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理樹の看病日 
〜クド編〜

 
 
 
「姉から聞いた話なのデスガ。誕生日を過ぎた理樹君は、風邪ひいて倒れたそうデス」
 
 葉留佳さんが人差し指を突き立てながらリトルバスターズの面々に報告しています。みんな困った顔をしています。それはそうです、みんなが大好きなリキが、風邪をひいたのですから。そんな中で、私は一人顔を背けています。
 だって、リキに風邪をひかせたのは、この私ですから。
 
 だってリキがいけないんです! いくら風邪をひいたからって、佳奈多さんに看病を口実にされるがままに、えっちな事されて…!
 いえ、そうではないです。えっちではないです。リキはまだ清いままです! 佳奈多さんはどう思ってるかわかりませんが、リキにはまだそういうのは早いです!
 でも、佳奈多さんが女性として魅力的なのも事実です。残念ながら私など到底及んでいません。わふ。このまま放置していたら、佳奈多さんの色香にリキが惑わされてしまうかもしれません。そうなる前に早めに手を打たねばなりません。先手必勝、というにはあまりにも遅いというか既に佳奈多さんに手を打たれてしまっていますけど、きっとまだ間に合います。
 
 そういうわけですので、私もリキの看病をして遅れを取り戻そうと、そう考えたのです。その為に、リキにまた風邪をひかせないといけませんでした。これは必要なことなのです。
 
 
 テヴァの神様ごめんなさい。クドリャフカは悪い子です。
 
 
 でも、リキに風邪をひかせるのは大変でした。
 リキは最近井ノ原さんと一緒に筋トレをしている所為か、そんな簡単に風邪をひいてはくれません。真水をぶっかけたくらいでは風邪をひかないでしょう。そう思って塩水をかけてみました。
 風邪ひきませんでした。
 
 量が少ないのかもと思い、もっと多めの塩水を用意しました。これにリキを浸けるのです。冷たいままだとリキが警戒して入らないかもしれないと思って、暖めておきました。
 リキの血行が良くなってお肌がすべすべになりました。お肌すべすべのリキ、とっても可愛いです。わふ。
 
 
 そうじゃありません。
 
 
 というか血行良くしてどうするんですか! 風邪をひかせるのが目的じゃないですか! これではむしろリキが健康体になってしまいます! 
 あ、いえ、決してリキが健康であってほしくないと言う意味ではなく。ただ、今は風邪をひいてほしいだけなのです。風邪ひいてリキに甘えてほしいのです。わふ。
 
 しかし健康体になってしまったリキに風邪をひかせるのは容易ではありません。もっと強硬な手段を執る必要があるかもしれません。
 そういうわけで、ダイレクトにリキにウイルスを送り込むことにしました。とはいっても、中途半端な量をお注射するとただの予防接種になってしまいます。なので、生物部のバイオ田中さんに依頼して、新種の風邪ひかせ専用ウイルスを開発してもらいました。感染すると寝込まずにはいられないけど、ほっといても三日で治るすぐれものです。これでリキは三日間私に依存しっぱなしです。楽しみすぎます。わふ。
 
 おっと、その前にやることやらないといけません。このウイルスを培養してリキに感染させるのです。
 取扱説明書には、寒天培地で培養してそのまま食べさせる、とありますね。でも、寒天培地だといかにもそれっぽくて、リキが食べてくれるか不安です。
 なので、お豆腐を使うことにしました。お豆腐の表面に菌を塗りたくって、保温庫の中で一晩寝かせます。はい、こちらに、すでに一晩寝かせたものを用意してあります。これをリキに食べさせます。
 
「リキ〜。お豆腐食べませんか?」
「ありがとうクド。湯豆腐か麻婆豆腐がいいな」
「加熱してしまうのですかっ!?」
 
 そんなことしたら殺菌されてしまいます!
 
