荒野草途伸ルート >> 荒野草途伸Key系ページ >>リトルバスターズ!KX >>リトバスSS >>泣いた赤鬼

保健室

 
 
 
「佳奈多さん、やめて…!」
 
 僕たち二人以外誰もいない保健室。ベッドの上で僕は佳奈多さんに押し倒されていた。腕に力を入れてはねのけようとする。でも佳奈多さんの押さえつける力の方が強かった。
 
「随分鍛えたみたいね。でもお生憎様…私があの家から求められていたのはこんな程度の力じゃないの。私はずっとそれに応えてきた。体も。頭も。心ですら、求められれば差し出してきた。従わなければ私たち姉妹は生き残れない、それ程までに大きな力。逆らいたいなら並大抵でない力が必要。今私が必要としているのは、そういう力。──あなたが逆らえるようなものじゃない」
 
 佳奈多さんは僕を押さえつけながら、耳元でそんな脅迫めいた言葉を言い続けた。僕は逆らえなかった。逆らってはいけないんじゃないか、むしろそんな風にすら思えた。
 僕の力が弱まったことを感じ取った佳奈多さんは、少しだけ優しい表情になって、後ろに手を伸ばした。僕と佳奈多さんの服が少しだけ脱がされ。佳奈多さんは僕を犯しはじめた。
 
 抵抗しないようにしよう。余計な事は何も考えないようにしよう。そう思って心を空っぽにした。僕の上に乗る佳奈多さんの感触と、それに合わせた佳奈多さんの息づかいは、なかなか消し去れなかった。
 むしろそれで心がいっぱいになってしまっていた。
 心が満たされていた。
 
 これは佳奈多さんに気づかれてはいけない、理由はよくわからないけどそう思った。そっと目を閉じた。そしてもう一度開いたとき、視界には満足そうにほほえむ佳奈多さんの顔が映っていた。気づかれている。そう悟った。
 自分の行いが裏目に出た悔しさと、そもそもなんでそんなことをする必要があるのかという自分のばからしさに、思わず顔を歪めてしまった。
 そんな僕の頭を佳奈多さんはそっと撫でながら語りかけてきた。
 
「馬鹿な子ね…本当に、馬鹿な子…」
 
 何か答えたかった。でももうそれすら出来なかった。身も心も、完全に佳奈多さんに支配されていた。もう、佳奈多さんに逆らうのは無理だ。
 僕が諦めるのを待っていたかのように、僕の下の方から佳奈多さんに子供を産ませたいよという合図が伝わってきた。
 
 いや、それは駄目だ。僕は快感を必死で振り払い、佳奈多さんに話しかけた。
 
「佳奈多さん…その…でちゃいそう…」
「そう」
 
 佳奈多さんは短く答えて、そのまま僕の上で動き続けた。伝わっていないのだろうか。僕が不安げに佳奈多さんを見ると、佳奈多さんはまた優しい表情になって答えた。
 
「大丈夫。大丈夫、だから」
 
 どう大丈夫なのか、その意味もわからないまま、僕は勝手に安心感に包まれていた。もう止められなかった。僕の幸せな思いを佳奈多さんに受け止めて欲しい、そう思った次の瞬間、僕は果てた。
 
 佳奈多さんもきっと幸せに感じてくれている。勝手にそう思っていた。
 
 
 
 暫く恍惚の時を過ごしたあと、我に返った僕は、薬棚に行くため起き上がろうとした。そんな僕を佳奈多さんが引き留めた。
 
「どこへ行くの?」
「薬棚。あとから飲む避妊薬があるかもしれないと思って」
「──必要無いわ」
「え? でも」
「大丈夫、って言ったじゃ無いの」
「そうなの?」
 
 佳奈多さんは無言で僕を引き寄せた。僕は佳奈多さんに従うことにした。
 
「こんな事訊いたら怒られるかもしれないけど…今日は安全日なの?」
「安全日? ああ、生理ね。そうね、そろそろかしら」
「えっ。じゃあ薬、あらかじめ飲んであったの?」
「そんなもの飲んでないわ」
 
 血の気が引いた。一気に頭が冷めて、そして熱くなった。混乱しそうだった。
 
「だって…さっき、大丈夫だって…」
「そうよ。大丈夫。ちゃんと──育てさせるから」
 
 佳奈多さんが何を言っているのかわからなかった。
 
 佳奈多さんは、僕に顔を近づけてきて、耳元で囁き始めた。
 
「私のあの家での役割は、尊い三枝の世継ぎを産むこと。勉強もスポーツも、結局はその尊さを証明するためだけのもの。いづれ私は、あの家の男のうち誰かの子供を産まされることになる…ううん、それはもう明日かもしれない」
 
 僕は言葉を発せなかった。佳奈多さんはそのまま続けた。
 
「私の産む子供は、三枝の世継ぎと決まっている。そうでなければならない。あいつらは一生懸命、私の産んだ子を育てるでしょうね。自分たちの優秀さを証明するために。でもその子供は三枝の子じゃ無い。私が愛して、私が選んだ男──直枝理樹、あなたの子。それをあいつらは自分たちの同類だと思って一生懸命育てるの。ねえ、それって最高におかしいと思わない?」
 
 そこまで言って佳奈多さんは、僕の胸に顔をうずめて、くっくっと声を上げた。泣いているのか笑っているのかさえわからなかった。僕は何も声をかけることが出来ず、ただ佳奈多さんをそっと抱きしめることしか出来なかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
−−−−−−−−−−−−−−
 t  : 一覧


リトルバスターズ!KXに戻る
−−−−−−−−−−−−−−