北川こどもの日大作戦




香里「風の気持ちいい、今日この頃・・・」

北川「最近、俺がホモだという噂が広まっているらしい。どういうことだ。」

祐一「俺に訊かれてもなあ・・・」

北川「どうせお前が流してる噂だろう!」

祐一「イヤ、それは違う。断じて違う。」

北川「じゃあ、一体誰が・・・」

祐一「誰ということもなく、じゃないか?」

香里「こんな麗らかな午後の日は、お茶を飲んで過ごすのが一番ね・・・」

北川「何故だ、何故そんな噂が広まる!俺の愛しているのは、純粋に秋子様ただ一人、他の女性には目もくれていない!ましてや男なぞに・・・」


名雪「ねえねえ。北川君って、ホモだと思うよね。」

女生徒1「うんうん、絶対ホモだよね。」

女生徒2「誰がなんと言おうとホモだよね。」

男生徒1「証拠なんか無くてもホモだよな。」

男生徒2「学名からしてホモだよな。」

斉藤「サピエンスなんかつける権利無いよな。」

あ、あいつら、勝手なことほざきやがって・・・・
て、話の中心になってるのは、もしや、我が愛娘のなゆちゃん・・・・

何故、何故だ。なゆちゃん、君は、パパがホモでもいいというのかい・・・?

香里「♪思春期に〜少年から〜大人に〜変わる〜♪」

そうか。思春期。なゆちゃんって、思春期で年頃の娘なんだ。
・・・・思春期って、なんか凄くえっちな響きだよな・・・・
いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。
そう、思春期の娘には、得てしてホモを好む傾向がある。
少女漫画雑誌でも、ホモものは昔からかなりの人気があるじゃないか。
なゆちゃんも、ご多分に漏れずその傾向が出てきたということだろう。
そして、最近よく言われる現実とバーチャルの混同化現象。
なゆちゃんは、漫画の世界と現実の区別が付かなくなり、自分の周りにもホモがいっぱいなんだと思いこみ、そして、一番身近な男性である父親つまりこの俺をホモに仕立て上げてしまったということだ。

・・・そうか。そう考えると、なゆちゃんはそれだけ俺のこと身近に思ってくれているわけだから、喜ぶべきだよな・・・・。
いやしかし、やっぱりこんな不健全な考えをいつまでも持っていちゃいけない。やっぱり女の子は、白馬の王子様を待ち望むお姫様か、奴隷を求めて彷徨い歩く女王様でなきゃ。
やはりここは一つ、父親である俺がきちんとした教育を施さなければな・・・・
 

北川「ということでなゆちゃん。五月五日のこどもの日は、家族三人でピクニックに行こう。」

名雪「家族三人・・わたしとお母さんと、祐一?」

祐一「あ、おれその日トリプルデートだから」

北川「お前なんか数に入れとらん。三人というのは、秋子様となゆちゃん、そしてこの潤だ。」

名雪「・・・・ふてぶてしい。」

北川「え?」

名雪「わたしと家族になろうなんて、3600万i年早いよっ!」

北川「虚数?!」

祐一「まあまあそういわず、名雪。北川の気持ちも察して・・・」

名雪「トリプルデートって、誰と誰と誰?」

祐一「え?!」

名雪「もしかしてデートの邪魔されたくないから、わたしのこと北川君に押しつけようとしてない?」

祐一「そ、そんなこと全然ないぞ。ほら、名雪、最近秋子さんと話す機会もあんまりないだろ?それでさ、やっぱりさ、家族の団欒って大事だと思うわけよ。」

名雪「・・・ホントに?」

祐一「もち、当然、当たり前っす!」

名雪「・・・・・。」

北川「そういうわけでさ、なゆちゃん。三人でこどもの日を祝おうぜ?」

名雪「祝う?」

北川「うん。何しろ、こどもの日だからな。五月五日はこどもの日。日本人ならこどもの日。屋根より高いこどもの日。馬鹿と煙もこどもの日。」

名雪「・・・・どうしてこどもの日なの?」

北川「そりゃあ、今言ったように日本人なら・・・」

名雪日本人なら、憲法記念日に決まってるでしょっ!!

