みさき「え〜ん、待ってよゆきちゃ〜ん」

雪見「えーい、離せ、離さんかい!」

みさき「ゆきちゃんがいなかったら、私、飢え死にしちゃうんだよ〜」

雪見「じゃかしいわっ!今日という今日はもう勘弁ならん!」

みさき「ひどいよ〜ひどいよ〜、屋台一個分の払いで、もう破産寸前なんだよ〜」

雪見「カネもないのに喰う方が悪い!」

みさき「だって、試食のつもりで『食べていい?』って訊いたら、『どうぞ』って言うから・・・」

雪見「そんな試食をさせる屋台がどこにあるのっ!」

みさき「屋台は人と人とのコミュニケーションスクエアなのに・・・」

雪見「そんなNTTみたいな事言ってごまかすんじゃない!」

みさき「わ〜ん、見捨てないで〜・・・・」

結局ゆきちゃんは、オカネを貸してくれませんでした。
オカネがないので、何も食べれません。
おなかきゅーきゅーです。

みさき「う〜、おなかすいたよぉ・・・どこかに、おいしくて量が多くて、タダな食べ物落ちてないかなぁ・・・」
 

ずどどどどどどどど

みさき「?」

北川「うぉ〜、秋子さまぁ〜!」
 

みさき「くんくん・・・・おいしいもの、発見。」
 
 

北川補完計画外伝
みさき先輩の魔手★





みさき「ということで浩平君、わたし北川君を食べたいな。」

祐一「俺浩平じゃなくて祐一なんですけど。」

みさき「そうなんだ。どっちものっぺらぼーさんだから解らなかったよ。」

祐一「雰囲気で判断してるんじゃ無かったんすか?!」

みさき「雰囲気は同じなんだよ。」

祐一「大ショック!」

みさき「それにしても、国崎徃人は顔があるのに、どうして祐一君は顔もらえなかったんだろうね。」

祐一「おまけにコンプレックス!」

みさき「ふふふ、その劣等感を突かれたくなかったら、私の言うこときくんだよ?」

祐一「はい・・・・」

みさき「ほら、五円玉ぷらーんぷらーん」

祐一「ああ、もう俺は、みさき様の心からの奴隷です・・・」

みさき「じゃあ、さっそく北川君捕まえてきてね。」
 


祐一「ふふふ、北川・・・・」

北川「なんだ相沢。襲うつもりなら、他当たってくれ。」

祐一「青春って、何だろうな・・・・」

北川「何言い出すんだいきなり」

祐一「夕焼けは赤で、青いのは昼間の空なのに、どうしてみんな夕日に向かって走るのかな・・・・」

北川「昔そういうドラマが流行ったからだろ。」

祐一「森田健作、許せないよな・・・・。元は連合型候補だったのに。」

北川「何が言いたいんだお前。」

祐一「なあ北川、日本、このままでいいと思うか?」

北川「いいとは思わないけど・・・選挙も自公保が勝っちゃったしなあ。」

祐一「そう、だから俺達は、もう自分で何とかするしかないんだよ。」

北川「そうだな。」

祐一「手をこまねいていちゃいけないんだよ。自分で立って、自分の足で歩かないと。」

北川「うん、わかるよ。」

祐一「そうか、わかるか。」

北川「ああ、日本の夜明けが、俺には見える気がするよ。」

祐一「そうかそうか」

北川「うんうん」

祐一「ということで捕獲!」

北川「な、なに?何故!何故そうなる!!」
 


祐一「連れて参りました。」

みさき「ありがとう、祐一ちゃん。」

北川「・・・あんたが俺をここに連れてこさせたのか?」

みさき「そうだよ。」

祐一「みさき様は、北川のことを食べたいんだそうだ。それで俺が、わざわざ連れてきてやったんだ。」

みさき「祐一ちゃん、なんだかエラそーだよ?」

北川「・・・・食べる?!」

食べる。

1.動物性生命が、自らの体組織維持のため、栄養素を外部から体内に取り入れること。

2.主に年上の人間が、自らの性欲を満たすため年下の人間と半ば強引に合意を得て性交渉を持つこと。
 

北川「・・・どっちだ?」

このケースに当てはまるのは、どっちだ。
検証してみよう。

1の場合:字義通りのケースである。みさき先輩が俺を栄養源として必要としているということだ。だが、古来より人肉食は近親相姦以上の禁忌とされ、これをやったものは反社会的存在として排斥される。敢えて禁を犯すものもいるが、現代社会においてはその代償として犯罪者若しくは精神異常者として扱われ、一生その価値を認められることはない。

