Kanonむかしばなし

ごんぎつね


 むかしむかしあるところに、マコピーという大層いたずら好きの狐がいました。
真琴「あう〜♪」
いたずら好きのマコピーでしたが、そのターゲットは専ら、祐一というまじめでも働き者でもない男に絞られていました。
祐一「ああっ、なんか寝覚めが悪いと思ったら、ズボンの中に納豆が!」
気づかない方も気づかない方です。

ある日マコピーが祐一の家に侵入すると、テーブルの上に、できあがり一分前の□清ど○兵衛が置かれていました。ど○兵衛には、じゅわっとおいしい大きなお揚げが入っています。お揚げは狐の大好物です。マコピーは一分待って、あっという間に食べてしまいました。
真琴「おいしかったの♪」

次の日。朝。
マコピーがまた悪さをしようと祐一の後を付けていると、後ろからあゆあゆが息せき切って走ってきました。
あゆ「秋子さんがっ、秋子さんがっ・・・!」
どうやら、秋子さんが風邪で寝込んでいるようです。
それを知ったマコピーは、考え込みました。
真琴「(あのど○兵衛は、きっと祐一が秋子さんのために作っていたものなのね。秋子さんは、『ど○兵衛が食べたい、ど○兵衛が食べたい』と言いながら、ごほごほ言って寝込んでいるのよ・・・。ああ、あたしったら、何ていけない事してしまったのかしら。)」
マコピーは反省しました。そして、罪滅ぼしに何かいいことをしようと考えました。

真琴「(とりあえず、秋子さんの風邪を治さなきゃね。)」
そう考えたマコピーは、病院から薬をかっぱらってきて、家の中に放り込みました。
真琴「なんか厳重に保管してあった薬だから、きっとよく効くのよ。ああ、良い事した♪」

次の日。水瀬家の家の前には、パトカーが止まっていました。
警官「あなたには窃盗並びに麻薬等取締法違反の容疑がかかっています。ご同行願えますか?」
そう言って警官は、秋子さんを連れ去ってしまいました。
名雪「お母さん・・・。」
祐一「大丈夫だ、秋子さんは悪いことする人じゃない。それにしても、何でうちにモルヒネが・・。」
どうやらマコピーが放り込んだのは、モルヒネつまりヤクだったようです。
真琴「あうぅ〜、なんか、いけない事しちゃったみたい・・・。」

さらに次の日。秋子さんはうちに帰ってきました。
名雪「良かったね、疑いが晴れて。」
秋子「晴れたわけじゃないみたいですけど。」
祐一「済まない佐祐理さん、あなたが一番嫌っている権力濫用をさせてしまうなんて・・・。」
佐祐理「気にしないで下さい、佐祐理は、お友達のためなら何でもしますよ。」
真琴「良かった、戻ってこれたんだ。よし、今度こそほんとに、罪滅ぼしするわよ。」

その日からマコピーは、毎日山に行っては山菜を摘み、海岸に行ってはアサリを掘って、それを水瀬家に届けました。ほんとは、入山権とか漁業権とかいうのがあって、そういう事はしちゃいけないのですが、マコピーは狐なのでそんなものお構いなしでした。おかげで、水瀬家は食材には事欠かないようになりました。元々事欠いていなかったような気もしますが。
名雪「お母さん、いくらアサリが余ったからって、ジャムにすることは・・・」
秋子「気にしないで下さい。」
祐一「気にしますよ。」
秋子「祐一さん・・・・・。」
祐一「・・・・すみません。」
いろいろ複雑な人間関係があるようです。
そんなこととは知らず、マコピーはせっせと山菜やアサリを届ける毎日を送っていました。
そんなマコピーを、影から見ている女の子がいました。

祐一「香里の『か』はカマスの『か』〜♪」
美汐「・・・ちょっと、いいですか。」
祐一「はうっっ、ごめん!ゆるしてえ!・・・って、香里じゃないのか。」
美汐「あなた、マコピーと知り合いですね。」
祐一「知り合いっつうか・・・被害者だな。」
美汐「・・・そうですか・・・。」
祐一「それが何か?」
美汐「・・・真実を、知ってください。私のような人間を、もう作らないためにも。」
祐一「・・・・・・????」
そう言って美汐ちゃんは、立ち去っていきました。

