荒野草途伸ルート >> 荒野草途伸Key系ページ >>CLANNAD-Kei! >>CLANNADSS >>宇宙刑事KYO覚醒編

宇宙刑事KYO 〜覚醒編〜

 
 21世紀初頭。未だ混迷から抜け出せない日本社会。そんな中、突如として現れた教化集団「ZHZ」と呼ばれる組織が跋扈していた。彼らはあっという間に社会の深部にまで入り込み、人類に対して不敵な挑戦的行為を繰り返していた。
 そしてその魔の手が、藤林杏の勤める幼稚園にも及んできた。ある日、園児たちが一人も登園してこなくなってしまったのだ。
 
 突然の出来事に、悲しみに暮れる杏。そんな彼女の元に、匿名の協力依頼が届く。指定された場所へと向かう杏。そこは、クラナドシティポリスと呼ばれる場所であった。そしてそこに待ち受ける二つの顔。それは、杏にとって懐かしく、そして過去のほろ苦い思い出をよみがえらせる人物であった。
 
 汐 
「ちっす先生、久しぶり。」
ことみ
「杏ちゃんお久しぶりなの。」
 それは、高校で同学年であった一ノ瀬ことみと、かつての教え子岡崎汐であった。
 杏 
「あなた達だとは思わなかったわ。何の用なの? と言うより、この二人が一緒にいるわけは?」
 汐 
「私たちはこのクラナドシティポリスの委託を受けて、研究員をやっているのです。今回、日本中で発生しているZHZ絡みの問題への対策として、私たちの共同研究開発並びにその実績が有効であると認められたのです。」
 杏 
「へえ、そうなんだ。って、ちょっと待て。汐ちゃん、アンタ確かまだうちの幼稚園出て数年しか経ってないはずでしょ? なんでいきなり、こんなところの研究員なんてやってるのよ! ありえないでしょ?」
ことみ
「そんなことはないの。汐ちゃんは、今やロボット工学の世界的権威なの。アメリカからも人民中国からもスカウトが来てるの。」
 杏 
「いやだから。それ以前というか何というか、汐ちゃんって年齢的にまだ小学生ぐらいのはずでしょ? なんでそんな、ロボット工学の世界的権威になんてなれるのよ。トンデモ設定にも程があるわよ!」
 汐 
「年齢を理由に才能を世の中に出そうとしない愚かな時代は終わりを告げたのです。」
ことみ
「日本も真の実力主義の時代を迎えたということなの。」
 杏 
「いやだから、そうじゃなくて・・・あなた、幼稚園にいたときはそんなそぶり全然見せなかったというか・・・朋也の子供というか・・・そりゃまあ何年も会ってなかったから、あなたに何があったのかあたしは知る由もないんだけど・・・。」
 杏は、なかなか事態を受け入れることが出来なかった。だがそんな杏に、さらなる衝撃の事実が告げられるのであった。
 汐 
「先生。今世界が、未曾有の危機にさらされていることはご存じですね?」
 杏 
「ええ。あたしの勤め先でも、園児が突然にいなくなってしまったわ。」
ことみ
「そう。でも、こんな事態をいつまでも放っておく訳にはいかないの。」
 杏 
「そうね。あたしもそう思うわ。」
ことみ
「そこで我が市では、市長の特命により管轄警察署であるクラナドシティポリス内に機密プロジェクトを発足させ、特装救急高速捜査部隊を設けることになったのです。」
 杏 
「ちょっと待って。何その特装救急高速捜査部隊って。それに市長の特命って何? 警察って市じゃなくて県の組織のはずでしょ。だいたい何このクラナドシティポリスって名前。なんで普通に蔵等警察署とかそういう言い方しないわけ?」
 汐 
「構造改革特区の申請が認められて、我が市では警察権限の県から市への委譲が認められたのです。クラナドシティポリスという名称は、その権限委譲の際により市民に親しみやすい名称をということで従来の警察署から改称されたものです。クラナドシティポリスは市長の直轄組織であり、必要に応じて柔軟に組織改編を行うための予算と権限が認められています。その特別予算を使って対ZHZ用の特殊装備の研究が行われ、このたびその実証実験を出来るまでになりました。それが先程行った、私たちの研究成果です。そして、その対ZHZ用特殊装備を備えた特務部隊として、特装救急高速捜査部隊が創設されることになったのです。」