2の場合:これも、一般的道徳観念では忌むべき事とされる。だが、現実には社会の暗部として広く行われている行為であり、これを唯一の快楽とするものも多数存在する。
 

北川「・・・・・・・。」

2だな。

そ、そんな・・・・。いくら俺が、立った髪がかわいい美少年だからって・・・・
それに、俺にはもう、心に固く決めた人が・・・

北川「ということで、できません。」

みさき「何が?」

北川「みさき先輩は、俺を食べることは出来ないと言うことです。」

みさき「そんなことはないよ。」

北川「何故。」

みさき「わたし、北川君食べたいんだよ。思いは強く願えば、きっと叶うんだよ。」

ああみさき先輩、そんなに、そんなに俺のことを・・・・
いやいやいけない、俺の純粋で強固な心は、この程度のことでは揺れ動いたりしないはずだ。

北川「だめです、だめです。俺は、俺にはもう心に決めた人が・・・」

みさき「え、ひと思いに決めて欲しい?それはちょっと困ったな・・・」

祐一「なんで。」

みさき「わたし、まずは躍り食いから、って考えてたんだよ。」

祐一「お、躍り食いって・・・あなた、こんなでかいもの躍り食いする気ですか?!」

みさき「祐一ちゃん。沖縄では、ヤギを踊り食いするんだよ?」

祐一「またそんなウソ言って偏見煽る・・・週末はサミットなのに・・・」

みさき「そういう事だから、私北川君を踊り食いするね。」

北川「そ、そんな・・・・俺、まだ心の準備が・・・て言うか、承諾してない。」

みさき「もう待てないよ。祐一ちゃん、北川君を押さえていてね。」

祐一「御意。」

北川「な、何をする相沢、離せ、俺は男と絡む気はなぁい!」

みさき「いただきまぁす♪」

がぶっ

北川「いでぇ!いで、いでいだ、いたい、痛いっちゅーに!」

みさき「・・・・・かたい。」

祐一「そりゃあなあ。生のままって、普通は固いからなあ。」

みさき「そうか、じゃあ次は、茹でて食べようね♪」

祐一「『食べようね』って・・・俺も食うんですか?」

みさき「食べないの?」

祐一「だって、まずそうだし」

みさき「祐一ちゃん。食べ物の味って、見た目じゃないと思うんだよ。大切なのは、口に入れたときに、その人が幸せになれるかどうかじゃないかな。」

祐一「だからまずそうって言ってるんだよ・・・・」

みさき「こんなにおいしそうなのに・・・あ、北川君、逃げようとしてない?」

北川「お、俺は・・・噛みつきプレイはいやだ・・・・」

祐一「ああ、まあ、逃げるのが当然だろうなあ。」

みさき「ダメだよ、ちゃんと捕まえてくれてないと。」

北川「い、いやだ、いやだぁ!秋子さまぁ〜!!」

祐一「あ、逃げちゃった。」

みさき「追いかけるよっ」
 


北川「あ、あきこさまっ!秋子さまぁ!助けて、助けて!」

名雪「この騒がしいのは、北川君だね?今すぐ帰らないと、催涙弾打ち込むよ。」

北川「ち、ちがう、そうじゃない!今日は、変なことしに来たんじゃないんだ!」

名雪「いつもは変なことしに来てるんだって、認めるんだね?」

北川「え?!そ、それは、そうじゃなくて」

祐一「お、いたいた。やっぱりここに来ていたか。」

みさき「わ〜、すごいね祐一ちゃん」

名雪「あ、祐一。・・・誰、その人。」

祐一「ああ、名雪。この方はな、みさき様だ。」

名雪「みさき・・・・様?」

様。人の名前に様をつけるのって。
どういうときだろう。

手紙?

「美坂香里様。もう暴力を振るうのはやめてください。」

違う。
 

社交辞令?

「貴様、良くもガンとばしてくれたな。」
「ちっちっちっ、ガンはDNA異常によるものであって、感染症ではないんだよ。」

・・・たぶん違う。
 

尊敬の念?

「王様、今日のパンツは何色に致しますか?」
「うむ、青じゃ。」

・・・これかなあ?
 

