みさき「雪ちゃん、雪ちゃん。おなかがすいたよ。」

雪見「あ、そう。」

みさき「わたし、北川君が食べたいな。」

雪見「すきにすれば。」

みさき「わあい。食べて良いんだね。」

雪見「て、待て。あんた、まだそんなこと考えてたんかい!」

みさき「だって、この間は結局食べれなかったからね。」

雪見「何でわざわざあんなものを・・・」

みさき「だって、すごくおいしそうだよ。」

雪見「その辺が私には理解できないんだけど」

みさき「ということで、協力してね。」

雪見「しない。」

みさき「くすん・・どうして?」

雪見「くだらないことにつきあってるほど、私は暇じゃないの。」

みさき「くだらなくないよ。おいしいもの食べたいというのは人間が持つ当然の欲求だよ。」

雪見「とにかく。私は協力しない。いいね、わかったね、じゃ、さらば。」

すたすたすた。

みさき「雪ちゃん・・・」

雪見「・・・。」

みさき「よーかいぴんくあたまっ!」

雪見「(ぴく)」

ずんずんずんずん

みさき「わーい、雪ちゃんが戻ってきた〜、雪ちゃん戻った〜」

雪見「ちょっとみさき、よーかいぴんくあたまって何?!」

みさき「雪ちゃん戻った雪ちゃん戻った〜、仲間仲間〜」

雪見「そうじゃなくて、よーかいってなんなのよ」

みさき「戻ってきたって事は協力してくれるって事だよね。雪ちゃんがいれば百人力だよ。」

雪見「だから妖怪だっての?!」

みさき「仲間がいるって心強いね。楽しい仲間、愉快な仲間、仲間、仲間、仲間〜♪」

雪見「・・・・。」

みさき「もし裏切ったら、雪ちゃんからの借金6万3825円全額踏み倒すからね。」

雪見「はあ・・・」
 
 

北川補完計画外伝

みさき先輩の魔手2

 
 

春過ぎて 夏も過ぎて 秋も過ぎ 冬はまだ来ぬ 晩秋の午後

北川「・・・うーむ、我ながら意味不明な短歌だ。季語入りすぎだし。というか季節感が全然無いし。」

まあいい。どうせ暇でぶらぶらほっつき歩いている身だ。意味不明な短歌作ったって、誰も文句は言わんだろう。
しかし、少し虚しくなるな。何かこう、どきどきするようなことが怒ってくれないかな。

「・・・。」

お、かわいい子。早速のドキドキか?!
は、いかんいかん。俺にはちゃんと、秋子さまという心に決めた人がいるではないか。浮気はいかんぞ、うむ、いかん。

「・・・・。」

すたすたすた

あ、こっちくる。接近してくる。
どういうことだ。もしかして、一目惚れ?俺ってばかっこいいだから。
いやでも、参ったなあ。俺の心は秋子さまただ一人のものだから、そうやって積極的に来られても

「・・・嫌です。」

北川「は?!」

「・・・嫌です。」

北川「な、何が嫌なんだ。」

「・・・あなたの存在自体が嫌です。」

すたすたすたすた

北川「・・・・・・・。」

な、なんだ今のは。どういうことだ。わざわざ近づいてきて、言う台詞が「嫌です」か?!

