はなたれこぞう




むかしむかしあるところに、祐一という男がおりました。
祐一は山で薪を伐って街で売って、生計を立てていました。
雑木林はきちんと手入れしないと滅んでしまうのです。

しかし、世の中は不景気でした。エコロジーブームもすっかり下火になっていました。
原油価格が高騰しているとは言え、わざわざ好きこのんで薪を燃料に使う人など、どこにもいませんでした。

そういうわけで、祐一は毎日、売れ残った重たい薪を担いで変えるという、虚しい日々を送っておりました。

そしてある日。とうとう祐一はキレてしまいました。

祐一「やってられっか、バーローめ!沈んで魚礁になりやがれ。」

そう叫んで、背負っていた薪をぼんぼん海に投げ込んでしまいました。
いわゆる不法投棄というやつです。
良い事業者はまねをしてはいけません。

とりあえず鬱憤が晴れた祐一は、家に帰ってニュースステーションを見てさっさと寝てしまいました。
 
 

その夜。

祐一の枕元に、美しい女性が現れました。

竜王「祐一さん、起きてください。」

祐一「(ぐー)」

竜王「・・・・・・。」

耳ふー

祐一「わっ!ど、わ、わ、わ!」

竜王「あらあら、やっと起きてくれたんですね。」

祐一「あんた誰。」

竜王「私は竜王、竜宮城の城主です。」

祐一「竜王。棋士ですか?」

竜王「いいえ、竜宮城の城主です。国連深海委任条約に基づいて、海底を統治管理しているんです。」

祐一「はあ。そんな偉い人が、何でここに?」

竜王「リストラのしすぎで、人手不足になってしまって。」

祐一「そうじゃなくて。何しに来たのここに。」

竜王「あなた、薪を海に投げ込みましたね?」

祐一「(ぎくっ!)」

竜王「おかげで海底は大荒れです。ただでさえ、乱獲の所為でワタリガニの数が減ってるのに・・・」

祐一「ご、ごめんなさい・・・」

竜王「冗談です。」

祐一「はあ。」

竜王「薪はそんな簡単に沈みません。漂っていた薪が刺し網漁船に当たって、エンジンを壊してしまったんですよ。」

祐一「げ。」

竜王「おかげで、不心得な乱獲者が少し減りました。今日はそのお礼に来たんです。」

祐一「そ、そうなんですか・・・」

竜王「さあ、どうぞお受け取りください。」

そう言って差し出されたのは、赤いカチューシャを付けたかわいい女の子。

祐一「・・・・これは?」

竜王「この方は、『はなたれうぐぅ様』と言います。幸せを呼び込む、とてもありがたいお方なんですよ。」

祐一「洟たれてないじゃん。」

竜王「ファンの方たちのイメージをぶち壊しちゃいけませんから。」

祐一「ファンって・・・」

竜王「このはなたれうぐぅ様を、あなたにお預けします。但し、以下の条件をしっかり守ってください。」

祐一「はあ。」

竜王「一日三回、たい焼きをお供えすること。」

祐一「メシは食わさなくていいんだな。」

竜王「ご飯もちゃんとあげてください。」

祐一「ちっ」

竜王「それと。いくらかわいいからと言っても、決して手を出してはいけません。」

祐一「だめなの?!」

竜王「だめです。」

祐一「ちっとも幸せじゃないじゃん!」

竜王「幸せの形は、一つではないんですよ。」

そう言って、秋子さんもとい竜王様は消えてしまいました。

のこされたのは、にこにこと祐一を見上げている女の子。

祐一「・・・ま、いいか。」

手は出さないという約束だったので、その晩はとりあえず寝てしまいました。
 
 

