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妄想信用組合〜星新一「妄想銀行」より〜

  
  みなさんこんにちは。
  私は、アイ博士。通称ことみちゃん。世界が誇る脳生物物理学者なの。
  私、すごい装置を発明したの。人の妄想をかっぱらって、他人に押しつけることが出来る、画期的な装置。
  世の中には余計な妄想を吹っ切ることが出来ずに苦しんでる人が、いっぱいいっぱいいるの。その一方で、妄想力が足りなくて毎日を寂しい思いで過ごしている人もいる。私は、そんな人たちの思いの調整弁として、この装置を役に立てたいと思ったの。その経費として少なからぬお金をもらうけど、それは決して悪いことではない。才能あるものがより多くの所得を得る。自由主義経済では当然の論理。それが悔しかったら共産主義社会を実現したらいいの。
  
  そんなわけで、営業開始なの。
 杏 
「すいませーん・・・」
  早速お客さんなの。
 杏 
「あの、あたし妄想しちゃって・・・止まらなくて・・・。それで、もしこのまま妄想の内容を口に出しちゃったりしたら恥ずかしいから、取って欲しいのよ」
ことみ
「いいでしょう。でも、今あなたが抱いている妄想が、売れる妄想かどうかによって、料金は変わるの。需要の高い、楽しい妄想ならお安くできるし、陰鬱でマニアックな妄想は高くつくの。ちなみにオーダーメイド医療の一環なので、健康保険はきかないの。混合診療も法改正前なので不可なの。」
 杏 
「そ、そうなの・・・。払えるかしら・・・・」
ことみ
「でも杏ちゃんは大事なお友達だから、割引してもいいの。内容によってはただでもいいの。だからまずは、どんな妄想か話してほしいの。」
 杏 
「わかったわ・・・。そ、その・・・。さっきそこで朋也と会って・・・それでしちゃった妄想なのよ・・・。」
ことみ
「わかったの。詳しく鑑定するから、直接中身を見てもいいかしら?」
 杏 
「しょ、しょうがないわよね。ちょっとだけよ。」
ことみ
「・・・・。」
 杏 
「・・・・・。」
  
<記録 妄想元="藤林杏" 枝番="1">
<現実>
朋也
「よお杏じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
 杏 
「特に何も。朋也こそ、どうしたのよ」
朋也
「ヒマだから春原の部屋に行くところだ。」
 杏 
「まっ。男の子同士、仲のいいこと。」
朋也
「そういうんじゃない。俺はヒマだが行くところが他にないし、あいつは寂しいが他に友達がいない。それだけの話だ。」
 杏 
「それって・・・・」
</現実>
<妄想>
朋也
「いつもすまないな春原、厄介にばかりなって」
陽平
「いいんだよ。僕、寂しかったんだ。岡崎が来てくれてうれしいよ。」
朋也
「そうなのか。俺も、他に行くところが無くてな。」
陽平
「岡崎だったら、もっと他に、受け入れてくれる男の子がいるんじゃないの?」
朋也
「はは、そんなことはないさ。それにたとえそんな奴がいても、俺は真っ先に、この部屋に来るね。」
陽平
「どうしてさ?」
朋也
「春原に、寂しい思いなんかさせたくないからさ」
陽平
「岡崎・・・」
朋也
「岡崎なんて言うなよ。今から、朋也と呼んでくれないか?」
陽平
「わかったよ朋也、僕のことも陽平と呼んでよ。」
朋也
「陽平・・・」
陽平
「朋也、愛してる・・・・」
<18禁/>
</妄想>
</記録>
  
 杏 
「ああん、もう、男の子同士でそんなことするなんて! 不潔! 二人とも不潔よ!! やんもう!!!」
ことみ
「杏ちゃん、声にでてるの。」
 杏 
「そんなこと言われたって、なんか無いよう思い出したらよけい膨らんじゃって・・・」
ことみ
「メモリアクセス違反の原因になるから、解析中に妄想を増殖させるのはやめて欲しいの。」
 杏 
「だって、何だか止まらなくて・・・ああっ、朋也、なんて切なそうな顔をしてるの!」
ことみ
「仕方ないの。このマッチョなボディが自慢のハナノおばあさん(86歳)のヌード写真を見るの。これみれば杏ちゃんなら落ち着くの。」
 杏 
「いやーっ! 女の裸はいやーっ!!」
ことみ
「苦しんでる間に吸い出しちゃうの。厄介な友達を持つと大変なの。」
  