北川「オレって、そんなに存在価値のない人間なのかぁ?!」

みさき「そんなことはないよ。」

北川「あ、みさみさ」

みさき「その呼び方は嫌だな。何となく某おケチな三十路おばさんを連想させるよ。」

北川「じゃあ山城先輩。」

みさき「誰それ?」

北川「オレも知らん。」

みさき「きっと北川君の憧れの人だね。物陰からそっと覗いてたら、ストーカー扱いされたんだよ。」

北川「そんな思いではないんだが・・・」

みさき「じゃあ、この話は終わりだね。本題に入るよ。」

北川「何の用だ?まさか、またオレのこと喰いたいとか言うんじゃないだろうな。」

みさき「よくわかったね。さすがだよ。」

北川「・・・嫌です。」

みさき「嫌でも食べるよ。北川君の存在意義は、わたしに食べられることにあるんだからね。」

北川「な、なんだそれ。」

みさき「そろそろ寒くなってきたから、鍋がいいかな。雪ちゃん、包丁持ってきて。」

雪見「はあ、全く・・・はい。」

北川「じょ、冗談じゃねえぞ。こんなところでオレの青春散らしてたまるもんか」

みさき「そうか、ちらし寿司もいいね。付け合わせに丁度いいよ。」

雪見「北川君、逃げたわよ。」

みさき「わ、大変だ。雪ちゃん追いかけて」

雪見「私文化系だから足早くない。」

みさき「芸能人は歯が命なのに・・・」

雪見「全然関係ない。」
 
 
 
 
 

はー、はー、ぜー、ぜー、しょーひぜー

北川「ちくしょー、日本の税制は複雑すぎるぜ」

敬介「はっはっは、君は今の世の中によほど不満があるんだねえ。」

北川「世の中というより自分の境遇に不満だ。」

敬介「だから君は、こうして逃げ出しているんだね。」

北川「いや、今逃げてるのは全く別の理由なんだが・・・」

敬介「君は僕と同じだね。」

北川「あんた誰。」

敬介「僕は橘啓介。徳島で代用教員をやっている。」

北川「あ、そう。」

敬介「謎の男というのはあれはデマだ。僕には謎めいたところなど、ありはしないよ。」

北川「誰もそんなこと訊いてねーよ。」

敬介「機会があったらまた会おう。二人が手を組めば、主人公の座を奪えるかも知れないよ。」

主人公・・・

敬介「はっはっはっはっは」

男は笑いながら去っていった。

北川「う〜ん、主人公か。」

ぼしゃっ

北川「・・・・。」

ドブに右足がはまってしまった。
いかんいかん、魅惑の言葉にすっかり惑わされてしまっていた。
幸い、誰も見ていなかったからいいものの・・・

美凪「・・・・。」

げ、しっかりばっちり見られてる・・・

美凪「・・・ぷっ」
 
 
 
 
 
 

みさき「うー、北川君見失っちゃったよー。」

雪見「逃げ足早いみたいだからね。」

みさき「雪ちゃん役立たずだよー。見損なったよー。」

雪見「悪かったわね。」

みさき「仕方ないね。もう少し頼りになる援軍を呼ぶよ。」
 
 
 

みさき「ということで、祐一君を捕まえたよ。」

祐一「は、放してくれ」

雪見「なんか怯えてるわよ。」

みさき「どうしたのかな。わたし、祐一君のことは食べたりしないよ。」

祐一「あんたに関わるとろくな事がないような気がするんだ。」

みさき「気のせいだよ。」

祐一「とにかく放してくれ、四時からアニメ三銃士の再放送やるんだよ!」

雪見「え、それほんと?早速iモードで録画予約しなきゃ。」

みさき「良かったね、これでもう見逃す心配はないよ。」

祐一「そ、そんな・・・」

みさき「だからおとなしくわたしの言うこときいてね。ほら、50円玉ぷらーんぷらーん」

祐一「それ前にもやったでしょ。そうそう同じ手に引っかかりますか。」

みさき「違うよ。前のは5円玉だったけど、今回のは50円玉だよ。」

雪見「大して変わらないって」

みさき「わたしの言うこときくんだったら、この50円あげてもいいよ?」

祐一「・・・・。」

雪見「今時50円ばっかで」

祐一「豚と呼んでください!」

雪見「買収されてる!」

みさき「そうだよね。50円は欲しいよね。やおきんのうまい棒4本買ってお釣りが来るもんね。」

徃人「なに?!」(きゅぴーん)

