「おねえちゃん。今回のSSは、わたしとお姉ちゃんと北川さんのSSなんですよね。」
 
香里「そうよ。某投票所でこの三人が上位を占めたことを記念するものなのよ。」
 
「ということは。内容は当然、お姉ちゃんと北川さんのラブラブものですね。荒野草途伸も、ようやく多数派迎合衆愚理論従属主義に屈する気になったんですね。」
 
香里「バカ言わないで。たとえ共産党議員が靖国神社に参拝することがあっても、荒野草途伸があたしと北川君をくっつけるような話を書くことはないのよ。栞、寝ぼけてる?睡眠不足?」
 
「ちゃんと寝てますー。 ということは、今回のお話は、ラブラブ無しのただの日常を描いたのっぺりストーリーですか?」
 
香里「そうね、それも悪くないわ。でも、あたしとしては、やっぱり違った展開が欲しいところね・・・」
 
「え・・? お姉ちゃん、何か、悪巧みしてます・・・・?」
 
香里「してないわよお。悪巧みなんて♪」
 
「・・・・・。」
 
 

愛の天使びゅうちいかおりん♪

 
 
香里「ということで北川君。あなた、栞とデートしなさい。」
 
北川「え?」
 
「ええーっ?!」
 
香里「どう、うれしいでしょ?」
 
「うれしくないですっ!」
 
香里「どうして?」
 
「どうしてって・・・だって・・・・私、北川さん嫌いですっ!」
 
北川「そ、そんなはっきり・・・」
 
香里「どうして嫌いなの?」
 
「そ、それは・・・・その・・・やっぱり、変態だからとか、アンテナがついてるからとか、アホだとか、スケベだとか、実はホモとか、他にもいっぱい理由が・・・」
 
香里「理由ねえ。でも、その理由って、根拠があって言ってるのかしらあ、栞?」
 
「え、それは・・・だって、みんなそう言ってますー」
 
香里「みんなが言うことなら正しいの?」
 
「それは・・・」
 
香里「自分で確かめたわけでもないのに人のこと悪く言うなんて、最低よ。」
 
「えうー・・・」
 
北川「あ、あのさ美坂・・・姉」
 
香里「本人に向かって『美坂姉』とかいう言い方はないんじゃない?」
 
北川「じゃあ、・・・美坂香里さん。あのさ、そんなきつい言い方しなくても・・・オレ気にしてないし・・・栞ちゃんがかわいそうだよ」
 
香里「気にして無いぃ? あなたね、自分が何言われてるかわかってるの?!人がいいにもほどがあるわよ!」
 
北川「そ、そうだけど・・・」
 
「・・・わかりました。偏見は改めるよう努力します。でも、だからって何で私が北川さんとデートしなきゃいけないんですか?」
 
香里「それはね。それがあなたの使命だからよ。北川君と一緒に過ごして、その魅力を徹底的に知りあげ、そして世間に広まってる北川差別思想を根絶する。それがあなたに与えられた使命なのよ、栞!」
 
「だから、何で私なんですか。お姉ちゃんでいいじゃないですか。」
 
香里「悪いけど、あたし変な男にしか興味ないの。そう、たとえば相沢君みたいな。だから北川君のようなまともな男は、はっきり言って眼中にないの。一緒にいたくないの。」
 
北川「オレ、喜んでいいのかな・・?」
 
「ノーコメントにさせてください・・・」
 
香里「栞。はっきり言って相沢君は変態よ。普通じゃないわ。あなたみたいな病弱な子が一緒にいても、とても身が持たないと思うの。こんどは体だけでなく心まで病んでしまうことになりかねないわ。そんなことになったら、栞・・・あたし、もう自分を支えていく自信はないわ・・・」
 
北川「ボロクソに言われてるな、相沢。」
 
「きっとお姉ちゃんは褒めてるつもりなんです。」
 
香里「栞。あたし、意地悪言ってるんじゃないのよ。むしろ、あなたの身を案じて、もっとも幸せだと思う方法を考えて、言ってるのよ。ね、わかるでしょ?」
 
「・・・・。」
 
香里「ね、栞。栞は、あたしの妹なんだから」
 
 
 
 
 
 
 
