AIRむかしばなし

おむすびころりん


 むかしむかしあるところに、国崎往人という燃費効率の悪い男がおりました。燃費効率が悪いので、いつもおなかをすかせておりました。
 そんなわけで、往人さんはいつも誰かにメシを恵んでもらっておりました。プライド一つでメシが食えるのだから、いい商売と言えばいい商売です。

今日は美凪さんにおにぎりをもらいました。

美凪「・・・進呈。」

美凪さんは用があるとかで、そのまま立ち去ってしまいました。

往人さんは一人で座り込み、おにぎりにぱくつこうとしました。

観鈴「にはは、往人さんお昼ご飯。」

そこへ、神尾さんちの観鈴ちゃんがやってきました。

往人「・・・・。」

往人さんは無視しました。

観鈴「にはは、おにぎりおにぎり。」

観鈴ちゃんは往人さんの周りをうろうろしています。

往人「・・・・・。」

往人さんはうざったいと思いました。
そこで、とりあえずおにぎりを与えて黙らせることにしました。

往人「・・・ほれ、食え。」

観鈴「にはは、往人さんにおにぎりもらった。」

観鈴ちゃんはおにぎりを受け取ろうとしました。しかし、取り損なって落っことしてしまいました。

観鈴「が、がお・・・」

落ちたおにぎりは、地面の上をころころ転がっていきます。
そして、穴の中に落ちてしまいました。

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

おにぎりが落ちた穴の中から、なにやら歌声が聞こえてきました。

観鈴「わ、穴の中から歌が。」

しかし、もう聞こえてきません。

観鈴「なんだったのかな・・・ね、往人さん、聞こえたよね?」

往人「・・・。」

往人さんはまだ無視しています。

観鈴「が、がお・・・往人さん、無視しないで・・・」

観鈴ちゃんは往人さんの胸ぐらをつかんでゆさゆさ揺さぶりました。

往人「な、何をする」

往人さんは揺さぶられておにぎりを落としてしまいました。

落ちたおにぎりは、ころころと転がって穴の中へ。

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

観鈴「わ、また歌声が・・・そうか、きっとおむすびを落とすと歌が聞こえてくるんだ。」

そう理解した観鈴ちゃんは、往人さんからおにぎりを奪い取って穴の中に入れました。」

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

穴の中からは歌が聞こえてきます。

観鈴「にはは、やっぱりおにぎり落とすと歌が聞こえるんだ。」

観鈴ちゃんは再びおにぎりを落としました。

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

往人「な、なんてことしやがる!」

往人さんは怒っています。

観鈴「にはは、おもしろいおもしろい。」

観鈴ちゃんはぽんぽんおにぎりを放り込んでいます。

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

往人「・・・・・・・。」

往人さんは顔面蒼白です。なぜって、自分の大事なお昼ご飯をどんどん落とされてしまっているのだから。

観鈴ちゃんはそんなことはお構いなしに、おにぎりを穴に入れていきます。

♪ おむすびころりん すっとんとん ♪

そしておにぎりは無くなってしまいました。

観鈴「が、がお・・・おにぎりなくなっちゃった・・・」

往人「・・・・・・・・・・。」

往人さんは怒りにふるえています。
 しかし観鈴ちゃんに怒れば後で晴子さんから謎酒を飲まされることがわかっているので、怒れません。

代わりに往人さんは、穴に怒りました。

往人「うおおおおっ、かえせっ、俺のおにぎりを返すえっ!」

往人さんは穴に飛びかかりました。

観鈴「わ、往人さん空飛んでる・・・」

往人さんは宙を描いて穴にまっしぐら。
そして地面と衝突
しませんでした。
往人さんの姿は、消えてしまったのです。

観鈴「が、がお、往人さん消えちゃった・・・」

そして穴から歌が聞こえてきます。

♪ ゆきとさんころりん すっとんとん 
  ゆきとさんころりん すっとんとん ♪

観鈴「わ、一人で穴の中行っちゃったんだ・・・往人さんズルイ」

 観鈴ちゃんも穴の中に入ろうとしました。
しかし、観鈴ちゃんは入ることができませんでした。
元々小さな穴。さっきはたまたま時空がひずんでいたのでしょう。

観鈴「が、がお・・・」

観鈴ちゃんは穴を見つめながら寂しい気分に浸っていました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

往人「・・・どこだここは・・・暗いし、妙に頭が痛いぞ。」

往人さんは穴の底らしきところにおりました。
頭が痛いのは、落ちたときにぶつけたからです。

裏葉「あらあらまあまあ、お客さんかしら。」

 穴にはどうやら奥があるようです。そこから声がしたかと思うと、穴の中はぱっと明るくなりました。

往人「・・・誰だあんた。」

柳也「それはこっちのセリフだ。」

 奥から出てきたのは、少しすさんだ感じのする剣士風の男と、少し年増っぽい理知的なお姉さんでした。

往人「俺か?俺ははぐれメタル清純派だ。あんたら俺に何の用だ。」

往人さんは口からでまかせを言いました。しかも態度がでかいです。

柳也「用があるのはそっちではないのか?」

柳也さんは不服そうです。

往人「そうだった、俺はおにぎりを取り戻しに来たんだった。おにぎり返せ。」

裏葉「まあまあ、先ほどからおにぎりを投げてよこしてくださっていたのは、あなただったのですね。」

往人「違う、俺じゃない。俺がそんなことをするはずがないだろう。」

 裏葉さんが妙に丁寧な口調で言うので、往人さんは警戒して自分じゃないと言い張りました。
彼の中には、「丁寧な口調=怒り」という図式があるのです。
相当心がすさんでいるようです。

