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泣いた赤鬼

 
 
 むかしむかし、まあリトバスが発売された頃の昔と思って下さい。
 あるところに、鬼の風紀委員長と呼ばれる佳奈多ちゃんがいました。赤い髪留めをつけていたので赤鬼とも一部で呼ばれていました。
 
 佳奈多ちゃんは、最初目の敵にしていた理樹君がだんだん可愛くなって、妹に変装して仲間に入り込んで理樹君に接近しようとしていましたが、嫉妬した妹と恭介さんに蹴り出されてしまいました。
 そこで、変装せずにちゃんと仲間になりたいと考えました。
 
 しかし、今までが今までというか、今でもアレな子だったので、なかなか仲間に入ることが出来ませんでした。
 
 
 そんな様子を見て、数少ないお友達の青鬼さんが相談に乗りました。
 
「直枝さんと恭介さんの絆は断ち切れないのであきらめた方がいいですよ?」
「な、何言ってるの!? 私は別に…そんなんじゃ…そう、葉留佳。葉留佳の近くにいたいだけよ」
「三枝さんお姉さんの愛情が重いと、この間言っていましたが…」
「そんな、葉留佳がそんなことを…。というかあなた、相談に乗ってくれてるんじゃないの?」
「はい。もちろんです。ですから私に一つ案があります」
「聞かせてくれる?」
「はい。まず私が、みなさんの中に入っていって、嫌がらせをします」
「えっ。そんな事して大丈夫なの?」
「大丈夫です、その辺は考えがあります」
「ならいいけど。で、どうするの?」
「嫌がらせをする私を、二木さんが止めて下さい。そうすればみんな二木さんに感謝し、二木さんを見直して是非仲間になりたいと思うでしょう」
「なんだか姑息な手段な気もするけど」
「姑息なのがおいやでしたら、他の手段もありますけど」
「あら。あるんじゃない」
「二木さんが素直に頭を下げて、直枝さんのことが好きでそばにいたいから仲間に入れてくださいと頼めば。恭介さんさえ何とかすれば他の人は断らないと思いますよ」
「え!? ちょ、ちょっと待って、そんなこと言えるわけ無いじゃない!」
「では姑息な方の手段を使うしか無いですね」
 
 こうして、佳奈多ちゃんと美魚ちゃんは二人で姑息なことを始めるのでした。
 
 
 
 美魚ちゃんは佳奈多ちゃんを教室の外に待たせると、机から一冊の本を取り出して理樹君に見せました。
「西園さん今度は何の本?」
「お。また俺と理樹が愛し合っている本か?」
「ちょっと恭介ったら…」
 
 理樹君と恭介さんは、中身をよく見ようと美魚ちゃんの持っている本を覗き込みました。
 佳奈多ちゃんが保健室で理樹君を押し倒して無理矢理事に及んでいる内容でした。
 
「え!? こ、これは…」
「西園。この本は良くない。今すぐ本を焚き火にくべて、描いた奴は穴に放り込め」
「人類の歴史は表現規制との闘いの歴史だったというわけですね…」
「俺はむしろ今二木と闘わなくてはならない」
 
 教室の外にいた佳奈多ちゃん、突然自分の名前が出てきたので、中でなにが起きているのかと神経を集中して聞き耳を立てだします。
 
「恭介さん落ち着いて下さい、話がややこしくなりますし」
「これが落ち着いてられるかっ! こんな、二木が俺の理樹を手篭めにするような内容…!」
「恭介興奮しないで」
 
 佳奈多ちゃん、はぁ!? と声を上げそうになるのを必死で押さえます。しかし冷静に考えても、やっぱり本の内容は一体どういうものなのか、気になります。確認しておかないといけません。
 佳奈多ちゃん、意を決して教室に踏み込みます。声をかけ損なった葉留佳ちゃんも無視して、真っ直ぐに美魚ちゃんの所へ進んでいって、本を取り上げました。そして中を確認します。
 佳奈多ちゃんが保健室で理樹君を押し倒して無理矢理事に及んでいる内容でした。
 
 佳奈多ちゃん顔真っ赤。
 
 その後ろから葉留佳ちゃんが覗き込んできます。葉留佳ちゃんも本の内容把握。
 
「おー。いつもお姉ちゃんがやりたがっていることではないデスカ」
「は、葉留佳!? 何を言い出すの!」
「この間も寝言で理樹君襲ってたじゃないデスカ。どさくさに紛れてこっちのベッドに移ってきて犯されたらかなわんと思ってその日は床で寝たら朝四葉ちゃんに白い目で見られたので、よく覚えてますヨ」
「何やってんだこの姉妹、と思ったでしょうね」
 