北川「・・・よくデートする気になったな。」
 
「私、あのせりふ言われたらもう抵抗出来ないんです・・・」
 
北川「そうか・・。ま、人間弱みの一つや二つあるものだからな」
 
「そういうのとはちょっと違いますけど・・・。それより北川さん。さっきはごめんなさい」
 
北川「ん、なにが?」
 
「感情的になっていたとはいえ、あんなひどい事言ってしまって・・・」
 
北川「いや、だから気にしてないって。」
 
「ほんとに、気にしてないんですか・・・?」
 
北川「ああ、もう慣れっこだからな。」
 
「慣れっこ・・・ですか。」
 
北川「いちいち反論するのも、なんか疲れるしさ。オレ一人が我慢してりゃ、それでいいのかな、って」
 
「でも、それって・・・なんか悲しいです。」
 
北川「・・・・・。」
 
 
 
 
香里「なあにあの二人、いきなり暗くなっちゃって。まったく、心配になってつけてみれば、案の上ってとこじゃない。ほんとに世話の焼ける妹とクラスメートだこと。やっぱり、ここは一つあたしが・・・」
 
 
北川「ん?なんか後ろで声しなかったか?」
 
「・・・気のせいだと信じたいです。」
 
 
香里「うふふ。栞は、ゴキブリが苦手なのよね。そ・こ・で。この日のためにわざわざ沖縄から取り寄せた、特大のワモンゴキブリ(体長20Cm)!これをけしかければ、栞は悲鳴を上げて嫌がるはず。そこを北川君がとっさに助ければ・・・ふふ、うまくやりなさいよ、北川君」
 
「お母さん、あのお姉ちゃんなんか言ってる」
「しっ、関わっちゃダメ。」
 
香里「それいけ!」
 
 
かさかさかさかさかさかさかさかさ
 
北川「ん、なんだ?」
 
「きゃあぁーっ、ごきぶりぃ!」
 
北川「おおっ、こ、これは!沖縄でも滅多に見ることができないと言う、特大のワモンゴキブリじゃないか!それがこんな北の地にいるなんて、これは大発見だ!捕獲せねば」
 
 
香里「え゛?!」
 
 
北川「あ、こら逃げるな! 栞ちゃん、手伝ってくれ!」
 
「いやですっ!そんな、そんな、えうー、助けてください〜!」
 
 
香里「な、何やってるの北川君! げ、こっちくる、やばっ!」
 
 
 
 
 
 
「えっく、うっ、ぐすっ・・・・」
 
北川「ごめんよ。まさか、栞ちゃんがあんなにゴキブリ嫌いだったなんて・・・」
 
「北川さんなんか、嫌いです・・・・」
 
北川「そんな事言わないでくれよ・・・。好きなものおごってやるからさ」
 
「・・・ほんとですか・・・?」
 
北川「ああ。なにがいい?」
 
「・・じゃあ。この間新発売になった、『クリスタルカップ・スーパーバニラエクステンション』がいいです。」
 
北川「え、カップ、スーパー・・・」
 
「私の大好物なんです。」
 
北川「わかった、買ってくる。ここで待っててくれ。」
 
「はい♪」
 
 
 
 
 
 
 
北川「お待たせ栞ちゃん」
 
「待ちましたよ。どうしてくれるんですか。」
 
北川「え、そ、それは・・・ごめん」
 
「冗談です。で、・・・」
 
北川「うん、ちゃんと買ってきたぞ。ほら、じゃじゃーん」
 
「え゛ こ、これって・・・・」
 
北川「『スーパーカップ1.5倍 クリスタルバニラ味』だ。いや〜知らなかったよ、こんなものが発売になってたなんて。オレとしたことが迂闊だった。」
 
「・・・北川さん。何でこんなもの買ってくるんですか。私の好物だっていったじゃないですか!」
 
北川「いや、だから、好物のカップラーメン・・・」
 
「ぜ、ぜ、ぜ、ぜ、」
 
北川「絶倫ゴールド?」
 
「絶倫ゴールドなんて私には必要ありませんっっ!   ・・じゃなくて、全然違いますっ!私の好物はアイスですっ!」
 
北川「そ、そうなの?! ごめん・・・。オレの好物がカップ麺なもんだから、てっきり・・・」
 
「きらいですっ!北川さんなんかだいっきらいですっ!えぐえぐっ、」
 
 
香里「あーあ、全く何やってるのよ。やっとゴキブリ振りはらって追いついてきたと思ったら、栞は泣いてるし。何やらかしたのよ北川君・・・」
 
 
北川「お願いだから泣かないでくれよ〜。な、な、今度はちゃんとしたもの買ってくるからさ・・・」
 
「1個や2個じゃ、私の気持ちは収まらないです・・・」
 
北川「わ、わかった。10,個、いや20個買ってくるよ!あ、でも、そんなのいっぺんに食べたらおなか壊しちゃうよな・・どうしよう・・・ああそうだ、日割りにしよう、これから毎日買ってあげるよ、ね、それでいいだろ?」
 
