Kanonむかしばなし

かさこ地




むかしむかしあるところに、祐一と名雪という、貧乏ないとこ同士がいました。

祐一「俺バイトしてないから金無いぞ。」
名雪「わたしも。」

ということで、二人はとりあえず倹約に倹約を重ねながら、慎ましく暮らしておりました。

しかし、そんな二人に12月がやってきてしまいました。
12月にはクリスマス、しかも名雪の誕生日まであります。

祐一「うおぉぉ!俺ほんとに金無いのに・・・。」

しかし、クリスマスとなゆちゃんの誕生日を、何も無しで済ませるわけには行きません。考えあぐねたあげく祐一は、傘を作って売りに出ることにしました。

祐一「え〜、傘〜傘はいらんかねぇ〜?」

誰も買ってくれませんでした。

祐一「参ったな・・・。その辺で伐ってきた木の枝と古新聞で作ったから、原価ほとんど0で大儲けだと思ったのに・・・。」

足早に通り過ぎる人々の足を見ながら、祐一は道ばたに座り込んでいました。

ふと顔を上げると、その視界に、雪にさらされた「お自動さん」の姿が映りました。

祐一「・・・かわいそうに。この雪の中では、お自動さんもさぞ寒かろう。」

そういって祐一は、お自動さんに自分の傘をかけました。

祐一「・・・うん。これで少しは、寒さをしのげるでしょう。」
香里「・・・・・何してるの?」

振り向くとそこには、あからさまに奇異な者を見る目をした香里が立っていました。

祐一「香里か。ちょうどいい、傘買ってくれ。」
香里「これ、傘なの?!」
祐一「大サービス、120円。」

香里「あのねえ・・・。今時傘なんて、コンビニ行けば100円で買えるのよ。しかもこれなんて、どう見ても傘じゃなくてただのゴミ。」
祐一「が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。」

香里「そんなにショック受けるなんて・・。まさか本気で、これ売ってたの?」
祐一「いや、ま、その、、、、、」

香里「で?その売り物の傘を、何で消費者金融のATMにかぶせてるわけ?」
祐一「いや、この雪じゃお自動さんもさぞ寒かろうな、と思ってさ・・・。」

香里「・・・なんかかわいそうだから、これ以上訊かないでおいてあげるわ。」


そして天皇誕生日がやってきました。名雪って、天皇だったんですね。

祐一「名雪、済まん。俺は名雪に、何もあげることが出来ない。」
名雪「ほんとになにも?」

祐一「実はお金が全然なくて・・・・。」
名雪「そうなんだ。でも、お金無しでも、私にあげられるものがあるよね。」

祐一「お金無しで・・・・。」
名雪「うん。」

祐一「それでいいのか?」
名雪「・・・・うん、それでかまわないよ。」

祐一「名雪・・・・・。」





「だめですぅ〜〜〜っ!」
香里「あ、栞!そんな台詞シナリオに無いわよっ」
名雪「な・・・・なになに?」

祐一と名雪の目の前には、どこかで見たような、目が線状のお地蔵さんが二人立っていました。

祐一「え・・・栞と、香里、なのか?・・・・なんだその格好。」
「え、そ、その、あの、」
香里「・・・・仕方ないわね、説明するわよ。」
 

香里「・・・というわけ。」
祐一「俺の常套手段をとらんでくれ・・・。全然説明になってない。」

名雪「何でお地蔵さんの格好してるの?」
香里「演出よ、演出。」
「あのですね、お姉ちゃんが言うには、祐一さんを小馬鹿にするには、この格好が丁度いいんだって・・・・。」

祐一「香里・・・。お前あのときかわいそうとか言いながら、実は心の中で俺のことあざ笑っていたんだな。」
香里「あざ笑ってはいないわ。かわいそうと思ったのもほんとよ。」
「そうです、信じてください!お姉ちゃんは祐一さんのこと、ほんとにかわいそうだと思ったんですっ!」

名雪「なにがあったの?もしかして祐一、私のために無理して・・・」
香里「『お自動さん』に古新聞かぶせてたのよ。」

名雪「・・・・・・・・・なんで?」
祐一「訊かないでくれ・・・・。」
香里「かわいそうにもなるわよねえ・・・・。」
「祐一さん、かわいそうです。」

祐一「かわいそうかわいそう言うなあ!」
香里「そうね。じゃあ、この辺でやめておいてあげる。」
「次は、名雪さんのお祝いですねっ」

名雪「お祝い?そうか、二人とも私の誕生日のお祝いに来てくれたんだ。」
香里「そう。貧乏でプレゼントも買ってあげられない相沢君に変わって、プレゼント持ってきてあげたのよ。」
祐一「ふん、どうせ俺なんか、俺なんか・・・。」

香里「ひねない。ほら、これは、あたしと栞と、相沢君の、3人からのプレゼント。」
祐一「香里・・・・。」
名雪「ありがとう。なんか、おっきいね・・・。開けていい?」

香里「だめ。」
名雪「うー。」
「またお姉ちゃん・・・。いいですよ、開けちゃってくださいっ。」

名雪「これって・・・抱き枕?」
「振動機能付きです。」
祐一「またえっちなものを・・・。」

名雪「え、そうなの?!」
香里「目覚ましよ。」
祐一「そんなもので起きる名雪じゃないと思うが・・・。」
「でも、肩こりにも効くんです。」

名雪「ありがとう。嬉しいよ。」

香里「一応相沢君と共同って事で、結構選ぶのに苦労したのよ。」
祐一「なんで・・?」

香里「だって、相沢君の変な趣味取り入れなきゃいけないから・・・・。」
祐一「変な趣味って・・・・。」
名雪「でもこの枕、祐一みたいだね。だって、起こしてくれるし、肩こりもほぐしてくれて・・・。」

「なんですそれ?どういう意味ですか?それ納得できません。今の発言取り消してくださいっ!」
名雪「え〜、取り消せないよ。」

「祐一さんっ」
祐一「は、はい、なんでしょう。」

「私も、毎朝起こして、あと肩も叩いてくださいっ」
祐一「肩はいいけど、朝は・・忙しいからなあ。」
名雪「じゃあ、私が行きがけに栞ちゃん起こしに行くよ。」
香里「栞を遅刻させる気?」
 

こうして、楽しい夜が続きました。これはきっと、アホな事してまで名雪にプレゼントを買おうとした祐一に、神様がくれたご褒美なのでしょう。
 

めでたしめでたし
 
 

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