北川「え?」

名雪「日本国憲法、世界の憲法学者の夢と理想を結集したそれが施行された日は、1947年5月3日。よって5月3日は、日本人のみならず、世界の人民にとって記念すべき日なんだよっ!」

北川「あ、あの・・・」

名雪「その前年、日帝のラヂオ放送により、日本人民はようやくの解放を得たんだよ。だけど、未だ天皇制国体を護持しようとする反動守旧勢力の力は強かった。新憲法案にしたって、松本案なんて言うとんでもないシロモノが提示される始末。業を煮やしたGHQは、アメリカの若手憲法学者グループの出した私案をたたき台にするよう指示したんだよ。」

香里「押しつけ憲法批判の根拠ね・・・あ、茶柱。」

名雪「そう!民族反革命主義者は、そんな中傷を口にする!でも違う!日本国憲法は、地球人類2万年の英知の結集。自由・人権・平和主義という、最高の理想を掲げた、人類の希望の象徴なのよ!」

祐一「どうでもいいけど、お前名雪か?」

名雪「それなのに、マッカーシーの悪しき野望により、ベクトルは反転した!人民の戦士はことごとく弾圧され、帝国主義者が政治の実権を握った!」

香里「お茶がおいしいわあ・・・」

名雪「その結果はどうだ!自然は破壊され、教育は荒廃し、犯罪は増大し、貧富の差は拡大する一方!今、人々の心には、どんな理想があるというの!」

北川「なんか、論点ずれてきてない?」

名雪「愚かなる地球人類!理想を捨てた地球人類!だが、今に見よ。伝説の虹の七戦士が現れて、この美しい星を食いつぶす虫螻どもを一掃してくれるわ!」

祐一「やめとけって、これ解る人少ないって。」

名雪「世界はラヴ・アンド・ピース!私たち若者が手を取り合って連帯すれば、きっと必ず世界は浄化の方向に向かうのよ!」

香里「この季節の野菜って、漬物向きよねえ・・・」

名雪「そういうことだから!わたしたちは!日本国憲法を!信じて!世界の!平和を!達成して!行かなきゃ!いけないの!」

北川「うん、・・・そうだな。」

祐一「北川ッ?!」

名雪「守るべきは?」

北川「日本国憲法!」

名雪「祝うべきは?」

北川「憲法記念日!」

名雪「世界を?」

北川「革命する力を!」

祐一「北川・・・こどもの日はどうなった」

北川「あ、そうか。タイトル変えなきゃな。」


 
 

