早く本題に入ってくれねえか?」
「わかったわQ太郎。…私は、あなたを抹殺する。葉留佳を魔法少女にさせない為に」
「は? いや、本気で意味不明だし。それにQ太郎じゃねえし」
「しらばくれても無駄よQ太郎、いえ、インキュベーター。」
「いや、インキュベーターでもねえし。て言うかなんだよそれ。何でオレがそんな呼ばれ方されなきゃならねえんだ?」
「あなたの名前。井ノ原真人と名乗っているわね。インキュベーターとそっくりじゃない」
「いや、全然似てねえし。『い』しか合ってねえし。言いがかりにすらなってねえし。あまりの理不尽さに怒る気にもなれねえぜ」
「そう。じゃあ『イノセンスハァト』とでも呼んで欲しいのかしら?」
「いや確かに字数増えたけどさ。その呼ばれ方かなり恥ずかしいし」
「そう。じゃあQ太郎でいいのね」
「いやそれもよくねえよ。だいたいなんでオレがQ太郎なんだ」
「あなたこの間、棗さんと肉球について激論していたでしょう。その肉球へのこだわりこそ、正にあなたがQ太郎である証拠よ」
「オレは筋肉専門なんだよっ! 肉球にこだわってたの鈴の方だぞ! 言いがかり付けるなら鈴にしてくれよっ!」
「あの子女の子よ。太郎呼ばわりは失礼でしょう」
「だったらQ子でいいだろっ! 何でそこまでしてオレをQ太郎にしたがるんだよ!」
「じゃあどう呼んで欲しいのよ」
「普通に真人と呼んでくれよ…」
「いきなり下の名前で呼べだ何て。よほどフレンドリーなのか、それとも私に気でもあるのか…どっちなの?」
「前者でいいよ…いいから早く用事済ませてくれよ」
「用事はさっき言ったとおりあなたの抹殺だけど、異議は無いのね」
「しまったぁ…! いや、抹殺は勘弁してくれ、せめて抹茶にしてくれ」
「あなたに茶の湯の心がわかるとでも言うの?」
「ぐ…残念だがオレにそんな教養はねえ…」
「ならこれ以上は問答無用ね。抹茶の代わりにこの赤マルソウ1.5リットルパックを一気飲みしなさい」
「赤マルソウって味噌と醤油どっち…ぐ、やはり醤油か…」
 真人は倒れてしまいました。醤油1.5リットル一気飲みさせられたら、普通は倒れますね。というか病院行った方がいいです。
「…Q太郎、やはり話の通じる相手じゃなかったわね…」
「いや、話通じないのどう考えてもおめ…ガクッ」
 
 
 
 数分後。倒れている真人の近くを葉留佳が通りかかりました。
「救急戦隊ゴーゴーファイブってどう考えても特警ウィンスペクターの焼き直しじゃんって思ってたの私だけですか? って真人君どうしたデスカ!?」
「…風紀委員長にやられた…とりあえず水をくれ…」
 葉留佳 は真人に目隠しをしました。
「…何がしたい」
「『見ず』。Don't show.英語合ってますカネ?」
「英語以前に日本語を勉強してくれ…無い知恵絞っていえば、オレが今欲しいのはH2Oだ。あ、先に言っておくとギャルゲーじゃないぞ」
「わかりました、阪神阪急ですネ。でも今年はもう中日が優勝しちゃいましたヨ?」
「チクショウ、最近の企業グループの名前意味わかんなさすぎだぜ! って違えよ! て言うかお前理系だろ、普通化学式連想するだろ!」
「数学が得意だからと言って化学も得意だとは限らないのデスヨ」
「いやもう変な理屈はいいから、水をくれ…マジ死ぬ」
「はるちんがいつも携帯しているポカリスエットとトマトジュースがありますが、どっちがいいですカ?」
「今のオレにはどっちもキツイが…背に腹は代えられん、ポカリをくれ」
「160円になりマス」
「微妙にボッタクりと言えないところが余計に腹立たしいぜ…金はポケットに入ってるから、早くポカリをくれ」
 ポカリを飲んだ真人は、やっと落ち着きました。
「で。一体何をしでかしたんデスカ」
「何もしてねえ…わけのわからん言いがかり付けられて…ああ、そう言えば何か、魔法少女がどうとか、お前を守るとか何とか言ってたな」
「あー…あのバカ姉、また暴走してますネ」
 はるちん、何か心当たりがあるようです。
「オレに非があるなら文句は言えねえ。けど、何もしてないのにこの仕打ちはあんまりだ。チクショウ、このままじゃ腹の虫が収まらねえ」
「ふむ…。では一つ、ぎゃふんと言わせてやりますカ」
「『ぎゃふん、これで気が済んだ?』、で終わりそうだが」
「確かにそう言いかねませんガ、別にぎゃふんという台詞にこだわってるわけではないデス。要は、はるちん自ら魔法少女になって、きゃつめを困らせてやろうというわけデス」
「なるほど…」
 何かがおかしい気がしますが、気にしちゃいけません。この二人ですから。
 
