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理樹の看病日

 
 
 
「姉から聞いた話なのデスガ。誕生日を迎えた理樹君は、風邪ひいて倒れたそうデス」
 
 三枝葉留佳が人差し指を突き立てながらリトルバスターズの面々に報告している。
 
「知ってます」
「知らないと思ってか」
「お前、同じクラスのオレ達が知らないとでも思ったのかよ」
 
 葉留佳総攻撃の空気になりかけたので、葉留佳は一瞬たじろいだ。
 
「いや、身近にいるからこそ気がつかないということもあるじゃないデスカ。ほら、君たち今、美魚ちんが一瞬明るい美魚ちんになってたの気づきましたカ?」
 
 一同は一斉に美魚の方を見た。
 
「いやんいやん。そんなに見ないで。理樹君看病するフリしていやらしい事しようなんて考えてないんだからん。ちらっ」
 
 いいえ、これは西園美魚です。
 
「どうやらまだ明るい美魚ちんとやらが残ったままのようだな」
「と言うかこれキャラ変わってるだろ」
「演技力に定評のある美魚ちゃんだから」
「だが。今の西園の一言はみんなのハートに火を付けた」
 
 火がついたはずなのに、その場は一瞬凍り付いた。謙吾の言葉はあまりにも的確に、女子達+男子1名の心中を言い当てていたのだ。
 
「マッタク恭介さんはどスケベですね! 理樹君の看病を口実に二人きりになりたいだなんて!!」
「お前だって一瞬顔にやけただろっ!?」
「理樹君の看病しなくちゃ理樹君病気で寂しいの理樹君を一人にしたらいけないの理樹君には私が付き添ってあげるの私がお世話するのずっとずっとお世話するの理樹君おトイレに行きたがるだろうけど許してあげないの」
「こまりちゃんが壊れた振りして理樹の看病に行こうとしてる!」
「うむ、それは大変だ。君たちは小毬君を保健室に。私は理樹君の様子を見てくる」
「様子を見るだけなら部屋まで行かずとも…ほら、双眼鏡をどうぞ」
「気遣いは有り難いがそれは君が使うといい」
「いえ。私は直枝さんの部屋に行って、病身で寂しい直枝さんのために本を朗読してあげる大事な使命がありますので。この自慢のウィスパーボイスで」
「うむ。そうやってゆいこさんをディスるのはやめるといい」
「あのー。みんなで看病するわけにはいかないのですか?」
「しかし部屋、狭いしな。オレ一人でも結構幅取るし」
「いや、お前は出てけ」
「なんでだよっ!? オレと理樹の部屋だぞ! 何でオレが出てかなきゃいけないんだよっ!」
「筋肉で病気は治せないからだ」
「チクシィオウそうだった! バイオ田中に依頼したオレの筋肉を漢方薬にする研究はまだ未完成だった!」
「そんなこと依頼してたのか」
「オレは理樹のためにこの身を捧げる覚悟なんだよっ!」
「ま、まあ漢方薬はともかく」
 
 落ち着きを取り戻した恭介が話を引き取った。
 
「まずは理樹のために役に立つものを集めてみないか? 一番有益なものを持ってきた者が理樹の看病をするということで」
「一理あるな」
「まあ、それも悪くないか」
「病人の役に立つ物を持ってくればいいんだな」
「そうだ。今の理樹に必要なもの、それをきちんと理解できる者こそが、理樹に付き添い理樹の看病をする資格がある。そうで無いと病気は治らないからな」
「くっ…正論デスガ。しかし、今の恭介さんには負けたくない気分なのデスヨ」
「なら俺を上回るものを持ってくることだ。よし、30分後に理樹の部屋の前に集合だ。ミッションスタート!」
 
 各人は一斉に、理樹君に必要な物を集めに走り出した。
 
 
 
 そして30分後、全員が理樹の部屋の前に集まっていた。恭介は苦虫を噛み潰した顔をしていた。
 
「…何故あーがここにいる」
「あたしが呼んだ」
「鈴、また余計な事を…」
「余計な事では無いだろう。公平な審判が必要だからと私が提案したのだ」
「俺では不足だと…?」
「当たり前でしょうガッ! あんた、今回の一番の利害関係者じゃないデスカ!」
「まあまあ。恭介だってお兄さん+ぶりたいお年頃なのよ。ねえぇ恭介?」
 
 アマゾンドットコムよりもアマゾネスらしいと一部で噂される女子寮長は、わざとらしく恭介に顔を近づけた。恭介は苦悶の表情を浮かべながら顔を逸らした。失礼な。
 だが麻宮亜麻乃は挫けない。
 