翌朝。

あゆ「おはよう、祐一くんっ!」

祐一「あ、ああ。俺、自己紹介したっけか?」

あゆ「してないよ。」

祐一「じゃあ何で俺の名前解るんだ。もしかして、ストーカー?」

あゆ「違うよ。ボクは、祐一君のことなら何でも知ってるんだよっ」

祐一「やっぱりストーカーじゃねえのか・・・?」

とりあえず同居することになっているのだから、ストーカーも何もない気がしますが。

祐一「ま、いいか。とりあえずメシにしよう。」

あゆ「うんっ!」

ばたんっ

突然勢いよく扉が開きました。
その向こうには、高利貸しの香里さんがいました。

香里「うふふ、相沢君、いるわね?いるわね?」

祐一「か、香里・・・・さま。」

香里「今日はねぇ。借金返してもらえるかな〜、と思って来たんだけどぉ?」

祐一「す、すまん・・・俺の手元には今、800円しかない・・・」

香里「そぉお。じゃあ、また利子増えちゃうわねえ♪」

祐一「うぅ・・・・」

香里「ちなみに今、元本込みで20万7192円だからね。」

あゆ「祐一君、借金してるんだ・・・・」

祐一「ああ・・・。四ヶ月前に、DCKanonと本体とあとAIR買うために5万借金して・・・9万はもう返したんだけど・・・」

あゆ「え?・・・・利率いくら?」

祐一「日利2%で毎日複利だ。」

あゆ「・・・・・・ヘンだよそれって。」

香里「な、何がヘンなのよ。」

あゆ「利息制限法で、年利は20%に押さえられてるはずだよ?」

香里「う・・・・・・・・」

あゆ「祐一君、9万返したのはいつ?」

祐一「えっと、一ヶ月ごとに3万づつ払った。」

あゆ「じゃあ、返済はもう完了してるよっ!」

祐一「そ、そうなのか?!」

あゆ「そうだよね、香里さん?」

香里「そ、・・・それは・・・・・」

あゆ「そうだよね!」

香里「うう・・・祐一を借金漬けにして身動きできなくして、帳消しにする変わりにあたしの手下にする計画だったのに・・・」

あゆ「・・・・・・。」

祐一「お前そんなこと企んでたのか。」

香里「あぁ〜っ、世界征服の夢が〜!」

香里はとぼとぼと帰っていきました。

祐一「ほんとに、助かったよあゆ。幸せが来るって、本当だったんだな。」

あゆ「・・・祐一君。おかしいと思わなかったの?」

祐一「え?」

あゆ「日利2%で毎日複利って、実質年利1300%越えるんだよっ!5万の借金が6000万以上になるんだよっ!」

祐一「なに、そうだったのか。」
 

何はともあれ、とりあえず祐一の生活はしあわせになったようです。

その後もはなたれうぐぅ様の活躍で、次第に祐一の生活は楽になっていきました。

あゆ「祐一くんっ!また仕事取ってきたよっ」

祐一「ちくしょー、なんか俺仕事してばっかしている気がするぞ。あんまり楽になった気しないぞ!」

まあ、ものはとらえようですが。

しかし、楽だろうが忙しかろうが、竜王との約束は守らなければなりません。

あゆ「祐一君。たい焼き、たい焼きっ!」

祐一「わかったわかった、買ってきてやるよ。」

祐一は一日三回、たい焼きを買いに街まででなければなりませんでした。
腰の痛いおじいさんと違って、祐一は若くて健康な男の子なので、これはあまり問題はありませんでした。