みさき「ねえ祐一ちゃん、なでなでしてあげるから、一緒に北川君食べよ?」

祐一「ああみさき様、なでなでは嬉しいけど、北川食べるのはイヤです・・・・」
 

・・・なんか違う気がする。
 

北川「ああっ、秋子様!どうして出てきてくれないのですか!潤を、潤を助けてください!」
 

・・・・・・。
これだ。

ええっ?!どういうこと?もしかして、もしかして祐一、あの人と・・・

名雪「北川君、どういうこと?」

北川「え?」

名雪「何で祐一、あの人と一緒にいるのっ!」

北川「よ、よくわからないけど、とにかくみさき先輩が俺のこと食べたがっていて、相沢が後ろから捕まえて噛みつきプレイ・・・」

名雪「・・・・・・・・・・・・・。」

みさき「北川君、そんな言い方じゃ、誤解招くよ?」

祐一「そうだぞ、俺はただ、みさき様が北川食べるのを手伝ってるだけだ。」

名雪「・・・どうしてそんなの手伝うの?」

祐一「みさき様が北川を食べるのに成功すれば、俺はいっぱいなでなでしてもらえるんだ。」

がーん。
な、なでなで・・・。いっぱいなでなで・・・・・

二人の仲は、そんなに進展してたなんて・・・
わたし、知らなかったよ。

は、そ、そうか、もしあの人が首尾良く北川君を食べたりしたら

「祐一ちゃん、ありがとね、ご褒美のなでなでだよ」「ああみさき様、とてもキモチイイです」「うふふ、もっときもちいいことしたい?」「したいです」「たーけや〜さおだけ〜」「祐一ちゃん、出来ちゃったみたい」「参ったなあタコの吸い出し切らしちゃってるぜ」「責任取ってくれるよね」「ま、自己責任の時代だからな」「りーんごーんりーんごーん」「オンギャア」「かわいい女の子ですよ」「名前は『祐海』って言うんだよ」「二人の名前から一字づつとったんだぜイエィ」「何がイエィだよゆーいちのバカぁ!」

じょ、じょぉだんじゃない!
わたしの、わたしの七年間の思いが、北川君一食ごときで潰されちゃうなんて。

ダメだよ、そんなの。
よし、決めたよ。

名雪「北川君、わたしが助けてあげるよ。」

北川「ほ、本当かいなゆちゃん!ああ、何かと冷たくしていても、やっぱり君はパパの娘なんだね、家族愛ってすばらしい・・・」

名雪「変なこと言うんなら助けてあげない。」

北川「・・・ただのなゆちゃん、助けてくれてありがとう。」

名雪「なんだか気にくわない言い方だけど、今日は許してあげるよ。さ、こっちに来て。」

みさき「あ、北川君が連れ去られちゃうよ。」

祐一「なにぃ?!うおおお、それはみさき様の、神聖なるディナーだぁ!」
 


台所。
床下の収納ボックスに押し込められた俺は、じっと息を殺していた。

そっと外界を除くと、なゆちゃんとみさき先輩が対峙している。

みさき「名雪ちゃん。おとなしく北川君を渡して。」

名雪「ダメだよ。」

みさき「そんなに北川君が大事なの?」

名雪「全然。」

な、なゆちゃん・・・・

みさき「じゃあ、おとなしく渡してくれるかな?」

名雪「祐一と交換なら、渡してもいいよ。」

祐一「ばかな、みさき様がそんな取引応じるはず」

みさき「うん、いいよ。」

祐一「な、なにい!俺は、俺の価値は、北川一食分程度しか無いというのかあ!」

名雪「交渉成立、だね。」

なゆちゃんに収納庫から引きずり出された俺は、みさき先輩の前にどさりと投げ出された。

名雪「じゃ、祐一は遠慮なく貰っていくね♪」

みさき「うん、大事にしてね。」

祐一「みさき様!みさき様ぁ!」

名雪「さあ祐一、邪魔されないうちに既成事実作りに行こうね。」

ずるずる

祐一「き、既成事実?」

名雪「名前は『祐名』にしようね。」

祐一「名前ってなんだあ!」
 
 
 

後に残されたのは、俺とみさき先輩。

みさき「ん〜っと、確か次は、茹でて食べるんだったよね?」

北川「食べなくていいです。」

みさき「そういうわけには行かないよ。私もう、おなかぺこぺこなんだよ。」

ああ、気分はもう、ペコちゃんにいじめられるポコちゃんだ・・・・

秋子「あらあら、お客さんが来てたのね。」

こ、この声は・・・

みさき「あ、秋子さん、おじゃましてます。」

北川「あ、秋子さまぁ〜〜〜!」

駆け寄る俺。
ああ、潤を、その美しく崇高な胸の中に、飛び込ませ

てはくれなかった、みさき先輩は。
俺の襟首を掴み、猫のように持ち上げてしまった。

みさき「秋子さん。北川君を茹でて食べようと思うんですけど、おっきな鍋無いですか?」

秋子「あらあら、食べちゃうんですか?」

ち、違います、違います秋子様。俺が食べて欲しいのは、世界ただ一人あなただけ・・・

みさき「おなか空いてるんです。」

秋子「そう。じゃあ仕方ないわねえ。」

仕方ない・・・仕方ないって!


