21:そして三人の友情
〜最終話〜

 

 

医師「名雪さんのほうは、明日にも退院できます。今でも出来ないことはないのですが、大事をとってと言うことで。・・・で、問題は佐祐理さんの方なんですが・・・・」

「・・・・・・。」


警察の聴取はすぐに終わった。
実際に闘った舞ではなく俺の方が同行したことに取調官は不満のようだったが、こちらが悪いわけではないので、うるさいことは言わなかった。
どうしても必要なら、改めて呼ぶのだろう。

以前も歩いた警察署の廊下を抜けて、外にでる。
残暑。夕暮れ時のいやな暑さが俺を襲う。
車で移動したかった。

祐一「パトカー奪ったら怒られるだろうな。」

怒られるどころの騒ぎではない。
ただでさえ良くない今の状況に、この上ろくでもない理由で騒ぎを追加するのは得策ではない。
パトカーはあきらめて、歩いて病院に向かった。


祐一「せめてバスに乗るべきだった・・・」

俺の顔は、汗だくだった。
そんな俺の顔を見て、名雪はちょっと感動ものだねと笑った。

祐一「どこか感動ものなんだ。」

名雪「だって祐一、わたしのために汗だくになって駆けつけてきたんでしょ?」

祐一「違う。」

名雪「うー、ひどい。」

まるで何事もなかったかのように、名雪はいつもどおりだった。
もちろん、内心のことなど知る由もないが。

祐一「秋子さん。」

俺は隣で座って微笑んでいる秋子さんに声をかけた。

祐一「ちょっと、佐祐理さんの方行って来ます。」

秋子「・・・面会謝絶だそうですよ?」

祐一「ええ、聞きました。・・・でも、一応行って来ます。」


看護婦は病室を教えてくれなかった。当然だ。面会謝絶なんだから、教える必要など無い。
しかし、探し当てるのはそう難しくなかった。舞がそこにいたからだ。

祐一「佐祐理さんは?」

舞は首を振った。

わからないとも取れるし、駄目なんだという意味にも取れる。
両方かもしれない。多分そうだろう。

祐一「ずっとここにいたのか?」

こくり。

それは多少愚問に思えた。

舞は椅子に座っていた。
病室の前で立ち続ける舞。見かねた看護婦が、椅子を持ってきた。
そんな光景が容易に想像できる。

祐一「俺も椅子が欲しいな。」

「・・・もらってくれば」

祐一「そうする。」

椅子はもらえなかった。

もう余分がなかったのか。
それとも、俺が舞に比べて思いや深刻さが少ないと思われたのだろうか。
だとしたら心外だ。俺だって、佐祐理さんのことは心配だ。
俺は半ば意地になって、五時間でも十時間でも立ち続けてやると決めた。
 
 
 
 
 
 

倉田夫妻が来たのは、1時間後だった。
ほんの数時間前まで、倉田家で合わせていた顔。
こんな事になるとは、誰も思っていなかったろう。

倉田夫妻は俺達に軽く会釈した後、病室に入っていった。

少し安心した。
家族ですら面会謝絶という状況ではないことが解ったからだ。
 

十数分。
たぶんそれくらいの時間だろう。もっと短かったかもしれない。
倉田夫妻は病室から出てきた。
やはり、好ましくはない状況なのか。

倉田父は、特に憔悴しきった目をしている。
代わるかのように、倉田母が話しかけてきた。

倉田母「川澄さん、相沢さん。佐祐理を心配してくれるのはありがたいけど、面会できるわけでもないし・・・今日はもう・・・」

舞が首を振る。
俺も答えた。

祐一「いえ。俺は、いとこも入院してますし・・・」

倉田母「でも・・・」

祐一「居させてください。」

倉田母「・・・わかりました。」

倉田母は折れた。

倉田母「私たち、水瀬さんのお母様にご挨拶に行って来ますから。」

そう言って、倉田夫妻は立ち去った。
 
 