北川憲法記念日大作戦




祐一「おいおい北川、いいのかそれで?」

北川「いいんだ、なゆちゃんがこういうなら。娘の気持ちを、体いっぱい受け止めてやるさ。それも、父親の役目さ・・・」

祐一「名雪、こんな事言ってるぞ?」

名雪「革命の理想の前には、些細な感情はゴミみたいなものなのよ!」

祐一「駄目だ、完全にイっちゃってる・・・。返してくれ、俺の名雪を返してくれぇ!」

香里「いつから相沢君の物になったのかしら・・・」

北川「仕方ないな・・・こいつを使うか。」

祐一「・・・・・・・・ジャム。お前、いつもそんなもの持ち歩いてるのか?!」

北川「そんなものとは何だ!これはな、このジャムはな、俺の生き甲斐、俺と秋子さんの愛の象徴。俺の、命より大切なものだ!」

祐一「お前の命より?んなのあったりめーだろーが・・・・」

北川「相沢。お前もようやく、このジャムの偉大さを理解したようだな。」

祐一「そんなんじゃないわい。北川の命より軽い物なんて、この世に存在しないって言いたいんだよ。」

北川「がーん。」

香里「・・・あるわよ。北川君の命より軽いもの。」

祐一「なに?」

香里「北川君の脳味噌。」

祐一「おっと、こいつはしてやられたな。」

北川「みんなひどいっす!」

祐一「安心しな北川。みんな、本気で言ってることだから。」

北川「〜〜〜〜〜!!! なゆちゃぁん、パパを慰めておくれぇ〜〜〜」

香里「名雪、とっくにいないわよ?」

北川「え?!」

祐一「そんなジャム持ち出したりするからだ。」

北川「そ、そんな・・・」

香里「革命の理想も、ジャムの恐怖には勝てなかったのね・・・・」


5月4日。

俺は、秋子様の家までやってきた。
もちろん、家族団欒ピクニックックックーに行くためである。

北川「秋ぃ子ぉ様ぁ〜♪」

思いっきり甘えた声で、秋子様を呼んでみる。

祐一「うるせえっ、失せろっ!」

ばしゃあっ

北川「・・・おかしいな。天気予報では今日一日晴れだと言ってたのに。」

秋子「あらあら潤ちゃん、どうしたんですか、ずぶ濡れで。」

北川「嗚呼、秋子様。よくわからないんですが、さっき集中豪雨があったみたいで。」

秋子「それは大変ですね。」

全然大変そうに聞こえないが・・・
気のせいだろう。秋子様に限って、俺のことを心配していないなんて事があるはずはない。

秋子「濡れたままじゃ、風邪ひきますよ?中にお入りなさい。」

北川「はい、よろこんで!」


 
 

名雪「あ・・・・・」

秋子「あら名雪。早いのね。」

名雪「・・・・どうして北川君がうちの中にいるの。」

北川「え?それは、その・・・」

秋子「私が入れたんですよ。」

名雪「お母さん!どうしてそういう危険なことするの!もっと自分を大事にしないと駄目だよ!」

秋子「・・・・・・。」

秋子様が、困ったように頬に手を当てている。
ああなゆちゃん、秋子様にそんな事言うなんて。君はきっと、反抗期なんだね。そうやって普段から、秋子様を困らせているんだね。そうか、いろいろ不満があるんだね。社会は悪いしねえ。欲求は溜まるしねえ。いいだろう、その若き青春の叫び、この潤にぶつけてきたまえ!

北川「さあ、なゆちゃん!パパの胸に飛び込んでおいで!」

名雪「・・・・・・。」

秋子「・・・・・・。」

北川「どうしたんだいなゆちゃん。さあ、遠慮は要らないよ。」

名雪「どうしたのはこっち・・・。何、いきなり。」

秋子「熱があるのかしら。濡れたままでいたから、風邪ひいたんですね・・・・」

そうやって秋子様が、額を寄せてくる。
ああ、美しい秋子様の顔が、こんな近くに・・・
ああ、口を突き出せば、・・・・出来ちゃいそう。
潤は、潤は、本当に熱が出そうです・・・

接触

ぷしゅー

秋子「・・・かなり熱いですね。」

名雪「そんなはずないよ。バカは風邪ひかないんだよ。」

秋子「名雪。バカをバカといったら、失礼ですよ?」

ああ、秋子様。他の連中が言ったら頭に来るだけのそのセリフも、あなたが言うと妙に意味深ですね・・・

秋子「寝かせた方がいいかしら・・・」

ね、寝かせる?寝る?
寝るっていったら、つまりアレの意味だよなあ・・・・。
秋子様、まさかあなたの口からそんな積極的な言葉が・・・
いやまてよ。

男「今夜は寝かさないよ。」
女「もう、えっち。」


・・・こういう使い方もするよな・・・。
つまり、寝るというのはアレとは逆の意味なのか?
ああ、どっちなんだ、どっちなんだあ〜〜〜〜!!!

