北川「♪あっきこさま ♪あっきこさま 僕の秋子さまぁ〜♪」
名雪「お母さんは北川君のものじゃないって、何回言ったらわかるんだよ!」
どげしげし
北川「ひ、ひどいよなゆちゃん、家庭内暴力反対」
名雪「家庭外だよっ!」
ずごずごずごずごずご
ああなゆちゃん、どうして君は、パパにそんな暴力を振るうんだい。
君が望んでいるのは、こんな荒れた家庭ではないだろう。もっともっと、暖かい家庭を望んでいるはずだよ君は。
いや、もしかして、このように家庭が荒れてしまった原因は、俺にあるのか?
ここ数日の行動を振り返ってみよう。
昨日。
学校のあと新しくできた天ぷら蕎麦の店に行った。
一昨日。
AIRを買いに電車で三件隣の街まで行った。
三日前。
アンテナの調子が悪いので電気屋に行った。
四日前。
ゲーセンで倉田佐祐理親衛隊にボコボコにされた。
五日前。
通りすがりの女の子に道ばたでいきなり殴られた。
六日前。
通りすがりの食い逃げ少女に濡れ衣を着せられた。
七日前。
通りすがりの女の子が勝手に荷物を落とした挙げ句俺をストーカー呼ばわりした。
八日前。
通りすがりの女の子に変なジュースを飲まされた。
九日前。
通りすがりの女の子に米券を貰ったが既に閉店時間だった。
十日前。
通りすがりのおばちゃんにバイクではねられた。
十一日前。
通りすがりの危ない女医にメスで追い回された。
・・・・・・・・・・・・・・。
な、なんと言うことだ。こうして振り返ってみると、俺、ここ数日秋子さまのところに行って無いじゃないか!
ああ、俺は何という愚か者。今頃秋子さまは、俺に会えない寂しさと悔しさに身を震わせながら、家で打ちひしがれていることだろう。募る苛立ちに、ついつい娘に辛く当たってしまい、それでなゆちゃんはあんなに不機嫌で粗暴になってしまったんだ。
ああ、そうしたら、俺がなゆちゃんに殴られるのは、明らかに自業自得ではないか。そう、これは俺が当然身に受けるべき報い、下されるべき愛の鞭だ!
北川「さあなゆちゃん、パパを殴っておくれ!」
ぼかぼかぼかぼかぼかぼかぼかぼか
名雪「いきなり気持ち悪いこと言わないでよ!」
ああなゆちゃん、でもパパはちょっと気持ちよかったよ。
そうじゃなくて。
こんな事をしても、問題の解決にはならないではないか。そう、俺が為すべき事は、秋子さまの寂しさを取り払うこと。秋子さまに、俺の真実の愛を今一度示すことではないか!
でも、どうやって。ただ秋子さまの家に行くだけでは、だめだよな。今更何しに来たなんて言われかねないし。なにかこう、もっと俺の真実の愛を表すようなことをしないと・・・
「・・・愛し合う二人は別れてもきっと、巡り会う。永遠の愛が二人を包むとき、世界は周り、光は天から射し込んでくる。記念すべきこの日に差し出される、それは文字どおりの愛の結晶・・・」
だれだ、身の毛もよだつようなクサイ台詞をはずかしげも無く言ってるやつは。相沢か?
祐一「くっさいCMだな〜」
・・・何だ、宝石店のCMか。しかし、何で教室にTVがあるんだ?
祐一「香里はこんなクサイCM見るためにTV持ち込んだのか?」
香里「違うわよ。ダイエー優勝の瞬間をこの目で見たかっただけ。」
祐一「去年優勝したじゃないか。」
香里「去年は去年。今年は今年よ。」
祐一「今年ぐらい、巨人に勝たせても・・・」
香里「何を言ってるの!あなた、去年ダイエーが優勝したことで、どれだけの経済効果が出たと思ってるの?200億よ、200億。自民党政権がとち狂った景気対策で経済の足を引っ張っている今、日本経済を本格回復軌道に乗せるためには、ダイエーを優勝させるしかないのよ!」
祐一「『景気回復には巨人優勝』は、日本経済の定石なのに・・・」
香里「そんなものは高度経済成長期の頃の幻想よ!大体、三越がバーゲンやって、あたしたちになんのメリットがあるって言うの?!」
祐一「何て身勝手な論理・・・」
香里「祐一、あなただけは、解ってくれると信じてたのに・・・」
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン
おお、往復ビンタ。実際に出来るやつ少ないんだよな。
そんなことはどうでもいい。
今大切なのは、俺の真実の愛。それを示す事じゃないか。やっぱり、物で示すという考えは浅はかなんだろうか。いやしかし、人間という存在が物質と情報で出来ている以上、愛の形を示すには物か言葉しかないじゃないか。そして俺は相沢みたいな恥ずかしい奴にはなりたくない。
ということで、モノだ。秋子さまに相応しい、永遠の愛の形を示す物を買いに行くぞ!
