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はるゆきひめ

 
 
 むかしむかし、といってもリトバスが発売されたぐらいの昔と思ってください。あるところに、はるゆき姫という、見た目は美人だけど中身はとっても残念なお姫様がいました。
 
 はるゆき姫には、母親代わりの王女様のお姉さんがいました。名前を佳奈多と言います。
 王女様は一見はるゆき姫よりはまともそうに見えますが、その実真面目一貫世間知らずちょっぴりあぶないお姉ちゃんでした。しかも毎日鏡に向かって話しかけるというアレな癖もあるのでした。わふ。
 
 
 ある日王女様は、鏡に向かって問いかけました。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは、何?」
 鏡は答えました。
「それは、恭理です」
「は?」
「男同士というとともするとむさ苦しい印象を与えがちなものですが、しかし恭介さんと直枝さんは違います。知性と美貌を兼ね備えてそれでいながらどこか未熟さを感じさせる恭介さんと、ひ弱で中性的で保護欲をかき立てそれでいて優しさを兼ね備えた直枝さんが、友情とも愛情ともつかぬ未分化な感情の元、若さに任せて体を重ねまぐわってしまう姿…ああ、なんと美しい」
「…。」
 
 王女様は鏡を窓から投げ捨てました。
 そして代わりの鏡を持ってこさせました。
 
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは、何?」
「かなただな」
「は?」
「この世でいちばんうつくしい人は、かなただと思う」
「あなた、何言ってるの?」
「人の話じゃないのか?」
「そうじゃないわ。この世で一番美しいのは葉留佳に決まってるでしょう」
「そんなことはない。あたしはかなたのほうがきれいだとおもう」
「お世辞なんか言わなくていいのよ」
「あたしはうそはつかない」
「でも葉留佳の方がもっと美しい、でしょう?」
「それはないな。あいつうっさいし」
 
 王女様は崩れ落ちて床に手をついてしまいました。
 
「そんな…。葉留佳の魅力が世の中に伝わっていないだなんて…」
「もうちょっとおとなしくしていてくれればかわいいのに、といっている人ならいる」
「そうよ。それだわ」
 
 王女様はすっと立ち上がり、すぐに部下に命じていろいろと手配を始めました。
 そして、その日の夕方には、はるゆき姫は隣国のお嬢様学校に留学する手はずが整えられました。
 
「葉留佳。あなたは隣国のお嬢様学校で、おしとやかさを身につけなさい」
「はるちん名大かMITに行きたかったんですケド」
「だったらMITで恥かかないようにしっかりお嬢様学校でおしとやかさを身につけなさい」
「徳島大でいいからお嬢様学校は勘弁して貰えませんカ?」
「つべこべ言わずにさっさと行ってきなさい」
 
 王女様ははるゆき姫が逃げ出さないよう、護衛も兼ねて狩人をお伴に付けて送り出しました。
 
「俺は愛の狩人。狩人とは無駄な狩りはしないもの。だから三枝、お前に手を出す気は無い。安心しろ」
「謙吾君私に気を遣ってるように見えて実は避けてますよネ」
 
 そうこう言っているうちに、二人は森の側を通りがかりました。
 
「木を見て森を見ずとか言ってる人達は、森の周囲全部確認した上でGoogleEarthで上空からの様子確認して生態系や水理系も把握したうえで、モノ言ってるんですよネ?」
「俺が知るか」
「はるちん、緑の塊見ただけで森を見た気になってる人にはなりたくないデス」
 
 そう言ってはるゆき姫は、森に向かって走り出してしまいました。狩人さんは慌てて後を追い出します。
 
「謙吾君、私に気が無いとか言っておきながら、そうやって私の事追いかけてくれるんデスネ」
「は? い、いやこれは違う!」
 
 狩人さんが戸惑っている間に、はるゆき姫は森の中に逃げ込んでしまいました。
 
「…まあ、お腹が空いたら戻ってくるだろう。いやしかし、このままだと入学手続きに間に合わないな」
 
 仕方が無いので、狩人さんはその辺で捕まえた井ノ原真人を代わりに隣国のお嬢様学校に連れて行きました。
 
 
 一方はるゆき姫は、お腹が空いたので戻ろうと思ったら道がわからなくなって森の中で彷徨っていました。すると、森の奥の方に小さなおうちがありました。
 
「最近地方部では空き屋放置問題が深刻化しているそうデスネ。はるちんこれでもお姫様、つまりは行政の関係者なので、どういう状況か確認する責務がありますネ」
 
 とか言いわけしながら、はるゆき姫は家の中に入っていきました。中でごそごそと家捜しを始めました。
 
「おおっ、冷蔵庫の中にプリンを発見! …ちぇ、ちゃんと名前書いてある」
 
 あの、葉留佳さん、それもう明らかに人住んでますよね…?
 