雪見「あ、何か光った。」

どどどどどどどど

徃人「うおおお!その50円、俺によこせえ!」

祐一「な、なにをする、この50円は、俺がこれから3日間を生き抜くための貴重な資本」

徃人「俺は4時間前から何も食ってないんだあ!」

げしげしどげし

みさき「大変だよ雪ちゃん、祐一君と徃人君が、50円を奪い合ってるよっ!」

雪見「元々の原因はあんたでしょ。」

徃人「俺は腹が減ってるんだ!人は能力に応じて働いて、必要に応じて受け取るべきなんだ!」

祐一「何を言う、日本国憲法が堅持される限り共産主義は実現し得ないんだぞ!」

みさき「イデオロギーの対立になっちゃったよっ!」

雪見「重信房子はこれからどうがんばるつもりかしら。」
 
 
 
 
 
 

みさき「ということで、仲間が二人増えたよ。」

祐一「50円を二人ではんぶんこということになったんだ。」

徃人「幼稚園的平和主義の基本だ。」

雪見「一人25円・・・・」

祐一「違う、50円玉を半分に割ったんだ。」

雪見「それ違法だって・・・・」

みさき「そんなことより北川君を捕獲しにいくよー!」

祐一&徃人「おー!」

雪見「あんたたち、奴隷って言葉、知ってる?」

みさき「雪ちゃん、余計なこと言わなくていいよっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

みさき「ということで北川君を追いつめたよ。」

雪見「展開が早いわね。」

祐一「もう日曜日の17時だからな。」

みさき「うふふ、北川君、もう逃げられないよ。」

北川「・・・・。」

みさき「今度は名雪さんに助けて貰うことも出来ないよ。」

北川「・・・ふふ」

徃人「何がおかしい。」

北川「俺の味方が、なゆちゃん一人だとでも思ってたのかい?」

祐一「いや、名雪は決してお前の味方じゃないと思う・・・」

北川「見せてやるぜ、俺の新しい仲間。カモーン、ケースケ。」

敬介「やあ、呼んだかい。でも本心を言えば、気軽に呼んだりして欲しくないな。僕は暇そうに見えるかも知れないが、本当はとても忙しいんだ。それに徳島からわざわざ飛んでくるのも楽じゃないんだよ。」

雪見「だったら来なきゃいいのに。」

敬介「でも北川君のたっての願いとあればきかないわけにはいかないな。いいだろう、一つだけきいてあげるよ。」

北川「えっとだな」

敬介「なるほど、僕の娘の写真を見せて欲しいんだね。」

北川「え?!」

敬介「いいよ、ちょっと恥ずかしいけど、とっておきの写真を見せてあげよう。ほら、かわいいだろう。」

徃人「見たかねえ・・・」

敬介「住所を教えてくれれば、最新の写真を年賀状にして送ってあげるよ。実は今度のボーナスでデジカメを買おうと思ってるんだ。」

北川「デジカメなんかどうでもいい。」

敬介「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ徳島に戻らないと明日の勤務に差し支えるな。じゃあ、そういうことで。」

みさき「行っちゃったね。」

雪見「徳島までどうやって往復してるのかしら。」

みさき「そうそう。そんなことよりおなかすいたよ。早く北川君食べよう。」

雪見「私は食べないけど・・・」

北川「食べなくていいです。」

みさき「今夜はハウスの北川鍋〜♪」

徃人「ハウスも妙な物売り出したもんだな。」

北川「そんなの無いって・・」

みさき「そうだ、鍋にするんだから、おっきな鍋がいるよね。」

北川「要らない。必要ない。使うべきでない。」

祐一「秋子さんのところにあるんじゃないか?」

北川「あ、相沢、余計なことを・・・」

みさき「そうだよね。そういえば以前にも使ったような記憶があるよ。」

北川「いや待てよ、秋子さまのところに行けば、今度ばかりは助けてくれるかも」

みさき「早速移動だね。」

北川「承知。」
 
 
 
 
 

