むかしむかしあるところに、祐一というムッツリ野郎がおりました。
祐一はムッツリのくせして何故かお金持ちで、女の子をたくさん囲い込んで大きな屋敷で一緒に暮らしておりました。

あゆ「祐一くんっ、一緒にあそぼっ」

真琴「あう〜、邪魔しないでっ!」

名雪「くー。」

「・・・ちょっぷ。」

佐祐理「あははーっ、お食事の時間ですよーっ。」

美汐「人の多いところは苦手です・・・」

「でもこういうのって、ドラマみたいで楽しいですね。」

香里「祐一、そろそろお仕事の時間。」

祐一「俺、体がいくつあってもたらんなあ」

このように、祐一は非常に恵まれた生活を送っておりました。
 

 屋敷にはもう一人、男が住んでいました。彼の名は北川潤。祐一の忠実なる下僕として、この屋敷に住んでいました。
 もちろん、彼が女の子に手を出すことは禁じられています。潤も、安易に手を出そうなどとは考えていませんでした。しかしそれは、決して卑屈になってるとか、祐一に弱みを握られてるとか、実は男が好きとか、そういう理由ではありませんでした。彼の心の中には、一つの野望があったのです。

北川「いつかオレも、女の子に囲まれた生活を送ってやる・・・・」

そしてある日。祐一は香里と一緒に遠方に出かけることになりました。

祐一「めんどくせえなあ。なんでわざわざアゼルバイジャンくんだりまでいかなきゃならないんだ。」

香里「お金持ちにはお金持ちなりの責務があるのよ。」

こうして、屋敷には香里以外の女の子と北川が残ることになりました。

北川「時は来た・・・!」

北川の計画が、実行に移されるときが来たようです・・・・・・・・・
 
 



ハァレム

前編










真琴「あう〜、ゆういちいないからつまんなぁい!」

名雪「ずるいよね、香里だけ一緒なんて。わたしも行きたかったのに」

佐祐理「仕方ないですよ、香里さんは祐一さんの秘書も兼ねてるんですから。」

「・・・別に、北川君が行っても良かった。」

真琴「そうだよねー!」

美汐「でも。それで、祐一さんが北川さんに寝取られたら、どうするつもりなんですか?」

あゆ「それはかなりいやだね・・・」

「北川さん、あんな事言われてますよ。いいんですか?」

北川「・・・・・。」

名雪「・・・北川君?」

北川「ん?あ、ああ、なんでもない。」

佐祐理「なんでもなくないです。北川さんが質問されてるんですよ?」

北川「あ、ああ。そうだっけ。」

美汐「どうしたんですか?もしかして、私の言ったことに怒っていますか?」

北川「いや、そうじゃないんだ・・・ちょっと、考えごとしててさ・・・」

佐祐理「なんなんです?」

北川「ん、あのさ・・・・オレ実は、こんな写真見つけちゃって・・・」

名雪「なになに?・・・・うわ」

あゆ「うぐぅ・・・これ、祐一君?」

美汐「・・・おまたから白鳥が生えてますね。」

「頭に、まげかつらかぶってますー」

「・・・なに、これ。」

北川「ああ・・・。いや、言っていいものかどうか・・・」

真琴「言えないような理由なの?」

北川「・・・・・。」

名雪「言ってよ。わたし達には、聞く権利があると思うよ。」

北川「ああ、そうだな・・・。あのさ、オレ、訊いたんだよ、何でこんなことしてたのかって、相沢に」

あゆ「うん。」

北川「最初はさ。麻枝准になりたかったとか、ワケわかんないこと言ってたんだけど」

真琴「なにそれ!麻枝准バカにしてるーっ」

北川「追求してったら、白状したんだよ。これ、あいつの趣味で、こういう事しょっちゅうやってるんだってさ・・・」

あゆ「うそ・・・・・」

佐祐理「祐一さんにこんな趣味があったなんて・・・」

「・・・幻滅。」

美汐「誰かを笑わせたかったんでしょうか・・」

名雪「こんな写真笑えないよ・・わたしどうしたらいいかわからないよ。」

北川「それでさ・・オレ、それ聞いたらなんか一気に気が抜けちゃって・・・オレ、ここやめることにしたんだ。」

「やめちゃう・・・んですか?」

北川「今まで誰にも何も言わなかったけどさ・・・結構あるんだよ、相沢への昔年の不満って奴が。」

名雪「わかるよその気持ち。わたしも、祐一の無神経さにはちょっと参ってるんだ。」

あゆ「結構暴力的だしね。すぐぽかぽかたたくんだよ。」

真琴「何かにつけて真琴苛めるの・・・」

佐祐理「甘えん坊なんです・・いい加減うんざりです。」

「疲れてだるいときに押し倒されて・・・あれは参りました。」

「・・・・みんな不満持ってる。」

美汐「いっそ私達も出ていきたい気分ですね。」

北川「・・・・じゃあ、出るか?」

名雪「え?」

北川「そんなに不満もってるんならさ・・・無理に相沢の元にいる必要なんか無いんだよ。」

「・・・・。」

北川「いい機会だと思うぜ?」

あゆ「そう、・・・だね。」

佐祐理「でちゃいますか・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『バクー行きアエロフロートは、ただ今バクー空港がゴリラに占拠されているため、欠航となっております。』