石橋「あ〜、みんな席に着け。」
北川「先生!潤はこれから買い物に行くので早退します!」
石橋「あ、おい!待て!」
北川「うおおおお!秋子さま待っていてください!これから潤は、あなたのために真心の籠もったプレゼントを買いに行きます!」
ずどどどどどどど
石橋「・・・しょうがないな。北川、欠席。」
香里「サッカーや柔道はあんな大盛り上がりなのに、どうして誰もスケルトンの話題を口にしないのよ!」
祐一「・・・・スケルトンは冬季だってば・・・・く、苦しい・・・・」
ずどどどどどどど
北川「秋子さまに相応しいものはいづこお!」
骨董品やの親爺「おお、若いの。丁度良かった、お主に相応しい物が・・・」
北川「もうお前には騙されんわあ!」
ずごーん
骨董品やの親爺「今度の煎餅は舶来ものの超高級品なのに・・・・」
北川「違う!違う!違う!これも違う!秋子さまに相応しい物は、ここにはないのかあ!」
あゆ「何してるの?」
北川「ん、誰だ?」
あゆ「ボクは、あゆだよ。」
北川「あの全国で冷水病が蔓延して問題になってる川魚のことか。」
あゆ「冷水病は問題だけど、ボクはそのあゆじゃないよ。」
北川「じゃあ、なんのあゆだ。」
あゆ「なんのと言われても・・・。簡潔に言うと、『Kanonの真ヒロインで全国のちょっとロリコン入ったお兄さんに大人気なさすらいの食い逃げ少女でも実はIQ197の天才でMITの大学院を19歳の若さで修了した二十一世紀の情報産業を担うスーパーウーマン』、ってとこかな。」
北川「前半はともかく後半は大嘘じゃねえか。」
あゆ「うぐぅ・・これからそうなるんだもん!」
北川「とてもそうは思えないが・・・」
あゆ「それはいいとして、キミは何をしてたの?」
北川「あ?ああ、秋子さまに捧げるプレゼントを選んでいたところだ。」
あゆ「ふうん、そうなんだ。」
北川「わかったらあっち行け。」
あゆ「ねえ。ボクが選んであげるよっ」
北川「いい。これは、俺が選んで俺が直接秋子さまに手渡さなければ、意味のない物なんだ。」
あゆ「いいのかなー。秋子さんはともかく、名雪さんが気にくわない物選んじゃって、ボコボコにされた挙げ句リサイクルショップに10円で売り払われるようなことになっちゃっても、ボクは知らないよ〜?」
北川「・・・・・。」
あゆ「でも、いいんだよね。自分で選ばないと、意味無いんだもんね。」
北川「・・・意見くらい聞かせてくれるか?」
あゆ「うん、いいよっ。じゃあまず、この『カエルの飼育セットアマガエル5匹付き』なんてどうかな?」
北川「いきなりだめじゃん!」
閑話休題。
プレゼントを持った俺は、月宮あゆと共に秋子さまの元へ向かった。
あゆ「うぐぅ・・・それはやめた方が良いと思うんだけど・・・」
北川「何を言う、これほどまでに俺の愛の籠もったプレゼントは、他にないと思うぞ」
ぴーんぽーん
北川「秋子さまぁ!」
秋子「あらあら潤ちゃん。どうしたの?」
北川「秋子さま、何も言わずこれを受け取ってください!」
秋子「・・・・・。」
あゆ「うぐぅ。秋子さん固まっちゃってるよ。」
北川「そんなはずはない。感動に震えて声が出せないだけの話だ。」
秋子「・・・これ、なんですか・・・?」
北川「針金です!」
秋子「ですよねえ。」
北川「こいつは役に立ちますよ。ほら、まずこうして足に巻くと、血行が良くなって疲れが取れます。」
あゆ「アブナイ趣味があるみたいだよ。」
北川「腕に捲けば、アクセサリーになります。」
あゆ「そんな恥ずかしい装飾品つける人いないよ。」
北川「頭に巻けば頭皮が刺激されて頭が良くなった気分になれます。」
