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デリバリ風子

 
 
『寂しい都会の夜を一人で過ごすあなたに。可愛い風子ちゃんを、あなたの部屋までお届けします。スタートアップキャンペーン実施中、今なら8千円。』
 
朋也
「ほう、こんなサービスが始まったのか。どれ、一つ頼んでみるとするか。」
 
十分後。
 
ピンポンピンポン
朋也
「最近卓球の事をピンポンと言わなくなったよなあとか思いつつ、どちらさまですか?」
風子
「岡崎さんですね? 風子をお届けに上がりました。」
朋也
「おお、早いな。今開けるから待ってて下さい。」
がちゃり。
風子
「こんばんは。伊吹風子です。」
朋也
「おお、本当に来た。えっと、ようこそはじめまして。」
風子
「はい。よろしくお願いします。で、早速で申し訳ないのですが、前金として8千円いただきます。」
朋也
「あ、八千円ね。はいはい。」
風子
「確かに。なお、あらかじめ申し上げておくと、この8千円はあくまで基本料金です。もしお客様がオプションを追加で御希望の場合は、その都度別料金が発生しますので、ご了解下さい。」
朋也
「あ、そ、そうなの? そうなんだ。」
風子
「ご理解いただけましたか?」
朋也
「はい。」
風子
「では。風子、これで失礼いたします。」
朋也
「マテ。」
風子
「なんでしょうか。まだ何かご用ですか?」
朋也
「いや、まだ何かご用かって、まだ何もしてないのになんで帰っちゃうの?」
風子
「何もしてない事はないです。風子、ちゃんと岡崎さんの部屋まで来ました。」
朋也
「いやだからさ。部屋まで来て、それからいろいろするわけでしょ? 違うの?」
風子
「違います。」
朋也
「即答かい」
風子
「という事で失礼します。」
朋也
「いや、だから待てって。」
風子
「なんですか。あんまりしつこいと警察呼びますよ?」
朋也
「警察呼びたいのはこっちの方だって! 部屋に来て8千円払ったらはいさよならなんて、そんなの詐欺じゃないか!」
風子
「詐欺とはなんですかっ! もう、岡崎さんお客さんだからって失礼です。」
朋也
「失礼なのはそっちだろ! やる事やらないで金だけ取って帰るなんて。」
風子
「やるべき事はやってます。岡崎さん、チラシを見て電話されたんですよね? チラシになんと書いてありますか?」
朋也
「え? 『可愛い風子ちゃんを、あなたの部屋までお届けします』って」
風子
「風子、ちゃんと岡崎さんの部屋まで来ました。」
朋也
「そ、それはそうだけど・・・・」
風子
「おわかり頂けたのなら失礼します。」
朋也
「い、いやちょっと待てって。確かにチラシに書いてある事は実行されてるけど、でもこれで8千円ってあんまりじゃない? 公序良俗に反してるぞ。弁護士がヘボでない限り裁判で勝つ自信あるぞ。」
風子
「それは・・・。風子、どちらかというと裁判沙汰は困ります。」
朋也
「だろう。だからな、ちゃんとやる事やってから帰ってくれないかな?」
風子
「何がして欲しいのですか?」
朋也
「それはまあ・・・その、俺も男だし・・・って言って、わかるかな?」
風子
「なんですか! 岡崎さん、風子の事そういう目で見ていたのですかっ!! もうっ、最低ですっ! これだから男は嫌いなんですっ。不潔ですっ。えんがちょですっ! 簀巻きにしてマーマレード塗りたくって国場川の下流に放り込んでやりたい気分ですっ!」
朋也
「ま、待って。国場川の下流域はラムサール条約の指定地だからそういうものを放り込んじゃいけない、ってそういう事じゃなくて、ドアの外でそんな大騒ぎしないでくれるかな?」
風子
「岡崎さんが変な事言い出すからいけないんです。公序良俗とか言いながらそんな事を言い出すなんて、どうかしてます。だいたい、8千円で家まで来て貰ってそんな事が出来ると考える方が間違ってます。この辺りなら1時間辺り2万円はするはずです。」
朋也
「不潔とか言っておきながらえらく詳しいな・・・。」
風子
「風子、帰ります。」
朋也
「い、いやだから待てって。まだ何もしてないだろ。」
風子
「風子、今のでとっても気分を害しました。もう基本料金の枠内では収まりません。という事で帰らせていただきます。」
朋也
「わ、悪かったよ。謝るし、オプションの料金も払うから。」
風子
「・・風子大人なので、お客様の要望は出来るだけ聞くようにしています。」
朋也
「・・・で。オプションって、具体的にどんなのがあって、いくらなの?」
風子
「マザーボードの交換は6万4千円です。」
朋也
「高っ! て言うか、なんでわざわざ女の子に部屋まで来て貰って、マザーボードの交換して貰わなきゃいけないんだよ!」
風子
「可愛い風子にグレードアップして貰ったパソコンを使うのは、男として心地よくないですか?」
朋也
「心地よくねーよ。どういう趣味だよそれは・・・。」
風子
「見解の一致が見られなくて、風子残念です。」
朋也
「とにかく、他のにしてくれ。もう少し値段が低くて、まともな奴。」
風子
「では、風子とお話しするというのはどうですか? 1時間3千円で。」
朋也
「うん、まあそれでいいや。で、なんの話する?」