名雪「なんか、変な顔してるよ北川君・・・」

秋子「大変。かなり重症みたいね。急いで着替えさせないと。」

ああ、秋子様の手が、服のボタンに・・
やっぱりそっちの意味だったんですね・・・
ああでも、今ここでしてしまうんですか?娘の目の前で・・・
潤は、潤はちょっと恥ずかしいです・・・・

名雪「・・・・お母さんが脱がすの?」

秋子「え?あ、あら、そうね、やっぱりまずいわね。」

ほら、やっぱり娘の横槍が入った・・・・
秋子様、もっと静かな、邪魔の入らないところに行きましょうよ・・・・・


静かなところ。
二人きりのところ。
誰も邪魔の入らないところ。
俺はその部屋の真ん中で、
相沢と向かい合って座っていた。

北川「・・・・・・・。」

祐一「・・・・・・・。」

北川「・・・・・・・。」

祐一「不束者ですが、よろしくお願いします。」

北川「いえ、こちらこそ。さあ、閨(ねや)の中へ・・・」

・・・・・・・。

北川「なにやらせんじゃあボケぇ!」

どかっ

祐一「てめーが勝手にやってんだろうが!何が閨だこの変態!」

ばきっ

北川「てめーみたいなコマし野郎に言われたくないわっ!」

祐一「なんだとお!」

どかばきぐげばしょびと

名雪「何やってるの一体?!」

祐一「あ、名雪。」

名雪「・・・・元気そうだね、北川君。」

北川「なゆちゃん・・・。いや、その、男というのは、起きたあとはみんな元気なもので・・・・」

祐一「何言ってんだお前」

秋子「あらあら、もうすっかり元気になったのかしら。」

北川「はい!不肖潤、秋子様にご迷惑おかけして、面目次第もございません!」

秋子「あらあら。ずいぶん暴れたみたいですね。」

北川「ははは、平成の暴れん坊将軍と呼んでください。」

祐一「松平健ファンに殺されるぞ。」

秋子「汗かいたでしょう。お風呂わいてるんですよ。入ってきたらいかがです?」

北川「お風呂!」

秋子様から、お風呂のお誘い。
お風呂。お風呂。お湯とシャボンが色めき立つ泡のパラダイス。
それはまさに、夢の王国ドリームアイランド。
そんな世界に、二人で作っていくのは、文字通りの愛の結晶・・・

秋子「・・・・潤ちゃん?」

北川「はっ・・・・?!」

いかんいかん。つい不埒な考えをしてしまった。
そうだよな。年頃の娘とスケベな甥っ子がいることだしな。ここは自重せねば・・・

北川「いえ、潤は、背中流して貰うだけでいいです。」

秋子「背中・・・流して欲しいんですか?」

北川「え?」

秋子「・・・・いいですよ。」

名雪「お母さん?!」

・・・なんか反応がいまいちだったが・・・
ま、いいか。秋子様に、背中流してもらえる・・・うふ、むふふふふ・・・・

名雪「・・・・・・・。」


 


ちゃぽーん

北川「はあ・・・。43°の気温が作り出す、極上の快楽・・・。お風呂はやっぱり、人類の英知の結晶だよな・・・」

ぎいばたん

北川「あ、秋子様ですか?早速背中流しに来てくださったんですね。では、遠慮なくお願いしますっ!」

名雪「・・・・・・・。」

北川「さっ、どうぞ。」

ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ

ああ、何て力強い・・・。これなら、皮相下部にある垢までとれ落ちそうだ。
でも、秋子さんがこんな力強くこするなんて。意外とワイルドなんですね・・・・。

ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ

ああ、でも、ちょっと強すぎるかも・・・・

北川「あの、・・・出来ればもう少し優しくしていただけませんか?」

名雪「・・・・・・・。」

ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ、ぐわしゃ

北川「あの、・・早くするんじゃなくて、優しく・・・」

ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ

北川「あの、強すぎるんですけど・・・なんか、皮膚まで取れそうなんですけど・・・痛いんですけど・・・」

ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ、ぐわっしゃ

ああ、秋子様。どうして潤のいうことがわからないのですか・・・
あ、もしかしてこれは、秋子様なりの愛情表現。
口で言うのが恥ずかしいものだから、こんな形で・・・。
ああしかし、こんなやりかたでは、潤は、あなたがSなのではと疑ってしまいます・・・

北川「秋子様。こんな事をしなくても、あなたの愛は、十分潤に伝わっていますよ。」

そういって振り向くと、そこには髪をほどいた秋子様がいた。

北川「ああ、秋子様。ずいぶん若く見えますね。もしかして、化粧しないとこんなですか?」

ぼかっ

ああ、何故。何故叩くのですか秋子様。潤は、潤は褒めたつもりなのに。何もそんなデッキブラシで・・・

デッキブラシ?