 
 
 そして葉留佳と真人は、恭介の部屋に行きました。
「そういうわけで魔法少女に詳しそうな棗先輩に相談に来マシタ」
「三枝。お前は俺という人間を誤解している」
「いいや、誤解してない。わかるぞ、はるか。上が馬鹿だと妹が苦労するんだよな、うんうん」
 一緒に居合わせた鈴が葉留佳の肩を叩きます。
「こんな事で鈴ちゃんと意気投合するとは思いませんでしたヨ」
「鈴はこんなとこで何してんだ?」
「フ。それは勿論、兄妹でいけない事をしていた」
「いけない事?」
「宿題がわからないから教えて貰っていた。丸写しじゃ無いんだからそんなに悪い事じゃないと私は思う」
「むしろいい事デスネ」
「だが恭介の一言で台無しだな」
「そうだ。だから私はこいつを馬鹿兄貴と呼ばざるを得ない」
 恭介四面楚歌。
「…まあ、いい。で、魔法少女がどうしたって?」
「魔法少女になって姉をぎゃふんといわせたいのデス」
「なんでそうなるのか話の筋がよくわからん」
「姉は優等生に見えますガ、実はかなり子供っぽいのデス。今はどうやら、私が騙されて魔法少女にされるのを阻止する、という設定にはまり込んでいるようなのデス」
「二木ってそんな奴なのか?」
「この間もタンスの奥に、俺の妹が〜とかいうライトノベルとアニメを隠してあるのを見つけてしまいマシタ」
「三枝、いくら姉妹とは言え、他人のプライバシーを暴くような真似は感心しないぞ」
「わざとじゃないですヨ。また下着が無くなったのでどうせ姉の仕業だろうと思って探していたら偶然見つけてしまったのデス」
「なあ鈴。オレ、なんかいろいろ聞いちゃいけない話を聞いちまった気がするぜ…」
「安心しろ、私も同じ立場だ」
 仲間がいるって心強いですね。
「とにかく姉は異常なのデス。…あ、今は異常なのデス」
「だからまずはそのふざけた幻想をぶち壊してやろうってわけか…。いいぜ、乗ってやる」
「まずお前自身が既に幻想にとらわれていることに気づけ」
 鈴ちゃん容赦ないです。
「さて、魔法少女といってもいろいろあるが…。Key系だとまじかるさゆりんか藤林杏あたりになるが、そういうのか?」
「イエ。名前は言えませんが2011年ダントツの最高傑作といわれてる、アレデス」
「ああ。俺はアニプレックスが許せないからDVDは買ってないが、内容は把握している」
「素直に金が無いと言え」
「要するに、奇跡はそれを超える代償無しには得られないという、熱力学第二法則を解説するアニメだったな」
「まあ、そうとも言えますネ」
「なら何も魔法に固執する必要は無いわけだ。物理少女はるか☆フィジカ、何てどうだ?」
「いやー、個人的には悪くないデスガ、それで姉の鼻を明かせるかっていうとどうだか」
「『魔法少女』にはならずに済んだ、て解釈しちまう可能性はあるな」
「よし、ここは変な小細工はせずに、正攻法でいこう。まずは魔法少女になる仲間を集めるんだ」
「仲間デスカ。沖縄に行けばいいんデスカ?」
「そういう使い古されたネタはよせ」
「いやー、はるちん実際沖縄に行ってるんで、つい」
「麻枝が異常に嫌っている豚足は美味かったか?」
「それなりに。あと、ミミガーが安くて食べ応えがありましたヨ。有月さんに教えてあげたいデス」
「だがミミガーはカレーには向かないだろう…ってそんな話をしてる場合じゃない。三枝、お前に友達はいないのか?」
「ここにいるみんな友達デスヨ」
「チクショウ、嬉しい事言ってくれるじゃねえか…」
「うむ。だが俺が言いたいのは、一緒に魔法少女になってくれそうな友達のことだ。ここにいるのは野郎ばかりだろう」
「鈴ちゃんは女の子デスヨ?」
「確かにそうなんだが、鈴ではなんだか面白みが無い気がする」
「はるか、私は今馬鹿にされたのか?」
「よくわからないデスガ、とりあえず蹴っていいデスヨ」
 
