AIRむかしばなし〜わらしべ長者〜
むかしむかしあるところに、みちるという、廃品回収を趣味としている女の子がおりました。
ある日みちるは、一本のわらしべを拾いました。
「にょわー! こんな役に立たなさそうなものを拾ってしまった!」
役に立たないとわかっているなら最初から拾わなければいいと思うのですが、まあその辺は趣味ですから、あまり他人がとやかく言うことではないのでしょう。
みちるはわらしべをすぐに捨てず、しばらく手に持って遊びながら歩いていました。
しばらくすると、道の向こうからお米大好き不思議系天文部長の遠野美凪さんがやってきました。
美凪さんはみちるの手にあるわらしべを見て、叫びました。
「そ、それはっ・・・! 南米ペルーの世界遺産『ナスカの地上絵』で予言されているという、伝説の『七色に光って唸って願いが叶うかも知れないお米』・・・ッ!」
みちるがわらしべをみると、その先に僅かに稲穂が残っていました。確かにお米です。しかし、伝説とか七色とか、とてもそんな風には見えません。相変わらず美凪さんの考えていることはよくわかりません。
「そのお米、是非私に譲ってくれません?」
「え、でも・・・」
「・・・ただとは言いません。このお米券と交換しましょう。」
「いや、そういう話ではなく・・・。このお米はそんな交換するような価値のものじゃないというか・・・」
「・・・お米の一粒一粒は、お百姓さんが心を込めて作り上げたものです。決して価値がないなんて事はありません。」
「いや、そうなんだけど。そうじゃなくて。そのお米券と交換するほどのものじゃないというか。」
「・・・お米をお米券と交換することに、何か不都合がありますか?」
「・・・・。」
みちるは結局、わらしべをお米券と交換しました。
「うーん、これでよかったのだろうか・・・。」
みちるは少し罪の意識にさいなまれながら、歩いてゆきます。すると向こうから、神尾さんちの観鈴ちゃんがやってきました。なにやら独り言を言っています。
「困ったな。往人さんが居候しているせいで、今月の会計はかなりぴんち。お米買うお金もない。が、がお・・・。」
それを聞いたみちる、観鈴ちゃんにお米券を差し出します。
「良かったらこれを使うといいのだ。」
「え、で、でも。いきなりそんなのもらえない。」
「いいのだ。どうせ、わらしべと交換したものだから。」
「でも、やっぱりただでもらうわけにはいかないよ・・・。あ、そうだ。」
観鈴ちゃん、ポケットから紙パックを二つ取り出します。
「これ、私の好きなジュースなの。良かったら飲んで。」
そういって差し出したのは、「どろり濃厚」と「ゲルルンジュース」。
「いや、これ・・・こういうのは飲まないし。」
「じゃあ、誰か欲しい人にあげて。それじゃあね。」
みちるはお米券を変な飲み物二つと交換しました。
「ゲルルンジュースとウィダーインゼリーって一体どう違うんだろう・・・というかジュースと言うからには果汁か野菜汁を使っているはずだけど、一体何の汁を・・・。」
ぶつぶつ呟きながら、みちるは歩いてゆきます。すると後ろから、観鈴ちゃんのお母さん役の神尾晴子さんがバイクで走ってきます。
「観鈴にあの変な飲み物買うてってやろう思ったのに、売り切れやなんて。他に誰も買いそうもないのに、なんでこないなことになるんや。ついてへんなあ。」
それを聞いたみちるは、晴子さんを呼び止めます。
「かみかみのお母さん。ちょっと待つのだ。」
「あん? なんや。」
「変な飲み物とは、これのことか?」
「あ、ああ、それや。なんや、アンタが買い占めたんか?」
「違う、これはかみかみ・・・観鈴ちゃんからもらったのだ。」
「ああ、なんや、そうか。アンタが買い占めたんやったら、しばき倒してそれ奪い取ったろう思ったのに。」
怖いことを言うおば・・・晴子さんです。
「冗談や。」