  
  なんとか全部吸い出し終えたの。量子イオンディスク35枚分にもなるとは思わなかったの。明らかにコスト割れなの。これはもう、複写して妄想主の名前も付けた上であちこちで売りさばかないと、元が取れないの。
風子
「すみませんっ。妄想を吸い出してくれるというお店は、ここですかっ?!」
  またお客さんなの。
ことみ
「そうです。あなたも何か妄想してるの?」
風子
「はい。風子、さっきそこで岡崎さんにあって。不埒な妄想をさせられてしまったのです。」
ことみ
「させられた、なの?」
風子
「はい。風子どちらかというと健全な女の子なので、本来こんな妄想をするはずはないのです。岡崎さんが性的な魅力で風子を惑わしたりしなければ、こんなことにはならなかったのです。」
ことみ
「性的・・・朋也君の・・・」
  はっ、いけないの。ここで私が妄想してしまったら、ちょっと洒落にならないの。
風子
「風子、どちらかと言うと人望ある方なので。国会議員を目指そうと思っているのです。ですが、こういう妄想をしていたことがばれるとスキャンダルになってしまいます。政治家として致命傷です。なので、今のうちに吸い出して欲しいのです。」
ことみ
「政治家云々の妄想はともかく、性的な妄想なら高く売れるから、格安で吸い出してあげるの。そこに座ってほしいの。」
風子
「・・・・・。」
  
<記録 妄想元="伊吹風子" 枝番="1">
<現実>
風子
「あっ、ヘンな人がいます。」
朋也
「ヘンな人とは失礼だな風子。俺のどこがヘンだと言うんだ。」
風子
「自販機の下でしゃがみ込んでます。これは明らかにヘンな人のする行為です。」
朋也
「ち、違うぞこれは。別にヘンなことをしているわけじゃない。正当な理由があるんだ。下に落ちたお金を探しているとか、黒色飛行昆虫を採集しているとか、そういうんじゃないからな。」
風子
「・・・・。」
朋也
「ああそうか、もしかしたら自販機の上に落ちてしまったのかもしれない。風子、悪いが探してくれないか?俺の上に乗っていいから。」
風子
「岡崎さんの上に・・・」
</現実>
<妄想>
風子
「岡崎さんはそういう趣味があるのですかっ?!」
朋也
「・・・ああ、そうなんだ。世界が風子中心に回っているような感覚で、愛を叫びたいんだ。」
風子
「わかりました。実は風子も、どちらかというとそういうの好きです。」
朋也
「じゃあ、早速乗ってくれ。」
<風子、朋也の上に乗る。/>
朋也
「ああ風子、とってもきもちいいよ。」
風子
「それはよかったです。次は何をすればいいですか?」
朋也
「そうだな・・・萩原朔太郎の詩でも朗読してくれ。」
風子
「わかりました。『ぱらいそ。かむちゃつか。あそこに見えるのはあたたらやま。』」
朋也
「風子、なんか微妙に違うぞ・・・・」
</妄想>
</記録>
  
ことみ
「微妙どころの騒ぎじゃないの。大いに間違ってるの。」
風子
「風子、どちらかというと現代国語より確率統計の方が得意なのです。」
ことみ
「そういうことを言ってるんじゃないの。全然性的な妄想じゃないし、そもそも朋也君誘惑なんてしてないの。」
風子
「何を言うのですかっ。風子、こんないかがわしい妄想したの初めてですっ。純真な心が汚された気分ですっ。もう少女には戻れませんっ。」
ことみ
「いかがわしいの意味が違うの。純真以前に真人間を目指した方がいいの。」
風子
「もうっ、アイ博士はとっても失礼ですっ。お金払う気無くなりました。ぷいっ。」
ことみ
「・・・。」
  