もっとも、おにぎりを放り込んだのが往人さんじゃないのは事実ですが。

裏葉「まあまあ、そんなご謙遜なさって。」

柳也「そうか、そういう事だったのか。いや先ほどは失礼した。謝らせてもらおう。」

二人は往人さんに妙に感謝しています。

柳也「いや、何しろ食い意地の張った性質の悪い娘を抱えておってな。食べるものには事欠いておったのだ。」

神奈「だ、誰のことじゃっ!」

いつの間にか骨張った娘がふえて三人になっておりました。

裏葉「柳也様、食い意地の張ったではなく、食べ盛りと言ってくださいませ。それに神奈様は性質が悪くはございませんわ。」

往人「俺だって食べるものには事欠いてるんだ。さっきのおにぎり返せ。」

柳也「お主は無茶なことを言う。一度喰った物を吐き出して返せとでも言うのか。」

往人「だったら代わりの何かをよこせ。」

裏葉「あらあらまあまあ、たしかにお礼をしないわけには参りませぬわ。でしたら、あなたには神奈様と一日遊ぶ権利を差し上げます。」

往人「んなもんいらねえよ」

裏葉「まああ。神奈ファンだったら鼻水垂らして泣いて喜ぶ特権だというのに。いらないと仰るのですね、およよよよよ」

裏葉さんは大袈裟に泣いて見せています。

裏葉「高野の僧兵の手を逃れて隠遁生活を送って早千年、その間神奈様は同い年の友達もなく寂しき日々を暮らしてきた、そんな神奈様をあなたは邪険に扱うというのですね、およよよよよ」

いつの間にか論点がすり替わっています。

裏葉「さ、神奈様も泣いて泣いて。」

神奈「泣けばよいのか?およよよよよ。」

柳也「およよよよよ」

三人そろって泣いています。

往人「・・・・・。」

往人さんはなんだかもうどうでも良くなりました。

往人「わーったよ、遊んでやるよ、遊べばいいんだろ。」

神奈「うむ、そこまで言うのなら致し方ない。余が遊んでやるからありがたく思うがよい。」

往人「・・・・。」

 往人さんも顔負けの傲慢な口振りです。高貴なお方なのだから仕方ありません。本人に悪気はないのです。

神奈「では、余がお手玉を見せてやる。心して見ておけ。」

そういって神奈様は、お手玉を四つ宙に放り投げました。
四つとも往人さんに当たりました。

往人「・・・何をする。」

神奈「それはこっちのせりふじゃ。なぜわざわざお手玉にぶつかってきたりするのじゃ。」

往人「誰が好きこのんでそんな奇特な事するか。」

裏葉「あらあらまあまあ、仲のおよろしい。」

裏葉さんは満足そうです。
 
 

そしてご飯時になりました。

柳也「そろそろ飯時だから、帰った方がよいのではないか?」

往人「折角だからご馳走になろう。」

柳也「食う物に事欠いていると言ったはずだが。聞いていなかったのか?」
 

こうして往人さんは穴から追い出されてしまいました。
 
 
 
 
 
 
 
 

観鈴「にはは、往人さん帰ってきた。」

往人さんはねぐらにしている納家に戻ってきました。

観鈴「往人さん、なにしてたの?」

往人「・・・知らない女の子と友達にされてお手玉ぶつけられた。」

観鈴「わ、往人さん一人で行ってお友達作ってきたんだ・・・往人さんズルイ・・・」

往人「友達になりたきゃ、おまえも行って来ればいいだろう。食べ物持っていけばいいみたいだぞ。」

観鈴「わかった、行って来るね、にはは。」

観鈴ちゃんは穴に向かいました。
 
 
 
 
 
 

観鈴ちゃんは穴の入り口に到着しました。

観鈴「が、がお・・・食べるもの忘れた・・・」

 観鈴ちゃんは必死でポケットの中やら服の中やら髪の毛の中やらパンツの中やら探しまくっています。

そしてゲルルンジュースを発見しました。

観鈴「にはは、ジュース発見。食べ物じゃないけど、これでもいいよね。」

観鈴ちゃんはジュースを中に放り込みました。

♪ よくわからないものころりん すっとん・・・

歌が途中で止まりました。

そして

神奈「うおお、なんじゃこれは、喉に、喉に詰まるぞよお!」

裏葉「神奈様、神奈様おちついて!」

穴の中では、なんだか大変なことになっているようです。

観鈴「が、がお・・・逃げた方がいいかな。」

観鈴ちゃんはスタコラサと逃げてしまいました。
 
 
 
 
 
 

その夜。

惰眠をむさぼる往人さんの元に、一人の男が現れました。

柳也「おのれ貴様、神奈と遊ばせてやった恩を忘れて、あんな物を放り込むとは・・・・」

往人「(ぐがー)」

柳也「覚悟せよ!」

柳也さんが剣を振りかざします。目指すは灯油缶を抱きしめた往人さん。

バシイッ!

往人「うお、なんだ、なんだ、いたい、なにごとだ、うぎああああ」
 
 
 

往人さんは柳也さんにこってりおしおきされてしまいましたとさ。

めでたしめでたし。
 
 





<2001年6月3日執筆>

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