「さて。じゃあ、みんなが持ってきたものを検分させて貰うとしますかね。まずは、鈴ちゃん」
「みかんを持ってきた」
「うん、ビタミンCは基本よね。でもみかんは腹下しの効果もあるから、風邪でお腹が弱ってるときには控えた方がいいし、そこで減点になっちゃうかも」
「うう、そうなのか」
「まあ発想は悪くないわ。次、神北さん」
「ビタミンC豊富ないちごジャムをお持ちしました」
「うん。で、パンは?」
「パン? あああ、あーちゃん先輩まで私の事、ぱんつヒロイン扱いするんですかっ!?」
「うん、そんなこと言ってないでしょ。ジャムを塗るパンは無いのって訊いてるの」
「ほえ?」
「ジャムってパンに塗るものだと思うんだけど」
「ご飯にかける人もいますよ」
「うん、その話し出すと、ジャムが危険物になっちゃうからね」
「がーんそうでした」
「とにかくパンは無いのね…。まあいいか、次、能美さん」
「私はアミノ酸に着目して、昆布を持ってきました」
「うん、アミノ酸大事だけど、昆布そのまま食べるの?」
「湯豆腐にします」
「お豆腐は?」
「三枝さんが持ってます」
「私はタンパク質を重視シマシタ!」
「三枝さんがお豆腐用意してくれてたので助かりました」
「まあ私もダシのこと忘れてましたしね」
「お互い補える友人関係はいいものですねえ」
「うん、仲がいいのはいいんだけど。あんた達今ライバル関係にあるんだけど、それはいいの?」
「大丈夫ですヨ。ダシ取り終えたら、蹴り出しますから」
「なんてことをっ! 三枝さん、湯豆腐の昆布は最後まで煮るといいおかずになるんですよっ!」
「あくまでメインは豆腐じゃないですかっ!」
「うん、この子達になに言っても仕方ないか。…西園さん、それは?」
「土鍋です」
「湯豆腐用の?」
「はい。お二人を見てて、なんだか楽しそうだなあって思って」
「まあ楽しんでるならそれはそれでいいか…。来ヶ谷さんは楽しんでるの?」
「いつももずくばかりでは芸が無いと思ってあらめを用意したのだが、湯豆腐には使わないと言われてしまった」
「あらま」
「こんな事なら奥武島特産のスクでも用意すれば良かった…スクガラスは豆腐にのせて出したりするし」
「居酒屋メニューだけどね」
「スクを自分で水揚げすることにこだわったばかりに」
「うん、それ以上危険な発言はやめようね。井ノ原君は何持ってきたの?」
「シカ肉」
「筋肉が主で脂肪があまりないんだっけ?」
「栄養付けないとな」
「でも鹿丸ごと一頭はきつい気もするなあ…。まあいいか。宮沢君は?」
「無理なく飲める宮沢家秘伝の丸薬」
「効能は?」
「開眼する」
「何に?」
「秘められた己の力に」
「うん、最近薬物規制うるさいから気をつけてね。あら、笹瀬川さんと愉快な仲間達」
「この人達以上に愉快なつもりはありませんわ」
「うんそうかもしえないけど。で、なあに? あなたも直枝君の看病したいの?」
「い、いえ、私は、宮沢様についていったらこういう事に…ですから何も用意しておりませんし」
「あらそう…残念ねえ」
「大丈夫です佐々美様! こんな事もあろうかと、私たちちゃんと鍋の材料を用意してきました!」
「うん、何か鍋パーティの話と勘違いしてる子達がいるけど。いいよ、何持ってきたか見せて。中村さん川越さん渡辺さんの順で」
「鶏の胸に近い部位、ササミです」
「仙台名物、笹かまぼこです」
「ダシは佐々美様から取りました」
「うん、何か一人変態が混じってるんだけど」
「あまり言わないであげて下さいまし。こう見えてもいい子なんですの…」
「笹瀬川さんも大変ねえ…」
「わかって下さいますか…」
「うん、アタシも恭介を前にすると理性的に行動できなくなっちゃうから。…ねえ、恭介?」
「俺に同意を求めるな…」
「同意無しに一方的にされるままがいいって言うの? もう、恭介ったら好きねえ」
「ふざけんなよお前…」
「そうね。ちょっとおふざけが過ぎたかしら。で、恭介は何持ってきたの?」
「ピュアマイハァト」
「は? おふざけが過ぎるとしばくわよ」
「おふざけでは無い。俺は真剣だ。理樹がこの世で最も愛し欲しているもの。それはまごう事無く、この俺、棗恭介そのものだ。なので俺は、理樹のためにこの俺自身を持参した」
「うん。カエレ」
「許可が出たな。よし、理樹の部屋に帰ろう。それこそが我が魂が帰り着く場所」
「誰か! この子、女子寮のアタシの部屋に帰らせて!」
「は? 何言ってるお前ふざけんな誰がお前の部屋なんかにあ、おいなんだ放せ謙吾それに真人までいけません足を持ってはいけません」
「ふう。恭介はあとでゆっくり食べるとして、とりあえず直枝君を看病する人決めないとねー。これでもう全部かしら? あら、有月さん。なあに? ササミなんて高級部位使うのは間違ってる、とでも言いたげな顔して」
「そうではなくて。さっき、タオルと洗面器持った二木さんを見かけたので気になってついてきたら、そのまま皆さんの目の前を通り過ぎて直枝さんの部屋に入っていったのですが。放っといていいのですか?」
「うん。あれねえ、気づいてたんだけど。何か言わない方がいいかなーと思って」
「ああ、そういえばそんなことがあったような」
「あまりにも行動が自然だったから、見逃しちゃった」
「そういえば結構時間が経つが、出てきてないな」
「中で何してるんでしょう…?」
「二木さんって結構いやらしい人だよねー、と私の妹が言っていました」
 