 杏 
「はあ、そういうことですか。で、なんでそれで、あたしが呼び出されなきゃいけないわけ?」
ことみ
「杏ちゃんはその、特装救急高速捜査部隊、通称『宇宙刑事KYO』のメンバーの一人として選任されたの。」
 汐 
「メンバーの一人と言っても、予算の都合で杏先生だけがメンバーなんだけど。」
 杏 
「ちょ、ちょっと待ってよ! つっこみたいところいっぱいあるけど、とりあえずなんであたしなわけ? 他にいるでしょ? だいたいあたし、一介の幼稚園教諭なのよ? そんなこと出来るわけないじゃない!」
ことみ
「そんなことはないの。と言うよりむしろこれは、杏ちゃんにしかできないことなの。」
 汐 
「この対ZHZ用特殊装備通称ウィスタリアコスチュームは、内部に連鎖有機金属を用いた人工遺伝子構造を持ち、装着者とmRNA交換を行い電子情報に変換することで装備内の電子・機械系の密接且つ高速な制御を可能としています。しかしそれ故に逆に、機械特性との相性によって制御効率が著しく変動することになります。将来的にはそのようなヘッドオーバーは解消される予定ですが、今はまだ実証実験の段階ですので、リスクを負ってまで相性の悪い人に装着をさせるわけにはいきません。そこで、このウィスタリアコスチュームと現時点でもっとも相性がよいと判断された、藤林杏先生を選任させて貰うことになったのです。」

 杏 
「はあ。なんであたしが相性いいということになったのかいまいちわからないけど。」
 汐 
「そういう風に作ったからです。」
 杏 
「・・・。」
ことみ
「それに市長の推薦もあったの。」
 杏 
「市長・・・。そういえば今の市長って・・・。」
 杏の脳裏に、その姿が浮かんだ。4年前史上最年少で市長に当選・就任し、前月に2期目の再選を果たしたその人物。それは
智代
「そう、私、坂上智代だ。」
 汐 
「あ、市長。」
ことみ
「市長、お疲れ様なの。」
 杏 
「うわー、そうだった。今こいつが市長なんだった。」
智代
「そんな言い方は感心しないな藤林杏。君の勤める幼稚園は市立だから、究極的には私は君の上司ということになるのだぞ?」
 杏 
「やなこと言うわねえ。現業公務員なんて給料安いのに責任ばっかり重くて、こんなふうに上からは圧力ばっかりかけられて、市民からは突き上げられて。ホントやってられないわ。」
智代
「ふむ。にも関わらず、君がそんな割の合わない仕事を続けているのは、一体どうしてかな?」
 杏 
「え? そ、それは。アタシやっぱり子供好きだし、自分ががんばらなきゃ困る人が大勢いるし、人のために役立ってるって達成感もあるから、かな・・・。」
智代
「うむ。そうだろう。私も君のそんな人格はよくわかっているつもりだ。だからこそ、今回の特務に君を推薦したのだ。」
 杏 
「市長・・・。」
智代
「無論、日本は民主国家であるから、君の行動を完全に強制することは出来ない。嫌だったら断ることも出来る。だが、藤林杏。今回の事件で、君の勤め先の幼稚園、ここの園児たちも一斉に登園しなくなってきている。この事態を君は、そのまま放置しておきたいと思うか?」
 杏 
「それは・・・。」
智代
「私は市長だ。志も市民を思う心もあるし、腕っ節にも自信がある。出来ることなら、私自らが直接問題解決に乗り出したいところだ。だがこの件は・・・こればかりは、君しか出来ないことなのだ。」
 杏 
「・・・・。」
智代
「頼む、藤林杏。この街のために、子供達の未来のために、どうかこの特務を引き受けて欲しい。」
ことみ
「杏ちゃん、私からもお願いするの。」
 汐 
「杏先生、お願いします。」
 杏 
「・・・わかったわよ。そうまで言われたら断れないでしょ。もう。」
智代
「よく言った藤林杏。ありがとう。」
 杏 
「で、何をすればいいの?」
ことみ
「それはこれから説明するの。」
 そのとき。クラナドシティポリス全体に、警報が鳴り響いた。
智代
「む。何事だ!」
警官「商店街付近に、謎の怪人が出現したとの通報が入っています!」
智代
「なんと。」
 汐 
「市長。杏先生にとっては唐突ではありますが、ここは『宇宙刑事KYO』を出動させるべきではないかと。」
智代
「うむ。手をこまねいていては機を逸するからな。『宇宙刑事KYO』、出動だ!」
 
 
 
