「やあ北川君、僕と友達にならないかい?」

北川「だれあんた。」

 「僕の名前はナルシス玉那覇。自分のことが大好きな、夢見る19歳さ。」

北川「(関わらない方がいいな。)」

 「でも、ある日僕は気づいてしまったんだ。このまま自分だけを愛し続ける人生って、なんか虚しいなって。」

北川「じゃ、オレ、リメイク版大晦日ドラえだよもん見るから」

 「そして目を開けたそのとき、君が目の前にいたと言うわけさ。」

北川「そういうことで、急いでかえらなきゃいけないんだ。」

 「これはもう、運命の出会いとしか言い様がないね。君は僕と同類なんだよ。」

北川「冗談じゃねえ。」

 「だから、二人はもう友達同士なんだよ。さあ、共に友情を確かめあう儀式をしよう。」

北川「ええい、逃げ・・う、体がうごかん・・・」

 「ははは、それは、君が心の内では本当は逃げたくないと思っているからだよ。」

北川「そんなはずはない、俺は心底いやがってるんだ!」

 「はっはっは、いいじゃないか。まずは一次的接触による友情の確認をしよう。」

北川「な、何絡みついてきてやがる、こいつ、離れろ!」

 「君の肌はもぎたての紅玉のようだね。手だけでなく、ぜひ舌でもその感触を確かめたいよ。」

北川「ぜったいにだめだ!」

 「もう遅い。ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」

北川「うわあああぁぁぁぁぁ・・・・・!」
 
 






北川マィンド・マィ・マィンド大作戦

 
 




暗闇のような長い雪国を抜けるとそこは、トンネルだった。
 
 
 

北川「・・・・・。」
 

ちっ、また訳のわからん夢みちまったぜ。なんでこう、変な夢ばかり見るのかな。やっぱ思春期なのかな、オレ。

北川「・・・・。」
 

 どこだ、ここ。妙にこざっぱりとした・・・というか何もない部屋だな。と言うかここ、相沢の部屋だな。何でオレ、こんなとこで。まさか、夕べオレが寝てる間に、相沢が俺のこと拉致して、それで全然知らないうちに貞操奪われちゃったんじゃ・・・ああ、なんということ、秋子さまごめんなさい、潤は、潤は汚れた体になっちゃいました・・・

 ・・・違うな。そうだ、思い出した。夕べは確か新年会とかで、みんな水瀬家に集まってたんだ。それで、相沢が川澄先輩とべたべたするもんだからなゆちゃんが怒って、いきなりオレに馬乗りになってきて町内3周とか言ってきたのを家の中2周に勘弁してもらったんだ。うん、あれはなかなかよかった。いかにもパパと娘の家族ふれあい、って感じだったな。

 でもって、秋子さまが最後の締めにとか言って瓶持って入ってきて、その時にはなゆちゃんは既に姿がなくて、川澄先輩と倉田先輩は押入に隠れて、あゆちゃんは死んだふりして、美坂はオレと相沢をずいっと押し出したんだよな。それで二人で瓶の中身食べて、オレは平気だったけど相沢はなんかげーげー言ってて、そのうち気分が悪いとか言って自分の部屋にこもっちゃったんだよな。それで美坂が便乗するように付き添っていって、川澄先輩はつまんないとか言って寝ちゃって、あゆちゃんは相変わらず死んだふりしてて、倉田先輩はしばらくオレのこと蹴って楽しんでたけど、そのうち飽きて寝ちゃって、オレはようやく秋子さまと二人きりになれるかと思ったら戻ってきたなゆちゃんに見つかって、寝袋と一緒に外放り出されたんだよな。

 ん?そしたらオレ、何で相沢の部屋で?ああそうか、これはきっと秋子さまが、オレのみを案じて、寝てる間にそっと運んでくれたんだな。ああそしたら、オレその間秋子さまの暖かい腕の中で・・・ああ、何でオレ、眠ったりしてたんだろう、オレのバカ。
 ま、いいか。これからまだチャンスはあるだろうし。とりあえず、起きるか。あれ、そう言えば相沢の姿が無いな。あいつもう起きてるのか。意外と早起きだな。

がちゃ。

香里「あれ、相沢君、おはよう。」
 

お、美坂。何でなゆちゃんの部屋から。そうか、夕べは二人であそこで寝たのか。そうすると、女の子二人っきりで、あんな事やこんな事してたりして・・・
いや、いかんいかん。勝手にこんな事想像したらいかんな。それにオレだって相沢の部屋で寝てたんだから、逆に二人からもっといろいろ言われかねない。うん、この事はオレの心の内に押しとどめておこう。

北川「やあ美坂、夕べはなゆちゃんと寝てたのかい?」

香里「名雪と寝たけど、あなたが想像してるようなことはなかったわよ。」

・・・ばれてる。なんで?