「食べていいか本人と直接交渉するしか無いかあ。それまで寝て待っておこう」
 
 どうあってもプリン食べる気らしいです。
 
 
 
 
 暫くすると、おうちの住人である7人の小人達が帰ってきました。
 
「♪ 肺胞! 肺胞! 腹式呼吸〜 ♪」
 
 小人達がおうちの中に入ると、中で知らない人が寝ていました。
 
「ほえ。おうち間違えちゃった」
「間違いではありませんわ、この辺りにはこの家しか無いんですのよ」
「ではこの人は一体?」
「不法侵入者、ってことかしらねえ」
「えっ。じゃあ警察」
「いや待て。この子、随分と綺麗な顔立ちをしているでは無いか」
 
 来ヶ谷さんがはるゆき姫の顔を覗き込むと、はるゆき姫は目を覚ましました。
 
「サトルさんって誰デスカ!?」
「あちゃー。顔はいいけど中身が残念な人だ」
「イヤ違いますヨ。プリンにそう名前が書いてあったから」
「貴様人の家に不法侵入した挙げ句冷蔵庫まで漁ったのか」
「イヤお腹空いてたものでつい。で、サトルさんって誰デスカ?」
「そんな人ここにいないよ?」
「でもプリンにそう名前が書いてあったんですケド」
「…あー、字がかすれてる」
「『ささみ様のだからとるナ』って書いておいたんだけど」
「水性ペンなんか使うから」
「えっと…じゃああのプリンは、ささみさんの?」
「そうらしいですわね」
「プリンください」
「…まずはどういう事情でここにいるのか、私達に説明するのが筋ではありませんの?」
 
 はるゆき姫は小人達に事情を説明しました。
 
「何かかわいそうな子だから、ここに置いてあげようよ」
「その言い方酷くないデスカ?」
 
 はるゆき姫は小人達の家で生活することになりました。
 
 
 
 
 何日か経って、王女様は鏡に問いかけました。
 
「鏡よ鏡、この世で最も美しいのはだれ?」
「かなただな」
「何度言わせる気? 葉留佳が一番綺麗だって言ってるでしょう」
「なんどでもいうが、あたしはうそはつけない」
「…そう。たかだか数日お嬢様学校に通っただけでは、あの子は大人しくなってはくれないということなのかしら」
「はるかならお嬢様学校にはいないぞ」
「えっ」
「はるかは森で小人達と一緒に暮らしている」
「隣国のお嬢様学校からは無事入学したと連絡があったわよ」
「そっちには真人が行っている。女子校なのに筋肉男が入り込んできて、もうくちゃくちゃだ。これは外交問題になるな」
「なんということなの、葉留佳が小人と仲良く暮らしているなんて。私だってずっと許されなかったのに」
「外交問題はいいのか」
「良くないわよ。すぐに葉留佳を連れて行って、間違いだったと説明しないと」
 
 王女様はすぐに支度を始めました。
 
 
 
 王女様は変装して森のおうちに行きました。いいえ、変装と言っても葉留佳さんの姿にでは無いです。
 小人達が出掛けた好きを見計らって、王女様はおうちの扉を叩きました。
 
「宗教や訪問販売ならお断りデスヨ」
「林檎を配りに来ただけよ…だけなのじゃよ」
 
 はるゆき姫はそっと扉を少しだけ開けました。
 
「…お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんじゃ無いわ…ないのじゃよ。林檎どうぞ」
「長野県と青森県は今はTPPでニュージーランド産のリンゴが入ってくると打撃受けるから阻止の為に手を組んでるけど、これが終わったらまた喧嘩始めるんですカネ?」
「そうね。”きょうだい”ですら憎み合ったりするのだもの、ましてや甲信越と東北では」
「やっぱりお姉ちゃんだ」
「な、な、な、何を言ってるの!? あなた、お姉ちゃんがどういうものなのかわかって言ってるのっ!?」
「わかってますヨそれくらい。そんなに動揺されても」
「わかってるならいいのよ」
「で? 何をしに来たんデスカ? お ね え ちゃ ん」
「あなたを連れ戻しに来たのよ。林檎あげるから、ちゃんと学校行きなさい」
「リンゴ程度で言うこと聞くと思ってんデスカ」
「でもあなた好きだったじゃない、うさぎの形に剥いた林檎。台所でよく剥いてあげたでしょう?」
「イヤ、全く記憶にありませんケド。いつの間にそんな設定ついたんデスカ私」
「そうだったかしら? まあいいわ、とにかく林檎を食べなさい。まるかじりでもいいわ」
「毒とか入ってないでしょうネ」
「そんなもの入れてないわよ。毒どころか農薬すら使ってない、有機無農薬栽培の林檎よ」
「はあ。まあ、じゃあとりあえず貰っておきますヨ」
 
