名雪「祐一、わたし、納得行かないよ。」

祐一「なんだ?」

名雪「試験の順位の、事だよ。」

祐一「試験か。しかしなあ、香里を追い越すのは、無理だと思うぞ。」

名雪「香里が一位なのは、別にいいんだよ。定義だし。」

香里「定義って何?!」

祐一「うん、それ以外取り柄無いしな。」

香里「それ以外取り柄無いって・・・・」

名雪「問題は、二位なんだよ。」

祐一「二位?学年二位って・・・誰だっけ?」

名雪「・・・・・・・・・・。」


北川「♪ほぉ、ほぉ、ほぉたるこぃ ♪ こっちのみぃずは あきこさまぁ♪」

祐一「・・・あれか?」

名雪「うん。」

祐一「な、なんで!何であれが二位なの!納得いかん、俺は納得行かないぞ!」

クラス一同「(こくこくこくこく)」

祐一「みんな同じ気持ちなんだな。」

名雪「そりゃそうでしょ。」

祐一「よし、だったら俺達は行動しなきゃいけない。みんなの幸せのために、正義と民主主義のために、民族のプライドのために!」

香里「あたしって・・・・あたしって学年一位以外、取り柄がないの・・・・・?」



北川イグザミネィション大作戦




祐一「ということで、これより『北川学年二位転落作戦委員会』を開始する。」

佐祐理「しつもーん。」

祐一「はい、北川の元彼女の佐祐理さん。」



<CM>

名雪「バイオ酵素はおなかにいいん、だよ。」

「科学の勝利ですね!」

<CM終わり>



祐一「・・・北川とは何の関係もない、佐祐理さん。」

佐祐理「このメンバーを選んだ理由は何ですか?」

祐一「北川を二位から転落されられる可能性、それを秘めたものだからだ。」

名雪「どうやって転落させるの?」

祐一「簡単なことだ、今度のテストで他の誰かが二位になっちまえばいい。」

佐祐理「今度のって言うと、あの『全校無差別統一学力考査』ですね。」

祐一「ちなみに全校無差別統一学力考査というのは一年から三年まで学校中の全員が全教科同じ問題で試験を受けるという統計上意味があるのかないのかよくわからない試験なんだぞ、びしっ!」