  
  結局お金払ってもらえなかったの。代わりにヘンな星形の彫り物もらったの。
  ちょっとまずいの。妄想の吸い出しがビジネスとして成り立つかどうか、疑問に思えてきたの。
 杏 
「あのー・・・」
ことみ
「あ、また杏ちゃんなの。」
 杏 
「たびたびで悪いんだけど、妄想しちゃって・・・」
ことみ
「杏ちゃん、妄想しすぎなの。もう少し自制した方がいいの。こんなんじゃ30になったときが思いやられるの。」
 杏 
「言いたい放題ね・・・。て言うか、30に何があるって言うのよ?」
ことみ
「とりあえず杏ちゃんの妄想は売れそうだから、取ってあげるの。そこに座って。」
 杏 
「ねえ、30に何があるって言うの?」
  
  
  
<記録 妄想元="藤林杏" 枝番="2">
<現実>
朋也
「お、杏じゃないか。また会ったな。」
 杏 
「と、朋也・・・。よりによってこんなところで・・・」
朋也
「こんなところ・・・? ああ、ここ同人誌ショップか。」
 杏 
「・・・!」
朋也
「その手に持ってるの、同人誌か?見せてくれよ。」
 杏 
「え、で、でも・・・」
朋也
「いいじゃないか。俺、そういうの理解あるつもりだし。と言うよりむしろ、興味あるんだ。」
 杏 
「朋也・・・」
朋也
「なあ、見せてくれよ。杏の。」
 杏 
「あたしのを・・・見せて・・・・」
</現実>
<妄想>
朋也
「見たいんだ。杏のすべてを。」
 杏 
「だ、だめよ朋也、こんなところで・・・・」
朋也
「いいじゃないか。ほら、今だったら人通りもないし・・・」
 杏 
「で、でもここって外だし・・・そのうち誰か来るわ」
朋也
「じゃあ来ないうちに済ませようぜ。ほら。」
 杏 
「ら、乱暴にしないでよ・・・」
朋也
「ほほう、杏がこんなのを持ってるとは。すごいな。」
 杏 
「そ、そんなにめくらないで!」
朋也
「だってめくらなきゃ見れないじゃないか。あれ、なんかここ汚れてるぞ?」
 杏 
「ああっ! こ、こすったりしないで! だめぇ!」
朋也
「だって気になるじゃないか、大事なところなのに」
 杏 
「じ、自分で手で触ったりしたから・・・」
朋也
「そうか・・・。でもこれ、取り替えた方が良くないか?」
 杏 
「だ、だめよ・・・恥ずかしいわ」
朋也
「俺が取り替えてやるよ。人の見てないところでさ。」
 杏 
「ばれたらよけい恥ずかしいわ・・・」
朋也
「ばれないようにするからさ。とにかく中に入ろうぜ。」
 杏 
「う、うん・・・」
</妄想>
</記録>
  
  
ことみ
「セリフだけは現実なの?」
 杏 
「そ、そうよ。・・・悪い?」
ことみ
「悪くないの。その妄想力には感心しちゃうの。」
 杏 
「褒めてる・・・のよね?」
ことみ
「そういうことにしておくの。」
 杏 
「・・・・。」
  
  
ことみ
「ふう・・・」
  妄想は順調に集まっているけど、なんだかちょっと偏ってる気がするの。はっきり言えば、健全でないの。売り込みのためにももう少しラインナップを充実させるたいし、その為にまともな、健全な妄想もほしいところなの。
賀津紀
「すみません、ここ、妄想屋さんでしょうか?」
  あ、絵がないから一般への認知度が今ひとつだけど実は超美少年で、柊勝平みたいに人格悪くないから立ち絵がついたら人気急上昇間違いなしの志麻賀津紀君なの。
賀津紀
「あの、顔になにか・・・?」
ことみ
「なんでもないの。ここは確かに妄想屋さん。いらない妄想を取り除いたり、ほしい妄想があれば買うこともできるの。」
賀津紀
「そうですか、よかった。実は、取り除いてほしい妄想があるんです。」
ことみ
「それは、美佐枝さんがらみの妄想?」
賀津紀
「な、なぜわかるんですか?!」
ことみ
「あなたの抱く妄想と言ったら、他に考えようがないの。」
賀津紀
「そ、そうですか・・・。あの、そういうのは扱ってもらえませんか?」
ことみ
「そんなことはないの。むしろ、あなたみたいな純真な人が抱く、健全な妄想が欲しいと思っていたところなの。」
賀津紀
「じゅ、純真だなんて・・・」
ことみ
「でも、念のために内容を確認させてもらうの。そこに座って欲しいの。」
賀津紀
「・・・・・。」
  