「加熱しないの?」
「お豆腐は生で食べてもおいしいのです…」
「あ、そうか。冷やっこで食べてもおいしいよね」
「残念ながら冷やっこくはなくどちらかというと人肌の温もりなのですが」
「え、なんで」
「いろいろと事情があるのです…」
「うん、まあいいか。じゃあネギとショウガと醤油を用意しようか」
「ネギとショウガと醤油をかけてしまうのですかっ!?」
 
 そんなことしたら殺菌されてしまいます!
 
「薬味も醤油もかけないの?」
「あ、あの、特別なお豆腐なので、まずはそのまま味わってもらいたいなと」
 
 私のリキへの思いがこもった特別なお豆腐です。うそついてません。
 
「そうなの? じゃあ、まずは一口だけ」
 
 リキが私の思いのこもったお豆腐を口に運んでいます。
 
「…なんか変な味するよ?」
「と、特別なお豆腐なのです!」
「でも、腐ったというか発酵したというか、そんな味がするんだけど」
「とうふようです! とうふようです!!」
「豆腐蓉って豆腐を泡盛に漬けて紅麹で発酵させたものだよね? こんな味するの?」
「そうです! 私達はまだ未成年なので、ノンアルコールのとうふようです!!」
「ノンアルコールなんだ。あれ? でもなんか、頭がぼーっとしてきたよ?」
「それはウイルスの仕業ですね」
「え?」
「あ、いえ、リキ最近疲れてるし、ウイルスに感染して風邪ひきやすくなってるのかなあ、と」
「言われてみると確かに、なんだか寒気がして熱っぽい感じがするよ」
「それはいけません。私と寝ましょう」
「え?」
「間違えました。すぐに寝た方がいいです。私が看病します」
「うん、じゃあさっさと寝るよ」
 
 リキが布団に入ろうとします。
 
「あっあっ、着替えもせずに布団に入るのですか?」
「う、うん。すぐに寝るし」
「だるくて着替えられないなら私が手伝いますよ?」
「えっ。いやいやいや、ちょっと寝ればたぶんすぐ治るから、だからわざわざ着替えなくてもいいかなって思っただけだよ。大丈夫だから!」
「そうですか…」
 
 わふ。リキを脱がせ…ではなくて、お着替えお手伝いしたかったです。
 
「じゃあ、布団入るから。うつすといけないからクドは部屋戻ってて」
「なにを言うのですか。病気のリキを放っておいて部屋に戻るなどできません。治るまでここで看病します」
「はは。じゃあ早く治さないとね。頭ぼんやりしてきたし、もう寝るね」
 
 そうしてすぐにリキは寝てしまいました。安らかに寝息たててます。リキの寝顔、かわいいです。
 
 はっ。見とれてる場合ではありません。看病しなくてはいけません。
 まずは熱を冷まさないといけません。いくら三日で治ると言っても、その間に高熱を出して脳炎になったら大変です。冷却しないといけません。
 
「ハンドタオルか、無ければふつうのタオルがどこかにないでしょうか…」
 
 タオルを探してリキの部屋を漁っていたら、なぜか恭介さんの抱き枕が出てきました。
 見なかったことにします。
 
 筋肉魂、と書かれた手ぬぐいを見つけました。額を冷やすだけですし、これくらいならいいでしょう。
 手ぬぐいを濡らして絞ってリキの額に乗せると、心なしかリキの顔がゆるんだ気がします。これでしばらく大丈夫。たっぷりとリキの寝顔を堪能します。
 わふわふ。
 
 そういえば、額を冷やすのもいいですけど、体温はどうなっているでしょうか。すっかり忘れていました。
 体温計…は見あたりません。リキはこういうのは常備しておかないんでしょうか? 体重計なら出てきました。これはきっと井ノ原さんのですね。誰のものにしても今は不要です。
 しかたありません、手で検温するしかないです。
 …はっ。今額を濡らしてしまったので、おでこで正確に体温を測ることができないじゃないですか。
 と、なると。
 私は、ちらっとリキの布団の方に目線をやります。頭で測れないのですから、体の他の部分で測るしかないです。手で。手で触って測ります。私の手でリキを触って測ります。いやらしくないです。これはリキの看病のために仕方のないことなのです。
 
