いつもの帰り道。俺は、北川と一緒に歩いていた。
祐一「って、何が悲しくて男と一緒に歩かなければならん。」
北川「それはこっちのセリフだ。」
でも成り行きだから致し方なかった。
黙って歩くと周りから怪しい関係と思われかねないので、適当な話をしていた。
しかし、ふと北川の声が途絶える。
北川は、何かをじっと見つめているようだった。
北川「・・・なゆちゃん・・・」
北川の視線の先には、名雪がいた。
祐一「ああ、名雪だな。今日は部活無かったのかな。」
北川「なゆちゃんだよ・・・」
北川の目は、それこそ甘いお菓子でも見つけたかのように潤んでいた。
北川「なゆちゃーん、なゆちゃんだよー、かわいいよお、行って抱きしめたり頬ずりしたりしたいよお」
北川は、今にも名雪の元に駆け出しそう、と言うかもうスターティングフォームに入っていた。
祐一「そうだな・・・って待て、北川、お前そんなことしたら、犯罪だぞ!」
北川「関係無いっ!」
北川の目は真剣そのものだった。
北川「だって、なゆちゃんなんだぞ!」
それは理由として認めるわけには行かなかった。
北川「なゆちゃーん、なゆちゃーん」
北川は俺の止めるのも聞かず、カウントダウン状態に入っていた。
俺は
力ずくでも引き留めることにした。
いくら北川が欲求不満だからって、名雪に手を出していいという法はない。
第一そんなことを今ここでされては、全国一千万人の名雪ファンからメールボムが来てしまう。
俺は、既にスタートし出していた北川の足を払った。
北川はこけた。
それでも0.8秒で立ち上がり、なお名雪の元に駆け寄ろうとする。
俺は北川の右肩を固め、首を絞めた。
北川は後ろに手を回して、俺の右脇腹を攻撃してきた。
そこは俺の弱点だった。手がゆるんだ隙に、北川は脱出した。
再び駆け寄ろうとする北川。その腰に俺は、TVタックルをかけた。
その後も俺は、十字固め露払いヘルシーツイスト揚げ出し一本醤油背負いししゃもと、思いつく限りの攻撃を仕掛けた。
だが、北川はあきらめなかった。名雪との距離は、少しづつではあるがじりじりと近づいていった。
とうとう、俺は疲れ果ててしまった。地面に転がって空を仰いでいる間に、北川は秒速12mで名雪に接近していった。
名雪が気づいた。振り返り、後ろから迫ってくるものを凝視し、大きく目を見開く。
そして、あっという間に逃げてしまった。
この間0.3秒。
名雪が逃げたことに気づいた北川は、それ以上追う事もせず、へたへたとその場に座り込んでしまった。
北川「なゆちゃん・・・・」
俺は立ち上がり、ゆっくりと北川の元に歩み寄って、左肩に手をかけた。
祐一「ま、青春はまだまだ長いさ・・・・」