<記録 妄想元="志麻賀津紀" 枝番="1">
<現実>
美佐枝
「ねえ、外に干しておいた布団、取り込んでおいてよ。」
賀津紀
「わかりました。僕は、美佐枝さんのためならどんな仕事でもやります。あなたのために奉仕したいのです。」
美佐枝
「・・・気持ちはありがたいけど、そういう事、外に聞こえるような声で言わないでね。変な誤解されるから。」
賀津紀
「わかりました。外には聞こえない、蚊の泣くような声で言うことにします。」
美佐枝
「・・・はぁ。あたし、何でこんなやつと一緒に暮らすことになっちゃったんだろう・・・。」
賀津紀
「ああ、美佐枝さんの布団。いつもながら、どうしてこんなにいいにおいがするんだろう・・・・」
</現実>
<妄想>
サキ
「それは私が説明しよう!」
賀津紀
「さ、サキさん! 何故ここに?!」
サキ
「今はジョンと呼びなさい!」
美佐枝
「何故にジョン・・・」
サキ
「いい? ここだけの話よ。美佐枝の布団がいいにおいがするのは、実はあるひみつの薬を毎日かけているからなのよ。」
美佐枝
「そんなものかけてないわよ。」
サキ
「私がかけてるのよ!」
美佐枝
「なんてことすんのよアンタ!」
サキ
「いい、その薬とは! NASAが開発した技術を元に作られた製品に関係する特許を応用した物質をまねて作られた成分が微妙に入っているのよ!」
賀津紀
「つまりNASAは関係ないんですね。」
サキ
「違う、そこ反応が違う! こういうときは、『すごいよジョン! 僕、絶対欲しくなっちゃったよ。でもそういうのって高いんだろ? 僕、40年後の老後に備えて国民年金の保険料払わないとイケナイから、そんなにお金出せないよ!』とか、そういう風に言うものでしょうが!」
賀津紀
「な、何故そんなことを・・・。理不尽です!」
美佐枝
「て言うかあたしの怒りは無視かい。」
サキ
「さあ言いなさい賀津紀君! 言わないとまた女装させて町に連れ出すわよ。女子トイレの個室の中まで連れて行くわよ。」
賀津紀
「い、いやです、個室の中は勘弁してください!」
美佐枝
「て言うかちょっと待て、またって何よまたって! サキ、アンタ賀津紀に一体何をしたの?!」
</妄想>
</記録>
  
  
賀津紀
「ううっ、うう、ううっ、ごめんなさい、ごめんなさい美佐枝さん、僕はあなたのことを裏切ったのかもしれません・・・・。」
ことみ
「・・・私の考えが甘かったの。健全どころか、なんだか聞いちゃいけないような内容まで含まれているの。」
賀津紀
「あの、こんなことが美佐枝さんにばれたら、僕困るんです。妄想に出てきちゃ困るんです。だから、抜き取って欲しいんです。」
ことみ
「ばれて困るなら最初からしなければいいの。」
賀津紀
「そんなこと言わないでください、もう次は絶対にしませんから!」
ことみ
「200万。」
賀津紀
「え?」
ことみ
「この妄想はとても売れないし、売ったらあなたも困ると思うの。だから経費全額負担してもらうしかないの。それが200万なの。」
賀津紀
「そ、そんな・・・。200万って、僕の年収超えちゃいます、とても払えないです!」
ことみ
「だったらあきらめるの。」
賀津紀
「ああそんな・・・。じゃあ、せめて20年ローンにしてください。」
ことみ
「家が建つの。そんなに待てないの。」
賀津紀
「そんな・・・」
ことみ
「正直に洗いざらい話すしかないと思うの。長い目で見ればその方が得策だと思うの。」
賀津紀
「ううっ、そうします・・・。でも、これが原因で美佐枝さんと別れることになったら・・・ああ、そんなことになったら僕は生きていけない。」
ことみ
「・・・・。」
  純真で少年のような心なんて、所詮は幻想にすぎないの。みんな不潔なの。ちょっと男性不信なの。
  