「んに・・・。いやでも、正直な話、これ飲みたいわけじゃないのだ。」
「あん? そうなんか。」
「お米券の代わりにということで貰っただけなのだ。だから、欲しいなら返すのだ。」
「そうか、あの子・・・。いやでも、ただで返すわけにはいかんやろ。」
「じゃあこの空き瓶でいいのだ。」
そう言ってみちるは、晴子さんのバイクの荷台にあった空き瓶を取り出します。酒屋に返す途中だったのでしょう。
「ああ、まあ確かにいくらかで引き取ってくれるところもあるしな・・・。でも、ほんとにそんなんでええんか?」
「かまわないのだ。」
みちるは変な飲み物を空き瓶と交換しました。
「しかしこれ、みちるが普段から集めているものと大して変わりがないのだ。」
重たい瓶を持って、みちるは歩いてゆきます。すると向こうに、霧島診療所の聖先生が突っ立っています。
「おお、謎の少女みちる君ではないか。今日は患者が多くて本当に参ったぞ。しかも、足にイボが出来た患者ばかりだった。おかげで手術続きだったではないか。肩が凝って仕方がないぞ。」
どうやら、仕事が忙しかったようです。そんなことみちるに言われても、という気もしますが。
「何か、肩を叩けるものでも欲しいところだ・・・。」
「では、これなんかどうなのだ?」
そう言ってみちるは、空き瓶を差し出します。
「おお、確かにこれは。大きさ、重さ、形状とも、肩を叩くには申し分ない。この空き瓶は、まさに今の私のためにあるようなものだ。みちる君、いっそのことこれを、私に譲ってはくれまいか?」
「んに、それはかまわないけど。」
「いやいや、勿論ただとは言わんぞ。」
そう言って聖さんは、ポケットの中をあさり出します。
「どうだ。我が最愛の妹、霧島佳乃のブロマイド5枚組セットだ。」
「・・・・。」
「どうだ、欲しいだろう。いや欲しくないはずがないな、何しろ滅多に手に入らないものだからなこれは。」
確かに、滅多に手に入らないものではあるでしょう。
「どうした。まさか、不満などと言い出すつもりではあるまいな?」
「いえ・・・これでいいです。」
みちるは空き瓶を霧島佳乃のブロマイドと交換しました。
「しかしよく考えてみたら、お米券以降交換するものがどんどんロクでもない物になって行ってる気がする・・・」
みちるがブロマイドを眺めていると、後ろから当の霧島佳乃さん、自称かのりんがやってきました。
「ねえねえ、何見てるのかなあ?」
「え? あ、えっとこれは」
「って、うわ〜、これかのりんの写真だよぉ。なんでこんなの持ってるのぉ?」
「あなたのお姉さんに、空き瓶と交換させられたのです。」
「むぅ、お姉ちゃんの仕業なの? もう、またこんな恥ずかしいことしてぇ! ぷんぷん!」
かのりんなんだかご立腹の様子です。
「もうっ。こんなの回収だよ回収っ! ・・・って、でもこれ、空き瓶と交換したんだっけ?」
「ん、一応ね。空き瓶だけどね。」
「じゃあ、ただってわけにも行かないねぇ。」
かのりんしばらく考えた後、懐から竹の筒を取り出してみちるに渡しました。
「流しソーメン用にいいかなあと思って拾ってきたんだけど。こんなんでいいかなあ?」
「んに、かまわないのだ。」
どうせブロマイドだし。ということは、聖さんが怖いので言えないみちるでした。
みちるは霧島佳乃のブロマイドを竹の筒と交換しました。
「しかし竹の筒というのは、最初に拾ったわらしべとほとんど変わりがないような気がする・・・。」
みちるは駅前で黄昏れていました。すると、再び遠野美凪さんが現れました。
「・・・みちる、どうしたのですか?」
「ん、美凪に貰ったお米券、いろいろ交換したあげくこの竹の筒になってしまったのだ。」
みちるはこれまでの経緯を話しました。
「・・・そうですか。いろいろロクでもないものと交換させられたのですね・・・。」
「んに・・・。」
他人に改めて言われると、結構ショックです。