みさき「秋子さん、おっきな鍋貸してください。」

秋子「了承。」

あ、あきこさま。またそんないともあっさり了承してしまうなんて・・・

みさき「じゃあ、お湯沸かしてる間に、北川君をぶつ切りにしようね。」

北川「い、いやだあ!」

じたばた

みさき「あ、おとなしくしてよ。暴れたら切れないよ〜。」

北川「切られたくないから暴れてるんじゃないか!」

みさき「誰か押さえてて!」

徃人「めんどくせーな。そのまま放り込んじまおうぜ。」

ぼっしゃん

北川「あちあじあぢあじあちぃ〜〜〜〜!」

雪見「おかしいわね、まだそんなに熱くないはずよ。」

北川「・・熱くない。」

秋子「あらあら。また茹で潤ちゃんを作るんですか?」

みさき「いえ、今日は北川鍋です。」

秋子「北川鍋。聞いたこと無いですね。」

祐一「要するに北川の鍋です。」

徃人「闇鍋といい勝負だよな。」

秋子「まあ。つまり闇鍋みたいなものなんですね。」

祐一「え。まあ、そういう考え方もありますが。」

雪見「闇鍋だと、好きなものぽんぽん放り込んじゃうけどね。」

秋子「好きなもの。」

ぼしゃん。

祐一「って秋子さん、なに速攻放り込んでるんですか!」

秋子「あら。好きなもの放り込むんじゃなかったんですか?」

祐一「違います。」

みさき「闇鍋じゃなくて、北川鍋なんです。」

秋子「まああ。どうしましょう。」

雪見「今から引き上げれば間に合うんじゃない?」

祐一「待て、秋子さんの好きなものって、まさか・・・」

北川「♪ジャームがきーたー ジャームがきーたー♪」

祐一「やはりそうなのか・・・・」

みさき「え、なに?何かまずいことがあるの?」

祐一「そうだな、かなりまずいな・・・」

秋子「なんですって?」

祐一「い、いえ、その、やはり鍋にジャムは合わないんじゃないかという意味であって、決してあのジャムが危険とか食べてはいけないとかそういう事が言いたいんじゃなく」

秋子「そうですか(にっこり)」

祐一「・・・・・。」

みさき「・・・そんなにまずいのかな。」

みさき先輩が、汁を一口すすって飲む。

みさき「・・・・・・うえーん」

雪見「み、みさき、どうしたの」

みさき「ゆきちゃん・・・わたし、人生考え直すことにするよ・・・・」

雪見「そ、そんなにまずかったの?」

みさき「まずいというかなんというか・・う、ぐす・・」

雪見「ほらほら、泣かない。」

みさき「ゆきちゃん、口直しにたい焼きが食べたいな」

雪見「わかったわかった、買ってあげるから。」

みさき「わーい、たい焼きたい焼きー」

よかった。今日もオレ、喰われずに済んだみたいだ・・・

みさき「北川君。」

ん?

みさき「今日は北川君のこと食べれなかったけど・・・また食べたくなると思うから、そのときはよろしくね。」

いや、よろしくといわれても困るんだが・・・

みさき先輩は深山先輩と去っていった。
国崎徃人は白目をむいて倒れていた。
いつの間にか汁を飲んだらしい。

祐一「あー、俺、宿題でもしてくるかな・・」

北川「オレも、今日は帰ります。」

秋子「潤ちゃん。」

秋子さまに呼び止められ、オレは振り向いた。

北川「なんでしょう。」

秋子「・・・潤ちゃん、おいしそうですね。」

北川「え?!」

秋子「今度、私も食べてみようかしら。」

北川「あ、あの・・・」

秋子「冗談です。」

そういって秋子さまは家の中に入っていった。

北川「・・・・・。」

冷たい晩秋の風が、濡れたオレの体を冷やしていた。
 
 
 
 
 
 

北川「・・はくうしゅん」

・・くそ、風邪ひいちまったかな。

「・・・。」

あ、またあの女の子。

「・・・。」

すたすたすた

あ、また近づいてくる。さっきのこと謝りに来たんだろうか。

「・・・毒物。」

え?

「・・・うろつくとみんなに迷惑がかかります。」

北川「え、あ、あの」

女の子は、手に持っていた傘を振り上げた。

べしべしべしべしべしべし

北川「て、ぎゃー!痛い、痛い、痛い!」
 
 
 
 
 

おしまい


あとがき

復帰作としては、まあ、こんなものだろうか。
疲れた・・・
 
 

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