 一同は顔を見合わせた。そしてあるものは無言で、あるものは言葉にならない叫び声を上げながら、理樹君の部屋の扉に殺到した。
 
 
 
「ちょっと! うるさくしないで。今寝かしつけた所なんだから」
 
 中には、理樹君が眠るベッドの傍らに座る二木佳奈多の姿があった。
 
「かなちゃん、あなたそんな、直枝君を赤ちゃんみたいに…」
「だって、やっと着替えて寝てくれたんですよ」
「その言い方だと随分抵抗されたみたいね」
「その、抵抗というか。…ずっと恥ずかしそうな目でこっち見てはいました」
 
 かなちゃん、ちょっと顔が赤いです。これはもしかして? もしかして?
 
「もしかしてかなちゃん手ずから脱がせたの?」
「ち、違います! 布団かぶって貰って、自分で着替えて貰いました!」
「それをじっと見ていたと」
「いけませんか!?」
「どちらかというといけない気がするなあ」
「だって、着替えてる途中で二段ベッドの天板に手ぶつけて服引っかけて首つったらどうするんですか!? そんな事になったら…直枝が死んじゃう…」
「いやあんたちょっと過保護すぎでしょ、ホント」
「病人が寝てる部屋の前でいつまでも騒いでる人よりマシです」
「うん、まあ、ちょっと騒がしかったのは悪かったけど」
「おわかりいただけたのなら結構です。そういうわけで出てって下さい」
「「「「「「「「えー」」」」」」」
 
 一同は不満の声を上げたが、かなちゃんは身じろぎ一つしなかった。
 
「ずっと大人しく横で座っていられるというのなら別にいいけど。あなた達にそれが出来るのかしら?」
「無理だな」
「りんちゃんそんなはっきり…」
「だが事実だ」
「そうですね。ここは大人しく引き下がって、時々様子を見に来るのが得策かと」
「ですねー」
「マア、冷静に考えたらずっとつきっきりでいる必要も無いわけですシ」
「そうだな。ここは一旦引き下がるとするか」
 
 一同は部屋の外に出ていこうとしたが、途中でふと葉留佳が気がついた。
 
「…お姉ちゃんは残るんだ?」
「そうよ。そのつもりで来てるから」
 
 そう言ってかなちゃんは、脇にある書類の束に目をやった。
 
「…ここで仕事するつもりだと」
「寝ている横で座りながらでも出来ることだから」
「随分ありますネ」
「治るまでずっといるつもりだし」
 
 葉留佳は不満そうな顔をして暫く黙った。
 
「…本当に仕事だけ?」
「違うわ。主目的は直枝の看病。その合間にいつもの仕事を片づけるの」
「…。」
「私は、ちゃんと目的がはっきりしていてその準備も出来ている。手段と目的の区別もつけられない人とは違うの。まだ何か不満があるの?」
「…ううん。じゃあ、みんなで時々見に来るから」
「ええ。でも騒がしくしては駄目よ」
「お姉ちゃんも理樹君に手を出したら駄目ですヨ?」
「は? 葉留佳あなた一体何を」
「お邪魔しました〜」
 