名雪「ちなみに去年一位になったのは香里なんだよ、びしっ!」

「何説明口調になってるんですか?親指まで立てて。」

名雪「今年も、とりあえず一位は香里だね、びしっ!」

香里「・・・・・・・・。」

名雪「・・・香里?」

香里「・・・あたし、今年は自分を見つめ直そうと思うの・・・」

祐一「は?!」

佐祐理「一位は取らないって事ですか?」

祐一「ふーん・・・ま、いいけどな。要は、このメンバーで一位二位を独占しちゃえばいいんだし。」

美汐「祐一さん、ちょっといいですか?」

祐一「なんだ、天野。」

美汐「祐一さん達の目的は、北川さんを『学年二位』から転落させることですよね?」

祐一「おう、そうだぞ。」

美汐「だったら、学年が違う私たちが一位二位取っても、意味がないんじゃないですか?」

祐一「・・・・・・。」

「・・・同じ学年の人が追い越さないとだめ。」

祐一「し、しまったぁ!」

名雪「ということは、私たちががんばらないとダメって事?」

佐祐理「しかも香里さんは、あんな事言ってますし。」

香里「クロアゲハ、あなたの帰る山に、しあわせはあるの?」






ぴ〜んぽ〜ん

北川「秋子さまぁ〜♪」

秋子「あら潤ちゃん。みんな、もう来てるわよ?」

北川「みんな?」

秋子「ええ、みんなです。」


俺はそのまま、秋子様に二階に案内された。
扉に、黄地に黒で三方向放射扇の絵が描かれた紙が貼ってある。

北川「・・・ここ、危険区域なんですか?」

秋子「十代の男の子って危険ですから。」

北川「なるほど。」

そんな危険な場所に、みんないるわけだな。

・・・中から声が聞こえる。

「えーん、わかんないですー」

香里「甘えるんじゃありません!さあ立つのです栞!」

祐一「立っても意味無いんじゃないか?」

びしぃっ

「きゃぁ、ゆういちさんっ」

香里「いいですか栞。あたしが一位の座から転落しても、美坂の名を途絶えさせるわけには行きません。あなたです、あなたが美坂の名を背負って立つのです!」

「そんなの勝手ですー」

香里「さあ、立ちなさい栞。そして、この手で掴むのです、輝く季節への、ヒロインの座を!」

「輝く季節へのヒロインは瑞佳さんですー」

香里「甘えたことを言うんじゃありません!」

「えーん、お姉ちゃんがいじめますー」

香里「いじめではありません!これは、戦いなのです。己に勝ち、名誉を守るための、戦いなのです!」

名雪「香里、栞ちゃんばっかりじゃなくて、私たちにも勉強教えてよ・・・」

香里「あなたがそういう甘やかすようなことを言うから、栞はいつまでたっても胸が成長しないんです!」

「えぐっ、酷いです」

香里「泣くんじゃありません!」

ばしゃぁっ

佐祐理「ふえ、佐祐理にも水かかりました・・・・」

香里「いいですか、栞。紅ない天女は、うめです。時田ウメというカクトダグループの創始者が、世界を手中に収めるまでの半生を描いた、コメディーなんです。」

「そんな人知らないです。」

佐祐理「佐祐理にも水かかりました。」

香里「紅ない天女は、人でなしです。男を足蹴にするような強い心の持ち主です。それを持つには、人並みはずれた知力と才能が必要となるのです!」

「そんなの持ちたくないです。」

佐祐理・・・佐祐理を無視しないでください・・・


・・・危険だ。確かにここは、危険区域だ。

北川「秋子様。俺、一階にいてもいいですか?」

秋子「ええ、かまいませんよ。」



俺と秋子様は、リビングのソファに座っていた。

北川「秋子さま・・・・あいつら、何やってるんですか?」

秋子「試験勉強だそうですよ。」

試験・・・

ああ。

秋子「潤ちゃんは、勉強しなくていいんですか?」

北川「いいんですよ。どうせ、くだらない行事みたいなものだし。」

秋子「くだらない行事・・・?」

北川「『全校無差別統一学力考査』って言うんですよ。」

秋子「まあ、無差別テストね。懐かしいわ。」

北川「懐かしい・・・秋子さん、あの学校の出身なんですか?」

秋子「いいえ。」

北川「じゃあ、なんで・・・」

秋子「無差別テストは、この近辺の学校はどこもやるんですよ。」

北川「そうなんですか?」

秋子「この地域の伝統なんだそうです。」

北川「なんでそんなものが伝統に。」

秋子「知りたいですか?」
北川「はい。」


むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

ある日おじいさんは、山へ薪を取りに出かけました。

すると幹の間に、カスミ網が仕掛けてありました。

カスミ網には、大量の野鳥が引っかかっていました。

おじいさんは網を切って、鳥たちを逃がしてあげました。

その夜。

おじいさんの家に、男達が訪ねてきました。

密猟者「おうじじい、ええ根性しとるやんけ。」

おじいさんは密猟者達に、ボコボコにされてしまいました。


北川「・・・・・・・。」

秋子「・・・・・・・。」

北川「・・・・・・・。」

秋子「・・・・・・・。」

北川「それで終わりですか?」

秋子「ええ。」

北川「オチは?」

秋子「ないです。」

北川「・・・試験とどういう関係があるんですか?!」

秋子「それは、自分で考えてください。」

北川「はあ。」

秋子「これが自分で解るようになれば、ハーバード合格も夢じゃないですよ。」

北川「なるほど、何となく解ってきたような気がします。」

階段を下りる音。

祐一「ひぃ〜、参った参った。」

名雪「ひとの家で暴れるなんて、非常識、だよ。」

「お姉ちゃんに常識なんてもの通用しません。無意味です。」

「・・・佐祐理も。」

名雪「あ・・・。」

北川「よう、おじゃましてるぞ。」

名雪「・・・どうして北川君が家の中でくつろいでるの。」

北川「え?それはその」

秋子「わたしがすすめたんですよ。」

北川「そ、そうなんだ。」