北川「あの、秋子様。もしかして今まで潤の背中をこすっていたのは、そのデッキブラシですか?」

名雪「そう、だよ。」

ああ秋子様。なんだか声までいつもと違う・・・・

て、違うぞおい。
これはもしかして、なゆちゃんの声ではありませぬか?

北川「あの、もしかしなくても、なゆちゃんですか?」

名雪「モニカはクリントンの愛人だけど、なゆちゃんだよ。」

・・・・なんということ。
何故、何故なゆちゃんが・・・・

名雪「お母さんに近づく罰、だよ。」

そういってなゆちゃんがデッキブラシを振り上げた。

どうして、どうしてなゆちゃん、そんなことを・・・・
いや違うな。これはきっと、屈折した愛情表現という奴だ。
思春期の娘には、よくあることだ。意味もなく親からカネをせびったり、好きな男の子の机に花瓶なんか置いてみたり。
本当はなゆちゃんは、この俺に娘らしいことをしてやろうと思っただけなんだ。
そうだ、そうに違いない。その証拠に、なゆちゃんはちゃんと俺の背中流してくれたじゃないか・・・・

北川「なゆちゃん、わかった・・・もう、いいんだ・・・・」

名雪「何が解ったの?」

北川「なゆちゃんの心、さ。なゆちゃんがパパを思う気持ち、痛いほど伝わってくるよ・・・」

名雪「どこにどう伝わったっていうの?」

北川「この背中。そう、今でもじんじんと痛みが来るよ。これがすなわち、なゆちゃんの思いさ・・・」

名雪「確かにその背中の痛みは私の思いかもしれないけど・・・」

北川「やっぱりそうなんだね。なゆちゃん、なんだかんだ言って、本当はパパのこと・・・・」

名雪「え、ち、ちがうよ、そうじゃないよ!」

北川「口でどんなに否定しても、態度でわかるさ、そう、パパには全部解るさ・・・」

名雪「え?ひ、い、いやあぁ〜〜〜!」

北川「おお、何故逃げるんだい我が娘よ。待っておくれ〜」


 