 
 
 仲間を求めて彷徨っていた葉留佳達は、理樹と出会いました。
「そういうわけで、理樹。魔法少女になれ」
「…え?」
「なるほど。確かに理樹ならうってつけだな」
「いやいやいや」
「姉の罵倒も理樹君なら喜んで受け入れそうデスシ」
「ちょっとそれ酷い誤解」
「私も、私より理樹の方が魔法少女に相応しいと思う。それ以前に私はなりたくないが」
「いやいやいや、だからみんなちょっと待ってよ、根本的なところでおかしいでしょ!?」
「何がだ?」
「だから。少女ってのは、大人になる前の女性のことをいうんでしょ」
「それがどうした」
「僕、男だよ!?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「ちょっと! 何その反応!!」
「理樹。現実逃避はよせ」
「それこっちの台詞!」
「諦めろ理樹、まともな理屈が通じる相手じゃ無い。それに理樹が断ると私が魔法少女にされかねない」
「何て身勝手な」
「しかし実際、理樹君には姉の目を覚まさせる力があるような気がしマス」
「違う方向に目覚めそうだけどな」
「だが適任だ」
「よし、決まりだ。次行くぞ」
「ちょっと! 僕の意志完全無視!?」
 
 
 
 そして一行は、寮事務室にやってきました。
「何故ここに?」
「例の魔法少女モノの中に、先輩キャラがいただろう。それを確保しなければならない。しかし俺らの周りで女の先輩キャラといったら、ここにいる寮長ぐらいだ」
「クドわふたーにフェルマーの定理を語れる科学部部長がいましたけどネ」
「だがあれは系列校の生徒だ。今すぐには確保出来ない。そういうわけで者ども、突入だ!」
「いや、普通に入ろうよ」
 ドアを開けた一行が部屋に入ると、中には女子寮長、通称あーちゃん先輩がいました。本名は不明です。
「なので仮に早坂アコとしておく」
「何意味不明な事言ってるのよ」
「アコ、三枝と一緒に魔法少女になってやってくれ」
「やーよ」
「うわ即答」
「廊下での会話、聞こえてたわよ。先輩魔法少女でしょ? 魔女に食べられて死んじゃう。いやよそんな役」
「…まあ、そうですヨネ…」
 一同しょぼくれます。その姿を見てあーちゃん先輩、にやつきながら言いました。
「…んー、でも…アタシが食べる側だったら、別にいいかな…。にゅっふっふ」
 独特な笑い方をしながら、あーちゃん先輩が恭介の方を見ます。恭介は逃避モードに移行します。
「あー、いや、その、なんだ。うむ、すっかり忘れていたが、俺は就職活動の為石垣島に行かねばならんのだった。そういうわけでさらばだ、アデューアディオス再見うわ何をするお前らこらやめ」
 葉留佳達は恭介を捕らえて、あーちゃん先輩に引き渡しました。
「どうぞ」
「あらやだぁ、そんなつもりじゃなかったのにぃ、でも折角の行為を無碍にするのもなんだしぃ」
「いやだから俺は今から石垣島に」
「石垣島は徒歩では行けないわよ。アンタ飛行機代出せるの?」
「船便で行くさ」
「残念。石垣航路は運行していた会社が倒産して、旅客便は今は無いのよ」
「くそ、抜かった…ッ!」
「にゅっふっふ〜。さ〜て、嘘付いたおしおきしないとね〜」
「あの〜、はるちん達、外に出ときますね」
「あらぁ、そんな気遣わなくていいのよぉ」
「いえいえ。どうぞごゆっくり」
 葉留佳達は寮事務室を後にしました。
 