  
  正直言って、さっきのことで気分が優れないの。鬱なの。ろくなお客さんが来ないし、今日はもう店じまいにしようと思うの。あ、でも誰か一人来たみたい。仕方ないの。あの人を最後にするの。
  って。
 杏 
「すいませ〜ん、妄想しちゃって・・・」
ことみ
「またアンタかい! えぇ加減にせーや!」
 杏 
「え・・・?」
ことみ
「なんでもないの。気にしないで欲しいの。ちょっと地が出ちゃっただけなの。」
 杏 
「地って・・・。」
ことみ
「それで、どんな用なの?」
 杏 
「えっとその、そこでまた朋也と会って、妄想しちゃって・・・」
ことみ
「私、杏ちゃんのこと本気で心配・・・・」
 杏 
「だ、だって・・・」
ことみ
「とりあえず、見るだけ見てみるの。」
  
  
<記録 妄想元="藤林杏" 枝番="3">
<現実>
朋也
「おっ、杏じゃないか。今日はよく会うな。」
 杏 
「それ、洒落のつもり?」
朋也
「そういうわけじゃないが、俺は洒落の似合う男だから、そういう事にしておくか。」
 杏 
「何言ってんのよ、ったく。」
朋也
「ところで杏、バイクなのか?」
 杏 
「そ、帰るところ。朋也も乗ってく?」
朋也
「ああ、頼む。」
ぺっぺーぺぺっぺーぺぺっぺーぺぺー
ザバーン
朋也
「うわあ、びしょ濡れだ。ったく、何であんなでかい水たまりに突進していくんだよ!」
 杏 
「ごめん、朋也の家がすぐそこだったから・・・」
朋也
「・・・まあ、確かにすぐに家に入って着替えられるけどな。それよか、杏もびしょ濡れだけど、どうするんだ?」
 杏 
「え? あたしは・・・」
</現実>
<妄想>
朋也
「家に入れよ。」
 杏 
「え、でも着替えが・・・」
朋也
「母さんの形見のアッパッパがあるんだ。それを着てくれよ。」
 杏 
「そう、じゃあせっかくだからお言葉に甘えて」
<着替え/>
 杏 
「ありがとう朋也、でもこれって限りなく夏向きの服装ね。」
朋也
「ああ、でも素敵だよ杏、まるで母さんが生き返ったみたいだ。」
 杏 
「って、アンタ濡れたままじゃない、何で着替えてないの?!」
朋也
「ああ、そんなセリフも母さんそっくりだ。」
 杏 
「朋也・・・?」
朋也
「実を言うと、杏が着替え終わるのを待っていたんだ。」
 杏 
「どうして・・・」
朋也
「こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、俺、前から杏のこと、まるで死んだ母さんのような気がしていたんだ。」
 杏 
「・・・。」
朋也
「だから、むかし母さんがしてくれたように、杏に、脱がせて欲しかったんだ。」
 杏 
「で、でもあたし、あなたのお母さんを演じる自信はないわ。」
朋也
「ああ。杏は母さんじゃない。それはわかってるんだ。でも、杏に対するこの強烈な思慕の念は、これは決して嘘じゃないんだ。」
 杏 
「あたし、お母さんなら到底しないような行為を、しちゃうかもしれないわよ?」
朋也
「かまわない。杏のことは、これからは恋人として見ていきたいから・・・」
 杏 
「・・・・。」
朋也
「杏、好きだ。」
 杏 
「よーし。杏ちゃん、朋也君を裸にしちゃうぞー!」
</妄想>
</記録>
  