「・・・毎日、ですか?」
 
北川「ああ、毎日。」
 
「わかりました。」
 
北川「よし、じゃあ買ってくる」
 
「待ってください。また北川さんに任せると、今度はバニラ味のカップ酒買って来かねません。私も一緒に行きます。」
 
北川「オレって信用無いなあ・・・ま、仕方ないけどな・・・」
 
 
香里「ふうん。なんだかんだ言って、結局うまくいってるんじゃない。あたしの見込んだとおり、あの二人は気が合う同志だったのね。ううん、それだけじゃないわ。やっぱり、作戦が完璧な所為ね。全てはあたしの思惑通りだったもの。うーん、あたしってば天才っ!あいむくればーびゅーてぃふるっ!これで祐一のハートもがっちり!」
 
「お母さん、あのお姉ちゃんなんか踊ってる。」
「しっ、警察に任せておくのよ」
 
ぴーぽーぴーぽー
 
 
 
 
 
 
 
 
名雪「翌日、だおー」
 
「何で名雪さんがナレーションみたいなことしてるんですか?」
 
名雪「成り行き、だよ。それより栞ちゃん、香里捕まったんだってね。大変だね。」
 
「ええ。でも大丈夫です。どうせお姉ちゃんのことだから、午後には警察から脱出してきてますよ。」
 
名雪「そうなんだ。どうせなら2,3日代用監獄でおとなしくしててくれればいいのに。」
 
「ひどい言いようですね・・・。ところで名雪さん。お話があるんですけど。」
 
名雪「なに?祐一と別れてって話だったら、お断りだよ。」
 
「その、まるで自分が祐一さんとつきあってるかのような言いぐさは、やめてください。」
 
名雪「・・・話って何。」
 
「急に不機嫌にならないでください。えっと、話というのは、北川さんのことです。名雪さん、北川さんっていい人なんですよ。」
 
名雪「そんなことくらい知ってるよ。それがどうかしたの?」
 
「悪口言われても怒らないし、ゴキブリが出たら一緒に戦ってくれるし、カップラーメンもおごってくれるんですよ。」
 
名雪「・・・だからなんなの?」
 
「いい人だと思いませんか?」
 
名雪「栞ちゃん、もしかして北川君好きになったの?あ、そうなんだ〜。」
 
「わ、ちがいます、そういうんじゃないです、そうじゃなくてですね、あのですね、」
 
名雪「じゃあ何が言いたいの?はっきり言ってよ。」
 
「え、えっとですね名雪さん、いっそ祐一さんなんかあきらめて、北川さんに乗り換えたらどうです?はっきり言って祐一さんって、変態ですよ。名雪さんみたいなボケボケ女じゃついていけないですよ。その点北川さんなら、しっかり名雪さんのことサポートしてくれると思いますよ。ぴったりだと思いますよ。だからですね、そうおもってですね」
 
名雪「・・・栞ちゃん。香里に何吹き込まれたか知らないけど、わたしが祐一と別れるなんて、ブッシュがテロリストと握手する以上にあり得ないよ。早く目覚ました方がいいよ。だまされてるんだよ。だいたい香里なんて、老け顔の変態ダメ姉貴のくせに祐一に気持ったりして、おこがましいよ。身の程知らずだよ。アンテナ付きの食堂野郎といちゃいちゃがお似合いだよ。」
 
「な、名雪さん・・お姉ちゃんはともかく、北川さんのことをそんな風に言うのは・・・・・」
 
 
 
香里「・・・・・・。」
 
 
 
 
 
 
 
 
北川「お、やったぜ!相沢、今日の日替わりランチ、韓国焼肉だぜ!」
 
祐一「お前、教室にいるのによくそんなことわかるよな・・」
 
北川「いいじゃないかよ。ほらそんなことより、早く行こうぜ」
 
香里「北川君。ちょっといいかしら?」
 
北川「な、なんだよ。オレ急いでるんだけど」
 
香里「北川君、名雪とデートしたくないぃ?」
 
北川「な、何を突然ワケわからん事言い出すんだ?!」
 
名雪「か、香里・・・・まさか、・・・あれ、聞いてたの・・?」
 
 
 
 
おしまい
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