しかし、若くて健康な男の子ゆえの問題はありました。

祐一「あ、あゆ・・・・・・」

あゆ「だ、だめだよ祐一君。約束したでしょっ!」

祐一「うおおおおおお!」

叫ぼうが泣こうが、竜王との約束は守らなければいけません。
 

こうして、あっという間に1年が過ぎました。

ある日祐一のところに、旅商人の北川がやってきました。

北川「お客さん、アエンってご存じかね?」

祐一「アエン?あのケシから取れるやつか?」

北川「それはアヘン。俺が言ってるのは亜鉛だ。原子番号30だ。」

祐一「それがなんだと言うんだい?」

北川「ちょっと試してみる気はないかい?今なら10カプセル無料お試しキャンペーン期間中だぜ。」

祐一「へえ・・・飲むとどうなるの?」

北川「ま、いろいろいいことがあるんだ。大丈夫、貝類にも含まれてる微量元素で、毒じゃないから。」

北川の言葉を信じて、祐一は亜鉛を試してみることにしました。
 

その夜。

祐一「う・・・何だ、なんだか凄く変な気分・・・」

亜鉛には新陳代謝を促しホルモンの分泌を助ける作用があります。
それが一番よく現れるのが・・・・

あゆ「・・・祐一君、何してるの?!」

祐一「い、いや、ちょっと着替えようとしてただけだ。」

あゆ「・・・ふーん。」

祐一「ふぅ、危なかったぜ。・・・何で俺、裸になろうとしてたのかな。いや、今日は俺やっぱヘンだ。こういう日は、さっさと寝ることにしよう。」

祐一はさっさと布団をかぶって寝てしまいました。
 

しかし

妙な気分は抜けることなく、祐一は眠れぬまま、布団の中で悶々としておりました。

ふと横を見ると、あゆがかわいい寝息を立てて寝ております。

祐一「・・・・・・。」

祐一の中で、何かがはずれてしまいました。

祐一はそっと布団を抜け出すと、あゆの寝ている側に座りました。
月明かりが、あゆの小さな体を照らし出しています。
祐一はあゆの肩にそっと手を伸ばし、そしてすぅっとずらします。
ふにょっ
柔らかいものが、祐一の手に当たります。
祐一は少し考えた後、決心してそれをさすり始めました。
最初は撫でるように、そして次第に指を使って揉みしだきながら。

祐一「や、やわらかい・・・・・」

祐一が感涙に浸っていると、そのうちあゆが目を覚ましてしまいました。

あゆ「ふぁ、ふぁひひへふのうういひふん!」

祐一「あ、あゆ!起きたのか?!」

祐一は慌てて飛び退きます。

あゆ「何してたんだよっ!」

祐一「い、いや、ちょっとほっぺたふにふにを・・・」

あゆ「酷いよ祐一君・・・人が寝てる間にそんな事するなんて・・・」

祐一「わ、悪い、ほんの出来心なんだ・・・」

あゆ「手は出さないって約束だったのに・・・」

祐一「い、いやしかし、健康な若い男の子なら、かわいい女の子を見ればほっぺたふにふにしたくなるもの・・・」

あゆ「したくならないよっ!」

あゆは立ち上がると、そのまま戸口まで行ってしまいました。

あゆ「・・・ボクのこと、忘れてください・・・」

そう言ってあゆは消えてしまいました。
 

後に残された祐一は、しばらく呆然としていました。

が、すぐに開き直って立ち直りました。

祐一「・・・ま、いいか。以前の生活に戻るだけだよな。借金もないし」

香里「うふふ、祐一君☆」

祐一「な、なんだ香里、こんな夜中に!」

香里「今日はねえ。借金返してもらいに来たの。」

祐一「しゃ、借金ならとっくに返済済みだろ!」

香里「それはDCKanon買った5万でしょ。今日のは、それとは別の借金。」

祐一「ほ、他に借金なんかあったか?」

香里「薪ばらまいて刺し網漁船壊したでしょ。その賠償金。」

祐一「げ。」

香里「慰謝料込みで3億8千万円。マフィア絡んでたから、交渉に苦労したのよ?」

祐一「さ、3億・・・」

香里「特別に無利子にしておいてあげるけど、払えるぅ?」

祐一「う・・・・う・・・・・」

香里「本当は現金で返して貰いたいところだけどぉ。と・く・べ・つ・に、体で返して貰ってもいいわよぉ?」

祐一「う、うわああぁぁ〜〜ん!」

香里「おほほのほ〜♪」
 

こうして香里は、まんまと祐一を手下にしてしまいました。
 

その後香里は、祐一の働きとは全く関係なく世界中の企業・政府・諸組織を次々と手中に収め、八年がかりで世界の征服を成し遂げてしまいました。
こうして、700有余年に及ぶ美坂世界帝国の歴史の幕が上がるのでした。

この王朝で繰り広げられためくるめく愛のお話については、またいづれ機会があったらということで・・・・
 
 
 

おしまい
 
 
 

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