「・・・では。私がその竹の筒を、もっといいものと交換してあげましょう。」
そう言って美凪さんは、お弁当箱を取り出しました。
「じゃん。みちるの好きなハンバーグです。」
「にょわーっ! はんばーぐ!」
「・・・喜んでいただけて何よりです。」
そう言って美凪さんは立ち上がりました。
「・・・私は、また学校に戻ってしなければいけない事がありますので。ハンバーグ、先に食べていていいですよ。」
そう言って美凪さんは去っていきました。
「はんばーぐっ、はんばーぐっ。」
みちるは、大喜びでハンバーグをほおばろうとします。と、そこに国崎往人さんが接近してくるのが見えました。
「にょわっ! AIRのなんちゃって主人公、国崎往人!」
「なんちゃって主人公言うなっ!」
「だってsummer編は柳也が主人公だし、AIR編なんかカラスが主人公じゃないかっ!」
「言うなああぁぁあぁぁぁっ!」
往人さん取り乱しています。落ち着くのを待って、みちるは尋ねます。
「で、国崎往人は何をしに来たのだ?」
「いや。なんかうまそうな臭いがしたから来ただけだ。」
そう言って往人さん、みちるの手にある弁当箱を見つめます。
「ハンバーグ、か・・・。」
「にょわっ! だめだぞこれは。みちるが、美凪と交換で手に入れた物なんだからっ!」
「・・・そうか。」
「これよりもっといいものでなければ、交換なんかしないからねぇーっ! べろべろばぁーっ!」
「もっといいもの・・・。」
「人形劇はだめだぞっ。お前の人形劇なんて価値無いからなっ!」
往人さん人形を取り出しかけていましたが、その言葉を聞いて黙り込んでしまいます。しばらく考え込んだ後、往人さんは言いました。
「じゃあ・・・俺自身ならどうだ?」
「はい?」
みちる、一瞬なんのことが理解できません。
「な、なに言ってるの国崎往人・・・?」
「俺自身の全てを、お前にやろうと言うんだ。この瞳も、髪も。二本の腕も。心までも全て、みちる、お前にやる。」
「んに・・・急にそんなこと言われても・・・」
往人さんはみちるの目をまっすぐに見つめています。みちる、なんだか恥ずかしくなって目を背けてしまいます。往人さんはそんなみちるの顔に両手を添えて、自分の方を向かせました。
「欲しいんだ。お前の今持っているものが。」
「だから、そんなこと言われて、も・・・」
「俺を選べ。みちる。」
「んに・・・・」
みちる、真っ赤になって何も言えなくなってしまいます。普段はバカにしまくっている相手ですが、よく見てみればいい男ですし、こんなにまじまじと見つめられれば、それは舞い上がりもするというものです。
往人さんは、そんなみちるをそっと抱きしめます。顔にあった両手を、そっと降ろして肩へ、背中へ。左手でしっかりと背中を抱き、一度自分の元へ引き寄せます。そしてそっと自分の体重をかけて、抱えているみちるごと体を傾けます。右手を背中からはずし、そしてみちるの後ろへとのばし、その先にあった弁当箱にそれは届き。
ハンバーグをつかみ取って、自らの口へと運んでいきました。
「んまい。」
「って、にょわーっ! なに他人のはんばーぐ食ってるんだーっ!」
「他人のじゃないぞ。ちゃんと、俺自身と交換したつもりなんだが。」
「ううう。なんだかすごく悔しい気がする・・・。しかも国崎往人と交換なんて・・・。」
「ああ、そうだ。ちなみに俺の人生ってのは、1000年前からの使命を果たすためにほとんどが予約済みだから。お前のために費やせる時間は、実はあまり残ってないんだ。」
「うわーっ、完全にだまされたーっ!」
こうしてみちるは、往人さんを中途半端に手に入れることができました。
その後も、やたらけんかばかりしているけど端から見るとほほえましく見えるかもしれない人生を往人さんと過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
2005年3月18日執筆