  
ことみ
「・・・・・・・・・・・・。」
 杏 
「な、なによっ!」
ことみ
「なんでもないの。あまりのあほらしさに返す言葉が無いなんてことは、友達としてとても言えないの。」
 杏 
「言ってんじゃないのよ・・・」
ことみ
「そんなことはどうでもいいの。それより一つ困ったことがあるの。」
 杏 
「どうでもいいってのは納得いかないけど・・・何、困ったことって?」
ことみ
「妄想を記録するための量子イオンディスクが、足りなくなってるの。」
 杏 
「え、そうなの? じゃあ、いらない妄想は消しちゃえば?」
ことみ
「そう簡単にはいかないの。量子イオンディスクは、量子転移現象を利用して脳のイオン状態を高速に書き出すための記録媒体なの。だからデータ移動はすぐにできるし、複写もループ転移を使えば少し時間がかかるけど可能。でも単純な消去の場合、量子状態の転移先が存在しない状態で転移を試みる、ということになるから、これは事実上不可能ということになってくるの。他のディスクか誰かの脳にデータを移す以外に、ゼロ励起状態に戻す方法は無いの。」
 杏 
「そ、そうなの。なんかむずかしいけど、要するに誰かに妄想を移す以外無いってわけね・・・。」
ことみ
「でも、いらない妄想を引き受けてくれる人なんて滅多にいないの。」
 杏 
「いいえ、いるわ。」
ことみ
「え?」
 杏 
「実は、春原があたしのことずっとつけてきてるのよ。今もその辺に隠れてるはずだけど。」
ことみ
「全然気づかなかったの。」
 杏 
「おらっ、出てこんかいっ!」
ことみ
「杏ちゃん、大民明百科事典を投げるのはやめて欲しいの。」
陽平
「いやあまいったね、ばれちゃったよ、はははっ」
 杏 
「最初からばれてたわよ。で、話は聞いてた?」
陽平
「うん。でも、途中からなんか難しい話になってきたから、そこからは聞いてない。」
 杏 
「そう。その方が都合がいいわ。」
陽平
「え?」
 杏 
「そこ座って。」
陽平
「なんで?」
 杏 
「つべこべ言わずに座る! それとも、警察呼んで、あたしの後つけてたこと尾ひれつけて話そうか?」
陽平
「な、なんだよ、ちょっと挙動不審だったからつけてみただけなのに・・・わかったよ、座ればいいんだろ。」
 杏 
「よーし。ことみ、いらない妄想全部流し込んじゃって。」
ことみ
「合点承知の甫なの。」
陽平
「って待ってよ、なんだよその全部流し込むって!」
 杏 
「立ち上がるな! おとなしく座ってろ!」
  あ、顔面蹴られたの。
陽平
「水玉・・・・。」
 杏 
「さ、さっさと始めて。」
陽平
「え、ちょ、ちょっとなにこれ、何かが頭の中に流れ込んでくるよっ! いやっ、え、え、え、うわあぁーっ!」
  
  
  
  
  
陽平
「朋也・・・・」
朋也
「お、なんだ春原じゃないか。どうしたそんな虚ろな目して。」
陽平
「朋也、好きだ。」
朋也
「な、何言い出すんだおまえ。」
陽平
「僕の中ではもう、世界が朋也中心に回っているんだ。上に乗ってカムチャツカと叫んでいいかな?」
朋也
「わけのわからないこと言うなよ、とりあえずだめだ。」
陽平
「でも僕、朋也と一緒にあっち系の同人誌のネタになってもいいとすら思っているんだ。」
朋也
「俺はいやだ。」
陽平
「そんなこと言わないでよ。ねえ、これから僕の部屋に来てくれないかな?」
朋也
「僕の部屋、って、トイレの個室のことか?」
陽平
「なんだ、わかってるんじゃない。やっぱり僕たち、一心同体だねっ。」
朋也
「って、マジかよっ?!」
陽平
「さ、早くいこうよっ」
朋也
「って待ておい、引っ張るな、俺そういう趣味はないんだって、いや確かにそういうシナリオあったけど、あれはあくまでバッドエンドで、いやだから、誰か助けてくれよ!!」
  
 杏 
「いろんな妄想を流し込みすぎたせいで、混乱をきたしちゃったみたいね・・・。」
ことみ
「これ以上は18禁、なの。」
  
  
  
  
2004年10月13日執筆
  
  
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