そしてある日のこと。
いつものようにマコピーは、取れ立ての山菜を持って水瀬家に行きました。
真琴「タラノメって、天ぷらにするとおいしいのよ。・・あうぅ、あたしが食べたい・・・。」
祐一「ん?あ、マコピー!きさまっ!!」
運悪く、祐一に発見されてしまいました。
真琴「あうぅ、違うのっ、今日はいたずらしに来たんじゃないの!」
祐一「問答無用、今日こそ積年の恨み、晴らさせてもらう!」
そう言って祐一は、物置から木刀を取り出してきました。
真琴「そ、そんな物騒なもので女の子殴るなんて、卑劣よっ」
祐一「ふっふっふ、そう思っただろう。だが、違うんだな。」
そう言って祐一は、手元のスイッチを入れました。木刀に見えたのは、実は水鉄砲だったのです。
ばしゅぁっっ
真琴「あうぅぅ〜〜〜、ずぶぬれ〜・・・。くちゅん!」
祐一「はっはっは思い知ったか。だがこんなものでは済まないぞ、俺の受けた仕打ちは・・・て、なんだその下に散らばっているのは?」
祐一の水鉄砲を喰らって、マコピーは持ってきたタラノメを、全部落っことしてしまったのです。
真琴「あうぅ〜、なんてことすんのっ!せっかく採ってきたのにぃ〜・・・くちゅん」
祐一「・・・もしかして、お前だったのか?毎日毎日、山菜やアサリを持ってきたのは・・・。」
真琴「あうぅ〜〜、、、、くちゅん。」

秋子「そう、この子が持ってきてくれていたのね。」
祐一「俺てっきり、秋子さんが自然食品の通販で買ってるもんだと思ってた。」
名雪「わたしなにも考えてなかった。」
真琴「・・・くちゅん」
秋子「熱があるみたいですね。しばらく、寝かせて起きましょう。」

祐一「美坂の『さ』はサンマの『さ』〜♪」
美汐「・・・あの子、熱を出しましたね。」
祐一「はうぅぅっっ!・・って、またあんたか。何の話だ?」
美汐「マコピーのことです。あの子はもう、そんなに長くは持たないでしょう。」
祐一「長く持たないって。どういうことだ?」
美汐「・・・大切にしてください、残された時を。」

秋子「熱が下がらないんですよ。」
祐一「そんな重症だったのか。」
秋子「病院に連れて行こうと思うんです。」
祐一「そうですね。もっと早くそうすべきでした。」
真琴「病院・・・ダメ・・・くちゅん。」
祐一「注射が嫌いとか言ってる場合じゃないぞ。重症なんだぞお前。」
真琴「看護婦さんに顔見られてる・・・。あたしあそこから、モルヒネ盗んだの・・・くちゅん」
祐一「・・・・・・・・。」
秋子「困りましたね。」
真琴「丘、ものみの丘。あそこ連れてって。」
祐一「お前、そんな状態で・・・。」
真琴「・・・祐一が連れて行かないなら、自分で行く。」

真琴「・・・・・・。」
秋子「何も言わなくなってしまいましたね。」
名雪「ねえ、まさか・・・・。」
美汐「死期が近づいています、残念ながら。」
祐一「おまえ・・・・」
美汐「責めるようで悪いですが、あなた達がもっと早く、マコピーのことを知っていれば・・・・。」
祐一「・・・・・。」
美汐「わたしも7年前、同じ経験をしたんです。疑うことしかせず、迎えた悲しい結末を。だからあなた達には、マコピーの真実の姿を知って欲しかったんですが・・・。」
祐一「そうだったのか・・・・。」
名雪「・・・あ、まこぴーが・・・。」
秋子「・・このまま、消えてしまうんですか?」
祐一「・・・・マコピー、済まん、許してくれ・・・・・・・」

祐一の泣き叫ぶ声がこだまする中、マコピーは、静かに静かに消え去っていった。
 

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