 
 
「…あれでよかったのかな?」
「いいんじゃないデスカ? どのみち先輩魔法少女は3話で消えることになってますし」
「馬鹿な兄だったが、それなりにいいところもあった…」
「魔女と戦うって事がどういう事か、身を以て教えてくれたんだね」
 一行は勝手な事を言いながら廊下を歩いて行きました。
「さて、後は最後の一人を見つけるだけか」
「でも最後の一人っていきなり殺し合いになるんだよね? そんな人いるのかなあ?」
「伊吹風子なんてどうデスカ?」
「いや確かにある意味まんまだけど、俺らと作品違うし」
 そんな事を話しながら歩いていると廊下の先に佳奈多と小毬が話しているところを見つけました。
「…お姉ちゃん、何やってんデスカ」
「あら葉留佳。あなた、魔法少女になろうとしているようね。あれほど忠告したのに」
「いや、この件に関してはまだ何の忠告も警告もされていませんケド」
「でもお生憎様。この学校の魔法少女は、神北さんに任せることにしたから」
「…え?」
「そういうことなの。葉留佳ちゃんごめんね〜」
「でも待って。確かに小毬さんはお菓子食べまくってるけど、他の魔法少女と殺し合いするような人じゃ無いよ」
「…直枝理樹。あなた、神北さんに死ぬほど恥ずかしい目に遭わされたそうね」
「…えっ!? 何故それを…」
「ん? 何だ、何の話だ?」
「う〜ん。たぶんね、理樹君に私の服着せて写真撮りまくったことがあるんだけど、その時の話だと思うの」
「あー。あの恥ずかしい私服デスカ」
「お前が言うなよ」
「で、でも。僕と小毬さんは別にいがみ合ってるわけじゃ無いし」
「そうね。確か…最後は泣くほど仲良くなったのよね」
「いや、最初から仲いいから」
 理樹の抗議も無視して、佳奈多は蕩々と語り始めます。
「立場や生き方が違っても、手を取り合って戦うことは出来る。望んで魔法少女になった者なら、それはむしろ必要なこと。でも…」
 佳奈多は、葉留佳を指さして、続けます。
「葉留佳。あなただけは、魔法少女にはさせない。そんなの私が許さない」
「いいえお姉ちゃん、私は魔法少女になる。そう決めたの」
 いつになく真剣な表情の葉留佳。その気迫に来押されしたのか、佳奈多はへたり込んでしまいます。
「そんな…ッ! 葉留佳、どうしてあなたは…! そうやって自分を貶めて…。あなたのことを大事に思っている人のことを、少しは考えて!」
「…イエ、そんな自虐的な思考は持っていませんガ。そもそも誰の所為でこういう事態になってると思ってるんデスカ」
「とにかく、葉留佳 は魔法少女になんかなっちゃいけないの。ううん、ならないで!」
「まだ言いますカ。…仕方ないですね。問題を解決するにはやはり私が魔法少女にならなければいけないようね」
 葉留佳は普段と全く違う表情になり、真人の方に向き直って言いました。
「さあ、井ノ原Q太郎。私の願いを叶えて、魔法少女にして!」
「いやだからオレQ太郎じゃねえよ。お前までなんなんだよ」
「いいからこの場は合わせて下さい」
「…わかった。さあ三枝葉留佳、魔法少女になる代償に、お前は何を願う?」
「願い…? そうですね…。」
 葉留佳は、暫し考えて、そして言いました。