名雪「いやあ〜〜〜!!!」

北川「まってくれなゆちゃ〜ん」

祐一「ん?なんだあ?」

名雪「あ、ゆ、祐一!たすけて、助けて!」

北川「な〜ゆ〜ちゃ〜ぁ〜ん〜〜〜!」

祐一「・・・・・・・。」

ぼかっ

北川「オウ!ウゴ、ウゴ、ウゴ、オウ、・・・」

祐一「・・・・何やってんだ北川。」

北川「な、なにって・・・俺はただ、なゆちゃんに父親として当然示すべき愛の形を・・・・」

祐一「これがお前のいう父親の愛か・・・・。見損なったぞ北川。」

名雪「え?今までは見損なってなかったの?!」

北川「な、何言ってんだ相沢。俺は父親として、娘の孝行に礼を言おうとしただけだぞ!」

祐一「俺には、お前が裸で名雪を追い回しているようにしか見えなかったが・・・」

北川「な、何を言う相沢!俺が、この俺がそんな不埒なまねをするはずがないだろう!」

祐一「じゃあ確認しよう。名雪、お前は北川から逃げてたんだよな?」

名雪「うん。」

祐一「確認終わり。」

北川「こんだけかい!」

祐一「これで十分だ。名雪は、お前から逃げてた。そしてお前はその後を追った。つまり、追い回していたんだろう。」

北川「それは、認めるが・・・・しかし、裸で何て・・・」

祐一「・・・・今のお前は裸じゃないとでもいうのか?」

北川「え?!」

祐一「あ、そうか。もしかしてこれは、服来てるのか?ああ、北川ならあり得るなあ。」

北川「い、いやまて、そうじゃなくて、これはだな、その、つまり、・・・・」

・・・・・・・。

北川「はだかんぼう将軍!」

♪たたた〜ん、たぁんたぁんたぁんたぁ〜〜〜〜〜ん♪

・・・ふ、決まった。

祐一「・・・・バカ。」

北川「なんだとお!」

名雪「バカ、だよ。」

北川「なゆちゃんまで!」

祐一「じゃあ、その姿秋子さんに見られても、恥ずかしくないのか?」

北川「え?それは、いや・・・」

祐一「秋子さぁ〜ん」

北川「ば、ばか!呼ぶなっ!」

秋子「あらあら、どうしたんですか?」

名雪「おかあさ〜ん・・・・・(泣)」

ああっ、最悪のシチュエーション・・・

名雪「北川君がね・・・わたしのこと、裸で追い回したんだよ・・・・!」

秋子「まあ・・・・それは大変ね。」

祐一「ちっとも大変そうに聞こえない・・・」

名雪「そうだよお母さん!もっと深刻に考えてよ!」

秋子様が、にっこりほほえんで、首を傾げている。
そうか、あれが秋子様の深刻なポーズか。勉強になったぞ。

秋子「裸・・・・ですか?」

祐一「ええ、まあ・・・とりあえず、これを見てやってください。」

そういって相沢が、隠れていた俺を引き吊りだし、秋子様の前にさらし出す。

秋子「あらあらあら・・・・」

北川「・・・・・・・(赤)」

秋子「・・・・かわいいですね。」

かわいい?
かわいい?
何がかわいいんだ?
かわいいとは、どういう意味だ?
皮は要らないという意味か?
鳥皮は焼き鳥にするべき物であって、カツレツの材料は豚肉という意味なのか?
割ったら頭がこんにちはで、ホントは怖いこけしのお話なのか?
あ、俺、皮ついてる!ついてるよ!
がーん、どうしよう・・・・・

ぱしゃぱしゃぱしゃ

祐一「秋子さん・・・何写真とってるんですか・・・」

秋子「趣味ですから」

名雪「趣味って・・・」

趣味。趣味。秋子さんの趣味。
ああ、秋子様、あなたにそんな趣味があったなんて・・・
でも潤は、その趣味に己の肉体を提供できて、この上なく光栄ですよ・・・・

秋子「祐一さん。あとでこれ、現像に出しておいてください。」

祐一「はっ、喜んで!」

名雪「お母さん、おなか空いたよ。」

秋子「じゃあ、食事急いで作りますね。」

祐一「よし、出来るまで俺と指相撲してよう。」

名雪「いやだよ。祐一すぐ人差し指使いたがるもん。」

祐一「はっはっは、健康な男の子はみんなそうなんだよ。」

北川「あの〜、俺。まだ裸のままなんですけど・・・」

祐一「うるさい。そこでダヴィデ像の真似でもしてろ。」


連休明けて月曜日。

北川「おっはよ〜!今日も潤ちゃんが学校来たよ〜ん。」

女生徒1「くすくす・・・」

女生徒2「やあねえ・・・・」

女生徒3「いやらし・・・」

女生徒1「見たあんただって嫌らしいでしょ。」

女生徒3「んもう!」

なんだあ・・・・?