 葉留佳達一同は部屋を出て行った。
 
 
 
 理樹君と二人きりになったかなちゃん。かなちゃん暫くは黙々と作業をしていたが、ふと気を抜いたときに寝ている理樹君を見てから、なんだかそわそわし始めたのです。
 
「今なら寝てるからやっても気づかれないし…それに二人だけなんだし、気づかれたって別に…きっとわかってくれるし…」
 
 暫く小声でぶつぶつ言っていましたが、そのうち意を決して理樹君が寝ているそばに這い寄りました。そして、理樹君が寝ている布団の中に手を突っ込みます。手探りしながら服の裾をそっとずらし、手を差し入れて理樹君の体をまさぐり始めたのです。
 かなちゃんは慈しむような目で理樹君を見ながら、その行為を続けていました。
 
 そして暫くして理樹君気がついた。
 
「んっ…か、佳奈多さん…」
 
 かなちゃん一瞬驚きびっくり。しかし平静を装って、何事も無かったかのように手を引っ込め、布団の中から抜いて、身を整えた。
 
「…あら、起きてたの?」
「うん。…あの、今何を?」
「いやらしくないのよ」
「うん…で、なにを?」
「熱測ってたのよ。さっき測るの忘れたから」
「…体温計持ってないよ?」
「そうよ。だから手で直接測ってたの」
「普通おでことかで測らないかなあ」
「べ、別にどこだっていいじゃないのよ」
「頭の体温測るのはそれなりに意味があるんだけどね…」
「知ってるわよそれくらい…」
 
 二人とも無言になってしまった。平静を装っているが、お互い目を合わせようとしない。心なしか二人とも顔が赤い。
 
 そして、扉が勢いよく開いて、沈黙は破られた。
 
「ふぅたぁきぃかぁなぁたぁ! きぃさぁまぁぁぁぁぁ!!!」
「え!? 棗先輩!」
「どうしたの恭介! 目から血が出そうな勢いだよ!?」
「西園から借りた双眼鏡で隣の女子寮からずっと監視していたんだ! そしたら、そしたら…」
「覗いてたの!? あなたはいつもそうだわ。最ッ低…」
「最低なのはどっちだっ! 貴様、よくも、よくも俺の理樹に手を出しやがって…ッ!」
「はぁ!? あなたのじゃ無いでしょう!」
「理樹は俺が育てた」
「またそれですか…」
 
 かなちゃんと恭介が言い争いをしていると、廊下からかける音が聞こえてきて、あーちゃん先輩達が戸口から入ってきた。
 
「あー、いたいた恭介さんいたよー」
「やっぱここかー。いきなり飛び出してくから何事かと思ったぜ」
「ごめんねえかなちゃん、ウチの旦那がお騒がせして」
「誰がお前の旦那だっ!」
「恭介さん。病人の前で騒いじゃいけないって、さっきかなちゃんに言われたじゃ無いですか」
「だから、その二木がっ…俺の理樹を…」
「…何かあったのですか?」
 
 一同が理樹君とかなちゃんの方を見ると、二人とも顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。葉留佳は思わず舌打ちし、恭介はそれにほらそうだろうというように無言で頷き続けた。他の子達もあーあーという落胆の表情を浮かべていた。それを見たあーちゃん先輩が取りなすように口を開いた。
 
「ま、まあ、ここにこのままいても仕方ないし。戻って残念会とかした方がいいんじゃないかしら?」
「残念会…残念会デスカ」
「残念な子の反省会という意味だぞ。わかってると思うが」
「…姉御も残念な子ということになりますケド?」
「うむ、かまわん」
 
 そして一同は、まだ泣き叫んでいる恭介を引きずりながら部屋を出て行った。途中で鈴が振り返り、後戻りしてかなちゃんに手を差し出した。
 
「みかん。忘れてた。食え」
「直枝に食べさせればいいの?」
「かなたが食え」
 
 かなちゃんはもの凄く複雑な表情でそれを受け取ったのでした。理樹君も苦笑い。
 
 
 
 その後、あーちゃん先輩の部屋に戻った恭介はまだ理樹君の部屋を覗き続けて、さらに理樹君が回復してからも理樹君とかなちゃんが一緒にいるところを監視というか恨みがましく陰から見ていたのだけど、恭介さんがそういう事するので他の女の子達は却って恨みとかねたみとか忘れちゃって、その後改めて理樹君のお誕生会やろうという話になったのね。これって結果的に恭介が正しかったという事かしら。人間関係ってよくわからないわね。アタシぼっちだし。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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