「私は、人を殺して奇跡を乱発する風潮を無くしたい。僻みで世界観を作ったり原案を改変してしまうライターや、中身も見ずに中傷する狂信者そのものを消し去りたい!」
「その祈りは…そんな祈りが叶うとすれば、それは作品批判なんてレベルじゃ無い。keyそのものに対する反逆だ! 三枝、お前は城桐を神にでもするつもりか!?」
「神様でも何でもかまわない。私は、keyの魂を信じて付いてきたみんなの願いを無駄にしたくない! さあ、かなえてよ井ノ原Q太郎!」
「ムリ」
 それまで真剣な表情で聞いていた佳奈多が、思い切り突っ伏して廊下に頭をぶつけてしまいました。結構いい音したので、小毬が少し慌てています。
「と言うか、姉の鼻を明かすという話から、えらく大きく飛躍したな」
「いやー、なんかつい調子に乗ってしまって。正直スマンカッタデス」
「でもちょっと本気入ってたよね」
「本気で遊ばなきゃ面白くないってもんですヨ」
 そう言った後、葉留佳は佳奈多に手をさしのべて、言いました。
「でしょ? お姉ちゃん」
「葉留佳…いえ、私は…」
「ずっと私の為に戦い続けてくれたから。いろいろごちゃ混ぜになっちゃったんだよね。これからは、羽目の外し方も覚えていこう」
「はるかは外しすぎない方法を覚えた方がいいと思う」
「鈴、あんまり突っ込みすぎると今度は自分に返ってくるよ」
「そうだよ鈴ちゃん、今はちょっといい所なんだから」
 周りが見守る中、葉留佳と佳奈多の会話は続いていました。
「葉留佳…こんな馬鹿な姉を許してくれるの?」
「馬鹿な姉なら許しマセン。でもお姉ちゃんは馬鹿じゃ無いはずデス」
「葉留佳は…葉留佳を妬んで葉留佳の変装をしたり逆に過保護に走ったりする私を、馬鹿じゃ無いと言ってくれるの?」
「馬鹿と言うつもりはありまセン。ケド…下着を盗むのはさすがに勘弁して欲しいですネ」
「盗んでないわ…交換してるだけよ」
「いや…それもっと嫌なんですケド」
「えーっと…そろそろ突っ込みどころなのかな?」
 小毬の言葉が締めになって、そのままこの場は解散になりました。
 
 
 結局、奇跡も魔法もありませんでしたが、彼女達にはそんなものは必要無かった、ということなのでしょう。
 これがめでたいかどうかは、これから長く続く人生の中で決まっていくことです。
 
 
 ちなみに、後日最大の被害者である真人の元に佳奈多から詫び状が届きましたが、生真面目な佳奈多の書いた長文の詫び状は、却って真人を苦しめることになるのでした。
 
 
 
 
 
「…というお話だそうです」
「そうですか。相変わらずはた迷惑だけど愉快な人達ですね」
「ところで、西園さんはこの手の話には絡んできやすそうに思うのですが、全然名前が出ませんでしたね」
「…能美さんは私をどういう人間だと思っているのですか?」
「はう…すみません」
「謝らなくてもいいですが…。そうですね、私は、美少年がたくさん出ないアニメには興味ありませんから」
「そうですか? でも、そもそもの発端は、西園さんが佳奈多さんにDVDを貸したのが始まりだと聞きましたけど」
「…。」
 
 
 
 
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