香里「番茶もいいけど、やっぱり新緑の薫り漂う新茶よね・・・」

北川「美坂おはよう。」

香里「おはよう。」

佐祐理「祐一さーん。写真見せてくださーい。」

あ、佐祐理さん。また何の躊躇もなく教室入ってきてる・・・・

北川「おはよう。」

祐一「お、北川。丁度いいところに来た。これからお前の写真を佐祐理さんに見せちゃうからな。」

北川「俺の写真?」

あ。

北川「ま、まさかあの写真!なんで!どうして、おまえが!」

祐一「いやあ、『人の弱点は苦労してでも買え』って言うからなあ。秋子さんに貰った。」

そ、そんな・・・・

女生徒4「クスクス・・・」

北川「お前・・・まさかその写真を・・・」

祐一「あ?ああ、みんなに見せた。大好評だぞ。」

北川「そ、そんな・・・・」

佐祐理「きゃーっ」

北川「て佐祐理さんにまで見せてるし!」

祐一「こういうのはさあ、下手に隠さない方がいいんだよ。なあ、佐祐理さん。」

佐祐理「そうですねーっ。でも北川さん、どうしてこんな写真とられたんですか?」

北川「え?そ、それは・・・・」

祐一「趣味だ。」

佐祐理「あ、なるほど。趣味なんですね。」

ぜ、絶対誤解してるぞこれ・・・

香里「いい趣味してるわ・・・・」

北川「ち、ちがう!これは、秋子さんの趣味で、それで俺は・・・」

佐祐理「ふえ?北川さんの趣味じゃないんですか?」

祐一「秋子さんがこんな悪趣味持ってるわけないだろ。」

佐祐理「そうですよねーっ。」

北川「そんな!」

祐一「それとも何か?秋子さんに、こんな変な趣味があると、お前は公言したいのか?」

北川「それは・・・・」

佐祐理「あははーっ、やっぱり、北川さんの趣味ですね。じゃあこれからは、『変態で痔な露出狂の北川さん』って呼ばなきゃ駄目ですねーっ。」

また呼び名が長くなった・・・・


どどどどどどどど

北川「秋子さまぁ〜っ!」

秋子「あらあら潤ちゃん、どうしたんですか?」

北川「みんなが、みんなが潤のこといぢめるんです・・・」

秋子「まあ、それは大変ね・・・」

北川「相沢が・・・潤の裸写真みんなに見せて・・・」

秋子「まあ、・・・私があの写真あげたのが、いけなかったのね・・・」

北川「そ、そんなことないです!秋子様は、悪くなんか・・・・」

秋子「いいのよ。ほら、潤ちゃんは悪くない、悪くない、・・・」

ああ、秋子様。そんな風に優しくしていただけるなんて・・・。
ああもしかして、秋子様はこうなることをあらかじめ予見した上で、相沢に写真を渡したのでは・・・。
ただ、こうして潤に優しくすることだけが目的で・・・
だとしたら、ほんの一時でもあなたを疑い、あなたに罪を着せようとした潤は、何て愚か者なんでしょう・・・

北川「秋子様、潤を、ぶってください!」

秋子「え?」

北川「潤は、悪い子です。ぶってください!」

秋子「・・・・出来ません。」

北川「そんな・・・・」

秋子「潤ちゃんは、悪くないですよ。」

北川「いいえ、それでは潤の気持ちが収まりません。撃つのが駄目なら、何か他の罰を与えてください!」

秋子「罰ですか・・・・」


 
 
 
 

名雪「ただいま・・・・って、何で北川君が掃除やってるのよ!」

北川「ああ、なゆちゃん。これはな、・・・・パパの、罰なんだよ。」

名雪「はあ?」

北川「いや、・・・パパ恥ずかしいから、あっち行っててよ。」

名雪「言われなくても行くよ。」

そう、これは罰。俺に与えられた罰。
なのに、何故かとてもすがすがしいのは何故だろう。
それは、今こうして汗水垂らして働くことが、秋子様への償いそして愛であるから!

愛。
むふ。考えれば考えるほど、いい言葉・・・
 
 

名雪「お母さん・・・このままじゃ北川君、ここに住み着きかねないよ?」

秋子「大丈夫ですよ。」

名雪「大丈夫じゃないから言ってるのに・・・」


 
 

北川俺は今、幸せだああああ!


 
 
 
 
 
 

おしまい
 
 
 

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