風子
「政治の話です。2003年から2004年の選挙に於いて共産党や社民党と言ったいわゆる伝統的な革新勢力は大幅な後退を余儀なくされました。これは、日本の革新勢力が貧困層よりも都市中産階級に支持の拠り所を置いており、そういった層が二大政党化の流れの中で民主党や公明党といった中道政党に票が流れてしまったのが原因といわれています。欧米に於いてはこういった都市中産階級は主にリベラル層と定義づけられ、アメリカの民主党やイギリス・ドイツの自由民主党といった政党の支持基盤となっています。ですので、この流れは支持層の適正化という意味では至極真っ当な事と言えます。ですが一方で、経済のグローバル化による人員削減や企業倒産などで職を無くしてしまった人たち、職に就けない人たちが大勢出ています。これらの人たちは、いわば21世紀の新貧困層ということができるでしょう。また、長く続いた日本経済の低迷により、労働市場は限りなく企業優位の状況となっており、職に就いている人たちでも、極めて条件の悪い、違法性の高い状況での労働を強いられている人が大勢いるのが現状です。革新政党の役割から言えば、こういった層の人たちの声を救いあげ、政治に反映させていくのが本来の姿と言えるでしょう。ですが現在、それが出来ているとはとても言い難いです。原因の一つとして、革新政党の体質としての、自己組織の過剰重視という事もあります。ですがそれ以上に深刻な問題として、貧困層の右傾化という問題があります。もともと貧困層というのは公権力、日本に於いては自民党に代表される保守勢力ですが、これに対する立場の弱さから時の政権勢力におもねる傾向が強く、時として対抗勢力と戦う際に自ら進んで矢面に立つ事すらあります。また、未来に対する絶望感からか極右に走る傾向もまま見られます。第二次大戦前のナチスドイツの成立はその典型例と言えますし、現在でも欧州極右の支持基盤は貧困層です。日本に於いても、政党を結成するにまでは至らなくても極右思想を持った政治家が大きな支持を集める傾向が出てきており、無職又は低所得者層がその大きな支持基盤であると言われています。この様に、貧困層の右傾化は着実に進んできており、早急に対策を取らなければ彼らを取り込むどころか敵に回しかねないというのが、現在の革新勢力の立場です。その方策としては、民主政治の原点、地道でこまめな政治活動しかないと思われます。選挙の有無にかかわらず深く大衆の中にまで入り込み、彼らと寝食を共にしながら彼らの抱えている課題を実感し、自らの政策に反映してゆく。こういった言わば古典的な方法こそが、実は今の革新勢力に最も求められている事だと、風子は思うのです。岡崎さんはどう思いますか?」
朋也
「え?! ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、どう思うと言われても。俺、その手の話題にはあんまり詳しくないし。なんだか左翼かってる事だけはわかったけど。風子って左翼なのか?」
風子
「左翼であるというこの事実こそが、風子のクレバーさを如実に物語っているのです。」
朋也
「何言ってんだこいつ・・・。」
風子
「さあ岡崎さん答えて下さい。風子が一方的に喋っているだけでは話をしているとは言えません。風子、岡崎さんの意見も聞きたいです。」
朋也
「いや答えと言われても、俺そういうのは、わからないから・・・」
風子
「この程度の話もわからないというのですかっ?! ちょー最悪です。岡崎さん、中学生からやり直した方が良いです。」
朋也
「ど、どーせ俺は中坊レベルだよ! そんなこと、言われなくたってわかって・・・・わかって・・・・・・・」
風子
「・・・。」
朋也
「・・・・。(いじいじ)」
風子
「すみません。風子が言い過ぎてしまったようです。ついつい、一般庶民が風子と同じ知能レベルだと勘違いしてしまいました。」
朋也
「・・・・・。」
風子
「風子、岡崎さんを傷つけてしまったのでしょうか?」
朋也
「・・・まあ、な・・・。」
風子
「困りました・・・。では、お詫びの印にこのヒトデの彫り物を差し上げます。」
朋也
「いや、そういうのはいらないから。・・・マジでいらないから。」
風子
「そうですか。・・・なら、岡崎さんが欲しがっているものをあげる事にします。」
ちゅっ。
朋也
「・・・え?」
風子
「欲しくなかったですか?」
朋也
「い、いやそんなことは」
風子
「特別オプションです。普通はやらない事なので、人には言わないでください。」
朋也
「そ、そうなのか。ああ、でも俺お金が・・・やべっ、2500円しかねえ!」
風子
「わかりました。残りは、あとで払えるときで良いです。」
朋也
「そ、そうなのか? 悪いな。」
風子
「いいんです、それなりに楽しかったですから。また近いうちに遊びましょう。」
朋也
「そ、そうだな。うん。」
風子
「それでは、風子これで失礼します。」
朋也
「あ、ああ。ありがとうな。」
風子
「あ、そうそう。さっきの楽しかったというのは、あれはいわゆる大人の対応というものですから。本気にして携帯に電話したりしてこないでくださいね。」
朋也
「・・・・・。」
 