さらに三十分ほど。

倉田夫妻は戻ってきた。

倉田父「相沢君。ちょっと、いいかな?」

倉田父は少し回復したようだった。

祐一「ええ。・・・・舞は」

倉田父「川澄さんは・・・多分そこを動きたがらないんじゃないか?」

祐一「そうですね。」

ちょっと行って来るからな、そう舞に声をかけ、俺は倉田夫妻についていった。


院内の喫茶店で、俺は倉田夫妻と向かい合っていた。

倉田父「・・・入院しているいとこというのは、水瀬さんのことだったんだね。」

祐一「ええ。」

倉田父「・・・本当に、申し訳ないことをした。」

祐一「な、なに言ってるんですか。俺の方こそ、佐祐理さん預かってる身で・・・」

倉田母「あなたに責任はありませんよ。」

祐一「で、でも・・・」

倉田父「謝らないでくれ。謝れば、君が悪いと思いたくなる。」

祐一「・・・・・・。」

沈黙。

沈黙を息苦しく感じた俺は、それを破るかのように返答した。

祐一「俺が謝っちゃいけないなら、あなた達も謝るべきではないと思います。」

倉田父「・・・主犯格の安井という男は、わたしの元秘書なんだよ。」

祐一「・・・・え?」

安井。安井。
あの、佐祐理さんの携帯に入っていた安井か?

倉田父「先日の選挙に出た、あの安井だよ。辞めたのは、それが理由だと思っていたのだが・・・」

祐一「違うんですか?」

倉田父「警察の話では、何かわたしに恨み言のようなことを言っているらしい。」

倉田母「それに。佐祐理に言ったらしいんです、『倉田は人殺しだ』って。」

祐一「殺したんですか?」

倉田母「いいえ。」

倉田父「だが、安井が佐祐理を手にかけた理由は、そうらしい。」

佐祐理さんは、倉田父に言ったらしい。

佐祐理「お父様、お父様は人を殺したんですか?」

倉田父「な、何をばかなことを・・・」

佐祐理「安井さんが、そう言っていました。」

倉田父「安井が・・・」

佐祐理「・・・佐祐理は人殺しの娘。だから、佐祐理も人を殺しちゃうんですか?」

倉田母「佐祐理。」

倉田父「それは違う。お前もわたしも、人を殺してなどいない。」

佐祐理「・・・・・。」

倉田母「佐祐理、一弥のことなら、あなたが引け目を感じる必要はないのよ。」

佐祐理「・・・・・。」

倉田父「安井のことも、あれは不幸な事故だ。佐祐理が気にするようなことではない。」

佐祐理「やっぱり何かあったんですね。」

倉田父「・・・・・。」

佐祐理「・・・・人殺し親子。」

祐一「・・・・・。」

俺は思い起こしていた。
佐祐理さんを攻撃していた連中。
そいつらがぶちまけた、佐祐理さんの過去。
あのとき佐祐理さんは、一度立ち直ったのに。 奴らが支援していた男。そいつが佐祐理さんを襲った。
何故だ。
何故、佐祐理さんばかりが、こんな目に遭うんだ。
彼女が、何をしたと言うんだ。
美人で明るくて素直な彼女が、何故笑顔を奪われなければいけないのか。

俺は、目の前の二人を見た。

この二人も、きっと俺と同じ思いを抱いているのだろう。


その日は、待合室のソファで寝た。
舞には、聞いたことを全て話した。

舞は黙っていた。

非常灯が浮かび上がる夜の病院。
意味もなく寂しさと恐怖心を呼び起こした。
目の前には誰もいない、孤独感。
俺も、舞も、そして佐祐理さんも、こんな孤独感に支配されているのだろうか。


薄明かりとこだまする足音で、俺は目が覚めた。

まだ病院の中だった。
そんな当たり前のことを考えていた。夢遊病でもないのに、寝ながら移動するはずもない。

疲れが、取れていない。

うつらうつらとしているうちに、時間は過ぎていった。

起きあがった頃には、八時過ぎだった。

祐一「よお舞、おはよう。」

舞はまだ、病室の前にいた。
これもまた、当たり前のことに思えた。

「・・・。」

祐一「ちゃんと寝たか?」

「・・・少し。」

祐一「そうか。」

「・・・おなか空いた。」

祐一「何か食いに行くか?」

「・・・・・・。」

祐一「わかった、何か買ってきてやるよ。」
 

病院の売店は、十時からだった。

近くにコンビニがあったはずだ、そう思い、病院を出た。


「・・・・・・。」

おなかが、空いた。

でも、本当は眠気の方が強い。

祐一が戻ってくるまで、寝ていようか。

駄目。ここはわたしの持ち場。
祐一が戻ってくるまで、わたしが佐祐理を守る。
だから寝ては駄目。

「・・・・・・。」

眠い。
 
 