 はるゆき姫は林檎をかじろうとしました。すると中から、蛾の幼虫が出てきました。
 はるゆき姫は失神卒倒してしまいました。
 
「は、葉留佳っ!? 大丈夫、ねえ、はるかっ!」
 
 王女様は大慌てです。
 そこに、小人達が帰ってきました。
 
「はるちゃんが倒れてる!?」
「おや、佳奈多君もいるな」
「ちょっとかなちゃん、何があったのよ」
「葉留佳に林檎をあげたら、突然倒れてしまって。あとかなちゃんじゃないです」
「ちゃんと訂正入れられる程度には冷静ですのね」
「佐々美様、このリンゴ、中に虫がいるようです」
「あー。無農薬栽培だとたまにあるんだよねえ」
 
 小人達がいろいろ議論してる間も、ずっとはるゆき姫は倒れたままです。一向に目覚めません。ガラスケースの中に入れれば大喜びで遊び出すんじゃ無いかと試してみましたが、やっぱり目覚めません。
 
 みんなが悲嘆に暮れ始めた頃、隣国の王子様が王女様を訪ねてやってきました。
 
「あ、恭介さん」
「いい加減女子校で暴れてる真人をどうにかして欲しいんだが…って、うおっ、なんだこれ、何か三枝がガラスケースで楽しそうなことやってるぞ」
「楽しくありません。葉留佳が目を覚まさないんです」
「目を覚ませば嫌な現実しか待っていないからな」
「え、そういう問題なんだ」
「しかしこうして王子様が現れたということは、目を覚ます見通しが立ったということではありませんの?」
「と、いうと?」
「その、王子様のキスで目覚める、とか…」
「恥じらいながら夢見がちなことをいう佐々美様素敵です!」
「レア顔! レア顔!」
「ちょっと待って。レア顔はいいんだけど、王子様のキスってどういう事? つまり、棗先輩が葉留佳にキスするという事かしら?」
「まあ、そうなりますわね」
「そんな事許すわけ無いでしょう!」
「まあまあ、と言いたいところだけど、アタシもさすがにそれはちょっと賛同しかねるなー」
「恭介さんはどうなんですか?」
「すみません魚の鱚を持ってくればいいんじゃねとかアホなこと考えてました」
「うわー、酷い逃避っぷりだー」
「ふむ。では、顔を近づけるだけならどうだ?」
「いや、それでもかなり恥ずかしいんですが…女の子に顔近づけるとか俺そんな変態じゃ無いです」
「葉留佳君じゃ無くて理樹君だと思えばいい」
「喜んでやらせていただきます!」
「なんだそれ」
 
 王子様はゆっくりとはるゆき姫に顔を近づけてゆきました。王子様の息がはるゆき姫にかかるぐらいになったとき、ようやくはるゆき姫は目覚めました。
 
「い、いやチョット待って、待ってくださいヨ。はるちんそういうのはまだチョット」
「違う、誤解だ。これはただ顔を近づけただけで、いかがわしいことをしようとしたわけじゃ無く王子役としてだな」
「と言うか王子役は理樹君だと思ってたんデスケド」
「ああ、直枝? 直枝なら王様役よ。つまり、私の、その…夫、ってことかしら」
 
 王女様の爆弾発言に、はるゆき姫と王子様は一瞬呆然としてしまいました。
 
「は?」
「なんだそれ」
「まあ、やっぱりそこは譲れないというか」
「「……。」」
 
 はるゆき姫と王子様は静かな怒りの炎を燃やしました。そして、裏切って抜け駆けした罰として、王女様に真っ赤に燃える熱々トマトがたっぷり載ったピザを食べさせて食べてるところを動画に撮ってネットにアップしましたとさ。
 
 
 
 
 おしまい。
 
 
 
 
 というか、みなさん、いつもの呼び方じゃ無くてちゃんと役の名前で呼んでください!
 
 
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