名雪「うにぅ・・・おはようございまふ」

お、なゆちゃん。今日もかわいいな。ほんとに、乱暴しなきゃこうしていい娘なんだけど。

名雪「香里。おはようごいざいまふ。」

香里「はいおはよう、名雪。」

名雪「祐一も。おはようございまふ。」

はっはっは、なゆちゃん、寝ぼけてオレのこと相沢と間違えてるよ。

北川「おはようなゆちゃん。新世紀もよろしく。」

香里「なゆ・・・ちゃん?」

ん?なんか美坂、首傾げてるな。まあどうでもいいが。

北川「じゃあ、オレは下に行って秋子さまに挨拶してくるよ。」

名雪「秋子・・・・さま?」

北川「どうしたんだい、なゆちゃん?」

名雪「祐一・・・どうしてそんな北川君みたいな言い方するの?」

北川「はっはっは、なゆちゃん、まだ寝ぼけてるね。オレが相沢の真似するなんて、そんな恥ずかしいこと出来るわけないだろう?」

名雪「?????」

香里「相沢君、相当寝ぼけてると見たわ・・・」

北川「そうか、相沢は寝ぼけてるのか。全くしょうがない奴だな。」

名雪「祐一・・・いろいろ疲れてるんだね・・・」

香里「夕べあんなもの食べさせられちゃね・・もう少し寝た方がいいんじゃない?」

北川「はっはっは心配ご無用。オレは至って元気さ、そう、頭の髄から足の裏の白鮮菌に至るまでね。」

名雪「中間地点も元気だね」

香里「名雪・・・新世紀早々何を見てるの・・・」

北川「おおっとこいつはいけないあ、娘の前でこんなもの見せちゃだめだな。じゃ、オレはそういうことで。」
 

とんとんとんとん

北川「♪かろやかに〜おりる〜マイハウス〜マイウェイ〜♪」

名雪「やっぱり祐一、変だよ・・・」

香里「相沢君は元からヘンじゃない。」

名雪「そうなんだけどね・・・・」
 
 
 

北川「秋子さまっ、おっはよぉございま〜す!」

秋子「あら、潤ちゃん。新世紀おめでとうございます」

北川「いやあ、おめでたいですね。オレの頭もめでたい。」

秋子「みんなまだ起きてこないのよ。潤ちゃんが一番最初かしら。」

北川「いや、なゆちゃんと美坂がもう起きてますよ。」

秋子「まあ、名雪が。めずらしいわね、やっぱり21世紀になると違うのかしら。」

北川「それに、相沢がオレより先に起きてるはずですよ。見ませんでした?」

秋子「祐一さんなら、まだ庭で寝てますよ。」

北川「え、庭・・・?」

佐祐理「えいっ、飛び蹴りっ!」

どかっ

北川「ぐはっ!」

佐祐理「あははーっ、祐一さん、新世紀おめでとうございまぁす♪」

北川「し、し新世紀早々、何さらすんですかあんたは!」

佐祐理「ふえ・・・佐祐理のご挨拶、気に入らなかったですか・・・?」

北川「気に入るわけねえだろ!」

佐祐理「そうですか・・・。祐一さんなら、佐祐理の気持ち解ってくれると思ったんですけど・・・」

北川「だったら相沢にやれよ・・・」

佐祐理「祐一さん。佐祐理に、昔弟がいたことはお話ししましたよね?」

北川「いや、オレ知らない・・・」

佐祐理「佐祐理の夢だったんです。弟が大きくなったら、でっかい跳び蹴りくらわせてやろうって。」

北川「あんた、とんでもない夢持つね。」

佐祐理「でも、一弥は・・弟は病気で亡くなってしまいましたから・・その夢も果たせず・・・」

北川「・・・・・。」

佐祐理「だけど、祐一さんと出会って、佐祐理は思ったんです。この人なら、佐祐理の跳び蹴りを受け入れてくれるんじゃないかって。」

北川「あいつ、そういう趣味があったのか。」

佐祐理「だから佐祐理は、21世紀最初の挨拶として祐一さんに跳び蹴り食らわそうと思って。夕べもずっと、北川さんで練習してたんです。」

北川「ああ。」

そういえばオレ、夕べさんざん蹴られまくったっけな。あれ、ただの遊びじゃなかったんだ。

佐祐理「だから・・・こんな事言うのは変ですけど、祐一さんには佐祐理の跳び蹴りを、もっと喜んで受けて欲しいんです・・・・」

北川「いやしかし、それは本来相沢に言うべき」

 「うああああ」

北川「お?なんだ今の声」

佐祐理「なんでしょうね。行ってみますか。」
 
 
 
 