 
一ヶ月後。
 
朋也
「あー、仕事疲れた。ったく、末端労働者は報われねえよなあ。って、そういえばうちに風子が来てからもう一ヶ月経つんだな。払ってないお金があったような気がするけど・・・まあいいか、請求もしてこないんだし。」
ピンポンピンポン
朋也
「昔韓国と中国の卓球選手が恋に落ちて国際結婚してそれが中韓の国交樹立に繋がったってことがあったけど今の若いもんはそんなの知らねーんだろうなあとか思いつつ、どちらさまですか?」
「代金の回収にあがりました。」
朋也
「うちは全部口座引き落としにしてるんだけど?」
「一ヶ月前に風子ちゃんをお呼びになったでしょう? その時の残金ですよ。」
朋也
「ああ、あの時の。チッ、ちゃんと集金に来やがった。」
「開けてもらえますか?」
朋也
「はいはい開けますよ、財布はどこへやったかな」
「あがらせてもらいますよ。」
朋也
「て、ちょっと待てよ、金はちゃんと払うから勝手にあがらないでくれよ!」
「でもあがらないと回収できませんよ。まさか外でするわけにはいかないでしょう。」
朋也
「金の受け渡しぐらい外で出来るだろう。で、いくらだ?」
「あなたの体です。」
朋也
「は?」
「風子ちゃんが言っていました、あの特別オプションはお金には換えられないものだと。ですから体で払って貰う事になったのです。ちなみに一ヶ月何も連絡がなかったので、債権は私が譲り受ける事になりました。」
朋也
「なんだよそれ・・・。」
「そういう事で、頂きますね。」
朋也
「いや、ちょっと待てって、俺男とそういうことする趣味はねえって、て言うかなんだよこのオチ、こんな無茶苦茶な話があるかあ!」
 
 
 
2004年11月9日執筆
 
 
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