Campus Kanon
 

その4

その日俺は、郷土研究部の部室にいた。
意に反して郷土研究部に入ってしまった俺だが、はっきり言ってまじめに部活をやる気など更々ない。
だから香里に、「俺は幽霊部員になるからな」と言ってやったのだ。だが香里は、「そんな事すると羽がはえるわよ」と脅迫し、結局俺をここまで連行してしまったのだ。

新濃「さて、今日はめでたい、本年度第一回目の部会だ。まずは新入部員諸君、歓迎する。」

祐一「ちょっと待て。部会って、俺と香里と、あんたの、3人しかいないじゃないか。他の部員はどうした。」

新濃「・・・他の人たちは全員有休を取っていてね。」
祐一「何で大学のサークルに有給休暇があるんだ。だいいち、ここは給料が出るのか?」

新濃「まあ、そこら辺のことを知りたかったら、精進して部の幹部になることだな。」

祐一「・・・いないんじゃないか?ほんとは。」
新濃「そ、そんなことはない。だいたい、大学のサークルというのは、五人以上が集まらないと作れないものなんだぞ。」

祐一「それこそ俺みたいに脅迫まがいでかき集めて、その後幽霊化したんじゃないのか?」
新濃「失敬な。私がいつ君を脅迫したというのだ。」

祐一「しただろ、あんたと香里の二人掛かりで。」
香里「言っていいことと悪いことがあるわよ。」

新濃「まあ、いい。この件に関しては、彼もいずれはわかってくれるだろう。それよりも、部員がいるいないという話だが・・。」
祐一「いないんだろ。」

新濃「それについては、このCDを聴いてもらおう。君たちに渡そうと思っていた、『オリジナル郷土研究部サウンドトラック』だ。」
祐一「ほんとにそんなもの作ってたのか・・・。」

新濃「この中には、部員全員の自己紹介が納められている。もちろん新盤を出すときには、、君たちのも入れるつもりだ。」
祐一「恥ずかしいぞ・・・。」

新濃「恥ずかしいかどうかは、聴いてから決めてくれたまえ。」

そういって部長は、CDを再生した。

<♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪>

祐一「何だ、この歌は?」
新濃「1トラック目には、我々郷土研究部の部歌が入っている。」

祐一「・・・・なんだか恥ずかしい歌だな。」
新濃「そういわず聴いてくれ。すぐ好きになるから。」

<♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪>

・・・・・・。

<♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪>

・・・・・・・・・。

<♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪>

・・・・・・・・・・・・・・。

長い。

祐一「おい、念のために訊くが、この歌は何番まであるんだ?」

新濃部長「158番。」
祐一「・・・飛ばせ!」

新濃部長「最後まで聞かないのか?」
祐一「聞けるか。」

新濃「全く、最近の若い者は、せっかちで困る。」
祐一「せっかちでなくても、158番も聞かねーよ・・・。」
 
 

部長がタイトルを先に進める。

新濃「さあ、ここからが部員の自己紹介だ。」
CD「風間トオルです。よろしく。」

祐一「ずいぶん短い自己紹介だな。」
新濃「部員はたくさんいるからな。一人あたりの時間は短くなる。」

祐一「それより、部歌が長すぎるんじゃないか?」

CD「水野亜美です。医学部二年・・・。」
祐一「あれ?ここって医学部あったっけ・・・。」

CD「野比の○太です。一浪四留中・・・。」
祐一「・・・・・・。」

CD「如月ハニ○です。」
祐一「おい!」

新濃「なんだ。」
祐一「それはこっちの台詞だ。なんだこれは、これが部員だって言うのか?」

新濃「そうだ。何か文句があるのか?」
祐一「おおありだ。名前が全部アニメの登場人物じゃないか。」

新濃「偶然というのは意外と身近にあったりするものなのだ。」
祐一「四つも五つも重なったりするかっ!奇跡だそんなの。」
香里「奇跡なんて、滅多に起きるもんじゃないわ。」

祐一「そうだ、その通りだ。まがいものだ。お前が作ったんじゃないのか?」
新濃「そ、そんなことはない」

祐一「とにかく、これであんたの言う証拠とやらは無くなったわけだ。」
 
 
 
 

祐一「やっぱ怪しいぜ、あの部も、部長も。」
香里「そうね、むちゃくちゃ怪しいわね。」

祐一「今からでも遅くない。やめちまおうぜ。」
香里「相沢君。怪しいところにこそ、真実が潜んでいたりするものよ。」

祐一「はあ?」
香里「私がどうしてあの部に入ろうと思ったか、わかる?」

祐一「部長に惚れたから。」
香里「今の発言は聞かなかったことにしてあげるわ。」

祐一「・・・感謝します。」
香里「部長があたしを勧誘したとき、こう言ったのよ。
   『地球は人類共通の郷土、宇宙は物質共通の郷土。我々の目的は、森羅万象全ての事物の真実を解き明かすこと』って。」

祐一「くさい口説き文句だな・・・。」

香里「あたしはね、真実を知りたいの。真実と向き合いたいの。たとえそれがどんなことであろうとも。あの日以来、あたしはそう決めたから・・・。」
祐一「・・・そうか。」

香里「こんな部で、真実も何もないって思ってる?」
祐一「ああ。部長があんなだし。」

香里「ふふ。でも、形からはいることも悪くないと思うのよ。口先だけの、言葉からでも。」
祐一「そうだな。」

香里「相沢君。できれば、あたしは、あなたにもつきあって欲しいの。あたしの、真実探しに。」
祐一「いいぜ。乗りかかった船だ。」

香里「ありがとう。相沢君にはいつも世話になるわね。」
祐一「香里にそんなことを言ってもらえるとは、ありがたいな。」

香里「そう?」

香里は笑った。
半ば騙されて入ったサークルだったが、今後香里と一緒にサークル活動に熱中するのも悪くないかなという気がしてきた。
 
 

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