あゆ「うわあ、舞さんってすごいねえ。おっきな雪うさぎ、あっと言うまに作っちゃったよ。」

「・・・芯があると簡単。」

北川「へえ、でかいな。」

佐祐理「何を芯に使ってるんでしょうね。」

祐一「タ、タスケテ・・・」

北川「ん、なんか声がするな。」

あゆ「わ、雪うさぎ崩れちゃうよ。」

「・・・動くな。」
 

ばしばしばしばし

祐一「う、い、痛い痛い痛い!」
 

って、まて、あの頭のワンポイントには見覚えが・・・

「・・・おとなしく芯になる。」

あゆ「ボクみたいな美少女におもちゃにしてもらえるんだから、幸せにおもわなきゃ。」

祐一「おもちゃだったら普段から名雪に・・・うわ、いて、痛い!」

「・・・つまんない見栄はらない。」

佐祐理「あははーっ、北川さん、雪うさぎの芯にされちゃってますよーっ。」

北川「そうだな・・・って、あれ、誰よ・・・?」
 

 確かに。あのパツキン一本立ち頭の美少年はオレ、北川潤に他ならない。でも、オレは今ここにこうして存在するじゃないか。
 じゃああれはいったい何なんだ。あの、オレにそっくりな美少年は、いったい何者なんだ。

「・・・佐祐理も、雪うさぎ作る?」

佐祐理「あははーっ、そうしようかなーっ。祐一さんもやる?」

北川「え?あ、うん・・・」
 

 待てよ。彼女らさっきから、オレのこと相沢とか祐一とか呼んでるよな。失敬な、オレはあんな恥ずかしい男じゃ
 そうじゃなくて。何でオレのこと、相沢と間違えてるんだ?そしてあそこに横たわっている美少年は

祐一「だから!俺北川なんかじゃなくて祐一だってば!失礼だぞ!」

名雪「北川君の!分際で!祐一の!名を!かたるなんて!生意気!だよ!」

あゆ「名雪さん、いつの間にか現れて、北川君殴ってる・・」

北川「・・・・・。」
 

 どういうことだ?なんであの美少年は、自分が祐一だって主張してるんだ?もしかして相沢の奴、オレの美貌がうらやましくてオレに変装したのか?全く、不毛なことを・・・

香里「哀れね・・・」

北川「そうだな。」
 

いくら相沢の変装とはいえ、オレの姿をした男があんな風にいたぶられるのは、見るに忍びない。

香里「でも、おかげで相沢君を独占できるわ。さ、あっちいこ」

北川「あ?ああ・・・」
 

って待て。だから、なんでみんなして、オレのこと相沢呼ばわりするんだ?そんなにオレのことを辱めたいのか?