 クラナドシティポリスから特装パトカーで約5分。杏達は商店街の、謎の怪人が暴れている場所へと到達した。そこでは、大きな星形をした怪人がくだを巻いていた。
春原「ねえ、なんで僕、こんな恥ずかしい着ぐるみ着て暴れ回ってなくちゃいけないんですかねえっ?!」
智代
「む。あれが通報のあった怪人か!」
ことみ
「今のところ実害は出ていないみたいだけど、でも近所迷惑なことには違いないの。」
 汐 
「早急に排除すべきと考えます。」
智代
「うむ。では藤林杏、早速『宇宙刑事KYO』に変身だ!」
 杏 
「いや、変身と言われても。説明受けてる途中で到着して車降りちゃったから、まだやり方とか聞いてないんだけど。」
 汐 
「そんな難しいことはないです。杏先生はもう専用スーツに着替えていますから、次はプロセスベルトとインターフェースブレスレットを装着してください。その上でこのバイクに搭乗を。搭乗後キーワードを言えば、後は自動で変身が行われますから。」
ことみ
「セキュリティの関係上変身過程は音声入力によるプロセス起動の後、声紋分析とDNA照合を組み合わせて認証を要求し、それが通った場合に始めて変身が実行されるの。」
 汐 
「声紋とDNAパターンはすでに杏先生のものがセンターに登録済みですので、後はキーワードを言うだけでいいのです。」
 杏 
「はあ。まあ、そんな難しくないのね。で、そのベルトとかは?」
 汐 
「ベルトとブレスレットはこれです。」
ことみ
「バイクはこれなの。」
 杏 
「って、ちょっと待って、これあたしの原付じゃないの! しかもなんか変な改造してあるっぽいし! どういうことよこれ!!!」
 汐 
「普段から慣れ親しんでいるものを使った方が、やはりやりやすいと考えましたので。」
ことみ
「機械の設計上は全く差がないのだけど、心理的な効果を考慮すればこれが最適であると判断したの。」
 杏 
「だから、最適とか以前に、あたしの了解も得ずに勝手に・・・」
 汐 
「杏先生。先生の仰ることもわかります。批判は甘んじてお受けします。ですが今、我々は争う以前にやらねばならないことがあるのではないでしょうか?」
 杏 
「え?」
ことみ
「杏ちゃんは既に、『宇宙刑事KYO』として戦うことを決めたの。それならばまず、今目の前にあるその責務を果たすのが先決だと思うの。」
 杏 
「・・・。」
 汐 
「先生。ご決断を。」
 杏 
「・・・わかったわよ。とりあえずやることやるわ。」
ことみ
「納得してもらえてうれしいの。」
 杏 
「いや、納得した理由じゃないからね!」
 そう言って杏はベルトとブレスレットを装着し、バイクに跨った。
 杏 
「で、キーワードを言う・・・キーワードは何?」
ことみ
「勢理客。」
 杏 
「は?」
 汐 
「読み方は『じっちゃく』。」
 杏 
「はあ。」
ことみ
「沖縄県浦添市にある地名なの。」
 杏 
「ああ、そうですか。もうこの際別になんだっていいんだけどね。」
 杏はそっと目を閉じた。そして大きく息を吸い込み、きっと目を見開き、右手を胸の前から肩の上へ大きく振りかぶり、拳を握りしめてすばやく顔の前を横切らせながら、叫んだ。
 杏 
「勢理客!」
 ブレスレットは杏の音声入力を受け取るとセンターへのアクセスを開始し、同時に内側から杏の毛細血管に解析用マイクロマシンを進入させ、DNA採取を行った。ブレスレットから声紋情報とDNA情報がセンターに送られ、センターは即時に照合を行い、それが藤林杏のものであると認証を行った。そして認証コードはベルトに送られ、ベルトは態変化プロセスを開始した。微少電力無線通信によりベルトとバイクが更新を開始し、制御リンクが確立された。バイクに搭載された水素反応炉から陽電子が放出され、専用スーツへのエネルギーチャージが行われる。杏が全身にまとっていた専用スーツが臨界を迎え、分子の結合は金属結合へと変化していった。そして1秒も経たないうちに、杏の姿はメタリックな宇宙戦士の姿へと変わっていたのであった。
智代
「うん、成功だな!」
ことみ「失敗する確率は1×10−9以下だったとはいえ、少し心配だったの。」
 汐 
「ところで変身時に杏先生、何かポーズみたいなの決めてましたけど。必要でしたっけ?」
ことみ
「たぶん杏ちゃんの趣味だと思うの。指摘されると恥ずかしいと思うから、あんまり触れないであげた方がいいの。」
 汐 
「そうですね。ところで市長、なんでビデオ撮ってるんですか?」
智代
「これか? いや、これも市政の一環としての活動だからな。きちんと記録して、市民に報告しなければいけない。」
 汐 
「さっきの変身ポーズも入ってるんですか?」
智代
「勿論。」
 汐 
「それを市民に公開するんですか?」
智代
「情報公開は私の公約の一つだからな。」
ことみ
「・・・杏ちゃんかわいそう。」
 
 宇宙刑事KYOに変身した杏は、怪人に辞書をぶつけ、3.87秒でヒトデ型怪人を倒した。元々そんな強い怪人ではなかったのである。怪人は手錠をかけられ、クラナドシティポリスの留置場に拘置された。
 
 
 
 こうして、街の平和は宇宙刑事KYOによって守られた。人々は新たに誕生した英雄を褒め称え、その姿を見ると歓喜の声を上げるのであった。
 
 
次回予告:
 出現した怪人を倒し、街の平和を守った杏。だが平穏も長くは続かない。突如やってきた異形の存在に、街は再び恐怖に陥る。駆けつけた杏の前に姿を現す友の姿、そして汐の目に浮かぶ涙の意味は?
 次回宇宙刑事KYO「飛翔編」、お楽しみに!


2005年5月9日執筆
 
 
戻る