祐一「おい、欠航だってさ。どうする?」

香里「どうするもなにも・・・欠航じゃ、どうしようもないでしょ。」

祐一「だよな。じゃあ、日本に引き返そうぜ。」

香里「うれしそうね。」

祐一「香里は不機嫌そうだな。」

香里「当たり前よ。30兆円の石油利権交渉がフイになったのよ。」

祐一「ああ、ま、そうだな。それにしても、何でモスクワ空港でアナウンスが日本語なんだ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

佐祐理「それじゃみなさん、短い間だったけど、一緒にいれて良かったです。」

あゆ「香里さんはいいのかな?一人だけ残しちゃって」

北川「後で声かけてみるよ、一応。」

名雪「うん。でも、香里は出ていかないと思うよ・・」

美汐「あの写真を見せられても、ですか?」

「お姉ちゃん、変人ですから。変なもの好きなんです。」

北川「それはいいとして。みんな、これからどうするんだ?」

あゆ「どうするって・・・とりあえず家借りて仕事さがして・・」

北川「当てはあるのか?」

「・・・・無い。」

北川「こう言っちゃなんだけど。みんな、ずっと相沢の所にいて、手についた職なんて無いだろ?」

佐祐理「そうですね・・。祐一さんのお世話ばっかりしてました・・・」

名雪「いろいろやってたの、香里ぐらいだもんね。」

北川「はっきり言って、キビシイと思うなあ」

あゆ「うぐぅ・・・今更そんなこと言われても・・・」

「でも・・・事実ですよね。」

名雪「どうする?今更祐一の所の戻る気にはなれないし・・・」

北川「オレんとこ、来るか?」

「え?」

北川「相沢からせしめた財産が100億ほどあるんだ。」

佐祐理「い、いいんですかそんなことして」

北川「退職金代わりだ。問題ない。どうだ?働いてくれれば、給料だって出せるぜ。」

美汐「家は・・・あるんですか?」

北川「郊外に青い屋根の白い家を押さえてある。」

「青い屋根の白い家・・素敵です〜」

名雪「この際だから、仕方ないよね・・・」

佐祐理「行きますか。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

祐一「ふごんごんご」

香里「ちょっと相沢君、みっともないわよ」

祐一「だって、キャビア、キャビアが食い放題」

香里「キャビアなんかいくらでも買えるでしょ、やめなさいよ。」

祐一「だって俺、これ楽しみにアゼルバイジャン行き決めたんだもん。交渉がおじゃんになっても、キャビアは食べるんだもん。」

香里「はあ・・・・なんだか情けないわ・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

北川「さあ着いたぞ、ここが今日からの俺達の家だ。」

名雪「・・・・・・青い屋根の白い家って、これ?」

美汐「・・壁が打ちっ放しのコンクリートなんですね・・・」

佐祐理「はえ〜、屋根は太陽電池です〜」

「確かに青い屋根の白い家ですけど・・・がっかりです・・・」

あゆ「この辺が北川君だよね・・・」

北川「な、なんだよ・・・いいじゃないかよ、コンクリートでも太陽電池でも。オレの夢だったんだから・・」

佐祐理「こんなことじゃ、お給料も全然期待できませんね・・」

北川「あ、それは大丈夫。ちゃんと資金はあるから。」

名雪「・・・いくら?」

北川「ウォンで30億、ルーブルで20億、ペセタで10億5千万、・・・・」

「円では持ってないんですか?」

北川「スロヴェニアYENなら、3000万あるぞ。」

「・・・日本円は?」

北川「財布の中に3800円。」

名雪「話にならないよ・・・」

北川「だいじょうぶだって!ウォンだけでも、円換算で3億あるんだから!」

佐祐理「でも円じゃないです・・不安ですよ」

北川「何言ってるんだ、オレの見立てでは、10年後には韓国の金融信頼性は日本の数十倍に・・」

あゆ「10年後の信用より、明日の給料だよ・・・」

北川「わかったよ、だったらとりあえず1億、円にかえとくよ。あーあ、オレが原因で通貨危機引き起こしちまったらどうしよう」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