気がつくと、人が立っていた。

しまった。

「・・・誰?」

香里「ごめん、起こしちゃった?」

「・・・香里。」

香里「・・・・本当に、面会謝絶なのね。」

「・・・佐祐理のお見舞いに来たの?」

香里「そうね。そうなるのかしら。」

その言葉を否定するかのように、虚無的な笑いを見せる香里。

香里「本当はね、名雪のお見舞いに来たの。」

「・・・今日退院する。」

香里「そうらしいわね。」

香里は、「面会謝絶」の貼り紙をじっと見つめている。

香里「こんなことになるなんてね。」

「・・・・・・。」

香里「佐祐理さん襲ったの、安井なんですって?」

こくり。

香里「・・・迂闊だったわ。元々怨恨で動いてる人間だから、こう出ることは予想がついたのに・・・」

「・・・香里は、何か知ってるの?」

香里「ええ。そうね・・・」

香里は暫し考え込んでいるようだった。

香里「佐祐理さんが戻ったら・・・あなたの口から伝えてもらえるかしら。」

「・・・自分で言わないの?」

香里「あたしは・・・あたしに、その資格はないもの・・・」

暫く黙った後、香里は語り始めた。


コンビニから戻る途中で、香里に出会った。
つい、目を反らしてしまう。

気まずい雰囲気のまますれ違った。
 
 

舞は眠っていた。

祐一「・・・なんだ、寝てるのか。」

俺は袋を床に置き、う〜んと伸びをして、壁にもたれかかった。
一人で食べる気には、なれなかった。

暫く、そのままでいた。


佐祐理は、一人で居た。

一人がいいの。
ここは独房。
罪深き私の独房。
罪深き家族の牢獄。
贖罪の場。

贖罪など、出来るのだろうか。

私は罪人。お父様も罪人。
おじいさまも、曾おばあさまも罪人かもしれない。
だったら、私は罪人の家系。
罪深き血が流れるもの。
原罪。
そんなものを、贖うことが出来るのだろうか。

