the 1000th summer    

1000年という時は、決して短いものではない。人が生まれ成長し親となるまでを25年とすれば、1000年という時は400世代にも及ぶことになる。そんな悠久の時の中、ずっと守られてきたもの。受け継がれてきたもの。伝えてゆきたいもの。空に託されてきたというその思いを、あなたはつかみ取ることが出来るだろうか。

1000年目の夏。それはもちろん、主人公国崎徃人がバスを降りて街で過ごした夏のことである。長い旅の果て。ずっとずっと続いてきた旅の終わり。それは、国崎徃人自身の旅だけではない。この町で彼が出会う三人の少女、神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪。彼女たちもまた、長い旅を続け、そして彼との出会いによって旅を終えることになる。旅の終わりは決して楽しいものではない。それはむしろ、辛く、悲しいことですらある。10年、あるいはそれ以上。ずっと歩んできた道を離れ、空に飛び立つ。それが必要なことであり、また避けられないことであると解っていても、人は戸惑い、躊躇い、逃げ出してしまう。

夢。

遠野美凪。美しく聡明で、それでいてどこか儚げな印象のある彼女。かつて父が勤めた駅舎に通い、父が語った星に思いを馳せて過ごす少女。そんな彼女の親友であり、心の支えとなってきた少女、みちる。互いを必要とし、かけがえのない存在として認識し合っていた二人。だが、それに転機が訪れる。否それはむしろ予定された終息とも言える。それを目の当たりにしたとき、美凪は、そしてみちるは、どのような選択を選ぶのか。そして訪れる結末は、彼女らにとって最良の結果となるのだろうか。

霧島佳乃。そしてその姉霧島聖。幼くして母を亡くし、父もまた二年前に他界した二人。それでも明るく生きてゆく姉妹だが、それは二人に忍び寄る影を埋めるためのものだったのかもしれない。佳乃の右手に巻かれたバンダナ、それは佳乃が幼い頃聞かされた、「大人になったときそれをはずせば魔法が使えるようになる」という言葉の元結ばれたものである。だが彼女は、バンダナを決してはずそうとしない。大人になれない佳乃、そんな妹をあるがまま受け止める聖。だがそれを受け止めきれなくなったとき、佳乃に、そして聖に訪れる運命。そして、それを支えきれる者は、果たしているのだろうか。

神尾観鈴。友達のいない娘。その理由が彼女自身にあり、また彼女がそれを自覚している故ますます孤独に陥るという、寂しき日々。それを己自身の強さで補ってきた観鈴。だが夏のある日。街を訪れた青年と出会うことで、彼女の運命は動き出す。一人ではない夏。楽しい夏。絵日記に紡がれてゆく思い出。だがそれは、訪れる悲しい未来への前奏曲に過ぎなかった。

国崎徃人。天涯孤独の身にして、法術使い。母から受け継いだその力は、同時にある目的のために使われる者だった。空にいる、翼を持った少女。母が救えなかったというその少女を見つけだし、救い出すことが彼の使命だった。母の言葉が意味するもの、それすらも解らぬまま旅を続けてきた彼は、空腹のためある街でついに行き倒れてしまう。そして、その街で彼が見つけたものは    

夏。

1000年の夏。それは母から子へ、子から孫へと伝えられてきた、言葉そして使命の歴史。1000年という長い月日の中で、色あせ衰えていった言葉と力。だがその言葉の起こりには、悲しい過去と強い意志の力があった。人という存在。命を懸けた誓い。空に秘められた思い。これらの全てを知ったとき、物語は再び幕を開ける。

そして再び、時は流れる。生き死に、守り、流れ、そして迎える夏。

空。

飛べない鳥。飛びたくない鳥。強い願いによって再び回り始める物語。だがもはや、そこに手を下すことは許されない。ただひたすら側にいる、そんな日常の繰り返し。走り、笑い、泣き、そして、眠る。その先に見つけた幸せ。それは、叶えることが出来るものなのか。
最後に幸せな記憶を。その言葉と共に、長い歴史は幕を下ろす。
 
 

そしてこの星に、未来を。
 
 

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