7
6月。水無月。水瀬名雪。
名雪「なにそれ。わけわかんないよ。」
祐一「そんなはずはない。6月と言ったら名雪、常識じゃないか。」
名雪「そんな常識、知らないよ。わたし12月生だし。」
祐一「なにっ、そうだったのか!」
名雪「でも、誕生日プレゼントは、くれてもいいよ。」
祐一「やらん。」
名雪「うー。」
6月。梅雨。雨の季節。
祐一「舞、君には雨の情景が、よく似合う。」
舞「・・・・・・・・・。」
佐祐理「ふぇ?どうしたんですか?」
祐一「いや、なんでもない。」
6月。祝日のない月。休みが少ない。
香里「大学なんて、365日祝日みたいなもんだと思うけど?」
祐一「そうでした・・・・。」
北川「どうしたんだ相沢。いつものお前も変だが、今日のお前も変だぞ。」
祐一「それは、いつもの俺と変わらない、と解釈してかまわないのだな。」
北川「いや、そういうことではないんだが・・・。」
祐一「じゃあどういう意味だ。」
北川「いつもの相沢祐一とは違った異常な行動をとっているということだ。」
祐一「そんなに異常か・・?」
新濃「異常だね。だが安心したまえ。時代は常に、異常なものを触媒として飛躍と再生を遂げるものなのだ。」
北川「誰、この人・・・。」
祐一「また訳の分からんことを・・・。だいたい、何でこんなとこに。」
新濃「私が食堂に来てはいけないのか?」
祐一「だめだね。あんたみたいな変態は、食堂みたいな大勢の人が集まる場所に来てはいけない。」
北川「この人、誰?」
新濃「なにを!私のどこが変態だというのだ。」
祐一「存在そのものが、だ。」
北川「なあ、この人・・・。」
新濃「・・・部長に対してずいぶん失礼なことを言うじゃないか。」
祐一「お前を部長と認めた覚えはない。」
北川「部長?」
新濃「何だと。じゃあ、誰が部長だと言うんだ。」
祐一「さあな。うん、香里かな。」
北川「え、香里も知ってる人?」
新濃「なるほど。・・うん、それはなかなか良い考えだ。」
祐一「なに・・・?」
北川「あの、俺の質問にも答えて・・・。」
新濃「よし決めた。本日より、郷土研究部の部長は、美坂香里だ。」
祐一「なに?!」
北川「郷土研究部?なにそれ?」
新濃「いやなに、前々から優秀な人材とは思っていたんだよ。君と違ってね。」
祐一「よけいなお世話だ。しかし、一年生にいきなり、しかもこの時期に部長交代か?」
北川「ねえ、君たち・・・。」
新濃「大丈夫さ、彼女なら務まる。私が全面的にバックアップするしな。」
祐一「だからよけい不安なんだよ。」
北川「無視しないで・・・・。」
新濃「何を言うか。君はこの私の能力を知らないのだな。」
祐一「しらねーよ。知りたくもない。」
北川「あ・・・香里ぃ!」
新濃「おお香里さん。喜べ、我々にとってめでたい話だ。」
香里「なぁに?」
新濃「今日から、郷土研究部の部長は、君だ。」
名雪「わあすごい、香里、部長だって。」
香里「そう。」
祐一「・・・何だ、ずいぶんあっさりした反応だな。」
香里「もっと劇的に感動して欲しかったかしら?」
新濃「そりゃそうだ。何しろ、誉れ高き郷土研究部部長という名誉職に就いたんだからな。」
祐一「なんだ、部長って名誉職だったんだ。」
香里「名誉職なら、いらないわ。」
新濃「いや、今のは言葉のあやで・・・。」
祐一「ふうん、間違いか。じゃあ、部長というのは、部内の全ての権力を握っている職って事だな?」
北川「へえ、香里が、部内の権力を掌握・・・。で、郷土研究部ってなに?」
香里「権力ったって、3人しかいないのよ。今までと変わらないわ。」
祐一「いや、それは違うな。部長、いや、前部長。あんたの時代は終わった。もう誰も、あんたの指図は受けないよ。」
新濃「な、なんだその引退老人に対するかのような扱われ方は。」
祐一「そのとおりじゃないか。」
新濃「いや違う、私は、前部長として部の運営全般に関し助言と協力を・・・。」
祐一「ジイサンは用済みなんだよ。」
北川「なあ、おまえら、一体何やってるんだ・・??」
争う俺と部長、そして疑問を抱き続ける北川。それを楽しそうに眺める名雪。そんな光景を見ながら、郷土研究部一年生部長・美坂香里は、一人ため息をつくしかなかった。