「また変なこと考えてる。」

佐祐理    ?」

「贖罪なんて必要ない   そう言わなかったっけ?」

佐祐理「・・・一弥。」

一弥「うん、一弥だよ。」

佐祐理「よかった・・・また、会えたんだね。」

一弥「良くないよ。」

佐祐理「え?」

一弥「俺、デートの途中だったんだぜ。それなのに呼びつけるような真似して。」

佐祐理「そ、そうなんだ・・・」

一弥「ま、冗談だけど。」

佐祐理「一弥・・・また雰囲気変わったんじゃない?」

一弥「当たり前だよ。人は変わるものなんだから。変わらないのは、佐祐理・・・・お姉さんだけ。」
佐祐理「・・・・・・。」

一弥「辛いことがあったのは解るよ。でもそれで自分を責めるのって、間違ってる。」

佐祐理「でも・・・・」

一弥「誰かの所為にしたくないなんて考え、崇高に見えるけど。でも、それって贋品だよ。いや、幻影かもね。」

佐祐理「そういうわけじゃない、ただ、お姉さんは・・・」

一弥「そんなに自分が悪いと思いたいなら、いいけど。いっそ、死ねば?」

佐祐理「一弥・・・」

一弥「死んでも僕のところには来れないけどね。」

佐祐理「天国に、逝けないから・・・?」

一弥「ううん。天国も地獄も、存在しない。いや正確には、既にこの世の中にあるんだ。人の住む、この広大な世界にね。」

佐祐理「・・・・・・。」

一弥「だけど僕の存在は、過去の幻影だよ。本来あっちゃいけないもの。それが見えてしまうという事自体・・・決していい事じゃないな。」

佐祐理「じゃあ、私は・・・お姉さんは、どうすればいいの?」

一弥「お姉さん。前に会ったときに、約束したよね。」

佐祐理「約束?」

一弥「忘れてる。ほら、『真実を見つけて』、そう言ったはずだよ。」

佐祐理「真実・・・。」

一弥「忘れちゃってるくらいだから、見つけてないよね。まあ、そんな簡単に見つかるものでもないけど。」

佐祐理「一弥は・・・それを知っているの?」

一弥「知らないし、僕が見つけても意味がないよ。」

佐祐理「自分で見つけろって言うの。」

一弥「でも、幾つか事実を教えることは出来るよ。」

佐祐理「事実?」

一弥「そう、大事な事実だよ。前に言うべきだったね。もっと早く知ることになると思ってたから。」

佐祐理「何なの?」

一弥「まず、僕を殺したのは、お姉さんじゃない」


気がつくと、眠っていた。
いや、起きたことに気づいたのだから、この言い方は正しくない。

舞は、まだ寝ていた。

いや、一度起きたのか?
コンビニの袋の位置が、移動している。
食べていいものかどうか迷ったあげく、また寝てしまったのか。
悪い事したな、俺が起きていれば。

祐一「おい、舞。俺は起きたぞ、遠慮なく朝飯にしよう。」

・・・・起きない。

そんなに疲れているのだろうか。
まあ、当然と言えば当然だが。

しばらく時間をおいて、もう一回起こしてみよう。

そう思っていると、看護婦が巡回に来た。

祐一「あの・・・」

看護婦「何でしょう?」

祐一「無理とは思いますけど、・・・まだ佐祐理さんには、会えないんですか?」

看護婦「そうねえ・・・」

看護婦は少し考えて、言った。

看護婦「先生に訊いてみないと、わからないわね。」

あまり期待は持てそうにない返答だった。
最も、予想どおりの答えでもあった。

数分後、看護婦は出てきた。

看護婦「あまり期待を持たせちゃいけないけど。でも、あなた達の願いが通じたのかしら。」

それだけ言って去っていった。

看護婦のその言葉と表情から、俺は事態の好転を悟った。

祐一「おい、舞・・・・」

舞を起こそうとして、既に彼女が目覚めていることを知る。

「・・・あさごはん。」

祐一「・・・ああ、食うか。」


予感は、当たった。
佐祐理さんは、快方に向かっていた。

すぐに退院できるわけではない。二度目だし、受けたショックも相当なものだった。
しばらくは、入院とのことだった。

そして、俺達は病院から追い出された。

看護婦「明日死ぬのならともかく、快方に向かっているんだから、あなた達が毎晩付き添う必要はありませんっ!」

祐一「仕方ないよ、舞。毎日お見舞いに来ようよ、な。」

「・・・(こくり)」


そして俺達は、毎日面会に行った。

「・・・ちょっぷ。」

祐一「舞、お見舞いってそういう意味じゃ・・・」

佐祐理「あははーっ」

俺が一人で来ることもあった。

祐一「じゃ、佐祐理さん。看護婦さんうるさいから、今日は帰るな。」

佐祐理「・・・祐一。」

祐一「ん?」

佐祐理「・・・私を、一人にしないで・・・」

祐一「佐祐理さん・・・・」

佐祐理「ずっと、二人でいたい・・・」

祐一「う・・・だ、だけど・・・・」

佐祐理「あははーっ、冗談ですよーっ。」

祐一「・・・・・。」

佐祐理「あ、怒っちゃった?」

祐一「当たり前だ!もう、!こういう、冗談は、やめて!」

舞が一人で来ることもあった。

佐祐理「ねえ、舞。」

「・・・何。」

佐祐理「私が舞から祐一取っちゃったら、怒るよね・・・?」

「・・・・・・。」

ぼかっ

佐祐理「あはは、冗談、冗談だよーっ。」

ぼかぼかぼかぼかぼかぼかぼかぼかぼか

佐祐理「い、痛い、ごめん、謝るから、もう、!」

なんとなく無理をしている感じでもあった。空元気で笑顔を振りまいてしまう、佐祐理さんの特技というか、癖。
でも、空元気も出せないでいるよりは良かった。

佐祐理「ねえ。そろそろ学校始まっちゃうよね。」

祐一「ああ。でも、それまでには間に合うんじゃないか?」

佐祐理「みんな、佐祐理の事何て言うんでしょうね。」

祐一「さあな。特に何も言わないんじゃないか、知ってても知らなくても。」

佐祐理「お友達でも、ですか?」

祐一「友達なら、なんか言うかもな。」

佐祐理「また以前みたいに戻れますか?」

祐一「・・・佐祐理さん?」

「・・・佐祐理。香里のことなら、心配ない。」

佐祐理「え?」

「・・・香里はみんなわかってる。だから、大丈夫。」

佐祐理「そう・・・・・。」

祐一「・・・・・。」

 