香里「相沢君、これ、ワタリガニの煮染めだって。はい、あーん」

北川「殻だらけだぞ。」

香里「ワタリガニだから♪」

北川「オレ、数の子の方がいいな。」

香里「あ、それ数の子じゃなくて、ガの卵だって。」

北川「そうかい。道理でまずいと思ったぜ。」

佐祐理「二人とも、何してるんですか?」

香里「ちっ」

北川「いや、二人でオセチ食ってるだけだが・・・」

佐祐理「佐祐理を差し置いて祐一さんと二人きりになろうなんて・・・香里さん、いい度胸してますね。」

香里「あたし無神論者だから読経しない。」

佐祐理「祐一さんも祐一さんです・・・佐祐理の跳び蹴りは喜んでくれなかったのに。」

香里「跳び蹴りなんか喜ぶわけ無いじゃない。」

佐祐理「ふえ・・・祐一さんって、そういう趣味があるんじゃなかったんですか?」

北川「いや、オレは」

香里「そんな趣味、無いわよねえ♪」

北川「あの」

佐祐理「祐一さん。」

香里「相沢君。」

北川「いや、聞いてくれ。オレはだな」

秋子「あらあら。みなさん3人でどうしたんですか?」

北川「あ、秋子さま!」

佐祐理「秋子さん、聞いてください。佐祐理が祐一さんに真心込めて跳び蹴りくらわせてるのに、香里さんったら、祐一さんがそういうこと嫌いだって言うんですよ。」

香里「相沢君はそんな趣味無いわよ。」

北川「いや、オレはあると思うが。」

佐祐理「え、あるんですか?よかったぁ、佐祐理、実はさっきの跳び蹴りで祐一さんに嫌われちゃったんじゃないかって、心配だったんですよぉ」

北川「いや、さっきの跳び蹴りは」

香里「嫌だったの?嫌だったわよね。そうよね、跳び蹴りなんてねえ。」

佐祐理「佐祐理は祐一さんに訊いてるんです。」

香里「相沢君に訊いても答えは同じよ。相沢君は変人だけど、変態じゃないもの、ねえ?」

北川「いや、はっきり言って相沢は変態だ。」

香里「相沢君・・・どうして自分のこと、そんな悪く言うのよ。」

佐祐理「香里さんから離れたいからですよ。ねーっ?」
 

だきっ

香里「ちょっと!なに相沢君独り占めしてるのよ!」

佐祐理「香里さんだって、さっきまで祐一さん独り占めしてたじゃないですか。」

香里「相沢君がつまんなさそうにしてたからよ。みんなが北川君いたぶってる間。」

秋子「あの、みなさん。ちょっといいですか?」

佐祐理「なんですか?」

秋子「そこにいるのは、祐一さんではないんですよ?」

香里「え?」

秋子「今お外でみんなに苛められてるのが、実は祐一さんなんです。」

佐祐理「冗談は止してください。祐一さんはあんな恥ずかしい髪型してません。」
 

は、はずかしいってなんだよ・・・・

秋子「ですから。外見は潤ちゃんだけど、中身は祐一さんなんです。」

香里「どういうことですか?」

秋子「夕べ祐一さんと潤ちゃんに、特製のジャム食べてもらいましたよね?あれ実は、人間の思考情報をスワップする働きがあるんです。」

佐祐理「つまりそれは、祐一さんと北川さんが入れ替わっているという事ですか?」

秋子「そういうことです。」

香里「と、いうことは・・」

北川「・・・・。」

今オレは、相沢の姿でいるって事か?
うっわー、はずかしい。オレ今、あんな恥ずかしい男の姿でいるわけだ。

佐祐理「あなたは、北川さんなんですね・・・」

北川「最悪」

香里「それはこっちのセリフよ。」

佐祐理「北川さん。」

北川「な、なんですか?怖い顔して」

佐祐理よくも佐祐理を騙しましたね

北川「ち、違う!オレは決して騙そうとして騙したわけではなく、ただ現実の状況をしっかり認識できなかったが故に誤った情報をお客様に与えてしまっただけの話でして」

香里「なに破綻投信会社みたいな言い訳してるのよ。」

佐祐理「佐祐理の純真な心を踏みにじって・・・ただで済むと思ってるんですか?」

北川「い、いやだからそれは・・・・美坂、何とか言ってくれよ!」

香里「どうしてくれるのよ。」

北川「そう、どうしてくれ・・・・え?」

香里「あたし、北川君なんかと仲良くしちゃったじゃないの!ただでさえ、問答無用でくっつけられちゃうっていうのに・・・!」

北川「いやしかしそれは、最近は排斥派同盟の活躍でかなりの状況改善が見られ・・・」

香里「依然として差別的状況が続いていることに代わりはないわ!」

佐祐理「それより佐祐理の心を踏みにじった責任をとってください。」

北川「で、でもこれはオレのせいじゃ・・」

香里「じゃあ誰のせいなのよ。」

北川「それは・・」

秋子「(にっこり)」

北川「・・・オレのせいです。」

秋子「あら。」

佐祐理「だったら、覚悟はいいですね。」

北川「いえその」

香里「よくなくても、あたしには関係ないわよ。」

北川「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 
 
 
 
 

ざくざっく

祐一「・・・・・・。」

あゆ「祐一君、祐一君ごめんね・・!」

「・・・私が悪い。祐一だって事に気づかなかったから」

名雪「わたしなんか、つるはしでぼこぼこ殴っちゃったよ・・わたしもう笑えないよ」
 
 

秋子「ごめんなさいね、私のいたずらのせいで・・・」

北川「あきこさま・・・」

秋子「祐一さんを、あんな目に合わせてしまって・・・」

北川「・・・潤は?」

秋子「あら。忘れてたわ。」

北川「・・・・・。」

秋子「冗談よ。」

北川「そ、そうですよね」

秋子「でも、わかってくださいね。私、祐一さんと潤ちゃんにたのしんで欲しくて・・・」

北川「・・・・。」

秋子「二人とも、私の大事な男の子ですから。」

北川「大事な。」

秋子「そう。大事な。」

北川「潤が。秋子さまの。大事な。」

秋子「・・・。」

北川「うおおおおおお!」
 

俺は今、なんだか猛烈に幸せだあ!

香里「あ、北川君まだ生きてるわよ。」

「・・・。」

佐祐理「反省の色が見られませんね。」

あゆ「北川君のせいで、祐一君こんなになっちゃったんだよっ!」

名雪「おしおきするよ。」

北川「え?あ、いや、いやいやいや・・・・」
 
 
 

秋子「みんな楽しそうにしてるわねえ。今年も、いい年になりそうな気がするわ。」
 
 
 
 

北川マインド・マィ・マィンド大作戦・完




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