あゆ「変な宗教みたいだよ。」
北川「さらに、こうして一本垂直に立てておけば、アンテナにもなります。」
あゆ「北川君みたいで嫌だよ。」
北川「どうです秋子さま!一家に一つ、家庭の平和と人類の幸福のために、針金!」
秋子「・・・ありがとうございます。」
北川「ほらみろ!秋子さまは喜んでくれているぞ!」
あゆ「問題は名雪さんでしょ。絶対怒ると思うよ。」
北川「そんなはずはない。なゆちゃんは物わかりがいいから、きっと針金の良さを解ってくれるはずだ!」
あゆ「ボクがアドバイスする意味、無かったね・・・」
秋子「・・・二人からのプレゼント、ですか?」
あゆ「え、そ、それは違」
北川「そうです!」
あゆ「な、何言い出すんだよ北川君!ボクはこんな変なものプレゼントしたりしないよっ!」
北川「遠慮するなって。二人からのプレゼントって事にしておいてやるから。」
あゆ「してほしくないよっ!」
秋子「そうですか・・・。そういう事なら、喜んでいただきますね。」
北川「秋子さまに喜んでいただいて、潤は光栄です。」
あゆ「ボクはちっとも嬉しくない・・・」
秋子「最近は、誕生日のお祝いを貰うこともないですから。うれしいですよ。」
北川「誕生日。秋子さま、誕生日だったんですか?」
秋子「あら。これ、誕生日のプレゼントじゃないんですか?」
北川「い、いえ。もちろんそれは、誕生日のプレゼントです!」
秋子「そうですよね。」
あゆ「秋子さん。じゃあ、お誕生会とか、しないのかな?」
北川「そ、そうだお誕生会。俺、そんな話全然聞いてませんが。」
秋子「この歳でお誕生会もないですよ。」
北川「そんなこと無いですよ、秋子さまはまだ、18じゃないですか!」
秋子「あらあら。お世辞と解っていても嬉しいわ。」
北川「お世辞じゃありません、本気です!」
あゆ「え、本気で言ってるの?!」
秋子「本気でも嬉しいわ。今日は、二人をご招待しちゃおうかしら。」
北川「ほ、本当ですか!!」
あゆ「招待って北朝鮮では召集って意味なんだよね確か」
北川「いいですとも!潤は、秋子さまのためならティモール海峡でもタンガニーカ湖でも、どこへでも行きます!」
秋子「それじゃ、中へ入ってくださいね。」
秋子「とは言っても何の準備もしてないですから、大した物は出せませんけど。」
あゆ「ううん、ボク、秋子さんの作ったものなら、何でも大好きだよっ!」
秋子「あら、何でも、ですか?」
あゆ「ご、ごめんなさい。やっぱり例外はあるよっ。」
秋子「そうですか・・・。」
北川「秋子さま。そう言えばここに、あのジャムがないですね?」
どかっ
北川「う、・・うご、・・うぐごごご、・・・・」
あゆ「余計な事言わないでよっ」
秋子「あらあら。そう言えば、潤ちゃんはあのジャムが大好きでしたね。」
北川「はい!是非食べたいです!」
あゆ「・・・うそ。マジ?!」
秋子「そうですか。じゃあ、持ってきますね。」
北川「はい、ありがとうございます!」
あゆ「嘘、だよ。どうしてこうなるの。こうならないようにわざわざ予防線張ったのに、意味無いじゃない・・・」
秋子「はい、どうぞ。遠慮なく食べてくださいね。」
北川「いただきます!」
秋子「あゆちゃんも、遠慮なくどうぞ。」
あゆ「ボ、ボ、ボ、ボ、ボ、ボクはいいよっ!」
北川「遠慮するなって。俺が頼んで持ってきて貰ったものだけど、君が食べていけないと言う法はないんだぜ。」
あゆ「いらないって言ってるんだよ!」
秋子「あゆちゃん、このジャム嫌いですか?」
あゆ「え゛?!そ、そ、それはその・・・・ご、ごめんなさい、そういう意味じゃなくて!」
