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北川「おい相沢、俺はここにいるぞ。」
祐一「どこかで北川の声がしたような気がするが・・・気のせいだな。」
北川「待ち合わせしておいて気のせいはないだろう。」
祐一「悪い、ちょっとした冗談だ。」
俺と北川は、喫茶店にいた。久々に二人で語る機会を得たというわけだ。二人とも学部が違うし、バイトもある。北川のアパートに行っても当人はいないし、俺の家には名雪がいる。男同士で語る機会など、意外と少ないのだ。
祐一「もう大学生なんだから、居酒屋とかでも良かったよな。」
北川「お前、酒飲むのか?」
祐一「ここは監視の目が厳しいからな。そういうことをおおっぴらに言うわけには行かない。」
北川「そうか、一応未成年だからな。」
祐一「一応、な。」
北川「俺は健全な男子だからな。二十歳になるまで飲まないぞ。」
祐一「健全な男子という言葉は、その意味とは裏腹に妙に卑猥な響きを持ってるよな・・・。」
北川「相変わらず意味不明なことを言う奴だな。」
ちりちりん
女の子の一団が入ってきた。
祐一「・・・・・。」
北川「・・・・・・。」
祐一「・・・どうする?出るか?」
北川「いや、下手に出ようとすれば、見つかるかもしれん。ここは知らん振りをする方がいい。」
祐一「そうだな。何しろ、佐祐理さんがいるからな」
北川「倉田先輩って、230m離れていても、俺達のこと見つけるからな・・・。」
祐一「なんだその中途半端な数値は。・・まあ、あの人は『お友達レーダー』持ってるからな」
北川「まあ、『あははーっ、北川さーん』って寄ってこられて、悪い気分ではないが。しかし、周りの目もあるし」
祐一「そうそう。俺なんて、いつも佐祐理さんと舞と香里と、四人で行動してるだろ。視線厳しくてさ・・。」
北川「ただでさえ女の子3人独り占めな上に、美人揃いと来れば、な。俺だって弾劾したいところだぞ。」
祐一「お前だって、名雪と一緒だろ。」
北川「ばかやろ、俺達はそういう関係じゃないし。そうだ、お前はこの上水瀬と二人暮らしじゃないか。」
祐一「しっ、それは対外的に秘密にしているんだ!」
北川「そりゃそうだろうな。ばれたらお前、殺されるぜ。」
祐一「ああ、どうせなら女の子に殺されたい・・・。」
北川「女の子に・・・ふっ」
祐一「どうした?」
北川「いやさ。あの三人は、実は祐一を突いたり縛ったりするために一緒にいるのかな、と。」
祐一「あのなあ・・。だいたい、どっからそんな発想が出るんだ?舞が剣持ってるからか?」
北川「いや川澄先輩もだけどさ。香里って、なんか、そういうイメージ、無い?」
祐一「・・・香里に言ってやろ。」
北川「ま、待ってくれ。友達を売る気か?」
祐一「そういえば、高校の頃お前と香里って、よく噂たてられたよな。」
北川「どういうわけかな。まあ、俺はいつでもOKだったんだが・・・。」
祐一「香里はお目が高そうだからな。」
北川「というより、あいつの好み、ヘンだぜ。」
祐一「知ってるのか?」
北川「直接訊いた訳じゃないけどな。俺みたいな常人じゃ、眼中にないらしい。」
祐一「お前ほどの奴が常人とは・・・厳しいなァ」
北川「大丈夫だ、お前なら、いけるかもしれん。」
祐一「どういう意味だ?」
北川「ま、気にするな。」
祐一「北川君、もしかしてひどいこと言ってる?」
北川「なんだなんだ、いきなり水瀬化して。」
祐一「うにゅ。くー。」
北川「ははは、お前もずいぶん真似うまくなったな。」
祐一「ま、長い付き合いだからな。」
北川「そうか、やっぱりそういう関係だったのか。」
祐一「お前さあ・・何でそう、俺と名雪をくっつけたがるわけ?」
北川「なんでかなあ。俺って実は、水瀬に気があったりして。」
祐一「そうだったのか・・・。そうとも知らず、俺は協力もせず・・・」
北川「いや、そんなに気に病むことは・・・・。」
祐一「気にしちゃいねえよ。」
北川「このやろ。まあ下手に気にされて、よけいな画策されても困るが。」
祐一「しかし、北川にそんな気があったとは。」
北川「いや、あれはたとえばの話なんだが・・・。」
祐一「じゃあ、たとえば『実は舞が好き』なんてのはどうだ?」
北川「川澄先輩?う〜ん・・・。それはさすがに無いかなあ・・」
祐一「嫌いか?」
北川「いや、おもしろい人だとは思うが。」
祐一「ま、確かにおもしろい奴ではあるが。発想が奇抜だし。」
北川「奇抜な発想かあ・・・。こうして考えてみると、あの四人って、やっぱりただ者じゃないな。」
祐一「ああ。四人の力を合わせても、世間の役には立たなさそうだがな・・・。」
佐祐理「あれぇーっ。あんなところに祐一さんと北川さんがいますよーっ。」
祐一「げ、見つかってんじゃないかっ!」
北川「何故だ、何故見つかったんだぁ!」
佐祐理「あははーっ。実は最初から見つかってましたよーっ。」
北川「最初から・・。そうだよな、考えてみたら当然だった・・・。」
佐祐理「祐一さんたちが気づいてくれるまで待とうと思ってたんですけど、全然声かけてくれなくて・・・。佐祐理は傷つきました。」
祐一「そ、そんな・・・。」
香里「それより、あたしの好みがヘンって、どういう意味かしら?」
名雪「北川君、わたしに気があるってほんと?わたしどうしたらいいかわからないよ。」
舞「・・・私、おもしろい人。」
祐一「待て、念のために言っておくが、それは全部北川が言ったことだぞ。」
北川「このやろ・・!って、何で全部知ってるんだよぉ!」
佐祐理「あははーっ。舞は、耳もいいんですよーっ。あそこで全部、中継してもらってたんですよーっ。」
祐一「何てこったい・・・。残念だったな、北川。」
北川「だからぁ!何で全部俺に押しつけるんだよ!!」
香里「そうね相沢君。あなたも同罪とすべきね。」
名雪「極悪人、だよ。」
舞「・・・斬る。」
そういって舞は、懐の短刀を取り出した。
祐一「ま、待て、こんなところで刃傷沙汰なんて・・・。」
香里「じゃあ、ここに払い全部二人で持ってもらうって線で、手を打ってもいいわよ?」
佐祐理「あははーっ。温情的な措置ですねーっ。」
舞「・・・祐一と北川君、幸運。」
名雪「わたしイチゴサンデー5つ。」
こうして俺と北川は、予定を離れて大勢での休日(多額の出費つき)を過ごすことになってしまった。