 佳奈多ちゃん、もうとにかくいろいろなんか言いたそうでいっぺんに全部言えずに口ごもっていましたが、深呼吸して少し落ち着きを取り戻してから、美魚ちゃんに言いました。
 
「とにかく。この本は没収です。教室に持ち込んでいいものではありません」
「そうですか」
「待て。没収とか言いつつ私物化するつもりじゃないのか」
「しません。時期が来たら返します」
「時期が来たら、ですか…」
「な、なによ」
「それまではお部屋で存分に自分が楽しむ、ト」
「そんなことしないわよ!」
「そうだ。楽しむのなら俺と理樹が絡んでるのにするべきだ」
「いやいやいや」
「そうね、そっちの本もあるんでしょう、没収するわ」
 
 佳奈多ちゃん、元々こっちの本だと聞いていたのです。
 
「うわー、この人恭理でも楽しむ気だー」
「没収だって言ってるでしょ! 西園さん、早く出して」
「はいはい」
「西園、こっちにも一冊くれ」
「即売会では無いのですが…」
「早くしてくれないかしら。その…待ってるだけでも恥ずかしいから」
 
 佳奈多ちゃんは美魚ちゃんから薄い本を受け取ると、それを脇に抱えてさっと教室を出て行こうとしました。
 
「待って、二木さん!」
 
 理樹君が佳奈多ちゃんを呼び止めます。
 
「不愉快な思いさせちゃってごめん…でも、その…僕は気にしてないから!」
「気にしてないって…何をよ」
「その、二木さんに無理矢理されたの、とか」
「あ、あなた何を言い出すのっ!」
 
 佳奈多ちゃんまた顔真っ赤。
 そして佳奈多ちゃんの周りが固められます。
 
「これは帰すわけにはいかなくなったな」
「お話聞かせて貰いますよー」
「しんみょうにしろ」
 
 こうして佳奈多ちゃんは、半強制的に仲間に迎え入れられたのでした。
 
 
 
 翌日。美魚ちゃんの姿は教室にはありませんでした。
 
 代わりに、美鳥ちゃんが来ていました。
 
「やった! あたしもう出番無いかと思ったぁ」
「よぉっす、明るい方のみおちんではナイデスカ」
「明るい方とか言うな、んなこと言うと君もネジ飛んでるの隠さない方の佳奈多って呼ぶよ」
「ちょっと、何よそれ…。というか、西園さんはどうしたの?」
「あたしが西園さんです。西園美鳥」
「ああ、そうなの。えっと、西園美魚さんはどうしたの?」
「美魚は何かいたたまれなくなって教室から消えた、という設定らしいよ」
「設定って…」
「あ、置き手紙があるんだった。読むね。えっと、『二木さんが折角みんなと仲良くなれたのに、私と一緒にいると二木さんまで腐扱いされて後ろ指指されかねません。だから私は消えます。腐女子差別怖いです』だって」
「え? あの、なんかとんでもない認識の違いがあるみたいなんだけど」
「そうだ、二木佳奈多は俺と理樹の関係を邪魔する悪の存在だ」
「バカ兄貴ちょっと黙ってろ」
 
 鈴ちゃんが恭介さんを蹴っている間に、ゆいちゃんが佳奈多さんに語りかけます。
 
「佳奈多君。これでいいのか?」
「いいわけないじゃないですか」
「やっぱり腐女子扱いはいやか」
「だって私には直枝が…いえ、そうじゃなくて。そっちじゃなくて」
「そっちの話をゆっくり聞きたいところだが、今は我慢しておこう。佳奈多君はどうしたいのだ?」
「会って誤解を解きたいです。もう一度話して…私が入りたかったのは、西園さんがいる仲間の中なんだって、ちゃんと伝えたいです」
「ふむ。そうか」
 
 ゆいちゃんは美鳥ちゃんの方をちらと見ました。
 
「わかってますよ。美魚を連れ戻せばいいんでしょ」
「…ごめんね」
「いいの。私はいつだって美魚と一緒にいるし。あーあ、あたしもアニメ2期に出たかったなあ」
 
 そう言って美鳥ちゃんは退場し、代わりに美魚ちゃんが現れました。
 
「…二木さん。あなた、何やってるんですか」
 
 あれ? 美魚ちゃん何故か怒ってます。
 
「え? 何って、私は西園さんと一緒にいたいんだということを伝えたくて」
「事前に打ち合わせしたじゃないですか。あなたはその通りに直枝さんと仲良くなっていれば良かったんです。私は私で気持ちの整理付けたかったし、その為に一人で考えたかったんです。美鳥も久しぶりに外に出たがっていましたし。それをあなたは…。あと一緒に即売会行く約束はまさか忘れてませんよね?」
 
 佳奈多ちゃんは美魚ちゃんに正座させられて、泣き入るくらいお説教されました。
 周りのみんなは助けてあげたかったけど、なんか介入しづらい空気だったのでただただそれを見守るしか無かったのでした。
 
 
 
 おしまい。
 
 
 
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