庭には、大きな鍋が置かれていた。
鍋の下では、ごうごうと火がたかれている。

みさき「すごい鍋ですね。」

秋子「わかります?」

みさき「ええ、何かとてつもなく巨大な質量を感じます。」

北川「あ、あきこさま・・・」

秋子「怖がらなくていいのよ潤ちゃん。さ、服脱いで。」

北川「ふ、服脱いでって!」

秋子「お風呂にはいるときは、服脱ぐでしょう?」

お風呂。そうか、これはお風呂か。
なあんだ、そうか。そうだよな。俺としたことが、わっはっは
 
 
 
 

北川「・・・秋子様、熱いんですけど。」

秋子「あらあら。でもごめんなさい、火を弱めるわけには行かないの。」

北川「そうですか。ま、我慢しますよ、るんるん」

鍋の中で、俺は上機嫌だった。

秋子「大きな塊だから、ゆであがるのに時間がかかるんですよ。」

みさき「そうみたいですね。でも私、半茹ででもいいですよ?」

秋子「タニシの半ゆでは、寄生虫がいるからやめた方が良いですよ。」

みさき「北川君はタニシじゃないですよ。」

秋子「それもそうね。・・・潤ちゃん、ちょっと出てきてもらえるかしら?」

北川「え?」
 
 

鍋から出た俺は、でかいテーブルの上に寝かされた。

秋子「さあ、遠慮なく食べていいですよ。」

みさき「わあい、やっと食べれるよ。いただきまぁす♪」

え?あ、秋子様、これは一体、・・・・どういうこと?

みさき先輩の手には、ナイフが握られている。
そんな、噛みつきプレイの次は、切断プレイなんて・・・俺にそんな趣味はないのに。
ナイフが、俺の体に近づいてゆく・・・・
 

雪見「みさきっ!」

みさき「あ、雪ちゃん。」

雪見「ごめんね、ごめんねわたしが悪かったわ。」

みさき「え?え?なんのこと?」

雪見「私が意地悪して、お金貸さなかったりしたから、こんな、こんな汚いもの食べようとして」

き、汚いって・・・・

みさき「汚くないよ〜。ちゃんと洗ったし、茹でてあるから大丈夫だよ〜」

秋子「半ゆでですけどね。」

洗われた記憶もない。

雪見「いいから。こんなもの食べたりしてみさきが死んだりしたら、私後味悪いわ。」

みさき「でも・・・」

雪見「今日は私が奢るから。」

みさき「わーい。」

喜び勇んで、みさき先輩は行ってしまった。

北川「・・・・・。」

あとに残ったのは、俺と秋子さん。
しかも、俺は裸。

・・・チャンスだ。これは、もしかしてチャンスじゃないのか?

北川「・・・秋子様、俺、秋子様にだったら、食べられてもいいです・・・・」

秋子「あらあら。でも私、その前に片づけなければいけない事があるんですよ。」

北川「片づけなければいけない事?」

秋子「ええ、私、まだおばあちゃんと呼ばれたくはないですから。」

そういって秋子さんは、家の中に消えてしまった。

暫くして二階が騒がしくなり、そして静まった。

俺は、ずっとそのまま庭にいたので、風邪を引いてしまった。


みさき「ふえ〜ん、あんなんじゃぜんぜん足りないよぉ・・・」

雪見「仕方ないでしょ、わたしの財布にも限度があるのよ。」

みさき「くすん・・・やっぱり北川君食べておけば良かった。」

雪見「だから、あんなもの食べちゃだめだってば!」

みさき「・・・・くんくん、食べ物の臭い。」

雪見「あ、ちょっとみさき?!」
 
 

みさき「・・・・・・。」

徃人「・・・・・・。」

みさき「おいしそうなおにぎりだね。」

徃人「・・・・・・。」

みさき「ね、これからわたしのうち来ない?」

徃人「・・・・・・。」

みさき「来てよ、ね、来てよ来てよ来てよ〜」

徃人「な、何をする。あ、俺のおにぎり・・・」
 
 
 
 
 

完。
 
 

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