北川「じゃあ好きなんだな。」
あゆ「誰も好きだなんて言ってないよっ!」
秋子「嫌いなんですか?」
あゆ「え、えっと、あの、そういうことじゃなくて、その、あの、」
北川「全く、見かけに寄らず遠慮深い奴だな。ほら、俺がよそってやるよ。」
べちょ
あゆ「な、なんてことするんだよっ!」
秋子「なんてこと・・・?」
あゆ「い、いえその、今のはいわゆる言葉の綾で、綾織はペルソナの記述言語で・・・」
北川「ほら、訳わかんない事言ってないで、さっさと食えよ。俺なんかもう、むしゃむしゃ食っちゃってるぜ。」
あゆ「北川君みたいな変態と一緒にしないでよ!」
秋子「・・・・ヘンタイ。」
あゆ「え、えっと、今のはそうじゃなくて、ジャムを食べるのが変態って意味じゃなくて」
北川「当たり前だろ。さあ、さっさと食えよ。」
あゆ「うぐぅ」
秋子「あゆちゃん。」
あゆ「うぐぅ〜〜!!」
北川「美味いんだからさ。」
あゆ「うぐぅ〜〜〜〜!!!!」
名雪「今、中から誰かの悲鳴が聞こえたような・・・。」
祐一「誰かって言うか、うぐぅだからあいつに決まってるんだが。」
香里「何かあったのかしら?」
祐一「とりあえず中入るか。」
名雪「うん。」
祐一「ただいま。どうしたんだ?」
あゆ「ゆ、ゆういちくんっ・・・・うぐぅ〜!」
祐一「ど、どうしたんだあゆ。」
名雪「・・・北川君がいる。」
北川「よお。おじゃましてるぞ。」
香里「なるほどね・・・。謎は、解けた。犯人はお前だ!」
北川「な、何を言う!俺は何も悪いことはしてんぞ!」
祐一「往生際が悪いぞ!あゆを泣かせた罪は万死に値する!引っ捕らえよ!」
名雪「おしおき、だよ。」
北川「そ、そんな・・・・秋子さま、助けて・・・・」
秋子「あらあら、みんな仲がいいのね。」
北川「そ、そうじゃなくて!」
名雪「わたし実は、今日はかなり不機嫌なんだよ。」
香里「あ、そうそう、テレビテレビ」
祐一「お、そうだった。」
名雪「丁度いい具合に針金があるよ。今日はこれ使うよ。」
あゆ「良かったね北川君、名雪さん針金気に入ってくれたよっ。」
北川「何故かちっとも嬉しくないぞお!」
祐一「おい、肩にもたれかかるな!」
香里「うるさいわね、いいところなのよ」
名雪「お風呂場でおしおきしようね。」
秋子「名雪。ほどほどにしておきなさいね。」
名雪「うん。やりすぎないようにするよ。」
北川「うああああああ!!!」
祐一「うわあ〜っ!」
香里「ダイエー優勝でバーゲンよー!」
名雪「ふう。ストレスゲージ0,だよ。」
北川「うっ、うっうっ、・・・・ひどいよなゆちゃん・・・・」
嗚呼、どうして俺がこんな目に・・・。俺って、俺ってそんなに悪い事したんだろうか・・・・。
秋子「潤ちゃん?」
北川「ああ、秋子さま・・・潤は、もう汚れてしまってるんです・・・」
秋子「・・・ごめんなさいね。名雪も、いろいろ大変な年頃なのよ・・・。」
北川「ええ、それはわかります・・・」
秋子「私の手に負えない部分も多くて。でもこうして潤ちゃんが相手してくれるから、助かるわ。」
助かるわ。
助かるわ。
助かるわ。
北川「秋子さま・・・。潤は、潤は秋子さまの役に立ってるんですね・・・?」
秋子「え?ええ、そうですよ」
そうか、それならば、そういうことならば・・・
秋子「それに、今日はとても楽しかったですよ。」
楽しかった
楽しかった
楽しかった
北川「あ、秋子さま、秋子さまからそのような言葉をいただけるとは・・・!」
う、うううううう
北川「うおおおおおおおおお!!!!!!!」
俺は今、幸せだa!