祐一「おーい、帰ったぞー、みんなが大好きな祐一ちゃんが帰ってきたよーん」

香里「・・いないのかしら?みんなで遊びにでも行ったのかしらね。」

祐一「ま、こんなに早く帰ってくると思ってなかったろうしな。あれ、でも鍵開いてたぞ。」

香里「不用心ねえ。」

祐一「それとも誰かまだいるのかな。おーい」

香里「あら、相沢君の書斎のドアが開いてる。」

祐一「・・・泥棒?」

香里「いいわ、あたしが踏み込むから。ちょっと、誰かいるの〜!」

祐一「あ、オレの椅子に誰か座ってる・・」

椅子がくるりと回転

北川「やあ、驚かせてしまったかな。すまんすまん。」

香里「北川君・・・何やってるのよ」

祐一「他のみんなはどうしたんだ?」

北川「女の子達は、みんな出ていってしまったよ。・・・香里を除いて。」

祐一「はあ?」

香里「どこか遊びに行ったの?」

北川「違う。みんな相沢に愛想尽かして、この家を出たんだ。」

祐一「な・・・・なんで?!」

北川「ま、原因の一つはこの写真だな。」

香里「あ、これってこの間相沢君があたしにジャンケンで負けて罰ゲームやらされてるときの写真」

北川「ふうん、そうだったんか。」

祐一「おい北川・・・お前この写真に、なんて説明付けたんだよ・・・」

北川「オレがお前に聞いたとおりに、だ。」

祐一「待ってくれよ・・・そんなの冗談に決まってるだろ・・・・・」

北川「生憎オレには冗談に聞こえなかったんでな。」

香里「それにしても。この写真見たくらいで、出ていくものなのかしら。」

北川「もちろん、これだけじゃないさ。みんな前々から相沢への不満がつもってたみたいだぜ。」

祐一「うーん、やっぱりもっと夜の回数を増やすべきだったかな・・・」

香里「違うと思うわ・・」

北川「そして、オレもだ相沢。いい加減、お前には愛想が尽きた。そういうわけで、今日限りで辞めさせてもらう。」

香里「そう。残念ね♪」

北川「ちっとも残念そうじゃねえな。まあいいや、退職金と未払いの給料合わせて100億円(外国通貨・有価証券含む)はもう受け取ってあるから。受領書もそこに入ってる。」

祐一「ひゃ、100億・・なんでそんなにもってくんだよ!」

北川「お前、この7年間オレに給料払ってないだろ。」

祐一「あ、ごめん、忘れてた。」

北川「持ち金80円しかなかったお前をここまで引き上げてやったのはオレなのになあ。」

香里「半分はあたしの功績よ。」

北川「ああ、そうだな。だから200億は残してある。まあせめてもの情けだな。じゃ、そういうことで」

祐一「待て・・・100億はいい、お前にやる。だけど、あいつらがどこにいるのかは教えろ・・・・」

北川「・・・知ってどうする。」

祐一「連れ戻す。」

北川「嫌がると思うぜ。」

祐一「誤解なんだ。落ち着いて話せば、わかってくれるはずだ。」

北川「誤解なんかじゃないね。あの子達は今、ようやく相沢祐一という呪縛から解き放たれて自由になったんだ。やっと自分の意志で、自分の足で歩こうとしているんだ。そんな彼女たちの夢と希望をぶち壊すようなまねは、オレが許さない。だから邪魔はさせない。」

祐一「何を訳のわからんことを言ってるんだ。おい北川、もう一度だけ訊く、あいつらはどこにいる。言わないなら、力づくで吐かせるぞ! え、あ、おい香里、何をする」

香里「ちょっと抱きついてるだけ♪ 北川君、今のうちに逃げた方が良いわよ。」

北川「そうする。恩に着るぜ。」

香里「別に北川君のためにやってるわけじゃないのよ。これでやっとあたし、祐一と二人きりになれるんだもの。むしろあたしが感謝してるわ。」

北川「はっはっはそうか。ちなみに、一応訊いておくよう言われてるんだ、香里も来るか?」

香里「い・や・よ。」

北川「そう言うと思った。それじゃ相沢、香里と二人で、お幸せにな。」

祐一「ま、まてぇ〜〜!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

北川「ただいまぁ〜」

佐祐理「あ、お帰りなさい北川さん。」

名雪「どうだった?香里、来るって?」

北川「来ないってさ。相沢と二人で幸せになるんだと。」

「そうですか・・・。そうだとは思ってましたけど、残念です・・・」

北川「ま、仕方ないさ。オレたちはオレたちの人生を歩もうぜ。」

美汐「そうですね。・・いつまでになるか解りませんけど、ご厄介になります。」

北川「ああ。・・・いつまでか、解らないけどな・・・・。」
 
 

 オレの名前は北川潤。今までいろいろさんざんな目に遭ってきたけど、そのオレにもようやく目の前に幸せが見え始めている・・・・
 
 
 
 

後編に続く
 
 

(2001年3月24日執筆)

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