舞の口からは、この数ヶ月の香里の行動が語られていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

休みが、明ける。

有意義な休みだったかどうか、そんなことは考えないことにする。

俺と舞が、佐祐理さんを護衛するように歩いていた。
もうそんなことをする必要もないのだが、いつの間にかそんな隊列になっていた。

「・・・お姫様と騎士と奴隷。」

祐一「お前な・・・」

佐祐理「あははーっ。」

教室には、香里がいた。

俺は、何となく顔を合わせづらかった。
香里もまた、一人で闘ってきたのに。それに対して俺のとった態度が、恥ずかしかった。

ふと、佐祐理さんが香里の側に歩み寄る。

佐祐理「香里さん。」

香里「なあに?」

佐祐理「佐祐理を、私を殴ってください。」

香里「・・・・・・は?!」

佐祐理「私は香里さんのこと疑っていました。ですから、殴ってください。」

香里「なにそれ。で、あたしが殴ったあと、今度はあたしが『あたしを殴って』って言うのかしら?」

佐祐理「え、そ、それは・・・」

香里「意味のあることとは思えないわ。」

佐祐理「・・・・・。」

香里「・・・でも。今のあたし達にはそれぐらいの儀式は必要なのかもね。」

そう言って香里は、右手を振り上げた。

教室中の全員が息をのむ。

ぱし

佐祐理「・・・・・。」

香里「佐祐理さんの綺麗な顔叩く気にはなれないから。あ、リボン曲がっちゃったわね。」

そう言って香里は、佐祐理さんの頭に乗せていた手で、そのままリボンを直した。

佐祐理「あははーっ、そうですか、じゃあ私も」

ぐいっ

佐祐理さんは、香里の髪を引っ張った。

香里「ちょっと、これって叩いたことにならないでしょ。」

佐祐理「あははーっ、いいじゃないですかーっ。」

俺はそんな二人の様子を、多少唖然としてみていた。

「・・・祐一も、行って来れば?」

祐一「え?」

「・・・行った方が良い。」

祐一「・・・ああ。」

収拾をつける、そんな理由を付けて、俺は二人の中に入っていった。


とりあえず、闘いは終わった。

勝った、のだろうか。
何かを得たという気分はない。守ったというのも、どことなく嘘っぽい気がする。
でも、負けた気はしない。だから勝ったのだろう。

祐一「おー、久しぶりだなー」

西谷「あ、相沢さん。」

佐祐理「あははーっ、ほんとに久しぶりですねーっ。」

「・・・ここ、空いてる。」

西谷「ちょっと、ここで茣蓙敷くのは禁止ですよ!」

祐一「誰が決めたんだそんなこと」

西谷「私が決めました。」

佐祐理「ふぇ・・・」

西谷「ご飯食べるんだったら、ちゃんと椅子に座ってください。それと、ゴミは持ち帰ってくださいね。」

祐一「厳しくなっちゃったなあ・・・・」

香里「いいじゃない。座りましょ。」

以前とは変わらない日常、そんな気すらする。
でも、以前とは確実に違う。
それが、あの闘いを経た結果なのか、それとも単なる時の経過による変化なのか。
それはわからない。
一つだけ言えること、それは、あの日々は辛かった。
そして、今がある。少なくとも、辛くはない今が。 目の前にいる同志たち、そう、彼女らは、もはや同志だ。それが今もこうして共にいる。当たり前のように思えるけども、でも、それはとても難しいこと。そう、知ることが出来たのだ。

だから、負けた気はしないのだろう。

もう一言。もう一言付け加えてみれば、勝った気になるだろうか。
だから俺は、その言葉を口にしてみる。

祐一「ありがとう。」

「・・・何が。」

祐一「いや、このサンマの照り焼き、譲ってくれるんだろ。」

「・・・駄目。」

祐一「3匹も食ったんだから、もういいだろ。ええい、食っちまえ。」

「・・・・・・。」

祐一「ふぎぎはぎごずごぐがぁ(口に箸を突っ込むなぁ!)」

香里「何やってるのよ」

佐祐理「あははーっ」
 
 
 
 
 
 
 
 

CampusKanon学園闘争編 完