名雪「そんなすぐばれるような嘘ついて。どうせ都合よくなし崩しに居座ってるんでしょ。」

北川「・・・・・・・。」

名雪「出てってよ。」

北川「なゆちゃん・・・」

名雪「北川君と同じ空気吸うなんて、耐えられないよ。今すぐ出てって。」

秋子「名雪、それは言い過ぎじゃないかしら?」

名雪「言い過ぎなんてこと無いよっ。むしろ、言い足りないくらいだよ!」

北川「そんな・・・」

名雪「私に声かけてもらえるだけ幸せなんだよ。もっと自分の価値を自覚してよ。」

秋子「名雪。」

秋子さんの表情が、咎めるようなものになっている。

名雪「な、なに、お母さん・・・」

秋子「・・・こういうのを、いじめと言うんじゃないの?」

名雪「(があぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん)」

祐一「珍しいな、秋子さんがたしなめるようなこと言うなんて・・・」

名雪「そんな・・・そんな。わたしはただ、お母さんに近づく悪い虫を追い払おうとしてるだけなのに・・・・」

北川「なにぃ、秋子さまに悪い虫が付いてるだとぉ!許せん、何者だそいつは、ノミかシラミかナンキンムシか、ええい、出て来よれ、この北川潤が成敗してくれるわぁ!」

祐一「・・・何というか、大したものだよな、窘められてなおいじめを続ける名雪も、それにちっとも気づいていない北川も」

「・・・どっちもたいしたもの。」

北川「ええい、出てこないのか卑怯者!虫など、虫けらなど、この手でひねり潰してやるのに!」

名雪「北川君が出ていけば済むこと何だよっ!」

秋子「・・・困ったわねえ。」

北川「そうだ秋子さま、ジャム、ジャムを使いましょう。あの神秘の力で、虫けらを退治してやるんです!」

名雪「じゃ、じゃむ?!卑怯だよ、そんなもの使うなんて!」

北川「卑怯などではない!これは、人類の栄光と存亡をかけた聖戦なのだ!」

祐一「・・・ここも戦場になっちまったな。」

「私たちに、行き場はあるんですか?」





そして試験当日。

祐一「う、腹が・・・・・」

相沢は早々にリタイアした。

祐一「名雪、後は任せた。」

名雪「祐一、昔から変わってないよね。こうやって私が困るような事して、平気なところ。」

祐一「そんなこと言ったって腹が痛いものはしょうがないだろ。」

香里「♪あの鳥はまだ〜巧く〜飛べない〜けど♪」





そして、答案返却。

結果発表。

祐一「お、貼り出されてるぞ。どれどれ、よく見えないな・・・」

名雪「祐一、私が見るから、肩車してよっ」

祐一「・・・・・・・。」

名雪「どうしたの祐一?鼻押さえて。」

祐一「・・・・いや。遠慮しとくよ。」

名雪「????」

佐祐理「あ、ちょっと空いてきましたよーっ。」

祐一「よし、どれどれ、一位・・・」

香里「・・・。」

祐一「・・・美坂香里。」

名雪「結局香里が一位なんだね。」

祐一「ま、定義だからな。」

香里「な、なんで・・・?あんなに、あんなに手抜きしたのに・・・・」

祐一「二位・・・・川澄舞。」

佐祐理「あははーっ、舞、二位だって。」

「・・・・・・。」

祐一「三位は、えっと、美坂栞。」

「わっ、学年では一位ですー」

名雪「そうだ、学年二位は誰?それ先に見てよ。」

祐一「そうだな、え〜っと、・・・四位以下、しばらく三年生だな。」

名雪「それが当たり前だよね、本来。」

祐一「あ、十三位が二年生だ。えっと、水瀬・・・・」

名雪「え、水瀬?水瀬って、ひょっとして、わたし?わたし?」

祐一「・・・・・潤。」

名雪「え゛?!」

香里「・・・誰それ。」

祐一「知らん。二年生に、名雪以外に水瀬っていたのか?」

名雪「わたしは知らないよ・・・・」

香里「どこのクラス?」

祐一「7組。」

香里「・・・あたし達のクラスでしょ、それ。」

祐一「そうだった。」

「だったら、やっぱり名雪さんのこと何じゃないですか?」

祐一「しかしなあ・・・あ、石橋がいる、訊いてみよう。」

石橋「おう、なんだ。」

祐一「聞かれてたのか・・・。まあいいや、先生、あの順位表の13位、間違ってませんか?」

石橋「ん?・・・ああ、間違ってるな。しょうがないな北川は、自分の名前なのに。」

名雪「やっぱり北川君なんだ・・・」

祐一「て言うか、しょうがないってどういうことです?」

石橋「ああ、これ打つ作業、北川に頼んだんだよ。」

祐一「・・・そうなんですか。」

石橋「時々用事を頼んでるんだよ、あれで良くできるやつだしな。美坂と違ってひねくれてないし。」

香里「・・・・・・・・・・ひねくれてますか?」

石橋「み、美坂?!いたのか・・・・」

香里「・・・・あたし、そんなにひねくれてますか?」

石橋「い、いや、それはつまり言葉の綾で・・・そ、そうだ、職員会議があるんだった、使っていないクラブハウスをマグロの冷凍庫にしたらどうかって提案が出てるんだよ、それじゃ、またな」

祐一「逃げたな石橋。」

香里「あたし・・・あたしの存在意義って・・・何?」

佐祐理「佐祐理の順位は出てないんですか?」





どどどどどどどどどど

北川「秋子さまぁ〜!」

秋子「あら潤ちゃん。」

北川「秋子さま、潤はこの度の試験で、13位取りました!」

秋子「あら、すごいわねえ。」

北川「学年では二位です。」

秋子「まあ、大したものね。」

なでなで

北川「あ、あきこさま・・・・」

秋子「あら、どうしたんですか?」

北川「い、いえ・・・。嬉しくて涙が出ただけです。」

秋子「あらそう。学年二位ですものね。」

北川「いえ、そうではなくて・・・」

秋子「潤ちゃんは偉いわね。」

え、偉い。俺が。偉い

秋子様に、認められた・・・・

認められたんだ・・・・

北川「うおおおぉぉぉぉ!」


俺は今、幸せだ。





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