「リキ、失礼しますね…」
 
 そういって私は、リキが寝ている布団の中にそっと手を差し入れました。どこ触りましょう? どこ触ってもいいんですよね…? 好きなところ触っても…。
 
「う、うーん…」
 
 迷ってる間にリキが寝返りをうってしまいました。体が遠いです。私の小さな体では、リキまで手が届きません。
 どうしましょう。
 
 私が布団の中に入るしかないですね。
 いやらしくないです。これはリキの看病のために仕方のないことなのです。
 
「リキ、失礼しますね…」
 
 そう言って私はリキの布団の中に潜り込みます。リキの温かい体温が感じられます。そうです、もう布団に入ってしまったのですから、何も手で測る必要はないはずです。体全体でリキの体温を測りましょう。そうすれば全身の体温が測れます。ああ、どうしてこんな素晴らしいことに気づかなかったんでしょう!
 
「リキ、検温開始しますね…」
 
 そう言って私はリキに抱きつきました。やっぱり少し熱っぽいですね。でも今私はすごく幸せです。わふわふ。
 もっと全身をくまなく検温しないといけません。私はリキに体を擦りつけまとわりつきながら、検温しました。リキ、表を測るから仰向けになってくださいね。
 
 リキ、とってもかわいいです。そう思ってリキの顔を見ると。リキ、起きてました。
 
「…何してるの、クド?」
 
 あqsうぇdrftgyふじこlp;@!!!
 
 いけません、おちついて、落ち着いて日本語で返答しないと!
 
「私はリキの体温計です!!!」
「意味が分からないよ…」
「風邪ひいたら体温測定するのです!」
「それはわかるけど…体温計使えば?」
「体温計なかったので! だから私の体でリキの体温測ってたのです!」
「え? あ、そうか。体温計なら体重計の裏に貼り付けてあるよ」
「何でそんなところに体温計貼り付けるですかっ!」
「いや、最初は救急箱や机の引き出しに入れてたんだけど。真人がいつまで経っても場所を覚えないから、体重計の裏に」
「よけい紛らわしいじゃないですかっ!」
「でも真人はそれで覚えたよ?」
「私は井ノ原さんじゃないです!」
「あ、うん。ごめん」
「だから全身でリキの体温測ってたのです!」
「いやいやいや、それもやっぱりおかしいから」
「わわわ私おかしいのでしょうか!?」
「ええと、とりあえず、降りてくれない? そして落ち着こうよ」
 
 言われて気づきました。私、さっきからずっとリキの上に馬乗りになってます!
 冷静に考えてみれば私なんてことしてるんでしょう!
 
 私は慌ててリキの上から降りて、はねるようにそのまま逃げ出してしまいました。
 
「うわ〜ん! ごめんなさいです〜!」
「え!? ちょ、ちょっとクド!?」
 
 声かけないでください、よけい恥ずかしいです!
 などと返せるはずもなく。私はそのまま、リキの部屋を取びだしてしまいました。泣きながら走ってる途中に恭介さん達がいたような気がしましたが、私今それどころじゃないです。そのまま泣きながら走って逃げました。それでも通りすがりに、こんな会話を聞き取れました。
 
「今の、能美じゃないか…?」
「泣いてるように見えたが…何かあったのか?」
「先日バイオ田中と接触してたという情報も入ってるが」
「こいつは…とてつもなくヤバい臭いがするぜ」
「緊急会議だ! リトルバスターズ、全員召集!」
 
 
 こうして恭介さんに招集をかけられて、リトルバスターズのメンバーが会議をする羽目になったのでした。
 
「姉から聞いた話なのデスガ。誕生日を過ぎた理樹君は、風邪ひいて倒れたそうデス」
 
 そうやってみんなが割と深刻に会議をしている中、私は何も言い出せずにただうつむいていることしかできませんでした。
 
 
 
 おしまいわふ。
 
 
 
 
 
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